第3話「シャウトシステム」part-C
「……なんだ、これ?」
シオンは目の前に広がる光景に、首を傾げるほか無かった。
ただでさえ広い2階建ての食堂の中を多くのプレイス隊員たちが埋め尽くし、その視線が彼に集中していたのだから。
「………」
ふと視線を上に向けると、『シオン・スレイド歓迎会』とポップな字体で書かれた巨大なプレート。
彼は戦闘後アーキスタに何か言われるわけでもなく、満面の笑みの隊員達にここに強制連行されたのだ。
全く状況が呑み込めていない彼の傍に、レイアが寄る。
「見て分からんか、お前の歓迎会だ」
「……なんで?」
「簡単に言えばガス抜きだ。元は市民だった奴が大多数を占めるからな。その上ここの連中は遊び好きでな」
(ああ、お前みたいな……)
その象徴が目の前にいるせいか、シオンは何も疑問に思うことなく納得した。
「それに……お前は私とアヴィナ、ひいてはここにいる者達を助けてくれたからな。派手に出迎えてやらねば、罰が当たる」
「そんな、俺は大したことは」
「そこで謙遜されてしまってはこちらの立場が無いだろう? お前は立派な事をやり遂げたんだ」
囁くように言い、レイアは隊員達の方に、シオンの視線を誘導するように手を向けた。
シオンはその通りに目を動かすと、それぞれ外見は違えど皆笑みを浮かべていた。
その光景に、シオンの中で消えた記憶が蘇る。
自分の誕生日を祝う、母と妹の笑顔が――。
「……レイア」
「なんだ?」
シオンは俯き、息を震わせて頬に涙を伝わせた。それを見た隊員達はざわつき、彼の近くにいる者は彼の顔を覗き込んだりもしていた。
「……俺は、ここにいて、いいのか……?」
それは、心の底から出た言葉だった。
今まで家族以外の人間に受け入れられることなく、外国人なのに日本人のような容姿を持つ、たったそれだけの理由で理不尽な差別を受けてきたのだ。
だからそんな言葉が出るのは、仕方のない事だった。
レイアは目を丸くした後、噴出してシオンの肩を叩いた。
「ふ……くく。でもなければ、こんな事はせんよ。お前は可愛い奴だな」
「なっ! 俺は真面目に――」
「ああ、こちらも真面目だとも。ほら、野郎共! 宴を始めるぞ!」
「「オォォーーーッ!!!」」
歓声じみた叫びがシオンの心を昂ぶらせ、自然と笑みを浮かばせた。
それを見たレイアも、安堵したように息を吐く。
その食堂の2階の端で、アーキスタとミュウが向かい合って席に座り、サンドイッチを齧りながらその様子を見ていた。
ミュウはにやつきながら、従兄――アーキスタの顔を覗き込んだ。
「すっかり悪者ね?」
「謝罪をする気はない。それにあいつは命令違反だ」
「大人げないわね。素直に二人を助けれくれて嬉しいって言えばいいのに」
「結果的には、な。だが今回の件に関しては不確定要素が多過ぎた。痛み分けでいいだろう」
「でも命令違反に変わりはない、罰を与える――大変ね? 位のお高い司令官様は」
皮肉っぽい口調で言われるも、アーキスタは特に表情を変えない。
「お前も一緒に罰を受けるか? 勝手に天井を開放しシオンの出撃を許したんだろう」
「あら、何のことやら。結果的に誰もいなくならなくて、その上ブリュードまで退けてくれたんだからこれほど嬉しいことはないわよ?」
「白々しい……」
「……ま、罰があるなら受けるわよ。私としてはそれ以上に望ましい結果が出たんだから」
ミュウは最後のサンドイッチに手を伸ばし、その角を齧る。
「結果?」
「兄貴も見たでしょ、シオンの瞬間移動。あいつは私と会った時にそんなことは言わなかった。むしろ何も知らないって感じだったわ」
「……エイグ同様、出自不明で性能の全貌すら不明な機体か。とんでもないモノを手に入れてしまったようだ」
「吉と出るか凶と出るかはあいつ次第。ひとまず私はアレの研究に集中するから、邪魔しないでね」
「勝手にしろ」
従兄に冷たく言われるも、ミュウは慣れた様子で「ああ怖い」とわざとらしく言い、喧騒に包まれた隊員たちの波の中に消えるのだった。




