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第16話

いつもの、奴隷市の立つ日の朝。


なぜか音楽で眼を覚まされた。


お誕生日のあの音楽だ。


ステータスを確認してみると十四歳になっている。


こちらに来てから一年になったのだ。


記念日に奴隷を買う。


良いアイデアかもしれない。


男は記念日を覚えない生き物らしいが、転生記念日となれば話は別だ。


お知らせもしてくれる仕様のようだし。


そういえば神コールなんてしてないな。


見てるのか、飽きちゃって見てないのか、夢枕にも立ったことは無い。


まああまり珍しい行動なんてとってないからな。


定宿から出る。


今日奴隷を買ったら、二人部屋の無いこの安宿とはおさらばだ。


二部屋取ればって?高くつくし、コミュニケーションをとるためにも二人部屋の方が良い。


ツインよりダブルが安いだろうから、ダブルで決まりだ。


別にやらしい意味じゃない。


家計的に仕方ないのだ。


無実だ。


シングルベッドで二人夢を抱いてたい気もする。


川沿いの安い三畳くらいの狭いアパートを借りて公衆浴場に通ったりしたい。


一人暮らしじゃなくなるわけだから、生活費はほぼ二倍近くにはなるだろう。


装備も揃えないといけないから、全財産は使えない。


コマガのいる商館に行く途中で、露天をチェックする。


いつものことだ。コマガの言葉を思い出す。


「確実においしい一人か、可能性のある十人か」


俺の予算で言えば、商館で格安が一人といったところだろう。


露天なら何人か大丈夫だろう。


ダンジョンや野営を考えると、何人かいたほうが楽だろう。


でも実力がなければ、俺が守ってやらなくてはいけないだろう。


お荷物を増やしてどうするんだってことになる。


悩みどころだ。


露天では、平均的な金額で使えて、スキルを持っていたら即買いだろう。


商館では何を基準に選べば良いかな。


やっぱり美女で性格が良くて、ケモ耳かエルフかロリドワーフ。


ついでに前衛ができて。


しかし、そもそも選べるのだろうか、この予算で。


露天をチェックしていると、プラチナブロンドを短くした小さい娘がうずくまっているのが魔眼にとまった。


複数スキル持ちだ。


値段も一万ゴルで十分予算内。というか、ほとんど捨て値だ。

だが、ガリガリに痩せているのはまあ良いとして、右腕が肘と手首の間くらいから無い。


包帯を巻いているがまだ新しい傷なんだろう、滲んだものが赤黒く固まっている。


それに、顔にもひどい傷が付いている。


耳は両方無い。


目も両方つぶれている。


売り物になるのか?


スキルを持っていることがわかり、傷や病気を治せる人じゃなければ、買う目的がわからない位状態がひどい。


     [名前]ヒルデガルド・フォン・シルフィ

        灰色エルフ・12歳・♀

     [スキル] 斧2、回復促進(MP1)、回避1、補助魔法リフレッシュ

     [装備] 布の服

     [状態] 右腕欠損、両目失明、両耳欠損、裂傷、打撲、栄養失調、余命数日


傷や病気は俺なら治せるだろう。


たぶん。


あの傷で栄養失調なら余命数日も納得だ。


でも、灰色エルフってなんだろう?


エルフ系なのに魔法スキルが補助リフレッシュしかなくて[斧2]だ。


エルフとかダークエルフってレイピアか短剣と弓、風魔法・水魔法のイメージなんだが、斧2って。


このガリガリな小さな身体で重い斧が使えたのだろうか。


でも種族のイメージを取り除いて、スキルだけ見れば今までで最優秀だ。


リフレッシュしか魔法が使えないのに、MP回復促進とか訳わかんないスキルだが。


買いかそうじゃないか、の二択で言えば買いだ。


買いかそうじゃないか保留か、の三択で言えば・・・買いよりの保留だろう。


コマガの商館に行ってみてからでも遅くは無いだろう。


手遅れってことはありそうだが、この状態じゃ売れてしまう心配はないだろうし。


商館で買えなければ、の補欠として覚えておこう。




「おはようございます。コマガさん」


いつものように暇そうにしている男に声をかける。


「ついにE級になりましたよ。」


ギルド証を男の目の前に見せ付ける。


「おお。やったな少年。

やっぱりその年の男ってもんは、色を餌にすると頑張りが違うねえ。」


だから色目当てじゃないってのに。


メインは戦力。

次は見張り。

三番が話し相手で。

四番が色。


あ、四番て野球なら主砲やん。


「それに今日誕生日なんです。お祝いに勉強してくださいね。」


さっそく値引き交渉に入る。


使えるものは何でも使うのだ。


少しの値引きで、装備のランクや夕食の質が変わるかもしれないのだ。


絶対に負けられない戦いがここにもあった。


「おう。いいぜ。って言ってもな。

 俺にできることってまだそんなにないんだよ。

 まあ詳しくは中に入ってからだな。

 ようこそアクトック商会へ。

 歓迎するぜ、お客様。」


俺が入るのを拒んでいた両開きの扉が重々しく開いた。



◆◆◆



「私の指名客です」


コマガが中にいるオッサンに声をかける。


俺はいつ、ホストクラブに来たんだろう。


「いらっしゃいませ、お客様。

 コマガをご指名とのことですが、まことでしょうか?」


何か問題があるのだろうか。


そうか、前にノルマがあるとか言ってたな。


「はい。奴隷を買うのは初めてなのですが、コマガさんには以前よりいろいろ教えていただいておりまして。」


「そうでしたか。ではあちらへどうぞ。」


奥のドアへと案内される。


「失礼の無いようにな。」


オッサンはコマガに言うと、もとの場所に戻っていった。


個室には俺とコマガだけが残される。


「いよいよだな、少年。」


コマガは手をさすりながらソファーに座る。


テーブルを挟んだ反対側に俺も座る。


「さっきも言ったんだが、実は、俺にできることは限られてるんだ。

 何しろお前さんが始めての指名客だ。」


どういうことだろう。


「俺は駆け出しだから、高い奴隷を扱えないってことさ。

 要は、森人族と一〇〇万ゴル以上のが欲しいならさっきのオッサンが担当になるってことさ。」


「大丈夫です。もともとそんなに高い買い物できるようなお金ないですから。」


いや欲しいんだけどさ。


先立つものが無いんだよ、先立つものが。


別に立つものなら。


ってこれじゃまんま色目当てみたいじゃんか。


「逆に、何ならできるんですか?」


「多少の値引きとおまけ、それにアウトレットくらいだな。」


いろいろできんじゃん。


「おまけとアウトレットってなんですか?」


「おまけは公衆浴場の割引券。

 アウトレットは商品として価値の落ちた奴隷や、商品になる前の教育前の奴隷なんかを安く売れるってことさ。

 あと値引きってのは実際は借金だ。

 支払いを一時待つってことで値引きと呼んでいる。

 予算以上のも買えるってことだよ。

 E級冒険者だと一〇万ゴルってとこだな」


借金で奴隷堕ちするのがほとんどだって誰か言ってなかったか?


ねえ、目の前にいる発言者さん。


商品の仕入れも兼ねてるのか。


「で? どんな奴隷が良いんだ?」


「支払い総額が四〇万ゴル位までの女性で、種族を問わず。

 だったら今何人位いるんですかね。」


「用途は問わないのか。」


「ええ。予算が少ない分、間口をひろげて、たくさんの候補から選びたいんです。」


魔眼でチェックしたいとはいえない。


「そんなにいないな。たぶん十人に少し足りないくらいだろう。」


「実際に見てから選べるんですよね。」


「ああ。面談室で何人かの候補を見て、その中で気に入ったヤツとこの部屋で少しの間話せる。

 もっとも、俺も同席するけどな。チョッと待ってろ、準備してくる。」


コマガは俺にお茶を出すと部屋からでていった。


上や下へ階段を使って何人かが移動しているような音が聞こえてきた。


地下や上階に分けているんだろう。


そんなことを考えているとコマガが部屋に戻ってきた。


「普通のが五人、アウトレットが四人だな。

 一緒にはできないから、別々な部屋に入れておいた。

 行くか。」


緊張してきた。


三階に案内されて、まずは普通の終身奴隷の五人を見るらしい。


「右から、戦闘用地人、戦闘用獣人、戦闘用獣人、愛玩用獣人、勤労用陸人だな。」


すごい単純な白いワンピースというのか冠頭衣みたいなのをきている。


布を節約しているのかノースリーブだし、丈も短い。


膝上二十センチって感じだ。


首から札をかけていて色つきの円が幾つも書かれている。


字を読めない人のために、硬貨の種類と数を表しているんだろう。


「戦闘用とか勤労用ってどうやって決めてるんですか。」


[魔眼]を発動しながらコマガに聞いてみる。


「スキルなんかは、自己申告に基づいて実演してもらってる。

 能力が認められればその用途になるが、認められなかったり、見た目が良ければ愛玩用になる。

 愛玩用が値段的には一番高いからな。

 まあ女なら夜の仕事はどれでもするから心配すんな。」


鑑定じゃないのか。


でも実演して試してるならば、ある程度能力に見合った価格になっているんだろう。


魔眼と値札の結果は、


  戦闘用地人、三五歳、スキル:斧1、鎚1、鍛冶1、夜眼 三〇万ゴル

  戦闘用獣人(柴犬)、一六歳、スキル:長柄1、農夫1、気合、嗅覚拡大 三五万ゴル

  戦闘用獣人(黒猫)、一四歳、スキル:短剣1、狩人1、夜目、嗅覚拡大 三八万ゴル

  愛玩用獣人(茶狐)、一九歳、スキル:聴覚拡大 二五万ゴル

  勤労用陸人 二二歳、スキル:裁縫1、料理1 二八万ゴル


ドワーフの娘の三五歳ってうそだろ?十二、三にしか見えん。


ドワーフって男しかイメージに無かったけど気づかなかっただけか。


タメ年だし・・・いやいや、俺今は一四歳。


この世界だと母親相当の歳になるんじゃないだろうか。


合法ロリってやつか。


戦闘用獣人は、若くてかわいくてスキル持ち。


だが予算ギリギリだ。正直キツイ。


愛玩用と勤労用は見た目は良いが、一緒に冒険はできないだろう。


見張りくらいはできるかもしれないけど、それだけで良いならなら露天で十人は買える。


それ以外なら別だが・・・


全部保留だな。


次に二階に案内される。


次の部屋には、格安のアウトレット終身奴隷がいるらしい。


「アウトレットだ。

 質は多少落ちるが値段はそれなりだ。

 右から戦闘用獣人、戦闘用獣人、戦闘用獣人、勤労用陸人だな。」


魔眼と値札の結果は、


  戦闘用獣人(羆)、三八歳、スキル:鎚2、聴覚拡大 一八万ゴル


  戦闘用獣人(白狼)、一四歳、スキル:剣1、盾1、格闘1、嗅覚拡大 二〇万ゴル

            状態:左足欠損、裂傷


  戦闘用獣人(黒豹)、一四歳、スキル:長柄1、短剣1、弓1、夜目1、嗅覚拡大

            一五万ゴル   状態:左手欠損、左目失明、裂傷


  勤労用陸人、二七歳、スキル:料理1、メイド1、性技2 一九万ゴル


怪我や年齢がネックになって価格が低くなってるんだろうけど、やたらスキル持ちが多いぞ?


でも、両手武器スキル持ちの手の欠損は、スキル無しと同じじゃないのか?


だから実演できなくて値段に反映されてないのか。


それなら分かる。


聴覚や嗅覚拡大も試しづらいし。


しかし性技2なのに勤労用ってのは、申告しなかったからなのか。


実演は・・・したくないよなぁ。


レベル2の性技。味わってみたい。


年齢も今の俺的には有りだ。


ただ俺が三五歳の元の年齢まで成長したときに、向こうは四九歳。正直ちょっとなぁ。


永遠に歳を取らないと噂のエルフや、合法ロリと噂のドワーフなら別腹だが。


見た目は傷を気にしなければ、白狼と黒豹の獣人の娘は文句なしで美人だ。


年齢的には美少女というのがふさわしいんだろうけどさ。


羆熊は、やっぱり熊なのかガタイがでかい。見上げる感じだ。


戦闘用だから頼りにはなる。


白狼の娘は色白で薄茶色の短髪に蒼い眼、スタイルはごく普通に良い。


いわゆるスタンダードな美人さんだ。


地球で言えば、北欧系の美少女って感じだな。


左足が足首の上で途切れているのがもったいない。


黒豹の娘はヒスパニック系に見える小麦色の肌に、黒髪のソバージュっぽい髪を右側だけ後ろにまとめて左側は下げて顔の傷を隠している。


残った片目は碧色に光っているように見える。


猫科だけに、夜目は利くのだろう。


スタイルはセクシーってのが正しいだろう。


十四歳なのに。


もちろん二人とも頭の上には猫耳犬耳が鎮座している。


人の耳の位置にも耳があるように見えるのは何なのか後で聞いてみよう。


しかし「ギルティ(有罪)」である。


俺を堕落へと誘う誘惑罪だ。


金額的にはキツイがどっちか片方なんて選べない。


傷は俺が治すし問題は無い。


合計三十五万ゴル。


予算いっぱいに近い。


金も無いけどなんとかなるさ。


植木先生も言っているがなんとかなるだろうか。


「アウトレットの狼と豹の獣人の方とお話をしてみたいんですが、別々にできますか。」


「狼人と豹人だな。

 今日は暇だし、時間はある。

 待ってろ。」






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