D-combat!
『さァ始まってまいりました本日のD-combatのお時間です! 実況はいつも通り私Mr.Xが担当させていただきます!』
閑散とした街にテンション高めの声が響いた、街のあちこちに設置されたスピーカーは客席の熱狂を伝え、空に投影されたスクリーンには客席に座った連中の姿が映ってる。
呑気な連中め、俺は心の中で舌打ちをして街を歩き出した、エリアは一辺数キロの正方形、上空5,000キロメートルまでフィールドとして使用できる、そこを脱すると区域外脱出、その試合では脱落扱いとなり賞金はパーとなる。
俺はこの街で戦闘を繰り返しスクリーンの向こうでギャーギャー騒いでる連中を資金源とした賞金をいただいて暮らしている。
いや、暮らしているのはこの街ではなかったな、なにせこの街は人が暮らすにはちょっとした問題があるからだ。
一つはこの街では常に戦闘が繰り広げられていて、どこもかしこもすぐにボロボロになることだ、たまに街のあちこちが更地になることだってあるぐらいだ。
もう一つ理由がある、それはこの世界がここにいる全員が見ている夢の中だということだ。
とある会社が開発したまさに夢の機械「パブリック・ドリーミング・マシン」という機械の登場により人間は「複数の他人と睡眠中の夢を共有する」という事が可能になった、これが世間で流行りだすと同時にこの会社が始めたサービスがこの「D-combat」だった。
「兄ちゃん、ちょいと吹き飛んでもらうぜ」
目の前にいかついハゲの大男が立ちふさがる、男はポケットに手を突っ込むとそこから手榴弾を取り出した。
ピンが抜ける軽い音がし、手榴弾がこちらへと放物線を描いて飛んでくる、おそらく拾い物のアイテムだろう、こんなものが町中にゴロゴロ落ちているから面倒だ。
しかし、所詮は人が素の力で投げるものだ、俺はそれを空中でキャッチし、男の後ろに見えていた巨大なビルへと勢い良く投げ返した、およそ手榴弾とは思えない威力でそれは爆発し、男の背後で瓦礫を撒き散らした。
「おいおい、ケンカ売っといて能力使わないのかよ」
男を挑発する、そう、俺が能力と呼んだそれこそがこの「D-combat」の真髄なのだ。
この「D-combat」に参加するには「P・D・S @fighters server」への登録をする、すると、ユーザー情報の作成と共にそれぞれに一つだけ特殊な能力が割り振られる、その能力を使って戦うのがこのサーバーのルールだ。
「もう使ってるさ」
男はそう言うとロケットランチャーを構えた、そんなものを隠し持つような場所は無いはず、だとすると……
「俺の能力はウェポン・メイカー、どんな武器でも一瞬で生成して取り出すことのできる能力だ」
そう言って男はロケットランチャーをぶっ放す、辺りはたちまち爆風とその煙と轟音に包まれてしまった。
「まぁお前に2度と会う事は無いだろうし関係ないよな」
男はそう言ってロケットランチャーを捨てて次の獲物を探すべく回れ右をした。
「残念だったな」
回れ右をした男は目の前にいた俺を見て目を丸くした。
「瞬間移動が能力か? それともさっきの超反応からして身体強化系の能力か……」
「ゴチャゴチャ考えてる暇あんのかよ武器ゴリラ」
俺の挑発を受けて男がこちらに飛びかかる、今度は手に西洋剣を持っていた。
「接近戦もいけるのか、けど遅いな」
男の剣撃をヒラリヒラリとかわしながら挑発を続ける、こんなの俺の能力を以ってすれば止まって見える。
さて、そろそろ反撃の一つや二つでもやってやろうか。
俺は男の腹目掛けて拳を繰り出す、しかし男はそれを察したのか拳を受ける前に勢い良く飛び退いた。
「トロいけど避けるのは上手いんだな」
「フン、いくら身体強化が入ってるからといって銃弾の速度を見切れるほどではないだろ」
男が散弾銃を取り出す、もはや見切る云々以前の問題だ、これだと見切れたとしても避けきれないだろう。
* * * * *
『おォーっと! ウェポン・メーカーことスミスさん脱落だ! 一体何が起こったのか!?』
実況の興奮気味の声が響く中、目の前で男がログアウトサインを残して消えた。
「横取りとは感心しないなぁ」
周囲に水の塊を浮かばせた制服姿の女子高生に言葉を投げかける、彼女の方から飛んできた何かによって目の前の男はログアウトに追い込まれたのだ。
「ごめんね、でもあなたも結局私に負けるから関係無いわよ」
彼女はこちらを指差して言う。
「横から見てたけど、あなた能力ってただの身体強化よね? 私の敵じゃないわ」
どうやらコイツも勘違いしているようだ。
「人間の身体を動かす筋肉ってどうやって動いてると思う? 相手の攻撃に反応する信号を伝達するものはなんだと思う?」
俺は臨戦態勢に入る、拳を構え、手のひらを相手に向けた。
「人の身体ってのはな、細かい電気の流れで動いてんのさ」
ニヤリと笑い、手のひらに意識を集中する、パチパチと音を立てて俺の周囲に閃光が走った。
「お前にとって俺は相性最悪の敵だけど、まぁ仕方ないよな?」
『おーっと! オフィスビルエリアにて新たに対峙した2名、注目のルーキー「アクアガール」のユリカとトップランカーを次々葬る謎のユーザー「スパーキー」のunknownが戦闘を始めたようだァ!!!』
実況の声と観客サーバーの連中の歓声が俺の正体をバラす、バレちゃ仕方ない、電気を纏った腕を構え、相手へと突撃する。
やってやるさ、俺は賞金稼ぎだからな。