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第32話

そんなことを考えながら村へと足を進める。


村は農業と漁業、それしかないような素朴で小さな村だった。


建物はどれも小さくて、そして少なかった。


建物が比較的集まっている辺りの広場の脇に少し大きな建物があった。


集会場か村長の家といったところだろう。


晴れた昼なので、みんな漁や畑に行っているのだろう。


村内に人影は見えない。


村長の家らしき建物の入口の木のドアをノックする。


留守らしい。


村長とはいえそれだけで食っていけるような環境ではないんだろう。


畑か漁に行っているに違いない。


夕方まで待ってもう一度来よう。


「みんな、夕方まで海に行って遊んでようぜ。」


波打ち際ではしゃぐ美女。


巻貝を耳に当てる美女。


砂でお城を作っている美少女。


なぜこの世界には水着がないのだ?


理不尽な怒りを覚える。


まあ晩秋なので海に入ることは厳しいだろうけど、白い砂と青い海があるのだ。


海の家やスイカ割りなんかが必要だろう?


カキ氷やそんなに旨くないラーメン、焼きそば、それにビールが必要だろう?


水着の美女は必要不可欠だろう?


夏場に海水浴ツアーでも企画する旅行会社を立ち上げてやろうかな。


馬車で護衛つきで臨海学校みたいなツアー。


流行るんじゃないのかな。


楽しい時間が過ぎるのが早いのは日本でもこちらでも同じらしい。


あっという間に陽も大分傾いてきた。


村長も家に戻っているだろう。



ドンドンドン。


ドアをノックすると、背の低いおじいさんが出てきた。


「誰だ?」


「多腕熊の討伐依頼を受けてきた冒険者です。

 村長さんに会いたいのですが。」


出てきたおじいさんが村長とは限らない。


まさか村民に秘密で依頼を出すってことはないだろうから、こっちの身分を明かすのは別にかまわないだろう。


おじいさんは俺達を見回すと、


「ふん。まず、入れ」


と家の中に招き入れた。



「まだ子供のようだが大丈夫なのか?」


見た目は十五歳やそこらなのだから不安になるのも無理はない。


だが、スキルレベルだけでいえばD級どころかC級でもおかしくないはずだ。


この世界ではスキルレベル3が達人といわれる範疇である。


それをみんな二つ以上持っているのだ。


今度見た目だけ変えれないかオタク女神に要求してみようか。


本来の三十五歳位に見えるように。


言われっぱなしも癪なので言い返しておく。


「本来の報酬額がでるのであれば、もっと熟練の人達が来たんでしょうけどね。」


三分の一の報酬額で来ただけ感謝しろ。


の意を込めて皮肉っぽく言ってみる。


「口は達者なようだな。あとは腕が同じだけあることを祈るか。」


おじいさんは、奥から羊皮紙のようなものを持ってくる。


村の周辺の地図だった。


地図というにはあまりに雑で、絵図といったほうが正しいだろう。


その絵図を指し示しながら、村長が話し始める。


「岬に流れる川の上流に、この辺の名物のキノコがとれる森がある。

 その辺りに多腕熊が住み着いたんじゃ。

 村の貴重な収入源じゃから、それがないと冬が越せん。」


「多腕熊は一頭なんですよね?

 何頭かいるなら話は違いますよ。

 危険度と報酬がつりあいませんので俺たちは帰ります。」


一頭でもD級パーティが複数必要な魔物だ。


慎重にも慎重を期すことは恥ではない。


勝てない敵に自分から向かっていくのはただの自殺行為だ。


「村の者が見たのは一頭じゃ。

 二頭同時に見たものは居ない。」


「見たものが居ないだけで一頭とは限らないということですね。」


村長の言葉尻に違和感を感じたので、確認しておく。


「一頭の討伐報酬すら満足に出せん村じゃ。

 二頭の討伐依頼なぞ出せんよ。」


自嘲するかのように村長は言う。


二頭いるのは確実なようだ。


一頭だけでも討伐してくれるなら。


というところか。


熊だっていうんだから、川の近くにいるのは遡上する魚を捕るためだろう。


動物程度の知能しかない、という美人ギルド職員さんの話が本当ならやりようはいくらでもある。


冒険者じゃなくてハンターの仕事だ。罠にかければいい。


罠のアイデアもある。


問題は相手が二頭同時だった場合だ。


片方を罠にかけてる間に、もう一頭の相手をしなければいけない、というところがネックだ。


手負いの獣は、より危険になる。


一度で片をつけなければいけない。


安全第一。


俺の座右の銘の一つだ。


人事を尽くして天命を待つとも言う。


尽くすべき人事はまだある。


「方法はあるんですが、それ以外にも色々相談が必要です。」


村長の顔が期待を込めたものに変わった。





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