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6.意志と力

 

「やっぱりアルトゥ凄いんじゃん! アタシは友達として鼻が高いよ!」


「と……友達……!?」


「あれ、イヤだった? てっきりとっくに友達になってたと思ってたんだけど」


「ううん、イヤなんて全然! とっても嬉しいけど、こんなに早く友達が出来たの生まれて初めてで嬉しくて


「おおっ、嬉しいこと言ってくれちゃってえ。可愛いなアルトゥは」


「ヘルエスちゃんも赤髪がとっても綺麗で……か、可愛いよ!」


「ありがとね。ふふっ、いいね同年代の友達って!」


 =====================


 時間ぎりぎりではあったが魔術試験の結果の方は大成功と言っても間違いはない。


『途中であまりの声援&視線のせいで空から降りられなくなったがそこまで大きな問題ではないな』


「あんなに見られてたとは思わなくって……ううぅ、まだ顔が熱いです」


 確かにあのような出来の魔術を使えば注目されるのも仕方がないだろう。


 今も既に戦闘試験の会場に移ったというのに何人かがこちらの方を伺うように見てきている。


 ちなみにヘルエスは魔術試験同様、違うグループの為近くには居ない。


『とはいえ次は戦闘試験。周囲の期待に応えられるとは思えんな』


「私だって普通の運動くらいだったら出来ますよ! あ、相手が同い年の女の子なら負けません」


『その中でもトップクラスに貧弱な部類だと俺は思ってたんだが違うのか?』


「ソ、ソンナコトナイデスヨー」


 戦闘試験は魔術禁止、武器使用可の実戦形式だ。


 もちろん魔力を検知したら発動するトラップや、使用する武器は用意されたものの中から選ぶ、どちらかが降参すればそれで終了、降参した相手に攻撃をするのは禁止……などなど安全には十分に気を使っているらしい。


「でも降参しなければ負けることはありませんよね?」


『自分が負けたという判断が出来ているか、というのも確かめていると最初に言ってただろう。模擬刀とは言え何度も急所に喰らっても降参しなければそれだけで不合格だ』


「努力と根性だけではどうにもならないことがあるんですね。確かにシスターも『弱い奴と負けを認められない奴は違う』って言ってました」


『昨日もチラッと話してたがそのシスター妙に男らしいな』


「シスターは綺麗な女性ですよ。……あっ、また私は呼ばれませんでした。これってもしかして最後でしょうか?」


『人数と試合数的にそうだな。しかし……何か仕組みの気配を感じるな』


「アルトゥ・プリンシパルさん、次ですので準備をお願いします」


「わ、わかりました。控え室に行きましょう、タロンさん」


『ああ』


 会場の隅にある扉を潜って中に入ると、そこには大量の武器が並べられている教室に繋がっていた。


『直剣、刺剣、短剣、槍、ムチ、何でもござれだな。いくつかという割には選択肢が多すぎだろう』


「危ないから刃は無くなっているみたいですけどこれでも十分危険な気が……」


『人間なんて拳一つで死ぬ可能性はあるしな。そんなこと考えても何も始まらないぞ』


「そ、そうですよね。そういえばタロンさんはご自身の事を天才魔術師って言ってましたけど武器って使ったことはあるんですか?」


『そっちも得意分野だ。アルカナの中には身体能力を上げるものも多いし、使う機会は多かったからな。俺のジョーカーもそれの類だ』


「そうだったんですね……それじゃあ何かおすすめのものってありますか?」


『おすすめねぇ……』


 改めて武器の山を見る。


 どれも手入れに差はないのでこの場合は完全に武器種のみを気にすれば良いのだが……


『無難なのは槍か剣だと思うが、ちょっと持ってみろ』


「お、重いです……!」


「だよなあ」


 この小柄な少女の細腕にそんな力があるようには思えない。


 なら短くて軽いものにするしかないな。


『短いのなら断然槍よりも剣だ。リーチのない槍なんて扱いづらいだけだからな。剣の中で最悪片手でも持てる程度の重さのものを見繕ってくれ』


 アルトゥはいくつか持ってみた後に手ごろな物を見つけたようでそれを手に取って部屋を後にする。


 試験場に入るとどうやら前のペアの試合が丁度終わったところだった、アルトゥの出番がやってきたのだ。


 先ほど控え室に行くように声を掛けてきた試験官に誘導されて開始の位置につく。


「アルトゥさん。相手はあのマルクス君だけど頑張ってね!」


「え?」


『…………』


 アルトゥの頭の整理が終わる前に試験開始の合図が鳴る、反対側に立つのは魔術の試験で風魔法を操っていたあの男だ。


「ど、どうしましょう、まさかあの人が相手何て。わ、私何も出来ないで負けちゃうんじゃ」


『静かにしろ、何か様子がおかしいぞ、アイツ』


 マルクスは試験が始まったというのに動く気配がなく、その場で指を咥えてブツブツと何かを言っている。


 他の者たちもマルクスの異常に気付いたようで皆そちらの方に注目している。


 相変わらず動きに変わりはない、だが呟くようだった声が徐々に大きくなっていく。


「……い……くい……憎い……憎い! 憎い憎いニクイにくい憎いぃぃぃぃぃ!」


 狂ったように叫びを上げながら、マルクスは爪を噛む。


 己の指ごと嚙み砕くように、痛みなど感じないのか血をまき散らせながらも一向に止まる気配はない。


「僕よりも目立つ君が憎らしい! 屑が! クズが! なぜ僕の上をいく! いや……違う! 僕は負けてなどいない! そうだ、それを証明しなくては……あの子を殺して、僕が! 証明!」


『逃げろ、魔術が来るぞ!』


「きゃあああああ!」


 悲鳴をあげながらも身体は動いてくれたようで、アルトゥはその場から大きく右に飛ぶ。


 すぐに元いた場所へ暴風が渦巻きながら凄まじい速度で飛んでくる。


 幸いなことに後ろには誰も居なかった為、被害者は出ていないが、あんなものを何の用意もせず喰らえばひとたまりもないだろう。


『魔術反応を確認――対象を拘束します』


「触るなあぁぁぁぁぁぁ!」


 システムが作動して至る所から植物の弦のようなものがマルクスを拘束するように伸びてくるが、全てあの魔法によって吹きとばされてしまう。


『対象の拘束に失敗――第二フェーズに移行します』


 今度は地面が突然せり上がり、マルクスを押さえつけるような形で固まる。


「な、何であんなに私のことを……!?」


『まだだ。あの程度の拘束じゃあ保って数十秒だ』


「そんな……」


 そんな時後ろから試験官たちのやり取りが聞こえてくる。


「レオニス先生! 彼は魔術を使った、試験を中止して彼女を安全な所へ非難させなくては!」


「いや……その必要はありません。魔術障壁を作動させ、それ以外のシステムを切って下さい。試験はこのまま続行させます」


「! あなたは何を馬鹿な事を! それではほかの者は無事でも中であの少女が孤立するではありませんか! そんな危険な事を認めるわけには……」


「試験監督はこの俺だ。貴方も分かっているでしょう、ここでは俺がルールだ。それが理事長から与えられた権限だ。――なあに心配はいりませんよ、私が中に残って万が一の時は助けますよ」


「……くそっ! おい、魔術障壁を急げ! ……システムも切るんだ」


「わっ、わかりました!」


 程なくしてアルトゥ、マルクス、レオニスのみを中に残して周囲にガラスのように透明な壁が現れる。


「ま、そういうわけだ。試験は続行する、頑張ってくれお嬢さん」


「待ってください! 私は……」


「ほうらあいつが出てくるぞ。見てなくていいのか?」


 視線を向けると拘束は今にも壊れそうなほどにボロボロになっていた。


「そうだ! アルカナを使えばあの風も防げるんじゃありませんか」


『あいつが言ってただろう。試験は続行している、魔術を使えばお前も不合格だ』


「それじゃあ……やっぱりこれで戦うしか……!」


『いや、俺に考えがある。さっきアルトゥの心の中に入った時に気付いた、とっておきの方法がな』


「本当ですか!? それってどんな?」


 俺が思いついたとっておきの秘策を彼女に教える。


 元から出来るのではないかと予想はしていたが、あの世界に行き確信に変わったものを。


「ええっ! 私はいいですけど、どうやればいいのか」


『俺だって初めてだからわからない! とりあえず祈れ、そして念じろ』


「わ、わかりました」


 俺だってこんなところまで来て終わるのはごめんだ。


 それにあのレオニスという男の期待に応えるのは癪だが、助けられるのはもっと嫌だ。


 だから俺に――


「私の身体を――」


 寄越せ!!


 =====================


 一瞬の停滞、瞬きよりもわずかな時間。


 変わらない景色がそこにはあった、匂いも感触も聞こえてくる喧噪も先ほどまでと同じものだ。


 だが違うとこともある。


 剣を持つ腕が、地を踏みしめる足が、俺の確かな意志を持って動くのだ。


「相手をしてやる、かかってこい」

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