3話「影山和人(ゲーマー)という男」
周りはみな猫耳やら尻尾やらが生えており、ごくも当たり前のように振舞っている。
俺はその光景を目の当たりにし、再度口にする、「ほんと、冗談きついぜ・・・」
その様子を見ていたさっきの受付の男(雄)が無表情でこう告げた。
「そういやあんた、名前は?」
俺はその言語が日本語であることと見た目があれなだけで中身は普通の人間だということを悟り、少し安心した様子で平然と答えた。
「リク・・・」と、言い終わるも否や受付の男(雄)は手に持っていた名簿表に一通り目を通し、やはり。と言わんばかりの顔で言った。
「やっぱりあんた、名簿表に名前がねえよ、どういうことだ」そう言うと男は名簿表から目線を俺に向け、指をさして続けた。
「あんた、さては一文無しだな?・・・でも1泊したからにゃ~払うもん払わねえとな・・・で、ほんとに一文無しなのか、もしそうなら・・・」男が言い終わらずとも何を言われるかは察しがついていた俺は話を挟むようにして、ポケットから何かを出しながら続けた。
「ああ、お金ならあるある・・・ちゃんとあるから」とポケットの中にはお金が入っており、それを取り出してカウンターの台上に置き、ここを出ようと扉の方へと行こうとしたそのとき・・・
お金を確認しようとしていた男が一目見て・・・「ん、なんだこりゃ?・・・いったいどこの通貨だこれ・・・」どうやら言語は日本語でも通貨は日本円ではないらしく、扉に手を付けていた俺を呼び止めた。
「おい、どこの通貨か知らねえがここでは使えん、残念だったな一文無し」と男は的確に俺の方を向きながら言い、続けた。
「もし金がねえなら・・・」と、男がそこまでを口にしたところで俺はそのあとに何を言われるかは分かっていたが、受け止めるしかなかった。
「ゲームで勝負だな」
「・・・へ?」と、すっとぼけた声を漏らし男の方へ向き直り、ただでさえ猫耳と尻尾がある男性てだけで謎なのに、今度は宿代の代わりにゲームで勝負だあ~?と心の中で思いつつ、
「えーと・・・それってどういう・・・」頭にハテナマークが付いていると錯覚するほどの顔で男に尋ねた。
「あ?--だからゲームしようぜって言ってんだよ」少々苛立ち気味で言った。
いや訪ねたいのはそこじゃなくて『なんでゲームをするのか』なんだよ・・・と、またまた声には出していないものの顔はそう告げ、しばらく沈黙していると男が・・・
「じゃあ、ゲームはじゃんけんな」と1人で事を進めていくのに対して思わず・・・
「いやっなんでやねん!」と本家もびっくりなほどのツッコミを加えつつ・・・――待てよ、じゃんけんに勝てばもしかして宿代チャラとか?なにそれ俺得すぎるだろ~--と、確かに男の言い分だとそういうことになる。
「おーけー分かったぜ、じゃあ『じゃんけん』といきますか」と、俺は宿代が浮くと思うと態度が豹変した・・・男が少し引いているのが分かるくらいに・・・。
「あっちなみに普通のじゃんけんじゃ~ないぜ」男は思い出して、というか俺がゲームを承諾したところを見計らうかのような絶妙なタイミングでその台詞を告げた。
「ほ~、と、いいますと?」
「まあ普通のじゃんけんはグー、チョキ、パーを同時に出し、グーはチョキより強く、チョキはパーより強く、パーはグーより強いてルールだ。」と手も使いながら続けた。
「だが、この『じゃんけん』ではまず、同時に片手ではなく、『両手でグー、チョキ、パーいずれかを出す』そして次でその2つの中から1つを自分で選び、出す。」
ほーなるほど、ようは3分の1の確率ではなく2分の1の確率で勝負するってわけか
「質問いいか?」と手を軽く挙げながらリクは言った。
「なんだ?」
「あいこだった場合はどうなるんだ?」
「あいこだった場合は逆の手で勝負し、それでもあいこだった場合は仕切り直しだ」と簡潔に答えた。
「おーけー、ルールは分かった・・・」
「では、始めるか!」男は手を軽く挙げ、『bigin to the game』と言った。
男がそう言うと周りにいた宿泊者達が一斉に振り向き、男とリクを眺め小声でコソコソと話始めた。
リクは人の視線が苦手で少しビビっていたがすぐに冷静を取り戻した、薄っすらと聞き取れる会話からは何やらリクを罵る声が聞こえてきた。
――まあそりゃ一文無しで宿に泊まった挙句、男のご厚意でこんなことになってんだから陰口叩かれて当然だわな、とリクは内心思いながらも、相槌を打つかのように男が言っていた英語を復唱していた。
リクも開始の言葉を言い終わると、男は両手を構えた。
リクはそれに合わせるようにして「じゃーんけーん」と言い、同時に手も構えた。
リクのポン! という合図と同時に両者が両手に作っていた手を前に出した。
リクはパーとチョキ、男はパーとグーだった、その結果を確認した両者はお互いに思考を巡らせる。
1回目であいこなら逆の手で勝負するというルール上、リクが出すのはチョキと判断し勝ち誇った満面の笑みでリクの顔を見たがリクは薄らと、けれど強調するように・・・笑っていた――男はその余裕ぶったリクの表情を見るや、俺の考えが全部バレている?!――と焦り、そして思った。
もし俺の考えがバレているとして俺はグーを出す、その裏を取ろうとパーを出してきたら・・・――いや、でも落ち着け・・・見るところリクの種族は人類種――裏を取るという小癪なことが出来るわけがない・・・と、自分に言い聞かせ再度リクの顔を黙視する。
「じゃあ行くぞー? せーの・・・」
大丈夫だ、相手はチョキを出すしかない、さっきの笑みは挑発・・・そんな挑発に乗って真剣に考えるなど相手の思うつぼ・・・と、頭の中ではそう思いつつもにじみ出る汗は抑えきれなかった。
そして両者同時に手を出した――男は自問自答するうちにどんどんリクのド壺へとハマっていき、最終的にパーを出した、対する和人は・・・――チョキだった。
リクは当然の結果だ、と言わんばかりのどや顔で男を凝視した――男は頭を抱え落胆していた。
「な、なぜだ・・・人類種如きに負けるなど・・・」
人類種如きに負ける? その言葉の意味を理解できなかったがリクは答えた。
「簡単なことさ――あんたは何を出そうか迷った・・・それだけだ」と1言言い、続けた。
「よしっじゃあ俺が勝ったから宿代はチャラってことで!」
と落胆する雄男に背を向け、今度こそ宿から出ようとしたが・・・何かを思い出したように1言。
「そういやここについて説明してもらうの忘れてたわ」
猫人種が人類種にゲームで負けたことがそんなに悔しかったのか、男はまだ落胆した様子だった
「あ?・・・そりゃどういうことだ・・・?」ようやく少し落ち着いたのか、顔を上げ・・・でも表情は辛辣な様子で答えた。
俺のことをなんて説明しようか、異世界から来ました・・・とでも言ってみるか?――と自問自答するリク。ようやく考えがまとまったのかこう発言した。
「実は俺・・・親を亡くしたショックで記憶が無くて・・・」と、小学低学年並みの嘘を淡々と吐いた。
流石にこんな嘘には・・・
「お・・・そうだったのか、あんた」
って・・・・・・信じるんかいっ!!! と誰にも届かない声で叫んだ。
でもこれで辻褄は全て合わせることができる、ここにいた理由も、お金を持っていない理由も、何もかも忘れた『設定』なのだから・・・。
「で、俺自身もなんでこんなところにいるかも知らないんだよ」
同情した様子で男は「そうかそうか、とりあえずそこに座れ」とさっきとは打って変わった口調と態度で接してきて、思わず――あざとー。と口に出してしまうところだった。
椅子に座ると男は後ろに飾ってあった紙切れをカウンターの上に置き、説明しだした。
「これはこの世界の地図だ、まず一番西に位置するここは猫人種(ケットシ―)の領土、キャメロン王国」と、地図に指刺し、続けた。
「そしてキャメロン王国の右上に位置するのが人類種の領土、リアス王国 ――多分あんたはここから来たんだ、北に進めば着く、まあ距離はそう遠くないし、大丈夫だろう」
説明を聞いていくつか質問したいところだがまずは・・・
「この世界のしくみについて教えてくれ」と、単調に言った。
「しくみって言われてもな・・・」と、少し困った様子で男は答えた。
「まず地図に書いてあるバツ印やら、数字やらはなんなんだ?」
そう・・・リクが言う通り、地図にはバツ印が書かれてあったり1~10までの数字も書いてあった。
―――人類種は数字の10とあり、猫人種は7・・・その数字が表す意味は・・・・・・。
「これは序列って言ってな・・・ゲームの強さで決まってんだ・・・この世界には10の種族がある・・・つまり人類種は10位中10位、猫人種は10位中7位ってことだ」
「・・・・・・最下位か・・・」と、俺はため息交じりに呟いた。
男が急に大笑いしながら俺の肩を軽く叩いた。
「まあまあ、ゆうて1位の神人種なんか文字通り神揃いだ、魔法は使うわ、空は飛ぶわ、頭はいいわで・・・人類種が神人種にゲームで勝つのはまず不可能だな」
「なるほどな、ここは異世界 ――普通の人間が神性能の神に勝ち目は絶対にないと・・・」
リアルなんかクソゲーだ、優秀過ぎれば嫉妬され、劣悪過ぎれば見捨てられる・・・、そんな良すぎても悪すぎてもダメで普通が一番良い・・・など、誰が満足するだろうか、誰が納得するだろうか・・・でも・・・ここでなら・・・この世界でなら・・・
そして心の中で何かを決心したように・・・両手を胸の真ん中で叩いてから・・・。
「よし決めたっ、ありがとなっ」と明るい声で言ってから微笑むと、男の返事も聞かずに宿を出た。
ふふっ残念だけどな、ネットじゃ俺もチーターって呼ばれてたんだぜ、ゲームの強さだあ?・・・人類種だろうと神人種だろうと関係ねえ! ゲームで勝った方が強い・・・お決まりだろ?
つーことで・・・「いっちょ世界征服(全クリ)してきますか」と、初めての道を・・・迷いなく歩き始めたのであった。