4.アルカナ術式
カキカキカキカキ、カキカキカキカキ
『(本当に解けてるみたいだな。口出す必要も無さそうだ。というかこの国の歴史何て俺にはわからん)』
カキカキカキカキ、カキカキカ……ピタッ
『(ん? 何で筆が止まる……ああなるほど、これは魔術系の問題か)』
………………………
『アルトゥ』
ビクッ!
『声を出すなよ。上から順に答えを言っていくから書き写せ。魔力術式、反比例、不成立……』
カキカキカキカキ、カキカキカキカキ
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「ダメだぁーーー! 終わったぁーーー!」
「お、お疲れヘルエスちゃん。結果は……あんまり良くなさそうだね」
「アタシは見ての通り勉強は苦手だからなあ。その分戦闘の試験は任せときな! カッコいいとこアルトゥに見せちゃうよ!」
「楽しみだなあ」
「まあその前に魔術の試験があるんだけどな。ちょっと待っててくれ、筆記用具返してくるからそしたら一緒に行こう!」
「私も一緒に……」
「いいっていいって、こんな人込みじゃ小さいアルトゥは押しつぶされちゃう。はいよー通るよーちょっとどいたぁー!」
「行っちゃった……。そうだ、タロンさんもありがとうございました!」
『宿賃代わりだから気にすんな。こっちの魔術の原理が違ってたら答えられなかったしな。それより次は魔術の試験だ。戦闘は最初っから捨てている俺たちにとってこれが最後の試験な訳だが』
「結局、試験内容は直前まで伏せられていてわかりませんでしたね」
『こうなったらしょうがない。ぶっつけ本番は元からそのつもりだったしな。とはいえ事前知識をいくつか教えておこう』
「事前…知識ですか?」
『アルカナ術式は他の魔術とは別物だからな。そこら辺の基礎の基礎だけを今教えておく』
「わかりました!」
返事をする彼女は意気込み十分なご様子だ。
弟子をとるのなど初めてだが、やる気満々で聞いてもらえるとこちらとしても教える甲斐があると言うものだ。
『アルカナ術式と普通の魔術の大きな違いは、名前の通り術式の違いだ。本来の魔術の魔術式とは異なる概念で魔力を行使する、それがアルカナ術式だ』
「あのぉ……いきなりわからないんですけど」
『無理に理解する必要はない。こんなもの使えればいいだけで理論として頭に入れておいても役には立たないからな。魔力を使って魔術よりも強力な力を出す方法と分かっていれば大丈夫だ』
「了解です。……魔術よりも強力な力、と」
律儀にメモ書きを取る彼女に合わせて話を続けていく。
『そして肝心な術式だが数字の21まで言葉と共に割り振られている。1なら魔術師、5なら教皇、15なら悪魔とかな。能力もそれぞれだが……まあどれも強力な物ばかりだ』
「それぞれで能力が違う……。もしかして魔術師なら普通の魔術も使えるようになるんですか?」
『それも厳密にいえば違うんだが大体は合って……おっと友達が戻って来たみたいだな。話はまた後でな』
良いところだったが仕方ない。
勉強会は一時中断して、目的地を目指して府たちの少女は歩き始めた。
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「それでは試験内容を発表する! 制限時間は1人につき最長3分。その間に自らが扱える魔術を十分にアピールする事! 何か補助の欲しい者は申し出れば教師陣が協力する、以上だ! なお今から5分間を自由時間とする、存分に考えてくれたまえ」
試験内容を伝えてきたのは獅子のような見た目をした40代くらいの試験官(教師)だ。
その強面からは想像もつかないような人の好さそうな笑みを浮かべた後、解散を示す合図を出す。
しかし完全自由のアピールとは……これは珍しい。
「いやー何をやってもいいと言われると逆に困っちゃうな~。何てね、どうせアタシは攻撃魔法しか出来ないんだけどね! アルトゥは?」
「わ、私も魔法はそんなに得意じゃないような……そうでもないような……」
「ほほう、その煮え切らない感じ……実は凄腕と見た! さては胸に魔力を貯めてるんだなぁ、このぉ!」
「きゃああああああああ!」
ボヨンボヨンボヨン
感覚を共有している身として、俺にもアルトゥの胸部装甲の動きが我が物の様に伝わってくる。
ヘルエスの手によって蹂躙されているそれは、まるで中にスライムでも入っているのかというほどに縦に横に大きく揺れ動く。
「むふっ、思考の揉み心地。世の男性諸君がこの至高の芸術品に触れることが出来ないと思うと憐れみすら感じてしまうよ」
「女の子同士でも触っちゃダメ! やめてぇ……!」
「はっはっはっ! 試験開始前だってのに余裕だねぇお二人さん! 俺はそういう肝っ玉のデカい奴は好きだが、まあ周りの男連中の気が散るんでスキンシップはそこまでにしておきな」
先ほど試験内容を発表していた強面の試験官がどこからともなく現れる。
確かに、先ほどから周りの男連中から半分は迷惑そうな、もう半分は若者なら当然持っている抑えきれないリビドーが籠った視線を送られてきていた。
はーい、と返事をして手を放すヘルエスに満足そうに笑うと男はそのまま話を続けてくる。
「俺はレオニス、今日は試験官だが普段は教師をやっている。気軽にレオニス先生と呼んでくれ。ところでお前さん達はもう何をするのか決めたのか?」
「アタシは得意な炎魔術をドカーンとです! 火力だけなら誰にも負けませんっ!」
「わ、私はまだ決めてないです」
「ほう、まあ何にせよ全力で挑むことだな。今回の連中はなかなか見どころのある奴が多い。前のグループには上位の回復魔術を使っている奴なんかもいたな。このグループだと……教師たちの中じゃあいつが注目されているな」
そう言ってレオニスは少し離れた所に立つ、一人の青年を指差す。
アルトゥと同年代であろう青年は周りが気になるようで、落ち着かない様子であちこちに目を走らせては苛立たし気に爪を噛んでいる。
「あの人が? そんなに強そうには見えないけどなあ」
「マルクス・ド・エレノール。大貴族エレノール家の坊ちゃんだな。魔術と剣の腕は確かなものだと評判でな。前にあった剣術大会でも優勝したらしいぞ。……卑怯な奴は嫌いだしな」
レオニスは最後に小さく一言付け加える。
しかし二人は強面教師の投げやりな説明の方に気を取られ、聞えていなかったようだ。
「その割には先生も興味無さそうな言い方だね」
「俺は人の話や噂で判断なんざしないからな。こうやって直接、自分の目で見てこそ本当の実力がわかるってもんだ。そうは思わないか、アルトゥ・プリンシパル?」
レオニスは今までの目とは違う、見定めるような鋭い視線をこちらに向けてくる。
まるで、目の前にいる少女が自分の求めている実力者であるか値踏みをしているような、そんな目だ。
「えっ……!? は、はい。私もそう思います」
「そうだろう。さてそろそろ試験開始の時間だな。お二人さん、期待しているよ」
軽く手を振ってレオニスはその場を後にする。
程なくして試験開始の合図が部屋の中に響いた。




