第6話「最後の挑戦者」
リクを抜いた次期国王願望がある者ら全員が・・・この部屋でゲームに負けた。
しかも、負ければゲーム中の記憶は消去される、方法は不明・・・多分、ゲーム前に行える賭けが『鍵』なのだろう。
それでも、ただ表面上賭けただけで、負けた者全員が本当に記憶を消されていた。――精霊種とは違い、人類種は魔法が使えないので、魔法で記憶を消す。ということが出来ないのにも関わらず。
と考えると、その賭けというものがどれほど遵守されるのかが安易に想像できる。
人間でいう記憶喪失は、単に頭に強い衝撃が加わった時や、強いストレスから自己防御のためにそこの記憶だけを忘れたように錯覚するというものがほとんどだ。
でも、それが人工的に行えるというと、それだけで恐怖を覚える。
そしてついに、最後の挑戦者――リクが扉の奥へと入った。
中は意外にせまく、ゲームをするだけのために作られた・・・というような部屋だった。
真ん中にテーブルと椅子が置いてあり、片方の椅子にはもう女性が座っていた。
その女性の服装も尚、美しかった――テーブルの上にはカードがもうセットしてあった。
テーブルに向き合うかたちでイカサマ防止の使用人が1人、逆側に勝敗を下す審判役の使用人が1人。
その女性は、綺麗な赤色をした髪を2つに縛っており、長さは腰くらいあるだろうか・・・顔は整っており、肌は白く、スタイルも中々なものだった。
王城の衣装なのだろうか・・・胸を強調するかのように胸元が少し開いた白い服、袖はひらひらしており、膝丈30cmくらいのミニスカート。
そのミニスカートから覗く、肌白くて細い足、童貞には刺激が強すぎた。
リクはその女性を見るや、少し頬を赤らめつつ、椅子に座った。
椅子に座ると審判役の使用人が、カードを配り始めた。
その最中に女性が、自己紹介をし始めた。
「私の名前はユウナ、あなたが最後の挑戦者ね、よろしく。」すごく落ち着いている口調で、透き通った声は、しかし予想通りといったところだった。
「俺はリク、よろしくな」さっきまで露出狂並の目の前の女性に対して、頬を赤らめていたリクだったが、それに慣れたのか・・・淡々と自己紹介をしていた。
カードはトランプと同じ54枚からジジを抜いた53枚、審判役の使用人はユウナから配り始めたので・・・リクは26枚、ユウナは27枚の状態だった。
配り終えると使用人は定位置へと戻り、ユウナがリクの目を・・・何かを疑うような目つきで見ながら、ルールを再確認しだした。
「勝利条件は手札を早く出し切るか、ジジを当てるか。そして、ジジを外せばその時点で敗北。
特別ルールとして、パスを使うことができる、しかし連続では使えない。そして・・・」ユウナは息を整えると同時に少し間を置いてから。
「女王様の盟約により、負ければゲーム中の記憶は消去される――つまり、イカサマしても勝てば問題ない。」
「この言葉の意味がお分かりになって?」
リクに挑戦的な態度でそう言った。
「つまり、勝ってもイカサマだと言われれば何も言い返せない・・・そういうことだろ?」と嘲笑うかのように答えた。
「察しが強い人なのね・・・そうよ、イカサマしても勝てば問題ない。逆に言えば、勝ってもイカサマだと言われれば何も言い返せない、ということ。」
だって・・・と続けるユウナを遮り、リクが後を継ぐ。
「だって、そんなの、イカサマしてください。って言ってるようなもんじゃねえか、そんな状況でわざわざ正攻法で勝とうなんて考えるはただのアホだ・・・。」
そしてユウナはその通り、と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべてから、ゲームスタートの合図を出す。
「じゃあゲームを始めましょうか」
2人は同時にカードを手に取り、同じ数字のカードを捨て始めた。
そしてカードを捨て終わった後の手札の数は、リク13枚、ユウナ14枚だった。――つまり、両者共に捨てたカードの枚数は同じ。
「順番はあなたからでいいわ」
「りょーかい。」
と、順番はリクからだと促され、リクは1番左にあったカードを引いた。
数字が揃い、捨てる。――そしてユウナの番、ユウナもリクと同じく一番左のカードを引いた。
そしてユウナも数字が揃い、カード2枚を捨てる。――これでリクの手札11枚、ユウナ12枚
その後も特に何もなく、普通のジジ抜きが続く。――強いて言えば、リクの引くカードには規則性がある。ということにユウナが気付き始めたことだろうか。
そして両者の手札は順番に、5枚、6枚となった。
リクの番、数字が揃い、残り4枚。――ここまで両者共にずっと数字が揃っている、経過時間も5分程。
でも、両者共に焦りの表情がなく、むしろ当然だ。と言わんばかりの顔で睨み合っている。
ユウナの手札、残り2枚。――リクは知る由がないが、ジジを持っているのはユウナの方、つまり、これでリクが正しい方を引けば、勝利。ということになる。
しかし、ユウナは完全に気付いていた――リクの引き方に規則性があることに。
そう、リクはこれまで、1番左→1番右→1番右→1番左→1番左。といった風に、カードを引いている・・・つまり、その規則性さえ分かってしまえば、引くカードを『誘導』できる、ことになる。
そして前に引いたのは1番左、そしてその前も1番左。――つまり! 次に引くカードは『1番右のカード』と心の中で抑えようとしたが、思わずリクに対して暗弱しきった表情が表に出る。
そして、リクがカードを引く。――しかし・・・。
「――――――なっ――――ッ!」と予想外な出来事に立ち上がりながら驚嘆の声を上げたのはユウナ。
それもそのはず、ユウナが主張しているリクがカードを引くときの規則性の通りなら、リクが次に引くであろうカードは右の方。――しかし、リクはそれを嘲笑うかのように避け、左のカードを引いたのだ。
リクは引いたカードを見るや、笑みを浮かべてから。
「じゃっ、ジジを当てさせてもらう」と、審判の方を向き、相手を煽るようなふざけた口調で言い、その煽りに乗るかのようにユウナが言葉を被せる。
「ちょ、ちょっと待って! わた、私が当てるわ!」
さっきまでの態度とはまるで別人のような変わりようだった。
「おいおい、順番くらい守ってくれ、もし俺が外せばあんたの勝ちなんだからさ」
リクはユウナと打って変わって、落ち着いた様子で言った。――ユウナはそう言われ、我を思い出し、さっきまでの我に戻り、何か絶望した顔で言った。
「そ、そうね・・・お先にどうぞ」
「では遠慮なく・・・。」
と言うと、リクは最後に引いたカードを再び手に持ち、続けた。
「誰が予想しただろうな~・・・ジジが実は、数字もマークも書かれていない、『白紙のカード』だったなんて、な?」
とリクは言い終わると、最後に引いたカードを表にして、テーブルの真ん中に放り投げた。
そのカードは・・・何も書かれていない、白紙のカードだったのだ。
そして審判役の使用人が、抜いたジジを表に返した・・・カードはリクが宣言した通り、白紙のカードだった。
表情から見て取れる・・・我を取り戻したユウナは、次に焦りと怒りが混ざった顔でこちらを睨みつつ、言った。
「ど、どうして・・・白紙のカードだって分かったのよ」
一段落してリクが。
「俺の前の奴がゲームしているときまでは完全に騙されてた・・・これはジジ抜きだが、使っているのはトランプじゃなく、普通の『カード』なんだよな」
「俺の前の奴がな、教えてくれたんだよ・・・『これはカードゲームだ』ってな」
「その瞬間頭の中がパチンってきたよ、そりゃあ勝てない訳だ・・・てね。」
「普通ジジ抜きって言われると、トランプを連想する。ましてやマークや数字、枚数も一緒・・・表面上はまんまトランプだ。普通の奴ならトランプだと思い込んでゲームをする、だからジジがまさか白紙のカードだなんて思わない。――が、あんたらは一度も『トランプ』という単語を使っていない、相手が勝手にそう思い込んでいただけのこと。そして後は、終盤になってからジジは白紙のカードでした。と発言し、ゲームに勝つ――記憶は消去され一件落着。」
「で、でも、それが分かったってジジが白紙のカードだと分かった説明にならないわ」
「まあまあ焦んな、話はまだ終わってない。」
「もちろん俺だって、最初から分かってたわけじゃない、ましてやあの助言の意味すら最初は分からなかった。だから確証を得るためにお前を『ハメた』――いやあ~、あんたが思い通りに俺の『罠』にハマってくれて助かったよ」
「ま、待ちなさい・・・私をハメた? それってどういうことよ?」
「え? だからー、あんたは俺がカードを引く際、規則性があると気付いてたよな。でもな・・・――それ、わざとなんだわ」
「――――――なッ――――――」
「俺を上手く誘導出来てると思ってただろ? ――あんたは上手く誘導しているようで、単に俺に誘導されてた・・・だけ」
ユウナはこの男に恐怖心すら覚えだした、それもそのはず・・・自分が使ってたイカサマを暴かれ、出し抜かれ、更には、自分の戦略さえも利用されたのだから・・・。
「そして俺が正解のカードを引けば勝ちのターン、そのときに、右ではなく左のカード――つまり、本当なら俺がジジ(白紙のカード)を引く場面だが、その逆・・・正解のカードの方を引かせようとした・・・そう、俺がもしジジを引いてしまえば、イカサマがバレてしまうから。だがその期待を裏切るように俺はジジの方を引いた・・・ってわけ」
「そして予想の確認が出来たところで俺はジジを当て、ゲームに勝利」
説明されればなるほど。と納得がいく。しかし、こんなにも考えていたの? あの男が扉に入り、カードが配られるまでに? ありえない・・・
だが、ユウナは不敵な笑みを浮かべながらリクに言う。
「でも、残念ね・・・『精霊種』さん? 今までのは全部今考えたデタラメ・・・本当は魔法でも使って私のカードを透視やら色々してたんでしょ?」
「あなたね、バレないようにフードを被ってるつもりでしょうけど、そんなので私は騙せないわ!
さあフードを取って耳を見せなさい!」
ユウナは、リクが話した今までのことは全て嘘で、リク自身が精霊種だと疑い、イカサマし放題のなか、好きなだけイカサマをしていた・・・と思ったのである。――しかし、それらは全て次のリクの行動により、思考ごと打ち消される。
「――――バサッ――――――」
ユウナのお望み通り、リクはフードを取った・・・もちろん耳など生えているはずもない、リクは正真正銘、本物の人間なのだから。
「・・・」
もはや何が本当で何が嘘かが分からなくなってきたユウナは、落胆した様子で『耳の生えていない』リクを見ていた。
「これで満足か?」
と、ご満悦なご様子でリクはユウナに問う。
「そ、それこそ魔法を使って耳を不可視の状態にしてるんでしょ!?」
そのときのユウナはもはや駄々をこねる子供そのものだった。
「なあ、疑うことを悪いとは思わないが、ちと不信になりすぎだ。あんただって知ってるんじゃないのか? 不可視の魔法は存在するが、長い詠唱時間を必要とし、何より――発動時間は15分~20分程だ・・・使っててもとっくに切れてるはずだろうが」
まさしく正論、魔法には詠唱時間と、発動時間、そしてディレイ時間がある。それらは魔法によって異なるため、全ての魔法を覚えるのは困難を極める。
しかし、リクはそれを精霊種の本を読んだだけで、全て完璧に覚えたのだ。
そして、リクはユウナにむかって想像もできないことを口にした・・・。
「てかさ、そろそろ正体バラしてもいいよな・・・ユウナ『女王』様?」