表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/125

第22話

ん?


まだ暗いよな。


あんまり寝た気もしない。


なんか左腕が重いなぁ。


寝違えたかなと思いながら「ライト」を発動させる。


周りがようやく見えてくる。


完全武装した美女が二人、鞘付きのマチェットでつついて俺を起こしてくる。


三人目の美少女は・・・左腕の重りになっている。


眠気は一気に覚めた。


「おはようございますダーリン。

 朝です。

 今すぐ起きてください。

 五つ数えるまで待ちます。

 五、四、三、ニ・・・」


イルよ。


それは数えるじゃない。


カウントダウンというのだ。


数えるは、増やしていく。


カウントダウンは減らしていく。


大きな違いだ。


ゼロになったらどうなるのだ?


やばい感じしかしないぞ。


それに、サミュエルよ。


振りかぶったマチェットは、起こすではなく永眠させる行為の準備だ。


間違っていることに気づいてくれ。


二度と起きれなくなってしまう。


そこまでなのか。


そこまで自分以外の誰かが、主人と同衾することが嫌なのか。


俺ってそんなにもてるのか。


いや、やめておこう。


こうやって高い場所に行くと落ちたときのダメージは大きいのだ。


分かっている。


元の世界の三十五年の経験で分かっているのだ。


俺は下の上。


さぁみんなで一緒に。


俺は下の上。


これが理解できていれば何があっても、精神的ダメージは軽減される。


一撃死はなくなる。


これができていないで、何かを誤解したままでくらうと。精神的に死ぬのだ。


ムニャミニャいっているヒルダをどかせて、ベッドから降りる。天然爆弾め。


なにか間違っただろうか。視線が痛い。


寝ぼけるなんて贅沢は俺には許されていないらしい。


というか主人に対する敵対行為の禁止ってどこにいったのだ?剣を振りかぶっていたぞ。


俺にじゃなくてヒルダにだったら問題ないのか?


ヒルダを殺ったら、その後ろまで勢いが余ってついバッサリ。的な裏技か?


契約内容については色々あとで検討しよう。


パーティ内で虐殺事件が発生する可能性が高まってきた。


こんなんは求めていない。ピリピリ感が半端ない。


「だれか一人にしておけば良かったのに。」


誰に当たれるでもない後悔の念を自分にブチ当てる。


日本ではごく一部のモテ男が、極限に追い込まれたときの台詞であろう。


それを今俺は、そいつらの百倍の切実さで願っているのだ。


目を赤くしたあきらかに寝不足の二人と、寝起きの一人。


そして寝起きだが、いろんな危機に気づいて青い顔をしている男が装備を整えていく。


腕時計を見ると四時半だ。


この時期の日の出には一時間半くらいある。


さぁ地獄の一日の始まりだ。




◆◆◆



朝一番で探索者ギルドにいって三人を探索者G級に登録しておいた。


あとは常時討伐依頼の出ている魔物を狩りに行くだけだ。


冒険者じゃなく、あえて探索者にしたのは、どっちのギルドも使えるようにしたかったからだ。


冒険者ギルドは俺が、探索者ギルドは三人がいれば依頼も受けれるし、情報入手もできるだろう。


やってる内容なんて大して変わりないし。


俺の気配察知3のおかげで、魔物とのエンカウント率は高い。


強さもそこそこ、数もそこそこの魔物の群れを狩り続ける。


この調子が続くなら、高級宿屋やありえない食費も賄えるだろう。


問題は明らかに寝不足な二人の動きが目に見えて衰えてきてることだ。


そして、衰え以上に問題がある。


「なぁ、大丈夫か?」


大丈夫では無いという結果を知りつつ声をかけてみる。


実験にもなりゃりない。


ただの経験値稼ぎになっている。


でもたかだかゴブリン十匹。


俺が一人で狩っていた数だ。


それに苦戦って。


「ご心配いただきましてありがとうございます。

 あとで、ゆっくり癒してください。」


「はい。」


「大丈夫です。」


はぁ。どこで間違った俺・・・。


明らかにイルとサミュエルの二人には、パーティ結成はマイナス効果しか出ていない。


思考回路が近すぎるのか、張り合っているのか、攻撃でも回避でも行動がカブルのだ。


なので、それぞれ一対一なら確実に無傷で勝てる相手に、四対四だとあわや負けそうになる。


それが四対十になるともう大変。


間に俺か、ヒルダが入ると、同じ相手には物理的に届かないので、問題は起きない。


二人が前後か左右で並ぶとダメなのだ。


ダンジョンでは、二人しか並べない狭いところもあるし、五、六人が横に並べる広場もある。


いろんな陣形での実験をしていたのだ。


こんな状況が続くならパーティを分けるのも選択に入れなくてはいけないだろう。


四人でいるより、四人が個別に狩りをしていたら、よっぽど成果を挙げているんじゃないか。


ってくらいの不振ぷりである。


「捨てないでください。こんなんじゃないんです。ちょっと不調なだけです。」


「申し訳ありません。」


「すいません。すいません。すいません。」


そうかもね。個人の実力だけなら余裕なんだよね。


「いいよ。今日は終了にしよう。」


ズタボロになったゴブリンの群れを、ルーチンワークでストレージにしまいながら言う。




◆◆◆



今日の成果は、探索者ギルドへ行って、討伐依頼と死体販売での三千ゴルと、三人の探索者の級がF級になった。


報酬額は増えたが、一人当たりで考えると減った。


一人じゃ稼げないから買った奴隷のせいで、稼げなくなったって、どやさ。


宿は一人部屋を一つと大部屋を一つ取った。


全部で千ゴル。


食事は付いていない。


今日の二の舞をするわけにはいかない。


睡眠は皆に強制的に取ってもらう。


無理なら明日は休む。


この問題を解決しないと、このパーティ分解しちゃうよ。


全部俺のせいだろうけど。


女同士ゆっくり話し合ってもらおう。


食事は宿の隣にある居酒屋で取って早めに休むことにする。


居酒屋に行く前に皆に[リフレッシュ]をかける。


早く毎日風呂に入れる身分になりたいものだ。


でも珍しく、ポジティブに考えてみよう。


パーティ結成初日の狩りで問題が発覚して皆が無事なことは、歓迎すべきことかもしれない。


次に生かせるからだ。


悪いほうに回ったら全滅していたかも知れないのだ。


みんな無事。それは良かった。


でも、でもだ。


「みんな食べながら聞いて」


多分俺の基準では食べきれない、メンバーの基準ではやや少ない数の料理を頼み、一品目が来たところで話を始める。


「みんな分かっていると思うけど、今日みたいな戦い方してたら、近いうちに誰か死んじゃうよ。

 俺の回復が間に合えばいいけど、今日の最後みたいなことがあったらヤバイ。」


今日の最後の戦闘は、森の中での乱戦で相手はコボルト十匹。


陣形はばらばらになっていて、俺に六匹、ヒルダに一匹、イルとサミュエルに三匹といった感じで襲い掛かってきた。


木が邪魔して、最初の魔法と弓でダメージが与えられなかったのだ。


俺が囲まれている間に、イルとサミュエルが同じ相手に攻撃。


オーバーキルで相手を倒す間に別のコボルトから攻撃を受け負傷。


その後も回避で二人がぶつかったり、剣と槍がぶつかったりと散々だったのだ。


ヒルダが自分の相手を倒して応援に行くのが少し遅れたら、と思うと怖くなる。


「なので、今夜はゆっくり三人でお話ししてください。結果は明日の朝聞きます。」


あえて少し突き放してみた。危機感がなければ、先送りやなぁなぁで済ましてしまうかもしれない。


翌朝、朝食を取りながら聞いてみると、遅くまで話し合った結果、


  狭い場所では、イルは弓専門で後衛固定。サミュエルとヒルダが前衛。俺が中衛か前衛。

  広い場所では、イルとサミュエルは左右の端に分かれる。

  乱戦になったら、なるべく俺の左右に付く。


左右ってのは俺を中心にビー玉の有る方。つまりイルが左、サミュエルが右。


ヒルダは前らしい。


ビー玉が額(真ん中)だからか?


と決まったらしい。


それ以外にも何事か取り決めがあったらしいことは伺えたが、何も聞かないでおこう。


その日の狩りは、昨日よりは大分良くなった。


動く前に「右を殺る」とか「左はまかせた」とか声をかけるようになったせいもあるかも。


野球をやっていたときも、フライをどっちがとるかとか声がけは重要だった。


激突もお見合いもこちらの世界では点じゃなくて命を取られるのだ。


数日の間、森や草原で陣形や怪我をしたときのローテーションを試す。


大分慣れてきたのか最終日には、ギルドでの討伐依頼と死体販売での報酬が、一日で七千ゴルまで増えていた。

加速度的に増えている。


良い傾向だ。広い場所や乱戦はもう問題ないだろう。


草原での野営も試してみた。


最初は二人見張りで二人睡眠を考えていたのだが、そうすると「俺と一緒できない人がでる。」という理由で俺以外の三人で交代で二人見張り、あとの一人が休憩、俺の役目は枕兼湯たんぽ係。


と決まったらしい。


寝てるだけで楽かと思ったら、夜襲で起こされるし、休憩の交代でも目が覚める。


なかなかうまくいかないものだ。ずっと休憩してて贅沢かな。


サミュエルも嫌がらず俺の腕枕に来たのには、少し驚いた。


慣れか、前進か判断に迷うが。


次はダンジョンでの実験だな。


これで問題なければ、いよいよポイントの使用方法を決めれるだろう。


ん?


ふと考えたんだけど、三人には俺の持っていないスキルを取らせて俺がコピーすれば、ポイント使わずにゲットできるんじゃないか?


ここ数日コピーも強奪も使ってないから、試してみるか。


一人部屋と三人部屋も、弁当での昼食も、居酒屋での夕食も、寝る前の[リフレッシュ]も定番化してきたし、この辺で少し変化があってもいいだろう。


慣れには長所も短所もある。でもマンネリ化は良く無いと思う。


ポイントを使ってできることが増えるなら、ポイントを得るためのモチベーションにもなるし、戦力増強になる。


ダンジョン専用とか森専用とかじゃない汎用型の強化であれば、無駄にはならないだろうし。


よし、今夜やってみるか。


コン、コン、ココン。三人部屋の扉をノックする。


あらかじめ決めておいた、俺だとわかるノックだ。


街中でも警戒は怠らない。何があるかはわからないのだ。


閂の外される音がする。よしよし、キチンと言いつけを守っているな。


「ご主人様。夜這いです?」


イルが扉を開けながら聞いてくる。


この間買った寝巻き用のワンピースを着ている。


良かった。買うまでは皆皮ツナギか下着のみという究極の二択だったから。


「ちょっと、話があるんだけど入っていい?」


奴隷だろうが女性の部屋に入るのだから許可を取るべきだろう。


「準備はできています。三回はお願いしますね。」


目以外は笑いながら部屋へ通してくれる。


違う、そうじゃない。


「話しと言っただろ?」


他の二人も立って出迎えてくれる。


「寒くなってきてるから、ベッドに入って」


もう秋なのだ。


夜になると少し冷えてきている。[治癒]で治るとはいえ、健康に気をつけるのに越したことはない。


それに三人部屋なので椅子は三つしかないのだ。誰かは立つことになってしまう。


皆はベッド。


すぐ自分の部屋に戻る俺は椅子。効率的だ。


「今後の方針についてとか、ちょっと相談があるんだ。」


何を伸ばしたいのか何をしたいのか


「明日からはダンジョンに潜るのではなかったですか?」


いつものようにイルが聞いてくる。


「うん、そういうことじゃなくてさ。」


奴隷に主人が相談ってのは想像できないのだろう。


「たとえば、前は魔法使いになりたかった。

 とかこれから弓を覚えたいとか。

 定住したい、旅がしたい、奴隷から解放されたら何がしたいとかさ。

 奴隷だから無理とか、そういうの抜きにして聞いてみたいんだ。」


全部が希望通りには行かないと思うけど、なるべく反映させたいとは思うよ。


俺の構想と一致してくれるのがベストだけど。


「解放して下さるのですか?」


「すぐには無理。確約もできない。でも聞いておきたいんだ。」


変な希望持たせちゃったかな?


「そうですか。では私から。」


イルがいつもどおり、先陣をきる。


三人とも顔色や表情は変わってない。


「私は、奴隷になるまで冒険者をやっていました。

 好きでやっていたことですので、今の環境に特段不満はありません。

 待遇にも十分過ぎるほど満足しています。」


それは良かった。


「魔法使いに憧れたことはありましたが、獣人ですので無理でしょう。

 弓と槍の腕を上げるのが現在の課題です。

 してみたかったことは、大好きな人との結婚ですかね、やっぱり」


女子だ。


俺を見た後にウインクしたことに意味はあるのだろうか?


でもいくつか疑問があるぞ?


「獣人は魔法を使えないのか?あと、奴隷って結婚できないのか?」


「獣人で魔法を使えたのは、昔の勇者のお供をした魔法戦士くらいしか知られていません。

 奴隷は妾や情婦や性の捌け口にはなれますが、妻とは呼ばれませんね。

 あと、異種族間では子供の問題もあるのでなかなか結婚とはいかないようです。」


そういうものなんだ。


まぁ夫婦というのはなんとなく並び立ってる感じがするし、片方が奴隷ってなんか違う気はする。


魔法については、ポイント制でも無理なのかな?


壊滅的にMPが少ないとかだったら仕方ないだろうけど、魔法スキルはやっぱり壽眼をとって確かめてからだな。


しかし、内縁にはなれるんだ。解放して結婚とかも良いなぁ。


解放した瞬間逃げられたりして。


「俺は下の上。俺は下の上。」


心の中で唱えると少し落ち着いた。


「そうか。サミュエルは?」


「もっと強くなって復讐を果たしたいです。

 もっともまたアイツラに会えるとは思っていませんが。」


怖い。


そしてなんか後ろ向きっぽい。


もっと明るい未来は見えないんだろうか。


奴隷だし無理か。


「剣と盾を鍛えるか。」


「攻撃は最大の防御と言います。

 できれば破壊力のある大きな武器にするか、手数を多くするために双剣などを試してみたいと思っています。」


復讐メインだ。


でも双剣とか双刀ってかっこいいよな。


似合いそうだし、いいんじゃないかな。


筋力次第だけど、剣とか短剣のスキルをあげればいいのかな。


あとは、回避か。


「うん。わかった。ヒルダは?」


「ずっとお兄ちゃ、ご主人様と一緒にいたいです。」


「ありがとう。癒されたよ。でもそれだけじゃなくて、なんかないの?魔法とかさ。」


エルフ系だもの、使いたいんじゃないの魔法?


「一度海というのを見てみたいとは思ってました。

 ずっと森や暗がりや檻の中ばかりでしたので。」


なんか急に重くなったぞ。


「魔法は、使えたら良いなとは思いますが、使えるかどうか分かりませんし。」


「なるほど。わかった。」


とりあえず希望的なものは聞けた。


俺の構想と大きく外れたところはない。


あと確認しておかなきゃいけないのは、


「皆は自分のステータスって分かるのか」


肝心なことを聞いておかなければいけない。俺だけの特殊能力だったらあまり公にできない。


分かるのであればどの程度まで分かるのかも聞いておかなければ。


「分かりますよ。」


「どの位分かるんだ? 人によって分かる範囲が違ったりしないのか?」


「他の人は分かりませんが、私は、自分の名前、性別、種族、年齢、身分、レベル、スキルは見えますよ。」


「「同じです。」」


筋力とかの数値が分かるのは俺だけのようだ。


「スキルのレベルも分かるの?」


「「「スキルのレベルってなんですか?」」」


あら?


「たとえば剣をどの位使えるとかさ。」


「剣のスキルを持っていることしか分かりませんが、ご主人様は違うのですか?」


うーん。どうしよう。


この後ポイントも使うんだよな。


なら言っちゃうか。


「うん。俺にはスキルの有無とその習熟度的なものまで分かるんだ。

 自分だけじゃなくて他人のも。」


「あつらえたかのように、スキルを持っている装備を渡されたので、そうじゃないかとは思っていました。でも本当だったんですね。」


どうやら三人部屋で話し合ったときにスキルと武器の話しになったらしい。


小柄なヒルダに斧を渡したのが引っかかったらしい。


そりゃそうだ。


俺のうっかりさんめ。


テヘペロ。


「ついでに、それを他人に与えることも、少しならできるんだ。」


「「「エッ?」」」


「たとえばヒルダとサミュエルが持っていない槌のスキル、イルとサミュエルが持っていない回避、

 ヒルダとイルが持っていない剣。

 それらのスキルを条件付ではあるけど、皆に与えられるんだ。

 習熟度を増す事もできる。」


「ご主人様は神様だったんですか?」


全痴全NOの神。いや違う。


「ちがうけど、できるんだ。秘密だよ。」


「ご主人様を信じないわけではありませんが・・・」


「じゃ、やってみようか。」


百聞は一見にしかず。体験は百見にしかずだ。


「誰からにする?」


「お願いします。」


珍しくサミュエルが真っ先に立候補する。


「じゃあ、今回はお試しだから、剣スキルの習熟度を上げるのと、他にいくつかあったほうが良いと思うスキルを付与するね。」


本人の希望と俺の構想と欲求に基いてポイントを使おう。


「付与の儀式をするからこっちにおいで。」


手招きする。


「眼を瞑って。強くなりたいと祈って。」


眼を瞑るサミュエルを、突然抱きしめてキスをする。


付与の儀式。


ってことにしておけば今後も継続的にできるだろう。


ずるいが仕方ない。


俺の身体は十三歳。


欲求を抑えるのも限界があるのだ。


「「「いきなり何を。」」」


三人が口を揃える。


「自分のステータスを見てごらん?」


抱きしめていたサミュエルを解き放つ。


魔眼で確認してみたが、大丈夫だったようだ。


  [名前]サミュエル・ウォルブズ

      獣人族(狼)・♀・十四歳・終身奴隷・レベル3

  スキル

  [魔法]-

  [戦闘]剣2、格闘1、盾1

  [非戦闘]嗅覚拡大、夜目、回避1、身体強化1


「回避と夜目と身体強化のスキルが増えてる?!」


「剣も今までより、上手く使えるようになってるはずだよ。」


立てかけてあったマチェットを渡す。


サミュエルは恐る恐るマチェットを握ると軽く振った。


飛んでいた羽虫が切られて床に落ちた。


「キスにはどんな意味が?」


「ああ。儀式の一種だよ。」


当然という顔で嘘をつく。


良い言葉がある。


「嘘はバレなければ、それはもう真実だ。」


俺の格言だが、これで合法的にキスをする口実ができた。


「次はどっちだ?」


「「はいっ。」」


二人がずいっと前に出る。


「じゃあ歳の順で。」


イルを手招きするとヒルダは、頬を河豚のように膨らませて地団駄をふんでいた。


ぷっ。怒り方まで、かわいい。


よしよし、最後にゆっくりな。


イルを抱き寄せ、同じように眼を瞑り、強くなりたいと願うように言う。



ゆっくりと眼を瞑るイルにキスをする。


腕を首に回してきやがった。


積極的すぎるんだよ。


二人が見てる見てる、睨んでるぅ。


ちょっと(どころか結構)長かったキスを終え、魔眼で見てみると、弓2と長柄2と回避1。


それとなぜか性技1がついていた。 


   [名前]イリエラ・ツェラー

       獣人族(黒豹)・♀・十四歳・終身奴隷・レベル3

   スキル

   [魔法]-

   [戦闘]長柄2、短剣1、弓2

   [非戦闘]嗅覚拡大、夜目1、回避1、性技1


自分では、持っているスキルの種類しか分からないってことは、回避と性技がついたことしか分からないはず。


自分のステータスを確かめたときに、にやっと笑ったのを俺は見逃さなかった。


イルよ。なんか違うことを願ってなかったか?


「必要と思うスキルを付与する」って言って「性技」が付いたのは、俺が望んだと思われたのだろうか。


そのつもりはあるが、今じゃないんだが、完全に誤解されてるだろうな。


しかし、なんでポイントも使ってないのにスキルが?訓練したわけでもないのに。


本当に願ったからかなったのかな?


まさかあのオタク女神がいたずらでやったんじゃないか?


まあ、「ありがたいスキルをつけていただきましてありがとうございました。」と言っておこう。


狭い三人部屋では、弓や槍(もちろん性技も)の上達具合は試せないので、明日のお楽しみということになった。


ついでに、スキルコピーで長柄2がコピーできないか試したため、ちょっとキスしている時間が長くなりすぎたせいか、サミュエルとヒルダがプルプルしながら睨んでた。


色々失敗した。


いよいよお待たせのヒルダだ。


待ち焦がれていたように、何も言っていないのにテケテケと近づいてくる。


背が低いので、覆いかぶさるようにしてキスをする。


二人に見えないようにそっと耳をくすぐってみる。


性技1の発動だ。


やばい、背徳感と罪悪感と、他に二人が近くにいるってことで、異常に興奮してしまった。


抱きしめた腕を放すと、ガクンと崩れ落ちてしまったヒルダ。


いかん、やりすぎた。


抱き起こしながら魔眼で、確認する。


   [名前]ヒルデガルド・フォン・シルフィ

       ハーフ灰色エルフ・♀・十二歳・終身奴隷・レベル4

   スキル  5P

   [魔法]補助魔法リフレッシュ

   [戦闘]斧2

   [非戦闘]回避2、回復促進(MP1)、身体能力強化1、夜目1、魅了1


回避2と身体能力強化1と夜目、こちらもなぜか魅了1がついた。


やっぱり何か別なことも願ったりしたのだろうか。


残りの5Pは、次のレベルアップ時に魔法を検討するためとっておくことにする。


立ち上がると再び抱きついてきて俺を抱き上げる。


抱き上げる?


百四十センチくらいしかない華奢な幼女エルフが、痩せているとはいえ百七十センチある男を、お姫様抱っこだ。


満面の笑顔だが俺の顔は真っ赤だ。


お姫様抱っこはやめてぇ。男の子の尊厳が木っ端微塵になるから。


三人に、今日のことは絶対に秘密だよ。


と念をおして、解散する。


明日のダンジョンが楽しみだ。


なんとか自分の部屋に戻るまで爆発はこらえました。部屋に戻るまでは。


その夜、夢にオタク女神が出てきて、


「やるなあ自分。おもろかったし5Pあげるわ。

 またなんかおもろいこと見してや。」


心底感心したようにオタク女神はサムズアップ、ではなく親指を人差し指と中指の間に入れて握った手を高々と掲げていた。


夢だけに手も足も出ない。


あのやろう、どっからどこまで見てやがった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ