第11話
「では、オーガーは肌の色で種族が分かって、赤・青・緑・黒、がそれぞれ火・水・風・土の属性を持っていて、逆の属性が弱点だということでよろしいですね。」
オーガーはこちらの世界では身長四メートル位のいわゆる食人鬼で、ゴブリン等の魔物も餌にする。
力は異常に強いが、知能はあまり良くなく、普通は単体。
まれに番や家族で行動する。
回復能力が異常に優れ、切り傷程度であれば数分でふさがる。
さすがにトカゲのように欠損までは治らないらしい。
弱点は逆属性の魔法と、人型であるため頭部、首部とのことだが、身長四メートルが災いして普通の武器では届かない。
という厄介な魔物らしい。
「では、十三歳のF級になりたてのガキの提案として聞いていただけますか。」
「偵察は別として、討伐時に土魔法で[柔化][固化][アースホール][土壁]を使える魔法使いは数人準備できますか。」
討伐作戦は簡単だ。
迎撃地点に深さ一メートル、直径五十センチ程の穴を多数掘る。
囮が対象をそこまで誘導する。
落とし穴地帯を走り抜ける。(はまるなよ)
対象が落とし穴地帯に入る直前で低い土壁を発生させる。(落とし穴の目隠しにもなる)
対象はジャンプして避けることが推測される。
着地地点は落とし穴だらけ。足をとられて骨折か最悪でも填まるか転ぶ。
填まってるだけなら固化の土魔法で動けなくする。
骨折や転倒なら倒れているはずなので弱点には手が届く位置にいる。
みんなでボコる(できれば長柄の武器で瞬殺がベスト)
冒険者の戦術ってよりかは、狩人の罠って感じの作戦だ。
これなら討伐隊は囮役が数人、攻撃特化の数人、土魔法使いが数人いれば大丈夫だろう。
レベルの低い冒険者で数をそろえてこの作戦か、強い魔法使いを雇って一撃か。
できるほうでやればいいんじゃない?
落とし穴のサイズは、人とオーガーの対比で足のサイズや、深さが膝下位になるような寸法だ。
囮役がミスらなければ、知能の低いオーガーの個体位なら簡単にはまるだろう。
偵察で弱点を調べておくのは、別種同士のツガイだったときのための保険だ。
できなければ仕方ない。
最悪四大元素魔法の使い手がそろえられるなら偵察隊はいらない。
「敵を知り己を知れば百戦するも危うからず。ですよ。」
「小僧を敵にはしたくないものだな。」(凶悪ヅラ)
「まったくです。」(無言エルフ)
あれ?
なんで俺が責められる系の結果に落ち着いてるんですか?
「固化は分からんが、柔化やアースホール、土壁なら使えるのが何人かギルド職員にいる。
ギルド職員なら報酬も給料に含めて節約できる。」
「騙して低価でやらせようってんなら、バラシマスヨ。
命の引き換えにふさわしい対価を提示するべきです。」
「わかった。偵察隊には三倍の報酬設定と、情報提供。成功報酬。
それでも受けるかの再確認を約束しよう。
ギルドの土魔法使いは今から討伐隊に組み込むように調整。
それ以外にも公募。討伐隊の報酬の設定も偵察結果によって見直し。
討伐隊の指揮者は小僧にやらせて、補助者にこのシタニアス殿をつける。」
凶悪ヅラは、ニヤリと笑って続ける。
「ここまでいったら、偵察隊を受けないなんて言わんよなぁ。」
あれ。どっかでミスった。
ぜひ言いたい。
「いやだ。お前が行け。」
いつの間にかレイラ嬢の顔色の悪さは解消していた。
翌朝、俺はこの世の不条理をなめていたことを痛感させられた。
再確認は前日にしておいて、偵察隊の人数は確保すると思っていたのだが、集合した後に現状を説明したところ、ジェドさんを除いて全員が違約金を払ってでも解約したいと言い出したのだ。
おいこら、こうなることは薄々分かってただろ。
俺もやめてやろうか。
引き止めるための凶悪ヅラの台詞はこうだった。
「五人分の仕事を二人ですれば、収入は二倍半。」
金欠のジェドさんが諦めるわけはなかった。
「ジェドさん。いいですね。娘さんのためにも無茶はできませんよ。」
オーガーがいるのを確認するだけなら俺の気配察知でできるだろう。
何匹いるかも気づかれずに調べられるかもしれない。
でも目視で色まで確認するためには、どの位まで近寄る必要があるだろう。
四メートルの巨体とはいえ、百か二百メートルまで近づく必要があるだろう。
そこで気づかれたら。
身長が二倍強ってことは、足の長さも二倍強。
体力は圧倒的に向こうが上。
全力で走っても町まで逃げ切るのは難しいだろう。
ということは逃げ切れるだけの距離から確認するしかない。
どうにか遠くを見る方法はないだろうか。
スキルの遠視取っておけばよかった。
と考えたところで、簡単に問題が解決できることを思いついた。
「俺、日本から双眼鏡いくつか持ってきてんじゃん。」
視界の利くところにゴブリンとかの死体を餌として置いて、気配察知でオーガーを確認したら双眼鏡で見る。
俺とジェドさんで見れば大丈夫だろう。
自分らの四方に餌を仕掛けても、二人いれば見落としはないだろう。
問題は双眼鏡の存在をジェドさんに知られることくらいか。
最悪娘さんの治療を条件に黙ってた貰うしかないか。
人助けにはなるし、ジェドさんの義理堅さからしても問題は無さそうに思える。
高収入にもなるし、ジェドさんに不利益がないことを踏まえれば、問題は無い。
もしくは少ないと言えるだろう。
気配察知に注意を払いながら二人で森へと入っていく。
町を出る前にジェドさんにはある程度の作戦を伝え、全面的な賛成も貰っている。
ことここにいたっては運命共同体だ。
双眼鏡については、家伝の遠視の秘道具ってことでごまかした。
あとは視界がきく場所を見つけて餌になるゴブリンを狩って、と考えていたら、俺の気配察知に強い反応がある。
右前方五百メートルにオーガーらしき魔物の反応だ。
「ジェドさん。あっちにいますよ。」
注意を促すと、双眼鏡を一つ渡し、使い方を教える。
「こりゃ便利だな。俺も欲しいが高いんだろうなぁ。」
そりゃそうだ。
異世界では多分作ることのできない道具だ。
といっても遠視スキルがあるので、高価になるかどうかは分からない。
「さすがにもう少し近づかないと見えてこないでしょうけどね。」
五百メートル先にどの位の音が聞こえるのか、においは届くのか疑問だが、思わず風向きを気にしてしまう。
枯れ枝を踏んだりして音がしないか、気配察知に異常はないか、風向きはどうか。
注意することはたくさんある。
それでも順調にオーガーらしき気配に近づいていく。
ときおり双眼鏡で前方を見渡す。
何度目かに薄っすら人影らしきものが見えた。
距離はおよそ三百メートル。
この距離で見えるってことはかなり大きい。
問題は森が深くなっていて暗いため色が分からない。
影なのか、黒い個体なのかの判断がつかないのだ。
「少し尾行して色を確認しないとだめか。」
ジェドさんが緊張をにじませた声でつぶやく。
それはそのとおりだろうが、あまり近くをうろつきたくない。
双眼鏡のようになにか忘れている良い手がないだろうか。
そうだ。双眼鏡で見て[魔眼]発動できないだろうか。
できました。
オーガー(ファイヤーオーガー)・♂・30歳
スキル 鎚3、身体能力強化3、回復促進(LP1)
装備 棍棒
これだけ分かれば後は大丈夫、逃げの一手だ。
「ジェドさん。赤い。ファイヤーオーガーだ。逃げよう。」
チャリンチャリン。報酬ゲットだ。
とりあえず偵察は終了でいいだろう。
気配察知にはコイツ一匹だけだし。
アロンの町まで無事に戻り、報酬を貰う。
「F級千ゴル、E級は千五百ゴル、D級は二千ゴル、俺は二千五百ゴル」と言っていた。
それを三倍にするって言ってたからE級のジェドさんは四千五百、俺は七千五百だ
それとは別に辞退した三人はE級だから、ジェドさんと同じ四千五百。三人で一万三千五百ゴル。
ジェドさんは、「俺はほとんど役に立ってない」といって遠慮したため、俺が一万ゴル、ジェドさんが三千五百ゴルの報酬を貰った。
あとは、本戦がうまくいくかどうかだ。
本戦は明後日の朝にギルドを出発するらしい。
今、別の仕事で町を出ているD級が明日帰ってくる予定らしく、今のところ俺達の偵察結果を踏まえ、ギルドの土魔法使い三人、D級冒険者三人、E級冒険者四人(ジェドさん含む)と俺、あのエルフの合計12人が戦力らしい。
当日は、馬車を仕立てて、森の近くまで行き、馬車は撤退用に待機。
12人でオーガーを倒すか、最悪撤退でも逃げ切れる体制で望むということだ。
囮はE級、とどめはD級、罠はギルドの魔法使いってことに落ち着いたらしい。
E級とD級にはそれぞれ、ギルドにある装備品を貸付けることになったらしい。
討伐が成功したら、報酬として、その装備はもらえるらしい。
俺にも選べとのお達しがあった。
成功報酬を上乗せするよりは、原価のみの装備品を渡したほうがギルドにとってお得なのであろう。
いろいろもめた末、貸し出した装備とは別に、級と関係なく一人五千ゴルが報酬ということになったらしい。
死んだ人の分は残った人で山分けらしいが、ギルド職員は除かれるらしい。
ブラックすぎるぞ冒険者ギルド。
俺は長弓を選んだ。
短弓と矢で貰うことも考えたが、矢を自費で出すことになっても、高品質な射程の長い弓が欲しかったからだ。
回復役の俺が、皆と同じ至近距離で戦うって、ありえないだろう。
俺が真っ先にやられたら、皆が回復無しで戦うことになる。
俺は攻撃を受けないところから、回復と遠距離攻撃をするのがベストだろう。
事情を説明したら矢二十本と矢筒も無料で貰えた。
ラッキー。
リーダーは辞退した。
十三歳のF級の指示にD級がすなおに従うとは思えなかったからだ。
ギルド職員かエルフにしておけば、いらぬ摩擦はおきないだろう。
出発まで弓の特訓をして過ごしてたら、なんと弓のレベルが一つ上がってレベル2になった。
必要に迫られると人って思わぬ力を発揮するもんだ。