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第22話「その為に」part-B(終)

 iaという未知の存在による一連の有事事態の収束より、12年が経過した。

 二度にわたるドロップ・スターズの被害の復興はほぼ終了、ファイドの私兵による破壊活動はプレイスの迅速な行動によって拘束を完了――残るは世界中に存在する貧困を取り除くだけとなった。

 その為には、ヒュレプレイヤーの不当な扱いを改善し保護を行い、世界中で働けるようにする仕組みを作る必要があった。

 しかし中には国から奴隷のような扱いを受けたプレイヤーもおり、その時のショックでまともに指示が通らず、中には自殺するプレイヤーもいた。

 嘆く彼らに言葉を与えたのは、4人のヒュレプレイヤーだった。

 シオン・スレイド、シエラ・リーゲンス、その姉であるレイア・リーゲンス、そしてその夫であるアーキスタ・ライルフィード。

 前者二人は以前よりその力を振るっていたが、後者の二人は結婚を機に覚醒をしたという。

 プレイス隊員である彼らは保護したプレイヤー達の先導者、または扇動者となり、平和な世界を安定させるために世界中を飛び回った。

 その活動を続けて、早3年――その時が、訪れた。

 スレイド夫妻がプレイスの力を借り、火星調査用の探査船を作り上げたのだ。

 このような計画が隠し通せるわけでもなく、国連から選出された数人の宇宙飛行士を乗員させるという条件を呑むことで、火星の調査が認められた。

 これを機に国連とプレイスの中を深める、という意図があるだとかないだとか、適当な噂が広まっている。

 しかし、彼にとっては正直そんなことはどうでもよく――どうせなら、見知った仲間たちが良いと思った。


 そして迎えた、出発日。

 シャトル席に座ったシオン・スレイド、ミュウ・スレイドの夫妻は、互いの手を握って微笑んだ。


「大丈夫なのか?」


 眼鏡に白衣という、まるで過去のアーキスタのような恰好をしたシオンが、ミュウの僅かに膨らんだ腹部に赤い瞳の視線を落とす。

 火星の環境が、胎児にどのような影響を与えるかは分からない。

 それでも、彼女が望んだためにこうして同行しているのだが――


「大丈夫よ。なんなら、初の火星出産でもいいのよ?」

「……一応用意はさせたが、できればちゃんとした施設で産ませたい。もう少し我慢してくれ」

「火星にあるモノ次第ね」


 科学者特有の好奇心に塗れた笑みを見せられ、シオンは嘆息する。


「変わらないな……」

「ええ! 未知なる場所へ、ようやくちゃんと行けるんだもの。科学者の血が騒がない方がどうかしてるわ」

「騒ぐのは勝手だが、無理はするなよ」

「当たり前でしょ」


 頬を膨らませて、いつの間にか膨らんだ胸を張る。

 容姿が変わっても、本質は変わっていない。彼女を見ていると、それがよくわかる。


「そういえば、この子の名前。決めたの?」


 自らの腹部を優しく撫でながら、彼女は夫に問う。


「一応は、な。けどまあ、性別もまだ分からない。分かったら教えるよ」

「もう、もったいぶらなくてもいいのに」

「そう焦る必要もないだろ?」

「……そうね」


 優しく微笑み、二人は正面に向き直る。

 実の所、出発時刻はまだ1時間ほど先なのである。

 することは特にない。

 話をしようにも、シオンはあまり得意ではないからあまり長続きはしないだろう。


「ん?」


 シオンの穿いているズボンのポケットが振動をしたので、彼は腕輪をつけた手で、その中から振動を発生させている携帯端末を取り出した。


「誰から?」

「アーキスタだ」

『よう、ご両人。国連の奴らも可哀想だな、お前らのお惚気を延々と見せられて』

「……お前らも一緒だろうが」

『――だっはァ! やっぱわかるかよ? 俺は止めてんだけどな!』


 通話中だというのに、アーキスタは巨大なジョッキに入ったビールを飲み干す。

 電話越しでもその酒気が伝わって来そうだった。

 結婚したライルフィード夫妻はタガが外れでもしたのか、どちらも似たような性格のカップルとなってしまった。

 良くも悪くも周囲から好評であり、プレイスの基地では日夜宴会が行われているとか、いないとか。


「で、なんだよ。用でもあるのか?」

『いぃぃや? まだ時間があるって聞いてよ、こうしてお別れの言葉を送りに来たってことよォ!』

「俺達は真っ当な地球人だ。火星人みたいな言い方をするな」

『おん? まあ何でもいいや。ガキもできたんだろ、あんまり無茶するなよォ』

「俺はお前らの方が心配だ。レイアも妊娠したんだろ。あんまり飲ませるなよ」


 呆れて言うと、アーキスタはまたビールを飲んで『カァァーッ』と親父くさい声を出した。


『シエラ捨てた人間が何を言うかねェェ! 今じゃあいつはレイアの分も飲み腐ってやがるぜ!』

「……いつまで言うつもりだよ。俺はシエラを捨ててねえぞ」

『だぁーめだこいつゥ。いっぺんシエラにぶん殴ってもらえェ』

「今から出発だっての。用はそれだけか」

『まあそうだなあ。精々息絶えるがいい、クソ共がァ』

「くたばれ」


 辛辣な言葉を投げ合い、通話が終わる。

 こうした会話ができるのも、世界がようやく平和になっているからである。

 ――そう、まだその途上にあるに過ぎない。

 これからも、人類一人一人は己と、誰かと戦い続けなくてはならない。

 戦わないための戦い。

 それを続ける為に。

 その為に、意志があるのだと。


『ヒトサンサンマル。予定通り、火星探査船、《ルーフェン》は離陸を開始します。シートベルト着用状況のチェック――OK.エアバッグ・システム、チェック――OK. Have a nice travel!』


 女性を基にした合成音声が告げ、紅蓮に染められた《ルーフェン》はエンジンを始動させ、浮上を始める。

 長身のそれは天に向けて進行し、僅かな時間で小さな点となった。

 人々はそれを見上げ、二人を祝福し、火星へと見送った。

 その祝福を受けて、《ルーフェン》は航行する。



 ――天まで届け、紅蓮の絶叫シャウト――



 誰かの呟きが、空気に溶けて消えた。


【-Shout to Heaven- 完】

■第2部(実質的にはここからが本編)の「Over the Universe」に続きます。

 ですが、作者の諸事情により、2017年以降の投稿を予定しております。

 長くはなりますが、待っていただけると幸いでございます。

 それでは、ここまで読んでくださった事へ多大な感謝を。

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