第72話
出発は明後日。
しかも明日は奴隷市の立つ日だ。
なにかと都合のいい日程で、奴隷を買うのは問題ない。
あとは、護衛として雇われた人間が、護衛される人間を増やしてどうするんだって話しもある。
それについては、戦闘系のスキルを持っている奴隷にして、依頼を受けるのをパーティメンバーだけにして、報酬はパーティメンバーの分だけにする。
そうすれば、戦力は増えるのに費用はそのままという依頼者側から見ればすごくお得に思えるだろう。
もちろん、全員が戦闘スキル持ちにするとかは無理かもしれないけど、数人増えればそれで十分な気もする。
もし、明日の朝の面接で不合格になっても、別口で個人的に行けば良いだけだし、大分気楽になった。
明日面接が終わったらその足で奴隷市に行こう。
そこで、陸人族以外で何かスキルを持っている終身奴隷であることを条件に探す。
一応護衛をすることも考えて若い方が良いか。
新天地でやり直すにしても若い方が良いだろうし。
そうだ。
馬車の馭者ができるように、先生を冒険者ギルドで募っておかなきゃ。
デルソル公国までの片道の間に実地訓練をしてもらうように。
「護衛対象が亜人?」
俺と一緒に面接を受けた何組かのパーティは、護衛対象の移民が全て陸人族ではなくいわゆる亜人であることが不満のようだ。
「亜人に護衛なんかいらねえだろ。」
「亜人のために命は賭けられん。」
口々に不満を申し立て、席を立って行った。
残ったのは俺達を除いて二組。
一組目は不満気だが、金のために仕方なくと言った陸人族の五人組の男達。
二組目はリーダーの陸人族の若い男に、陸人族の女奴隷が一人、獣人族の♀奴隷が一人の三人組。
移民団の団長も悩んでいる。
うちのパーティは、俺、サミー、イル、ヒルダ、ルドの五人だ。
普通で考えれば十人の定員であれば、うちと一組目の五人組で十人になる。
でも明らかにやる気の無い一組目が、半分を占める護衛が役に立つか不安にはなる。
うちと二組目、うちを除いた二組では人数的に少なくなる。
三組を雇うと人数が十二人と多くなる。
たった二人とはいえ、予算オーバーには変わりない。
そりゃあ悩みどころだ。
多分三人対三人対四人位の比率が望ましいのだろう。
五人と五人では対立したときにどうしようも無くなる。
三対三対四で有れば三すくみ以外はどちらかが大多数になり、そちらに従うしかなくなるだろう。
パーティ上限が九人なので、十人が必要な今回の護衛は、一パーティってのは難しいだろうし。
「ウチだけで十人にすることできますし、光魔法で治療も可能ですよ。」
助け舟を出してみる。
ウチならできる。
俺ならできる。
治療手段があるってのは大きいだろう。
光魔法の使い手は少ないらしいし。
全員を身内で固めるなら、パーティメンバーの五人にノーラ、ターナ、コリン、それに新しく二人、戦える奴隷を買えばいい。
新しく買う奴隷が仮にスキル無しだとしても、他の八人は、攻撃魔法有り回復魔法有り戦闘スキル有りだ。
他の二組が俺を睨んでくる。
仕事を取られるかもしれないのだから当然といえば当然か。
一組目の五人は役割としては全て前・中衛職の様だ。
装備が防具はチェインメイルや革鎧に盾だが、武器が槍や剣だけだ。
二組目のリーダーの陸人族の若い男は、後衛なんだろう。
鎧ではなく普通の服だ。
陸人族の女奴隷は、よくわからない。
薄着というか、黒いビキニ水着にショートパンツにマントみたいな格好だ。
国民的龍探索RPGでいえば踊り子的な。
獣人族の♀奴隷は、前衛職らしく鉄の胸当てや脛や篭手の装備はあるが盾を二つ持っている。
いわゆる盾役なんだろうが、大小の盾だけを両手に持ってるってのは初めて見た。
左手に機動隊のジェラルミン盾みたいな大きいもの、右手にバスケットボールを半分にしたような小さなもの。
前衛一人後衛二人の三人パーティってことなんだろう。
バランスは、良いのか悪いのかよくわからない。
攻撃手段が見えないからだけど、中後衛が魔法を使えれば、まあいけるだろう。
「七人もできますよ。あと、俺の知り合いを護衛対象に加えてくれるなら他に無償で数人出せます。」
雇い主には選択肢を多数準備してあげる。
一組目の陸人族の男達の目つきがさらに厳しくなる。
人数的にいえば、自分達を排除しろと言っているようなものだから当然だろう。
一組目の陸人族だけのパーティは、勘だけどなんとなく信用できない。
差別主義者ってところが根本的に相容れない。
不利になれば真っ先に逃げ出すだろう。
二組目もなんとなく信用はできない感じはする。
どうやら一組目か二組目の誰かが、サミーやイルの知り合いらしく、盛んに俺の脇腹を突付いてくる。
サミーは一組目、イルは二組目を知っているらしい。
サミーいわく、一組目の陸人族にはダンジョンでサミーを襲ってきた奴のうち二人が居るらしい。
イルいわく、二組目の獣人の♀奴隷は、良くしてもらった先輩らしい。
よくサミーは我慢してくれた。
速攻で殺したい気持ちはよくわかるが、この場で殺処分をしてしまってはこちらが犯罪者となりかねない。
陸人族至上主義のこの国では公平な裁判なんて期待できない。
散々挑発しておけばこういう奴らは後でこっそり襲ってくるだろう。
そのときに返り討ちにすればいい。
そういってサミーを説得する。
壽眼で全員を確認するが、レベルが5前後。
スキル的にも剣2や槍2がいいところで、正面から戦えば今の俺たちの敵ではない。
隠密や気配察知などの厄介なスキルも持っていないし。
それに気配察知スキルの機能で、一組目のメンバーを登録して、緑色の点で表示させるようにして、どこにいるかわかる様にしておいた。
準備は万全だ。いつでも返り討ちにしてくれる。
イルの先輩はイルが知っている頃は奴隷ではなかったとのことだ。
獣人族(龍)という少数民族だが非常に強かったとのことだ。
お互いにいろいろとあったということだな。