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第10話

昼飯や買い物で充分時間も経ったし、イライラも治まった。


冒険者ギルドにいってさっさと昇級してしまおう。


「おめえ、光魔法使えるらしいな。」


凶悪ヅラの第一声である。


どこから情報が漏れたのやら。


まあ、隊商かジェドかどっちかだろうけど。


「はぁ。まぁ使えますけど。」


「そんならおめえも明日、東の森の偵察隊に入れ。

 報酬は日給で二千五百。拘束期間は三日間。

 討伐報酬や素材代は別途支給する。

 亜空倉庫での運搬報酬はメンバーと相談しろ。

 日の出と同時にギルド前を出発だ。

 自分が言ったことの責任取りやがれ。」


勝手に人の仕事を決めないで欲しい。


まぁ今回はどうせジェドのために、勝手についていくつもりではあったのだが、勝手に決められるとむかつくものだ。


「戦闘職は一日F級千ゴル、E級は千五百ゴル、D級は二千ゴルで依頼をかけていたんですよ。

 回復職は希少ですし多少報酬を多めにしています。

 まあ治療院の光魔法使いに依頼する時に比べたら半額くらいですけど。」


レイラ嬢が新しくF級に訂正されたギルド証を俺に手渡しながらフォローを入れてくる。


しかし治療院ぼったくり過ぎじゃね?


まあ冒険者でもないのに、命の危険のある場所に連れて行かれるんだから、仕方ないといえば仕方ないんだろうけど。


「実力的にも大丈夫だと今日分かりましたし、いかがでしょう。

 受けていただけませんか。」


レイラ嬢。なんか笑顔が引きつってる気がするのは気のせいか?


思わずマジマジと顔を見つめてしまう。


顔が赤くなったのは演技か本気かはよくわからん。


「討伐隊にも参加いただいて、情報の真偽の確認もあわせて、全てクリアーならE級への昇級もお約束いたします。」


どうしても参加させたいらしい。


なんか裏がありそうな気がする。条件も良すぎる。


絶対に裏があるなコレ。


「いや、止めておきます。」


「えっ?」


レイラ嬢の引きつった顔ったら無い。


「成功させたいならば、手持ちの情報は全て開示すべきですよ。

 後方支援が信用できないのに、実行部隊なんて怖くてできませんよ。

 臆病と言われてもこの場合は褒め言葉と同義でしょう。」


光魔法使いとはいえ、F級に上がりたてのガキに、2ランク上のD級冒険者を超える報酬を提示するなんて、払う気がないか、危険極まりない仕事か、それじゃなくても何か問題のある仕事だろう。


「てめえ、ギルドに盾突く気か?」


「レイピア装備の人間がスケルトンと戦いたいとでも?

 短剣装備で巨人退治をしろと?

 弓も無くグリフォンを捕獲しろと?

 兵糧も塀もない城で籠城戦をしろと?」


他に冒険者が一人もいない時間帯で良かった。


まさか一度依頼を終了しただけのペーペーの冒険者がギルド批判だ。


他の冒険者から見ればクソ生意気なガキ(十三歳)だろうし、ギルド側から見れば面子は丸つぶれだ。


もっとも、他に誰か冒険者がいればここまでは言わなかったけどな。


レイラ嬢の顔は白を通り越して青くなっている。


他のギルド職員も皆こっちを見ているが、言葉は出てこないようだった。


「言いたいことが分からないようなら、こんなギルドに用はありません。

 言えないようなギルドなら信用できません。

 今すぐ引退して治療院への就職希望を出しにいきますよ。」


受け取ったギルド証をカウンターの上に置く。


ちょっと言い過ぎたかなと思わないでもないけど、自殺願望者でもなければギルドに義理があるわけでもない。


「フェアなビジネスをしようぜ」ってことをちょっとキツ目に言っただけだ。


俺は悪くない。


うん。


極限まで張り詰めた空気を壊せるようなチャレンジャー職員はいないらしく、状況に変化をもたらしたのは、何も知らずギルドに入ってきた冒険者志望の少年だった。


「あのお、冒険者になりたいんですけど」


少年では空気を読む、とかはまだ難しかったのだろうけれど、それで大勢の人間(ギルド職員)が救われたのは事実だ。


少し血色の戻った顔でレイラ嬢が言った。


「アロンの冒険者ギルドへようこそ」


どうやら、少年の冒険者登録の事務をすることで、この問題から一抜けたと無関係を装いたいらしい。


「受付はアリーに任せてレイラは会議室に来い。小僧もだ。」


凶悪ヅラの一言でレイラ嬢の顔色はまた元通り青くなった。




会議室に俺とレイラ嬢を詰め込むと凶悪ヅラは部屋を出て行った。


別にレイラ嬢と二人きりにさせて、いけないアレやコレをさせるつもりは無いんだろうが(俺も無い)、時間は無い。


多分凶悪ヅラは上司に今のカウンターでの話しをして指示を仰ぐか、直接上司に登場願うかして状況を打開しようとするはずだ。


別にギルド資格停止でもいいんだけど、それなら別に別室に連れてくる必要はない。


次に凶悪ヅラがくるまでに情報収集だ。


己を知り敵を知れば百戦するも危うからず。


情報こそが勝負を決める切り札なのだ。


それを知らない奴らは、いずれ消えてゆく。


「レイラさんは何か事情をご存知ですよね?」


あえて丁寧にレイラ嬢を問い詰める。


あの顔色の変化で何も知らないは通用しない。


「あやうく殺されかけたと思ってますんで、だんまりは通じませんよ?」


笑顔で脅しをかけておく。


「えっと、ギルド職員には守秘義務がありまして。言えないこ「だから?」とも・・・」


かぶせ気味に追い討ちをかける。


異世界の日本ではプレッシャーをかけるのに有効なやり方なはずだが、こちらでの効果はどんなもんだろう。


「あの、多分これからギルドのアロン支部長から説明があると思いますので。

 それじゃ駄目でしょうか?」


「駄目ですね。」


冷たいようだが、俺にも考える時間は必要だ。


少しでも情報を仕入れて、対策を練っておかなければ。


行き当たりばったりは何度も通用しないのだ。


「でも、ここでお話している最中に支部長が来たら私・・・」


そりゃそうだ。この世界の雇用契約がどうなっているかしらんけど、社内の秘密情報をペラペラ漏らすような社員はクビにしたいだろう。


「じゃあ、勝手に俺が質問するんで、イエスかノーかだけを頷いたり、首を振って合図するってのはどうです?

 これも駄目なら今すぐ帰りますよ。

 逃がした言い訳考えてくださいね。」


飴と鞭だ。


そして、最初に絶対無理な要求をしておいて、次に妥協策として高難度の要求をすれば、条件が良くなったと勘違いして受けてしまう。


という異世界日本の手練手管。


この世界にあるかな?


「この依頼には、俺に話していない裏の事情がある?」


コクコク。


レイラ嬢が頷く。


「レイラさんは事情をある程度知っている?」


コクコク。


「俺の命にかかわるような事情?」


コクコク。


「俺が邪魔で亡き者にしようとしている?」


フルフル。


首を横に振る。


違うらしい。


「俺のこと好き?」


コクコク。


えっマジで?


軽い冗談を挟んだだけだったのに衝撃の展開。


レイラ嬢は誘導尋問されたことに気付き、真っ赤な顔を左右に振りながら手もぶんぶん振り、否定の意思表示をしようとしているが、真っ赤な顔はごまかせない。


一度パニックになってしまうとなかなか普通には戻れないものだ。


これで突っ込んだ質問にも回答してくれるだろう。


「ギルドや町の危機?」


コクコク。


「手に負えなくなってる?」


フルフル。


「なりつつある?」


コクコク。


「相手はわかっている?」


コクコクでもフルフルでもなく首をかしげる。


どちらでもないってことか。


次の質問を口にしようとしたときに部屋のドアが開いて、凶悪ヅラと緑灰色のローブを着た若いエルフの男が部屋に入ってきた。


お遊び、もとい、情報収集の時間は終わったようだ。




そういえば凶悪ヅラも魔眼で確認したことは無かったな。


新しい人物が登場したことで、有利に話を進めるためには、どんなヤツか確かめなきゃと考えていると、凶悪ヅラのこともろくに知らないことに気がつき、魔眼を発動させる。


凶悪ヅラは


  コワガン 陸人族・男・42歳 レベル13

  スキル 剣2、格闘2、斧2、盾2、回避2、気配察知1、野営

  装備  布の服、革の胸当て

  冒険者(元)C級


エルフは


  エリオット・シタニアス 森人族・男・50歳 レベル12

  スキル 短剣1、弓2、水魔法2、風魔法2、補助魔法リフレッシュ、夜目、狩人2

  装備  アックア布のローブ(耐火)、ワンド 

 

すげぇ。今まで見た中では二人ともダントツで強い。


そしてエルフってやっぱり美形で若く見える。




エルフの方は口を開く気が無いらしく、かといって凶悪ヅラも口数が多いほうじゃない。


口もうまくない。つうか普通に失礼なヤツだ。


小一時間かけた忍耐強い会談の結果ようやく


  アロンの町は今、冒険者が手薄で、最上級でD級が数人しかおらず、しかも二日後まで留守だ。


  先日町に来た隊商からゴブリンの食い荒らされた死体を見たとの情報があった。


  昨日C級とD級の4人組パーティが全滅した。


  唯一町までたどり着いた魔法使い(その後死亡)の証言からおそらくオーガーと推定される。


  ある程度相手の確認をして生きて帰ってこれたのは、死んだ魔法使いとお前だけだ。


  オーガーには複数の種族がおり、それぞれ弱点が違う。


  通常はC級以上の複数パーティ指定討伐対象になる。


  全部話すと討伐どころか偵察すら引き受け手がいなくなるため、内容を秘して依頼をだした。


  しかし集まったのはE級が4人で魔法使いはいない。明らかに実力不足。


  このままでは、情報も得られず、結果討伐隊も失敗の可能性が高い。


  誰か一人は生きて帰ってきてもらうために回復役が必要だった。


という情報を聞き出した。


八割方レイラ嬢を脅したりすかしたりして仕入れた情報だ。


エルフは一言も話さなかった。


何のために来たんだか。


「ほぼ死ぬことが前提で、あの報酬は無いでしょう。

 俺は絶対嫌だし、応募者にも辞退を勧めますね。」


当然だ。


C級パーティが複数必要な相手に、E級パーティが1パーティで、確認だけで良いとはいっても目視確認後に撤退とかって、どんな無理ゲーだよ。


「ではどうしろと?」


初めてエルフが口を出す。


「一、上位冒険者に依頼を出す。

 二、情報を公開する。

 三、人数を増やす。

 四、報酬を大幅に増やし、しかも前払い。

 五、いっそ森ごと焼き払う。

 六、やるなら良質の装備品を事前に支給する。

 この中から少なくとも二つ三つはやらないと無理では?

 俺ならそれでもやりたくはないですけど。」


俺の常識では、無理だ。


中ボスに始めの町辺りの冒険者が挑む。


と言ったらゲーマーには分かるだろう。


そんな上の魔物を相手しても、こっちの攻撃は当たらない。


当たってもダメージは通らない。


向こうの攻撃は強力で、下手したら一撃で死亡。


誰がやるものか。


「お前は本当に十三歳のF級か?」


凶悪ヅラが溜め息とともに、搾り出すようにしゃべる。


「彼我の戦力分析なんざ、王都の軍師も一目置くぞ。」


現代日本の情報過多世界に生きていた半オタクをなめるな。


本物のオタクに比べたら広くて浅い知識しかないが、この世界では広くそこそこ深いと思われるとこまではいってるぞ。


しかも、俺は両方を知っているが、こっちの世界の連中は日本のことは知りようが無いのだ。


ほぼ倍の知識を持っているといっても過言ではないだろう。


「森を焼き払うのは論外だ。」


エルフが言う。


まあエルフの立場ならそう言うだろう。


もしかしたらこのエルフの集落もあの森の中にあるのかもしれない。


「オーガーについて、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか。」


当然だ。


異世界出身ということは置いておいても、C級対象の魔物のことをF級になりたてが知っているはずは無い。


現代日本の偏ったオタク文化が無ければ。






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