第4話「人類種―リアス王国―」
と言っても男からはリアス王国の位置を聞いただけで道順は聞いていない、世界征服とか大口叩いたけど、この世界のこと全く知らないんだよなぁ・・・。
と呟きながらも歩いていくと、人通りが多い人際目立つ場所に出た。
「なんかいい感じの場所に出たなー、ここなら情報豊富そうだ・・・」と、独り言を呟く。
全ての家がレンガで出来ており、ビルやホテルといった目立つ建物はなく、ごく普通の異世界商店街、といったところだった。
売店などもあり、野菜や肉、果実などが売られていた。
「猫人種(ケットシ―)ていうくらいだから、魚しか食わねえのかと思ったら案外普通じゃねえか」と商店街を周っていると、建物の前に掲示板があった ――掲示板にはこう書いてあった。
――明日、人類種で第5回『次期国王選定戦』が行われる。――と・・・。
「国王までゲームで決まるのかよ・・・」と呟き、一緒に貼ってあったゲーム内容と書かれた紙に目を通した。
――ゲーム内容――
今回は『特別ルールのジジ抜きで国王を決定する』特別ルールは当日、前期国王の手によって説明される。
勝利条件――カードを全て出し終わるか、ジジが何のカードかを当てるか
敗北条件――最後までジジを持っている、不正発覚、ジジの予想が外れる
――以上。
周りの人達も足を止め、その掲示板に書いてある内容を見ている、序列最下位である人類種など敵ではない、と・・・無関心な様子で、なかには嘲笑する者もいるほどだった。
「人類種かぁ、やっぱまずは自国から攻略するもんだよなぁ~」とリクは楽しそうに言い、また歩き出した。
和人は近くにあった地図に目を通した。
えーと、ここを真っ直ぐ進んでキャメロン王国を出て、あとは道のりに行くと・・・、そう言うとリクは迷いなく、的確に歩き出した。
どれほど歩いただろうか・・・軽く2時間以上は歩いている気がする。
リクはキャメロン王国を出て、ただ道のりに進んでいた、が、全く着く気配がない。
「おいおい、何がそう遠くないだよ・・・結構歩いてんぞ?」と少々苛立ち気味で、しかし圧倒的な疲労感の前では苛立ちはあまり気にならなかった。むしろこんなに疲労している自分に思いっきり怒鳴りつけたい気持ちだった。
・・・と、思ったのも束の間、さっきまで森の中だった和人の視界はどんどん明るくなっていく・・・そして、森を抜けた先には石レンガで出来た巨大な門が出現した。
リクは疲労が蓄積しており、ぐたっとしていたが、その門を見るや感嘆の声を上げ、門に向かって走り出した。
リアス王国・・・キャメロン王国に比べ、建物は全て木造建築、商店街だというのに人はあまり賑わっておらず、全体的に暗い感じが目立つ。
「次期国王選定戦が明日あるっていうのになんでこんなにも静かなんだ・・・」と俺は疑問に思ったが、それよりもまずは次期国王選定戦がどこで行われるのかを知るべく、商店街で野菜を売っていた売り人に聞いてみた。
「すいません、次期国王選定戦って何処で行われるんですか?」、すると商人は無言で指を刺した。
なんて愛想の悪い人なんだ・・・と内心思いつつ指が刺された方へ視線を向けると、そこには王城が見れた。
――キャメロン王国 王城——
商店街から王城までの道のり、体感2km――長いようで短い距離・・・しかし、ただでさえ体力が極端に少ない(・・・まあ単なる運動不足なだけなのだが。)のにプラス、キャメロン王国からリアス王国までを徒歩でやってきて疲労が蓄積しているせいもあり、和人はもうへとへとだった。
すると・・・王城の門の傍に立っていた、直射日光が反射して眩しいほどの鉄装備を装備している監視兵が、ギシギシと音を立てながらこちらへ歩み寄ってきた。
「君、王城に何か用かね?」
防具で顔が隠れており、表情は分からなかったが、とても優しい声だった。
俺は1度深呼吸をし、乱れていた息を整えてから、監視兵に視線を向け、言った。
「次期国王選定戦が行われる場所が分からず、人に尋ねるとここの場所を示したので・・・」
「なるほど、そういうことでしたか」
と、一言で納得の声を上げ、続けた。
「明日の次期国王選定戦はお昼から行われます、見学は自由ですが出場に関しましては、盟約承諾手続きがございますので、もし出場されるのでしたら、私に申しつけください。」
和人は見学ではなく、出場するつもりでここに来たのである――だが、どうしても盟約承諾手続きというものが引っかかった。
「盟約承諾手続きって何なんだ?」
王城の監視兵とだけあって、礼儀が弁えられており、思わず感心してしまうほどのものに対し、一方和人はと言うと・・・相手が偉い人なうえに年上だと分かっていつつも、それを敬う気はなく、さも友達のように接していた——そんな和人の質問にも、監視兵はしっかりと答える。
「はい、盟約承諾手続きと言うのは・・・――前期女王様が発表された、私は盟約に従います。という盟約書にサインするということでございます。」
と、言うと、監視兵はその脚防具についていた、ポケットの中から1枚の紙きれを出し、それを広げ、続けた。
「盟約の内容は・・・
1、ゲームは、同時に1人以上の参加を禁ずる
2、ゲームに負けた場合、その者のゲーム中の記憶を消去する
3、ゲームの参加は1人1回までとする
4、優勝した者であっても、次期国王にふさわしくないと前期女王がみなした場合、無効とすることとする
5、4によって次期国王が決まらなかった場合、前期女王が引き継ぎ、国王になることとする
——以上が盟約内容でございます。」
読み終わると、その盟約内容が書かれた紙をポケットへと戻した。
「おい、ちょっと待て、盟約4の――優勝した者であっても、次期国王にふさわしくないと前期女王がみなした場合、無効とすることとする。って・・・ちとおかしくないか?」と疑問を訴える。
「何がですかな?」と口調を変えず監視兵が答える。
「そもそも次期国王が王位を継承すんのって、前期の国王が何らかの理由で退位するから・・・だろ? なのに、王位継承にふさわしくないとみなした場合、無効にするって・・・矛盾してないか?」
そう・・・リクの言う通り、普通王位を継承するのは、下に跡継ぎがいたり、現国王が何らかの理由で退位しなければならなくなった時なのだ。なのに、前期女王・・・つまり現国王が次期国王になる人をふさわしいふさわしくないで決められるはずはないのだ、なんにせよ、王位を継承すると言った時点で自分は退位するということだからだ・・・しかし、この盟約の通りだと現国王が次期国王になるにふさわしければ継承させ、ふさわしくなければ現状維持する、といった矛盾が発生するのである。
その意味をまさか理解していないのか、監視兵は——はて? と呟くだけだった。
「だから、これだと女王様に王位継承させる人を選定する権利があることになるんだよ、ゲームによって次期国王を決めるなら話は別だ、だけどこれだと女王様に気に入られないとだめじゃないか・・・そんなのゲームをする意味なんか・・・一体どういうことだ。――そもそも、前期女王が退位することとなった理由はなんだ?」と再度問うた。
こんなに深く問われたのは初めてなのか、少し戸惑った様子で監視兵が言う。
「そ、それはですな・・・あまり公にはしたくない事なのですが・・・」
監視兵は考える・・・こんなどこの誰かも分からない他人に教えてもいいのだろうか、しかしここで嘘を言ってしまい、それが看破されてしまっては何か重要なことを隠していると思われ本末転倒。――監視兵が考えている間、しばらくの沈黙が流れたが、考えがまとまり口を開く。
「実は、前期女王様は・・・余命宣告され、その命は僅かあと1週間なのです。」
監視兵は確かにそう言った——ほお、なるほど。と、まだ亡くなったわけではない、しかし余命宣告され、しかも時間が1週間しかないとすれば? 急遽次期国王を選定しなければならない・・・もしそれが事実なのだとすれば、女王が出した盟約は嘘ということになる、だって仮に次期国王をふさわしくないとして、選定しなかったら、自分は死に、王位を継ぐ者はいなくなるからだ。
「なるほどな、それだったら仕方ないな・・・」と、同情の表情を見せつつ相槌をうった。
「それで、君は国王選定戦に出場されるので・・・?」
ここでやっと本題に入ったとこだった、俺は半分目的を忘れていたが、思い出した。
「あ、ああ、出場するよ・・・盟約書にもサインするよ」
監視兵がさっき読み上げた女王が定めた盟約が書かれた紙をもう1度ポケットから出し、そしてポケットからペンも一緒に出し、和人に渡す。
「それでは、この紙にサインをお願い致します。」
リクは渡された紙とペンを受け取り、紙にサインし、監視兵に渡した。
「では、先ほど申しました通り、選定戦は明日のお昼頃に行われます、遅れた場合は欠場となりますのでご注意を。」と最後まで丁寧な口調で告げた。
「ほいっ、じゃあ・・・明日の選定戦、楽しみにしてるぜ・・・。」と自信ありげに言うと、最後に1つ。と監視兵に質問した。
「ゲームで国を賭けることって可能だったりする?」
その横暴な発言に監視兵はまたも戸惑った様子で答えた。
「ま、まあお互いがそれで納得するのであれば・・・可能でしょうな。」
しかし、国を賭けるなどどれだけ不条理なことか、その勝負で負けてしまえば国を失うということ――すなわちそれは『死』と同じことを意味する、今どきそんなことは子供でも理解できる・・・この男は何の意図があってそんな質問をしたのか、監視兵は気になり、思わず聞き返してしまった。
「し、しかし、なぜそのような質問を・・・?」
するとリクは一瞬、嘲笑し、答えた。
「女王様、心底気の毒だな・・・」と。
それはもはや質問に対する答えではなかった、なおさら意味が分からなくなった。
が、同時に何か・・・根拠のない恐怖を覚えた気がした。