第15話
十日に一度の奴隷市でのチェック。
毎日行く森での、日の出前から深夜に及ぶ魔物狩り。
狩った魔物は残さずお持ち帰りし、ギルドの金にならない依頼もソコソコこなす。
忙しい毎日をすごす。
十三歳にされてよかったこともあった。
毎日の晩酌の習慣がなくなったことだ。
バイクもパソコンも漫画も無い世界で酒を飲まなかったら、ほとんど日常的に出て行く金はなくなる。衣食住に装備品だけだ。
[コピー]と[強奪]は使えるようになる度に試す。
成功率が十パーセントや二十パーセントでは、ほとんど成功しなかったが、一年近く試し続けるといくつかのスキルを入手することはできた。
戦闘系では、盾1、長柄1、斧1
魔法は、土1、水1、火1
非戦闘系では、回避1、暗視(夜目2)
そして狩人1は、魔物狩りをしているうちにいつの間にか身に付いていた。
依頼の成功報酬や魔物の死体の売却益、たまに森で怪我をしてる冒険者達からの治療報酬で装備も整え、残りのほとんど全てを貯金に回す。
冒険者の級もついさっき、ようやくE級に昇級した。
ずっと狩っていた魔物のほとんどが、コボルトやゴブリンといった弱い魔物が中心だったせいか、レベルは中々上がらなかった。
日本で呼んだラノベでは、主人公はチート能力を持っている上に成長が早くて、あっという間に無双になっていたが、どうやら俺は主人公ではないようだ。
地味な経験値稼ぎと資金調達の日々。
テレビゲームのRPGのレベル上げ作業を思い出す。
スライム狩りにメタル探し。
ゴールドゴーレムで稼いで買うのは薬草と毒消し草。
やっかいなマド手や木人形からは逃げ回る。
あの世界に食事は無かったなぁ。
装備では、青銅の小盾、青銅の投げナイフを二本、発動体のワンドと装備を整えた。
特にワンドは高価なだけあって効果絶大だった。
魔法を使うときの消費MPが大分減ったのだ。
体感では三割減位に。
ソロでやっていると、ゴブリンとかの十匹位で群れる魔物と一人で戦わなきゃいけない。
気配察知でなるべく少数の群れを狙うが、いつもうまくいくわけじゃない。
最初に魔法で何匹か戦闘不能にして混乱させるってのは、鉄板だ。
多く狩るためには、魔法も多発する必要がある。
強い魔物を狙うときは、[隠密]に闇魔法の[静音][透明]で隠れてて、不意打ちに槍を投げる。
レベルが上がったら、MP回復促進のレベルを上げるか今から考えておこう。
◆◆◆
お金も何とか四〇万ゴル貯まった。
普通の冒険者に比べると、稼働時間、遭遇率が違うのに加えて、倒した魔物をストレージで持って帰れるのが大きい。
普通であれば希少部位を切り取ったり、丸ごと一体がせいぜいだ。
奴隷市が立つたびに魔眼でチェックしまくり、コマガと世間話をしつつ情報収集に努める。
この間、あと少しで冒険者の級がE級に上がると言ったら、
「上がったらすぐに買いに来い。俺ができる範囲で値引きしてやる。」
と言ってくれた。ありがたい。
しかし、魔物を狩るにしても、その辺を歩いてるだけじゃ意外と会わないんだよな。
もっとも、そんなに頻繁に魔物と出会うような世界なら農業なんてできないし、人間なんて即効で滅んでんじゃね?とも思う。
街道沿いにはハグレ魔物や、上位者から逃げてきた魔物、陸人族の野盗、攻撃的害獣位しか出てこない。
某有名テレビゲームみたいに三歩進むたびにエンカウントなんてしない。
効率よく稼ぐには、遭遇率の高い場所に行くしかない。
今のところ森か、それともダンジョンかって二択だ。
デスタの町の近くにはダンジョンがある。
少し前に発見された。
アロンの町に冒険者が少なくなった原因の一つだ。
ダンジョンってのは、提灯アンコウみたいな魔物と考えられているようだ。
地面に穴を堀り、そこに別の魔物や金目の物を集めて餌にして、他の魔物や人間をおびき寄せて殺し、吸収する。
吸収した魔力でやがて穴自体を自分の身体にしてしまう。
その証拠にコアと呼ばれる弱点を破壊されると、ゆっくりと穴が崩壊するのだ。
深いダンジョンに潜っていて、コアを破壊したらすぐに逃げないと地上に出る前に崩壊に巻き込まれて死亡。
安全地帯もないし、なんか死ぬ確率が高い。
その代わり、魔物は豊富にいるし、金目のものも手に入ることがある。
ハイリスクハイリターンの職場にもなるのだ。
そして、おびき寄せられた魔物ではない、ダンジョンが魔力で生み出した魔物もダンジョンにはいる。
それらの魔物は殺すと「ボンッ」と煙になり、その煙がぎゅっと縮まって魔魂石というものになる。
これが、電池のように魔力を貯めておける便利な道具になるのだ。
ちょっと高価だが魔道具の燃料として、普通に売られている。
当然のように強い魔物の魔魂石には、多くの魔力が込められていて高価で売れる。
金になるダンジョンであるが、暗いために灯りが必要になること(暗視があるって言っても限度がある)、遭遇率が高すぎること(連戦とか、撤退時の追撃とかつらそう)、気配察知のメリットが生かせないこと(前後から来られたら逃げ道が無い)などから、ソロでは厳しいと判断してほとんど潜ったことは無い。
パーティが組めたら奥まで潜ってみたいと思っている。