第12話
結果としてどうにか、犠牲を出さずに切り抜けた。
無言エルフの風魔法。
ギルド職員の土魔法。
俺の作戦。
全てがまんまと嵌り、想定どおりの戦闘に想定どおりの結果となった。
戦闘では、俺とエルフは最初に風魔法の[風矢]で眼を潰し、矢を何度か放っただけで、後は他のメンバーがほとんどやってくれた。
俺の放ったバットの一撃が止めを指したことは、単なる偶然だろう。
だが、止めを指したせいなのか、作戦まで加味したのか分からないが、オーガーが倒れた瞬間俺はレベルアップした。
例の音楽が頭に響いた。
レベルが低いうちはレベルアップも簡単なのだろう。
2レベルも一気にだ。
それともオーガーってそんなに経験値をもらえる危険な相手だったのか。
オーガーが動きを止める寸前に止めを指す振りをして、ユニーク魔法の[スキル強奪]と[スキルコピー]を発動させる。
死んでしまうとスキルを奪えない。
オーガーの持っていたスキルは、鎚3、身体能力強化3、回復促進(LP1)の三つ。
俺はもうLP回復促進は持っていたので、鎚3と身体能力強化3が狙いだ。
特に欲しかった身体能力強化3は奪えず、かろうじて鎚3がコピーできた。
偵察と討伐で、二万二千五百ゴル。
オーガーをストレージで運んだ運賃と、素材の売り値の割り当てで二千ゴル。
まずまずの稼ぎだ。
ずっとジェドさん家で三食付きで世話になってるから出費もないし、手持ちの八千二百ゴルとあわせて三万二千五百ゴル。
宿を使って三ヶ月位は暮らせるか。
しかし魔物の死体って結構高価で引き取ってくれるけど、何に使ってるんだろう。
まさか食用じゃないよな。
弓やスキルも入手できたし、言うこと無しだ。
こちらの世界に来てまだ数日しか経っていないが、何とか暮らしていけそうだ。
レベルアップしたのでボーナスポイントの割り振りについて考える。
[名前]ジン・サカキ・クルーズ・ブレイド
陸人族・男・十三歳・自由民・レベル4
[筋力]六〇
[精神力]七五
[器用度]六八
[敏捷度]七〇
[耐久力]六〇
[抵抗値]八五
[幸運度]一二
[魅力値]八〇
[LP(生命力)]六〇/六〇
[MP(魔力)]六〇/六〇
[HP(信仰力)]-/-
幸運度は1しか上がらんのね。なんの罰なんだろう。
2/3 スキル ポイント30P
「魔法」光魔法3、闇魔法3、時空魔法2、風魔法1、
ユニーク魔法(スキルコピー1[済/五日]、スキル強奪1[済/五日])、
補助魔法(ライト、リフレッシュ、種火、暖房、冷房)
「戦闘」投擲2、弓2、槌3、格闘1、剣1、短剣1
「非戦闘」テイマー1、騎乗1、気配察知3、算術4、詠唱2(省略)、
鑑定3(魔眼)、性技1、魅了1、LP回復促進2、MP回復促進2
回避2、耐性(毒1)、遠視、夜目、隠密
ポイントは残しておいた5Pに、レベル3にあがって12P増えて17P。
レベル4にあがって13P増えて30Pてことだろう。
最初のレベルアップで11P、二回目で12Pってことは、新レベル+9Pか。
ユニーク魔法のスキルコピーをレベル2にして10P、風魔法をレベル2にして6P、身体能力強化レベル1で1P。
土魔法も使い勝手がよさそうで欲しいけどなぁ。
壁と固化で城とか塔とか作れないかな。
でも掃除が大変か。
それこそメイド導入すりゃ解決か。
そうか、奴隷か。
そういえば、隣のデスタの町には奴隷商がいるって、隊商のロンドさんが言ってたな。
下見というか情報収集に行ってみるか。
デスタの町の方が規模が大きいらしいから、拠点にするのならそっちのほうが便利かもしれない。
この町のギルドじゃちょっと目立ちすぎな感じがして出入りしずらいし。
拠点を移すなら多少目立ってもすぐにいなくなるし、ジェシカちゃんの病気も光魔法の[治癒]かけてみようか。
よし、そうしよう。
13Pは将来のために留保だ。
◆◆◆
「拠点をデスタの町に移そうかと考えてまして」
ジェドさんに
「つきましてはお世話になったお礼として、ジェシカちゃんに[治癒]をかけてみようと思いまして。
どうでしょう?治せるかどうか私にも分かりませんが、害になるものでもありませんし。」
「そんな金は無いぞ。」
「いやいやお金は要りませんよ。」
お礼ですから。
明日になればすっかり回復するHPしか使いませんし。
「十万もするんだぞ?」
「確実に治せるからの価格設定でしょう。
私のはダメで元々って感じですし。」
「あなた。」
奥さん(ずっと奥さんて呼んでたら名前忘れチッタ)が会話に入ってくる。
早く治せるもんなら治してやりたいんだろう。
害が無く、金銭的に苦しいことも考えれば、奥さんとしては当然の結論だ。
「しかし十万だぞ?」
貧乏が身についているのか、ジェドさんは金にこだわる。
「じゃあ俺が成り上がって、一国一城の主になった暁には、ジェシカちゃんをメイドとして、こき使うって条件付では?」
笑いながら冗談ぽく言ってみる。
「それに、もし薬代がいらなくなれば二人目も考えられるんじゃ・・・」
「「そうだな(ですよね)!!!」」
食い気味に二人がハモる。
どんだけ二人目作りたいんだよ。
思春期の中学生か。
って今はそのお年頃の俺が言えないか。
俺だって作りたい(行為をしたい)わ。
十三歳だもん。
こっちの世界ではまだ童帝だし。
中身はオッサンでも身体は思春期だし。
「じゃあ、早速」
「おねがいしますね。」
回復系の魔法は触れなくてもかけられるが、[治癒]は患部に直に掌をあてる必要がある。
手当てって語源がそういうことだったなあ、と日本のことを少し思い出す。
ジェシカちゃんは肺病。
患部は胸だ・・・。
十一歳だもの。
無いよねそりゃ。
うん。治療だし、なんにも期待なんかしてないよ。
ご両親がすぐ脇にいるし、父親にいたっては、刃物(剣)を身につけている。
もし俺が治療に見えない行為や表情でもしようものなら、ザンバラリンと三枚オロシ。
なんて可能性もゼロじゃない。
切れる刃物で切った傷はそんなに痛くない。
ってのは、紙や剃刀で手を切った事のある人なら知っているだろう。
逆もまた真なりだ。
日本で鋸で切ったところは傷跡になってたし、何より痛かった。
ジェドさんのナマクラ青銅剣でオロすのは勘弁していただきたい。
粗末な寝具に、上向きに横になっているジェシカちゃんの寝巻きの中に右手を差し入れる。
ねえジェシカちゃん?
顔が赤くなってプルプル震えてるのは発熱のせいだよね?
俺のせいじゃないよね?
ね?ね?
ジェドさんはとりあえず剣を置こうよ。
奥さんニヤニヤしない。
まだなにもしてないよ。
魔法に集中できやしない。
集中しなきゃ。
集中集中。
なにに?
もちろん手。
じゃなく魔法にだ。
「聖なる御技をもって病魔を退けたまえ」[治癒]
あえて、詠唱しました。
ただ触りたかっただけじゃないか、という冤罪を晴らすために。
右手がシャツ越しにも金色に光っているのが分かる。
HPも普通の三倍ほどぶち込んで強化してみる。
[回復]であれば目に見えて元気になったり、傷がふさがるので成功したとすぐ分かるのだが、[治癒]を使うのは初めてだ。
成功したとどうやって分かるのだろうか。
右手の光がゆっくりと消えていく。
消えた。
成功したのかどうか分からない。
「いつまで触ってるんだ?」
「で、治ったのかしら~?」
「もうチョッと待ってください」
いやいや、触っていたいわけじゃなく診察中ですよ。
魔眼を発動する。
ジェシカ 陸人族・女・十一歳 レベル1
スキル なし
前に見えた「状態:肺病(余命一年)」が消えている。
魔法をかけて失敗することは無いのだろうか。
それとも光魔法使いはみんな鑑定を持っていて確認しているのだろうか。
「成功です。治りましたよ。」
「「本当か」」
「大丈夫です」
「ならそろそろ手を離してもいいんじゃないか?」
「いいじゃない。減るもんじゃ無し、減るくらい無いし。ねぇ。」
奥さん、何をそそのかしてんすか。
つか何気に失礼なこと言ってないか。
ジェドさんは落ち着こうね。剣は鞘から出しちゃいけませんよ。
「ありがとう。おにいちゃん。」
ジェシカちゃんが起き上がり抱きついてくる。
苦しさがなくなったのは、本人が一番わかるのだろう。
手を引き抜く前に正面から抱きつかれたので、横になっているときには平野であった手触りが、かろうじて丘になった。
異世界にも重力があることが確認された。
偉人伝ではカットだな、このシーン。
「おい」
うん。
抜き身の剣は置こうよ。
自宅で剣を振りかぶらないって学校で習ったでしょ。
振り下ろしたら娘も三枚になるよ。
「あらジェシカちゃん。娘と妹が同い年は問題があるわよ。」
ん?
奥さん。
ジェシカちゃんとあなたが一緒に生むってことですか。
あぁ二人目うんぬんのお話しですね。
そもそも奥さんそんなキャラでしたっけ?
うれしくて舞い上がっちゃってんだよね。
ていうかジェシカちゃんまだ子供ですよ。
右手は娘の胸に押され、左手は父親の振りおろそうとする剣を押さえ、母親の下ネタにやっつけられる。
どんな状況やねん。
ジェシカちゃんようやく気づいたのか、真っ赤な顔をさらに赤くして奥の部屋に逃げていきました。
これでようやく両手で剣を押さえられる。
って、もう止めていただいてよろしいでしょうか。
一応命の恩人なんですが。
剣が青銅のなまくらでよかった。
日本刀や魔法剣だったらとっくに三枚になっているとこだった。
「じゃぁ完治祝いになんか買ってきますね。」
いち早くこの修羅場から逃げ出さねば。
回避スキルを駆使してジェド家を後にする。
完治祝いか。
この世界にもケーキとかあるのかな。
ジェドさん貧乏だから肉とか栄養のあるものの方がいいかな。
栄養のあるものか。
卵とか肉とかか?
滋養強壮には肉汁ってどっかの漫画で見た記憶があるな。
牛乳は止めておくか。
奥さんがまた変なこと口走りそうだ。
ふらふらとお祝いの品を捜し歩いていたが、これといった物がない。
町が小さいのか、常設の店は非常にすくない。
大体十日に一回、市が立つらしい。
イメージではフリーマーケットみたいな、路上販売の露天商が集まるらしい。
今日はその日では無いらしく、数少ない常設の店舗で、何か無いかと探す。
卵となにかのミルクを見つけた。
持ってきた砂糖とあわせればプリンができるか。
カラメルや、香り付けはどうする?