数学だけで学園のトップに立てる可能性が見えてきました。⑤
一度の死と二度の死ぬ思いをし、少女を助けた俺は長くも短くも感じた一日の夜をアリシアの家で過ごしていた。
っていうか家というよりも屋敷だなこりゃ。
「シンヤ!お茶のおかわりいる?」
そう声をかけてくれたのは、俺と同い年の15歳で可愛さプロポーションともに申し分なしの美少女、アリシアだった。
「うん、じゃあお願い」
そして今は、夕食をふるまってもらったあと、リビングでアリシアとテリシアと、夕食の後のティータイムを満喫していた。
まあテリシアはまだ子供だからおねむみたいだけど。
「もし差支えがなっかったら、この世界のこと教えてくれなないかな?」
とうとう俺は一番聞きたかったことを聞いてしまった。
今まではそれどころじゃなかったわけだし。
「わかった。シンヤが聞きたいことならなんでもこたえるよ」
アリシアはそう快くうなずいてくれた。
「まずはシンヤが疑問に思っていることがあれば答えてあげる」
「そうだな……じゃあさっそくなんだけど魔法とかってある?」
「もちろん!でも難点があって……」
「難点?」
「そう、難点。まず魔法が使える大前提は魔力があること。でもこの魔力を持っているのはわずかな人しかいないの」
「でもそれだけじゃ、難点とまではいかない気が……」
「まだまだあるの、それにこれは大前提なんだから。次に必要なのは、魔法を発動させるための呪文みたいなもの。これを私たちは《かけ算》と言ってるわ」
「かけ算!?」
「かけ算を知ってるの!?」
「あ、いや、そのまあ、、はい……」
言い訳下手すぎか俺!
ってアリシアが前傾姿勢になってるし、いいにおいするし、ヤバい思考がまとまらない。
「やっぱりシンヤはすごいのね、じゃあここの説明は大丈夫?」
「でも、かけ算ってものがあるくらいしか知らなくて、それが魔法とどう関係があるのかまでは分からないんだ。」
「安心して、結構簡単だから。まず一の段から九の段まであることは知ってると思うんだけど、それぞれ特性が違うの。たとえば一の段なら攻撃魔法、最強の九の段なら破壊魔法って感じで。威力は段が上がるごとにつよくなるわ」
なるほど。
強さ的には一の段が最弱で数が上がるごとに強くなっていくというわけか。
「ちなみにそれぞれの段ごとにも一から九までの数字があると思うんだけど、それも関係ある?」
「節のことね、うん、あるわよ。節が上がるごとに、応用性が増していくの。一の段でも九の節なら攻撃の強さを変えたり、範囲を決めたり、特定の相手だけに効く攻撃だって打てちゃうんだから」
かける数は節と言って、応用性が上がっていくか、なるほどこれでこの世界の《かけ算》のノウハウは理解してきたぞ。
「じゃあ、魔力とかけ算さえあれば誰でも魔法が使えちゃうわけか」
なんだ、ちょろいじゃないか、異世界。
「それが違うの……」
「ってまだ何かあるんだ」
「かけ算なんて難しいもの、私たちには理解できないわ……」
その言葉の意味が俺には理解できなかった。
だってあのかけ算だぞ!
小2で習う数学の基礎基本だぞ!
「考えてくれアリシア!一袋三つ入りのクッキーを五つ買ったらクッキーの合計枚数は十五個だよな」 「ごめん、何言ってるのかさっぱり分かんない……。」
なんだってーーーーーーーーー!!!!!
「もう一度よく考えるんだ!アリシア!」
「シンヤ、近いよぉ……」
ヤバい、衝撃で忘れてたけどかなりアリシアのほうに近寄っていた。
吐息がかかるくらい。
ヤバいこれは本当にヤバい。
お互い見つめ合っちゃってるし、アリシアはなんか顔赤くなってるし、一個前のセリフで思わず手握っちゃってるし……。
「お姉ちゃんと、お兄ちゃん、どうしたの……?」
「「テリシアーー!!!」」
すっかり忘れてたけど、テリシア居たんだった。それにこのタイミングとは……。
俺は今、人生で最初の修羅場というやつに直面してしまったらしい。
今日はやたらと人生最初が多い日だ。
ちなみにアリシアの身長は156センチです。(私の好みとかじゃありません。)
ついでに慎也は168センチです。(これから伸び盛りですから。)