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第九話

冒険者ギルドは賑わっていた。


ギルドは、というよりギルド内に設置された食堂兼酒場がだ。


東の森への討伐隊派遣の話は、冒険者たちにすでに広まっているらしく、前祝いだとか景気付けだとか四、五人の革鎧の大人たちが酒を飲んでいる。


ここで強い魔物の話をすべきかどうか。


テンプレで絶対に酔っ払いに絡まれるだろう。


明日までに偵察隊に伝えればそれでいいか。


とりあえず、ゴブリン一匹を討伐したってことでF級に昇級させてもらおう。


「常時討伐依頼のゴブリンを狩ってきたんですけど」


暇なのかギルドに足を踏み入れたときから、ずっとこちらに視線を向けてきていた、例の推定十四歳の受付嬢に話しかける。


他の美人受付嬢のところに並ぼうとしたら、この小娘に睨まれたから仕方なくであって、別にこの小娘受付嬢に気があるわけではない。


「討伐証明部位をいただけますか。」


すっかり忘れていた。


部位じゃなくて丸ごとのゴブリンしかない。


右耳を削いでいる暇なんてなかったし、戻るころには、すっかり忘れていたわ。


「まるごとじゃだめですか?」


「まっ、まるごとですか?」


「まるごとです。」


まるごと持ってくる人はいないのだろうか。


それとも手ぶらに見えるから疑っているのだろうか。


「で、ではっ、奥の素材ブースへどうぞ」


良かった。


丸ごとで良いうえに酔っ払いどもからの死角になっている場所へ行ける。


絡まれなくて済みそうだ。


急に挙動不審になった受付嬢に嫌な予感がする。


素材ブースは他より温度が低くなっている気がした。


なにか冷房装置でも入れているのだろうか。


素材の劣化を防ぐ工夫はしているのだろう。


奥からギルドに登録するときにいた、マッチョな凶悪ヅラのオッサンが出てきた。


どうやらあれでもギルド職員のようだ。


「おう。ギリギリ君じゃねぇか」


誰のことだろう。


俺に向かって話しかけているようだが。


「なんだ?最近のガキは返事もできねえってか」


俺に顔を近づけて睨みつけてくる。


夢に出てきそうなんでやめていただきたいのですが。


「ギリギリ君ではないので。」


今度は、口答えスンナとか言ってくるんだろうか。


めんどくさい。


「さすが実力者はちがうな。生意気ぐらいじゃないと冒険者なんてやってられんからな。」


あら、正解でしたか。よかったよかった。


「で、丸ごと持ってきたやつはどこにあるんだ。」


ストレージは珍しいんだろうか。


まずったかな。


でもここまで来て「うそピョン」は通じないだろう。


しかたない、今いるのは凶悪ヅラと受付嬢だけだ。


ギルド職員なら守秘義務くらいあるだろう。


もうめんどくさいから全部出しちゃえ。


腹が減ってしかたないし、全部だして、全部話して終了だ。



「テケテテッテテー」


青色ネコ型ロボットが、腹から何かを出すときの効果音を唱えながら、ストレージからゴブリンを取り出す。


九匹一気にだ。


「おいおい。」


凶悪ヅラはあきれ返った声を出した。


受付嬢は目を丸くして絶句だ。


アレッ?やっぱりまずったかな。


「時空魔法も使えるのか。しかもかなりの腕前だな」


お褒めに預かりました。


「はぁ、まぁ。」


どうだ、すごいか。


なんつったらまた面倒なんで曖昧にうなずく。


時空魔法の[亜空倉庫]と勘違いしたのだろう。


しかし、やはり大量すぎたようだ。


以後自重します。手遅れですけどね。


「しかもどれも一発か二発でしとめてるのか。状態も良い。」


ありがとうございます。


でも批評はいいので早くしていただけませんか。


腹へって倒れそうなんですけど。


「一匹あたり討伐報酬が三百ゴルだから、九匹で二千七百ゴル。

 素材として全部で千ゴル。

 合計で三千七百ゴルだな。

 文句あるか?」


接客業のイロハを教えてあげたい。


「文句あるか」じゃなくて「いかがですか」だ。


もうメンドクサイからなにも言わんけどさ。


「はい。結構です。」


面倒くさいが、ジェドのためにアレだけは言っておこう。


「あと、こいつら東の森の入り口で狩ったんですけど、何かに追われているようでしたよ。

 他にもゴブリンが逃げてるような気配ありましたから。」


「おい本当か。」


「うそ言っても仕方ないですし、貴重な情報かと思いますが。」


「討伐隊も出そうってところに初陣で、しかも一人で行ったってのか。

 このバカタレが。」


えっ?怒られてんの。


褒められるところでしょ。


「そうですよ。

 まだお子様なのに危険なことしちゃいけません。」


ブルータスお前もか。


お前も十分お子様だぞ。特に胸周りが。


口には出しませんけどね。


「はぁ。以後気をつけます。」


見つからないように。言わないように。


「じゃあとりあえず、昼飯食べたいんで昇級とお金お願いします。」


レベルアップに伴うポイントの割り振りやら装備の拡充やらを考えなきゃいけないのだ。


こんなところで時間を食うのはもったいない。


神コールもしたいし、何より腹が減った。


人間空腹だとイライラしますもんね。


「レイラ。金を準備しろ。

 昇級は手続きに少し時間が掛かる。

 飯食って出直して来い。」


受付嬢レイラって名前だったんだ。


以外に品のある名前やんけぇ。


つか本気で接客業のイロハについてお前らの上司と話をさせろ。


「はい。ではカウンターへどうぞ。」



カウンターでレイラ嬢から三千七百ゴルを受け取ると、すぐさまギルドをでて食堂へ駆け込んだ。


日替わり定食(ギガ盛)百ゴルを平らげ、ようやくイライラが治まって来た。


手持ちの四千六百ゴルに三千七百ゴルを足して百ゴルを引くだけの簡単なお仕事です。


はい、よくできました。


八千二百ゴルですね。


一泊朝食付きで三百、ギガ盛の昼飯で百。


夜飯も百とすれば一日五百ゴルが生活費として必要だ。


なにもしなければ十六日でアウト。


冒険者って夢の無い職業だったんですね。


ジェドを見ててうっすら気づいていたけれどもさ。


治療院勤めって幾ら給料出るのか聞いてみようかな、マジで。


治療院にジェシカちゃん連れてって、その場で治して実力見せて高給ゲット。


どうよ。


後先考えなきゃチャレンジしてみる価値あると思わん?


そしたら「つまらない」って理由で日本に返品してくれるかもしれないしさ。


無理だろな。


もうもらったもん使っちゃったって言ってたしな。


異世界に来て数日で、つまらない将来見えちゃったなぁ。


やっぱり現実は甘くないんだなぁ。


幸運度十だし、俺ってそんなもんなんだよなぁ。


もう一発逆転狙ってあの強い魔物でも狩りに行くかなぁ。


異世界に来てまで金勘定してる俺って、貧乏性にもほどがあるよな。


でも良く考えてみろよ。


今日一日の収入が三千七百ゴル。支出が五百ゴル。差し引き三千二百ゴル。


日本円で言えば三万二千円くらいか。


毎日そんだけ貯金できてたらどうだ?


レベルアップで実力が上がればもっと稼げるようになるだろうし、日本よりはすごくマシなんじゃないか。


掛け金が自分の命だとしても、日本じゃありえない金額を稼げたぞ。


いや待て。


今日の結果が毎日続く保障はないし、魔物だって限りある資源だ。


狩りつくしてしまうかもしれん。


油断して死なないまでも大怪我して、自分じゃ治せない位の大事だったら?


ジェシカの病気を治すのに十万ゴルかかる世界だ。


大怪我だって同じくらいしそうだ。


自分の光魔法で治せない位の大怪我をしたら詰みだ。


それに今日の狩りでも思ったのだが、ソロはきつい。


攻撃も警戒も一人でやるってのは、いずれ無理がでてきそうだ。


隊商の時も、一人で野営なんてことになったら、十匹のゴブリンは一人野営の俺を襲ってきたかもしれない。


少なくともあと一人。できれば二人パーティメンバーが欲しい。


収入は三等分になるから収入は激減するが、危険も激減する。


信頼できるパーティメンバーならだけどな。


肝心なとこで逃げられたり、寝てる隙にスマキって可能性もゼロじゃない。


この世界には奴隷もいるらしいし、奴隷には給料も分配も要らない。


魔法で主人には逆らえないようになってるとのことだ。


奴隷とパーティを組むのが一番安心な気がする。


この町には無いが隣のデスタの町は大きな町らしく、奴隷商館もあるってことは隊商のロンドさんから聞いている。


日本から持ってきた物を売っ払って暮らす。


装備を整えるって手もある。


でもどうやらこの町はさほど大きな町では無さそうだ。


大きな町の方が高く買ってくれる可能性は高いように思える。


持ってきた物の補充は利かないのだ。


慎重に扱う必要があるだろう。


いざとなればメイドインジャパンの高品質品に頼る。


そのためにとりあえずでかい町にでる。


宵越しの金を持って死ぬより、死なないための装備につぎ込む。



でかい町に出れるくらい稼いだらジェシカちゃんを治してトンズラする。

でかい町で少し物を売って良い装備を買う。


冒険者をできる奴隷も買う。


できれば美人で強い娘を。


いやらしい目的じゃなくて戦力として。


戦う力として。


重要なことなので二回言いました。


よし、基本路線は決まった。


次は、レベルアップに伴う戦力の増強だ。


ステータスと念じてみる。


[名前]ジン・サカキ・クルーズ・ブレイド  陸人族・男・十三歳・自由民・レベル2

[筋力]四十  

[精神力]五十五  

[器用度]四十八  

[敏捷度]五十

[耐久力]四十 

[抵抗値]六十五  

[幸運度]十一    

[魅力値]六十

[LP(生命力)]四十/四十

[MP(魔力)]十二/四十

[HP(信仰力)]-/-


おっと、もともとの値を詳しく覚えてなかったけど、なんとなく底上げされているような気がするな。


幸運度は一しか上がってないけど。


それだけは覚えてんだよな。


今後のためにメモしておくことにしよう。


2/3 スキル   ポイント12P

「魔法」光魔法3、闇魔法3、時空魔法2、風魔法1、

    ユニーク魔法(スキルコピー1[済/五日]、スキル強奪1[済/五日])、

    補助魔法(ライト、リフレッシュ、種火、暖房、冷房)

「戦闘」投擲2、弓1、槌2、格闘1、剣1、短剣1

「非戦闘」テイマー1、騎乗1、気配察知3、算術4、詠唱2(省略)、

     鑑定3(魔眼)、性技1、魅了1、LP回復促進2、MP回復促進2


ポイントが11Pも増えてる。


しかししまったな。


性技や魅了なんて後でもよかった。


もっと考えてポイント使うべきだった。


性技なんて使う場面来てないし、魅了ったって実感できてないしな。


レイラ嬢との手つなぎだけが、もしかしたら効果あったかって位だ。


よし、今回からは慎重に選ぼう。


攻撃については、今日の狩りの結果、ある程度ソコソコ満足しても良いんじゃないだろうか。


ってことは守備だな。


回避2まで取って3P。

耐毒1で1Pか。


索敵系もまだ欲しい。


遠視1で1P、夜目1で1Pあればとりあえず良いか。


隠密1の1Pも待ち伏せには必要か。


残り5P。


今を生き抜くために使うか、後の有利さのためにとっておくか。


いくつか案はある。


今のメイン武器である槍の威力を上げるために長柄武器をレベル1か2までとる。


でも槍だったらゴブリンもつかってるから、持っているやつからスキルを奪えばポイントの節約になる。


それに森の中では使いづらいってのもある。


回避もレベル3まで上げられる。


けど、回避の効果がどんなものか今持ってないので分からない。


いらないかもしれない。


今日は無傷だったし。


火・水・土の魔法もレベル1ならいける。


けれど風魔法1で困ってないし、風魔法のレベルを上げるほうが優先だろう。


今すぐポイントを使わないなら、次のレベルアップで、スキルコピーやスキル強奪を上げれば今後の実力の底上げには非常に役立つだろう。


しかし、死なないためには今の強化が必要かもしれない。


どれも一長一短だ。


ここは、無い運に任せよう。


コインで表が出たら使う。

裏がでたら保留だ。


裏がでました。


次のレベルアップ時に再度悩むことにしよう。



あとは装備品か。


手持ちの八千二百ゴルで生活費を残して、戦力アップを図る。


難しい注文だがある程度回答は見えている。


バットが折れることを心配して、せっかくの鎚2をほとんど使えていないのだ。


青銅のメイス三千ゴル、もしくは鉄のメイス五千ゴルで解決する問題だと思う。


切るのではなくて殴るものだから、鉄で殴られようが青銅で殴られようが、金属で殴られるんだからダメージは一緒じゃないか。


という俺の疑問は間違ってないと思う。


差額の二千ゴルで数日暮せるってこともある。


ひん曲がったら焚き火で熱してやればまっすぐにできるんじゃね?


日本から持ってきたバールでも十分な感じはするが、殴る専用の道具ではないし、予備程度に考えていたほうがいいと思う。


よし、青銅のメイスお買い上げありがとうございます。


残り五千二百ゴルは生活費だ。


ううう、十日で強盗予備軍入りかもだ。


泣けるぜ。





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