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第14話

「君何歳?」


露天商の人に話しかけたら、質問が返ってきた。


十三歳(元は三十五歳だが)ですけど?


「大人じゃないと奴隷買えないんだよね。知ってるでしょ?」


えっ? 知らないし。


「陸人族なら、十五歳になるか、仕事で一人前になれば大人と認められるよね。

 実際はもっと前から一人前に働いてる人は多いけど、まあ出直してきなエロガキがっ。

 てことだよね。」


マヂスカ?


せめて奴隷商人イコール鑑定持ち説の確認をしよう。


持ってない。


露天商レベルでは持っていないのだろうか。


研鑽を積むうちに鑑定スキルを身につけ、それによって商品としての奴隷の扱いに長じてくる。


結果として、店を出せるくらいに出世する。


と考えれば辻褄は合うか。


しかし商館で買うのと露天で買うのと、なにか値段以外に違いがあるのだろうか。


能力は鑑定で見なきゃ分からんだろうし、見た目は趣味の世界だ。


商館の一つの入口に、所在なげに立っている若い男に話しかけてみる。


市が立つ日は商館に来る客が少なくなるらしく、暇してたんだと話しに応じてくれる。


「将来のために勉強しとけよ、少年。」


やはり買えないらしい。


ここでも門前払いされるのだろうか。


奴隷商人イコール鑑定スキル持ち説の検証くらいしておくか。


持ってない。


立ち番で呼び込みをさせられる程度ではスキル持ちではないのか。


「商館と露天のちがいかぁ。同じ値段でだったら、すっごくおいしい食べ物を一度食べるのと、普通の食べ物を十種類食べるのとどっちが良いかっていう話しだね。」


ん? どういうこと?


旨いほうが良いんじゃないのソレ。


「その十種類の中には、個人的にハマル食べ物があるかもしれない。

 けどこっちは確実においしいって分かっているもの。

 どっちがいいかはその人次第だよね。」


相手してくれるみたいだ。


しかし愛玩奴隷前提かよ。


まあ十三歳のガキが奴隷に興味持つっていったらそんな感じになるか。


「それに奴隷の質と量が違う。

 商館を構えている奴隷商は資金力がある。

 誰でも自分を奴隷とするなら、なるべく多くの金と交換したいと思うだろう?

 だからそんな話はまず、商館に来る。

 商館の目に留まらなかったヤツが露天商に行く。」


ふんふん。そうだろうね。


借金のカタに売られるとしても、足りないか余って家族がそれで食っていけるかは大きく違う。


「資金力があるってことは他にも利点があるんだ。在庫をいつでも沢山準備しておける。

 露天じゃ仕入れた奴隷を売った金で新しい奴隷を仕入れる。

 商館はまず仕入れる。そのまま持っておける。

 高くなったときに売れるし、有能だったり美人だったりを選べる。

 この上質のものを選べるってのは中々売りになるんだよ。」


真理だ。


買う楽しみに選ぶ楽しみ。


パン屋やスーパーマーケットもそうだろう。


一点特化主義の頑固親父の鍛冶屋とかも良いけど、一般的ではない。


俺も沢山の中から選びたい。


特注品の武器とか以外は。


まあ、パチモンやバッタモンを大量に買うのも楽しいは楽しいけどさ。



「多く仕入れられる理由は他にもある。

 露天なんかじゃ二、三人の店員で店を回してる。

 市の無い日に奴隷を仕入れに行くんだ。

 だからこの辺の四、五日で行ける範囲からしか仕入れられない。

 あとは商館からの不良在庫の下げ渡しだな。

 でも商館は仕入れ担当者が何人もいて、あちこちに長い期間出かけられる。

 そりゃ数も違ってくるさ。」


なんか資本主義がここにあるぞ?


こんなところだけ意外と進んでいるのだろうか。


「子供に売れないのは、奴隷の税金は、主人が払う義務があるからだ。

 衣食住の保障も必要だ。最低でも屋根のある住み家、一日一食以上の食事、裸はダメだ。

 定住している奴隷分は、年が明けるときに主人の住んでいる場所の領主に納める。

 税額は領地によって違うが、デスタでは奴隷一人五千ゴル。

 子供には払えん額だろう?」


未成年は契約行為ができませんってやつか。


まあ責任取れないんだから仕方ないよな。


でもたしか日本じゃ未成年でも、結婚すると成年したと認められるよな。


そんな制度ないんだろうか。


「よく冒険者なんかが奴隷を所有してるけど、あれはギルドが依頼や買取なんかのときに、税金相当の額を天引きしてるのさ。

 どこにいるのかわかんないやつから税金取るには、確実に訪問してくるときに取らなきゃってことだろう。

 ギルドカードには所有奴隷も記載されるしな。」


話し好きなやつだ。


でもありがたい。



欲しかった情報が詰まっている。


「俺は冒険者ギルドに所属してますけど、それでも買えないんですかね。」


買えてくれ。


祈るように言葉を搾り出す。


「ギルド証見せてみな。」


ギルド証をポケットから取り出して見せてみる。


「あぁ。F級か。E級だったら買えたのに残念だな。」


なんでもどこのギルドでもG級は見習い、F級は駆け出し、E級になってようやくいっぱしの冒険者として認められるらしい。


確かにG級なんて雑用一回で卒業するレベルだ。


それで上がったF級だってそんな扱いだろう。


なるほど十五歳かE級だな。


まずは奴隷を買える位の金を貯める。


金を貯めるために魔物を狩る。


必然的に冒険者レベルも上がるんじゃないかな?


一つ上の級くらいなら。


よし、行動方針は決まった。


でも情報収集もできるだけしておくべきだろう。


「将来のためにいろいろ教えていただけますか?

 奴隷は主人を裏切れないと聞いたんですけど・・・」


「あぁ、奴隷は基本的に主人に逆らえないようにするが、どの程度まで言動や行動を許すかは、奴隷契約の時に決めるんだ。

 必須なのは自傷行為と主人への敵対行為、逃避行為、主人の財産の盗難の禁止。

 他は、移動範囲や他人との性交渉、使用言語の規制なんかがうちでは一般的だな。」


なんか便利なんだな。


さっき奴隷契約とか言ってたけど、「第一条、自傷行為の禁止」とか日本みたいに契約書でも作るのかな。


「ウチであった一番変な特約は、「着服の禁止」だったな。

 金をじゃなくて、そのまんま服を着ちゃダメって意味で。くっくっくっ。

 しかもその客ときたら両刀使いでな。男の奴隷を二人買って行ったんだが、商館を出た瞬間に特約が発動して、服を脱ぎやがってさ。衛兵に捕まってやんの。

 さすがに家の中だけにしろってことだよな。」


面白いが笑えない話も含まれていたぞ。


この世界にも両刀使いがいるんだ。


戦闘技術的な話じゃなくて趣味的な話で。


怖い。怖すぎる。


やっぱり女の奴隷しか買っちゃいけない。


うっかりその趣味の男奴隷を気づかず買って、その情報を知らずに契約にいれなかったらどうなる?


主人への敵対行為、ではなく愛情行為だから実行されてしまう恐れがある。


ガチムチの男の戦闘奴隷に襲われる。


どんなエロゲーだよ。


「でもな、あんまりギチギチに縛り付けると、ただの肉ゴーレムみたいになっちまうからな。

 命令を聞くだけで、口にするのは、「はいご主人様」だけだなんて何にも面白くないだろう?」


それはもっともだ。


戦いだけの部下ならともかく、普段一緒に暮らすことになるのだ。


今のボッチよりはマシかもしれないが、会話くらいは普通にしたい。


俺的には、基本って言ってたやつだけで十分な気がする。


   前途を悲観して自殺しない。

   俺を襲わない。

   逃げない。

   俺の財産を盗まない。


あとは無視しないでね。


とか、普通にお話してね。


とか、キモイとか言わないでね。


とか。


やばいネガティブ思考に嵌りそうだ。


「主人が死んだときにどうするかってのも、同じく契約時に決めるんだ。

 あとで変更はできるんだけどな。それを[遺言]って言ってる。

 そこでミスって奴隷に殺されたヤツもいるんだよ。

 相続か解放が一般的だけど、決めてないと殉死することになってんだ。

 信頼関係も築かないうちに、死後解放にしちまっててな。

 虐待したもんだから賊に襲われたときにその奴隷、わざと賊の攻撃を受けて怪我をさせられて。

 物理的に主人を守れなくして、主人を見殺しにしたんだ。そんな裏技もあるってことだ。

 大人って怖いよな、少年。」


わざと敵の攻撃を受けるのは自傷行為じゃないんだ。


他にも裏技とかありそうだよな。


命・自由がかかってるんだからそりゃ必死に考えるだろう。


「まあ、あんま難しい契約は露天じゃやってくんないだろう。

 通り一遍の契約だけだな。

 その点商館は違う。お望みの奴隷を作れるんだよ。

 質とサービスなら商館に限るよ。」


それは、そうだろう。


「ああ、奴隷の種類も知っておいたほうが良いか。」


ん?


戦闘とか愛玩とかですか?


訳分からんって感じで首をかしげる。


「奴隷には終身奴隷と、年季奴隷ってのがあるんだ。

 年季奴隷は、期限をきって自分を売ったやつだ。

 大体十年くらいが普通だけど、それを知らせずに売る詐欺もあるから気をつけな。

 まあウチくらいの商館になればそんなことしないけどな。

 終身奴隷は、さらに犯罪奴隷とそれ以外に分けられる。

 犯罪奴隷は基本的に死後だろうと解放はできない。

 まあ奴隷に落とされる犯罪者なんて解放したら危なくてしょうがないからな。

 ウチじゃ犯罪奴隷は扱ってないんだ。契約も複雑になるし。」


奴隷堕ちイコール終身刑。


または死刑の期限付き延期って感じなのか。


どんな罪だと奴隷堕ちなんだろう?


死刑、奴隷堕ち、強制労働、鞭打ちとかランクがいくつかあるんだろうけど、命の軽いこの世界だから、人を何人か殺したくらいじゃ強制労働どまりとかじゃないよな。


複雑な契約ってのは、主人への敵対行為だけじゃなく他人への攻撃を禁止にするとか?


でもそれじゃ主人が賊に襲われても盾になるくらいしかできないな。


確かに条件の設定が難しいかもしれない。


一般的な良識の問題だけど。


「どんな人が犯罪奴隷になるんですか?」


確認せずにはいられない。


俺の睡眠中に隣で起きていることになるかもしれないツレだ。


「法務院で裁かれた奴らだな。詳しくは俺もしらないけど、何人かしか殺してないヤツが奴隷堕ちって感じじゃないか」


何人か「しか」なんだ。怖ぇ。


それに一応、裁判所みたいな法務院ってのもあるんだ。



犯罪奴隷は止めよう。


うん。無理。


「犯罪以外に奴隷になるって、どんな理由があるんですかね?」


「ガキだなぁ。

 ほとんどが金に決まってんだろう。

 借金のカタ、ギャンブル、親の治療費。

 理由はそれぞれけど、金が無いのは首が無いのと一緒だ。

 他には、戦争の捕虜や奴隷狩りとかか。」


奴隷狩り?


人攫いってことだろうか。


テレビの時代劇みたいに、若い娘さんをかどわかして異国に売るとか?


「この辺りはまだそんなでもないが、陸人族以外を人と認めてない国や領地もあるからな。

 そこで貧しい集落を襲って、奴隷として連れてくってとこか。

 ウチにいる獣人も何人かそんなんだったな。」


異世界でも人種差別ってあるんだ。


人の業の深さには何も言えんわ。


「大人になったらまた来てくれよ。

 ノルマもあるから俺を指名して呼んでくれな。

 良い娘を斡旋するぜ、少年よ。」


買うのは娘って決まってんだ?


決まってるけど。


「そういえば、まだお名前を伺ってませんでしたね。」


魔眼で確認したけど、スキル無ししか覚えて無かったわ。


「おう、俺はコマガだ。

 よろしくな、エロ少年。」


必要な情報は大体手に入った。


実際に高級な奴隷って見てみたかったけど、商館の中には入れてくれなかった。


あとは一般的な奴隷ってどんなもんなのか確かめなきゃな。


市の露天商が売る奴隷は、大体、首と手足を鎖でつながれ、道端に座り込んでいる。


なんか路上生活者のようなすえた臭いがするのは、風呂なんかには入れていないせいだろう。


この世界では風呂は金持ちの道楽らしい。


俺の泊まった宿でも風呂付きの宿は無かったし。


デスタくらい大きな町になると公衆浴場がいくつかあるが、中金持ちの娯楽って感じだ。


大金持ちは毎日自宅で、中金持ちは毎日公衆浴場、小金持ちは、たまに公衆浴場、貧乏人はタライと手拭い。それ以下の奴隷は・・・。


公衆浴場でも宿に泊まるのと同じくらいの金が掛かる。


具体的には三〇〇から八〇〇ゴル位だ。


大風呂は安く、個室貸し切りは高い。


サウナがあるところもある。


スーパー銭湯まであと少しってとこだ。



俺なら露天とアカすりと薬草風呂を導入する。


アイデアだけでも売れないだろうか。


井戸から水を汲んで、湯を沸かす。


重労働だし、薪や人件費なんかで料金を高くしないといけないのだろう。


奴隷が入れるわけは無い。


むしろ使用人で欲しい感じだ。


売りに来るときに、濡れた布で身体を拭いた位じゃないだろうか。


泥で汚れているってわけではないが、きれいな感じはしない。


種族は八割が陸人族、二割が獣人、ドワーフがごく稀にいるくらいだ。


エルフや翼人はいない。


商館でも時価とかだったから、やっぱり高価で、そんなんは商館で売られるのだろう。


奴隷という奴隷を魔眼で確認してみる。


年寄りから子供まで、男女問わず、種族問わずだ。


スキル持ちはほとんどいない。


結構年齢が高い陸人族で生産系や商業系のレベル1、ドワーフで鍛冶や戦闘系の鎚1や斧1。


若い奴隷はスキルを持ってはいても、ギャンブラー1とか使えなさそうなやつばっかりだ。


若い娘さんの奴隷は、見た目が悪いのがほとんどで、腕が無かったり、火傷の跡がひどかったりと見ていて辛くなるほどだ。


買い手が付くんだろうか?


治して売ればと思ったが、治療院の料金の高さを考えると、治して価値が上がるほどの奴隷でなければ販売価格以上の出費になる。


美人さんだったら治して、高価で売る。


それ以外は怪我したままで安く売る。


そんな感じだ。


値段は、首の鎖に値札がつけられていて、陸人族のスキル無しの無傷のおばちゃんが一万ゴル位。


肉体労働できそうなスキル無しの若い兄ちゃんが二万ゴル位。


獣人は男が三万ゴル位、女が五万ゴル位。


おっさんドワーフは五万ゴル位が相場みたいだ。


もちろん腕が無かったりすると半値以下だったりする。


どうやらスキルの有無は露天商では判断できないみたいだ。


スキルの有無での値段に違いが無い。


パワーのある奴か若い女が高値がつけられている。


ドワーフや獣人は力が強いから比較的高いんだろう。


ジェドさんとかに聞いた話では、護衛は一日千ゴル位の報酬。


商館の看板にあった戦闘用奴隷の♀の最安値である二〇万ゴルを稼ぐには二〇〇日。


魔物の死体を売る代金が別に入るとしても、宿代や装備品の更新を考えると、余裕で一年以上は掛かるだろう。


さっき見た限り、露天商の奴隷では、能力的に不安だ。


せめて戦闘系のスキルが欲しい。


掘り出し物もいるかもしれないので、市が立つたびにチェックは必要だろう。


けど期待薄だな。






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