―第1章―第1話「敗北の味を知らない男」
彼は強い、ただひたすらに強い。
イカサマを使おうが、チートを使おうが、集団で挑もうが、負けたことはない。
例えるならば・・・『神』としか言いようがなかった。
その強さ故に、周りからは彼自身がチートを使っているのではないか。という噂が流れていた。
負けたことがないにも関わらず全く気取らないし、嫉妬されようが、陰口を叩かれようが、彼は動じなかった。
だが現実もそうかと言われると、そんなわけはないのである・・・。
「おいおい、これで何回目だよ」
男は言いながら、同時にあくびをした。
時間は深夜3時を回っていた、部屋の中はゴミが散らかっており、パソコンやスマホといった電子機器が多くみれた。
その中にポツンと1人、度々独り言を言いながらひたすらにPCゲームに没頭している男の姿があった。
「はぁ~ぅ、あーめんどくせー」と再びあくびをし、そう呟くと男は両手で操作していた手を一旦止め、片手は横にあったお菓子、片手はキーボードへと再度向け、そのままゲームの続きをし始めた。
ゲームジャンルはいわゆるMMORPGという、大規模オンラインネットゲームというもので、プレイヤーバーサスプレイヤー、いわゆるPVPというものだった。
画面中央上にある表示には、『12-0』と書いてあった、そう、つまりこの男は対戦相手に一度も負けずに12連勝中というわけなのだ・・・しかも10連勝目からは片手で・・・。
13戦目を迎えようとしていたそのとき、対戦相手とのチャットに相手が書き込みをしていた。
「あのー、そろそろ落ちないとなので・・・。」その文章を一瞬で読み終わり、理解した男はすかさず
「了解です、機会があればまた対戦しましょうね!」と愛想よく答えた・・・内心では、何回負ければ気が済むんだ・・・。と嘲笑うかのように思っていたのだが。
男はその対戦が終わると、三度あくびをし、大きく溜め息をついた、そして
「はぁ~つまんねー。」と疲れ切った声で言うと、そのまま後ろに倒れ、目をつぶった・・・。