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お風呂で思いついたやつ

作者: 右京

目が覚めた。最近は夢見が良い。

昨夜は、異世界冒険ものだった。

パーティーは勇者の俺と僧侶、魔法使い、戦士で構成されたテンプレで、後一歩のところで魔王を倒せたと思ったのだが、朝のアラームがそれを阻んだ。

それにしても最近は眠るのが楽しみになってきている。

昔はこんなに面白い夢は見なかったのに。

高校に入ってからか、中学まではそこそこ充実してたからな…。


枕元の眼鏡を取ってかけると、自分がまだ異世界にいるような錯覚を覚える光景が目の前にはあった。


裸の男だった。裸の男が俺の横で寝ていた。

「えぇっ!?は?なにこれ!?」

体格、年齢は俺と同じぐらいの男が裸で俺に添い寝していた。俺はあまりの驚きから一瞬気を失いそうになったが、こういう時こそ平常心が必要だ、と自分に言い聞かせる。

(落ち着け…思い出せ、昨日の夜は俺は何をした…)

記憶を辿ってはみるが、当然この男はどこにもいない。

恐怖心を感じた俺は直ぐさま携帯を手に取り、電話画面を開く。110番に繋ごうと思いつつ、ふと男を見ると、


(右足が動いてる!)

男の右足が伸びきった状態で上に上がってきている。俺は携帯を手放し、夢中でそれを押さえつける。

渾身の力で押さえ込んだたからか、直ぐに足は動かなくなった。

俺が脂汗を掻きながら押さえつけている腕を離そうとすると、今度は男の上体が持ち上がろうとしていた。

(何やねんこれ!どーすればいいねん!こんなん!)

俺は右腕で男の両足を抑えつつ、左腕と自分の上半身を使って起き上がってくる上体をベッドに抑え込んだ。

「え?!」

男の起き上がろうとする力は尋常ではない。柔道で習った横四方固めに近い体勢で動きを抑えようと試みるが、それでも男の圧倒的な力は俺を跳ね飛ばす勢いだった。これ以上は抑えきれない。


恐ろしくなった俺は男の腹を本気で殴った。そして全身を、何発も。 

すると男の体から力が抜け、疲れ果てたようにもとの体勢に戻った。顔を見る分には依然眠ったままのようだ。

「顔?」

よくよく見てみると、この男はスキンヘッドだった。

それどころか全身に一本の毛も生えていない。

しかし黒子はあった。毛が生えていないと実に目立つ。

(でもこの黒子は…)

男の全身にある黒子は俺の黒子の位置にそっくりだった。というか、全く同じ位置にある。全部。寸分違わず。


俺は数分間、男を観察しながら思考を巡らせ、結論に至った。

目の前で眠っているこの男は間違いなく自分と同一人物だと。

(でもこいつが未来から来た俺だったとしたら有り得るか…?タイムスリップに失敗した未来の俺は、毛と服を失った状態でここにたどり着き、そのショックで意識を失った………いや、ありえへんな。もし突然現れたとしても目が覚めるやろうしな…)

もう一度男を観察する。

(そもそもなぜこいつは毛が生えて無いんやろ?生まれたての赤ちゃんみたいやな…ん?生まれたて?赤ちゃん?)

またこの男についての突拍子も無い考察が浮かんだ。

(こいつが俺が寝ている間に脱皮したその後の抜け殻やったとしたらどうやろ…あれ?どっちかって言うと俺のほうが抜け殻か?こいつの方が新鮮に見えるし…)

焦った俺はTシャツを脱いで自分の体を確認しようとした。自分が抜け殻だとしたら、どこかに裂け目があるはずだろうと思ったからだ。


Tシャツを脱ぎ見たところ異常が無いことを確認した瞬間、自分の足に全く力が入らなくなり、俺はフローリングに腰を打ち付けた。同時に男の両足は枷から解放された様に力が漲って行くようで、今にもベッドの上で立ち上がろうとしている。


偶然、全身鏡に写る自分の姿が目に入る。その背中には縦にパックリと割れた裂け目があった。やはり抜け殻は俺の方だったようだ。


男はベッドから降り立ちながら俺を見下ろす。男の体に力が宿るのと反比例して、俺の体からは益々力が抜けていった。

遂に視界が薄れてきた。

失われつつある俺の目が最期に見たものは、真顔の自分自身だった。




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