プロローグ
あらすじの通りでございます。
どうかご容赦ください。
全くもって忌々しい。
呪文の詠唱をする為口を動かし、追手を引きはがすために足を動かしながらも俺は内心、唾を吐く。
こうして逃げるのもはもう何度目だったか、3桁を越した辺りからバカバカしくなって数えていないが、いい加減うんざりだ。
だが、これも今日が最後だろう。
ここを逃げ切りさえすれば・・・・・・
「いたぞ、屋根の上だ!」
「お前たちは反対側から回り込め、挟み撃ちにするぞ!」
「了解!」
「ちっ、鬱陶しい……俺を追う暇があったら街の巡回でもしておけば良いものを。……っといかん」
ついに口から出してしまった罵倒の言葉を引っ込め、詠唱を再開する。
前も後ろも追手だらけでこのままでは捕まるのも時間の問題だろう。
もっともこちらもあと少しで準備が終わるので、その僅かな時間を稼げばいいだけだが。
取り敢えず、近くにあった街のシンボルである時計塔の上にでも逃げればいいか。
魔力を足元へ集中させ一気に爆発させ、発生した力によって一気に時計塔の上まで跳躍する。
身体強化ではなく卓越した魔力操作によって行うこれは、生半可な腕前の魔術師では足が吹っ飛ぶだけで終わるだろう。
フフン、そこらの凡才とは一味違うのだよ俺は。
「アルヒ・パパァトフ・タリデ・カタリ・アッターサ――やあ、グリン騎士団長殿。こんなところで奇遇だね」
「ここまでだ、『アルカナ』。今日こそ正真正銘、お前の最後だ」
「その名で呼ぶなと言ったろう。世界一の腕前の魔術師に対して、その呼び名は不適切だ」
「では『葬儀屋』がいいか? それとも『ネームレス』? 『神に唾吐く者』? 私としては『勤勉な愚者』を勧めるがね」
「うるせえ! 脳みそまで鎧を着た堅物騎士が!」
「早速、気取った仮面が剝がれるとは……本当に短気な男だ」
追手を率いていた鎧姿の美丈夫はそう言いながら、剣を抜き放つ。
「一つ聞かせてもらおうか。グリン、お前は本当に俺を捕まえるべきだと思うのか」
「当たり前だ。お前がどれほどの腕を持っていようと、その力で国を守って来ていたとしても、アルカナという呪われた力を使う、その一点だけでお前は間違いなく犯罪者なのだ」
「生まれながらにしてそれしか与えられなかったとしてもか。」
「……ああ、そうだ」
そう言ったグリンの顔には、隠しきれない憐憫が浮かんでいる。
目の前の男とはもう長い付き合いになるが、お人よしなところはまるで変わらない。
たとえ犯罪者であっても、かつての友の事を思って同情しているのだ、この男は。
「その答えを聞いて確信した。やはり、この世界は俺には合わない。だからここでお別れだ」
「なに……? 一体どういうことだ」
「そのままの意味だよ。――術式解放、我は『世界』を繋ぐもの」
詠唱はとうに終えており、後は発動するのみだった。
俺の言葉に反応して、闇色の魔法陣が一つ空を裂くように突然現れる。
「これは世界を繋ぐ魔法陣。自らの身体を一度魔力へと変換し全く別の世界転送、その後に再構築をするというものだ。これで俺でも平和に暮らせる世界へと向かうことにとするよ」
「待て! 世界の移動など許されることではない! そんなもの神が許すはずが……」
「神などいないよ、もういるはずもない。俺の力がその証拠だろう。では、さらばだ友よ」
そういって俺は魔術を発動する。
足先から魔力へと変換されていく俺を、騎士団の兵士たちはただ眺めることしかできない。
何故なら彼らの手本となるはずの男が、呆然と立ち尽くしているのみだからだ。
「そういえばさっきの答えがまだだったな。『勤勉な愚者』なんて全く的外れだ。俺はな」
ただ最後に。
「『刑死者』だよ」
それだけを告げ、生を受けてから歩んできた世界を、俺はあっさりと手放した。




