第20話「さんにんめ」part-B
その日、世界に隕石が降り注いだ。
人々は想定外の事態に為す術なく害を被り、自然以外の脅威があることを認知することとなった。
正体は知れずとも、恐怖を知るには十分すぎた。
人間が死に、建物は倒れ、自然は人の手によらず破壊された。
ドロップ・スターズと名付けられたそれは、未だに原因が分かっていない。
大気圏内に突如出現した――それが彼らの考察の限界だった。いや、考察とは言えない。目に映った事実をそのまま発表しただけだ。
しかし落下した隕石内部から発見された「エイグ」の存在が明らかになり、次々に発見され異常なスピードでの稼働を始めた連合軍は、その発表を忘れたように遅らせていた。
結果的に、突如として勃発した第三次世界大戦が終結した後になるまで、その考察は連合軍以外に出ることが無かった。
出たからと言って、何か対策ができようモノか。
地球の周囲を漂う宇宙ステーションは簡単な実験を行うために打ち上げただけで、現在は米国が管理している粗大ゴミと言って相違ない為、有力な手掛かりはひとつもない。
地球の総力を結集しても、何も分からなかったのだ。
故に、人々は二度目のそれに対して、すぐに取れるのは地下や十分な強度のある施設――もちろんほぼ無意味だが――への避難という手段しかなかった。
それでも足りないのは明白だった。
避難したとて、地上はどうなるのか。
人々の生きた証は潰える。
元に戻すことは、現代の人間には到底不可能である。
発達した機械に頼って発展を遂げた世界は、それが無ければ早急な復興ができない。
隕石は無慈悲にそれさえも砕いてしまう。
そこでヒュレプレイヤー頼られるのだろうが、欲に塗れた人間が彼らを欲し独占するのは目に見えている。
そのせいで、復興が更に遅れる――これも、誰でもわかることだ。
ではどうすればいいか?
最小限に被害を抑える。
破片による広範囲への被害はあるだろうが、最悪の事態は避けられる。
だがそれも、エイグを扱う前大戦の演者たち次第。一つでも逃せば、地上に甚大な被害が及ぶ。
一つたりとも逃しはしない。
いくつかの悪意さえなければ、連合軍もプレイスも変わりは無かったはずなのだから。
◆
「くそ、キリがねえ!」
少し大きめに実体化した手榴弾を跳躍しながら投げつけつつ、ゼライドは呻いた。
そこへ迫る隕石に対し舌を打つと、視界の外から来た小粒がそれを貫き、間もなくして粉々にした。
「弱音を吐かないでください!」
「うるせえ、頼んでねえぞ」
彼はその主である、バルカンを両手に持つシエラに対して冷たい発言をする。
実際、今の彼にとってそこまでの危機ではなかった。
「私が勝手にやっただけです! さあ、手を動かして!」
「言われるまでもねえよ」
それだけ言って地上に戻り、彼女はまた別の場所へと向かう。
その様子を一瞥して、ゼライドはまた両手に手榴弾を用意する。
(やっぱり結構なタマは持ってるみてえだな。姉の付け焼刃とは比べモンになんねえ……化けるな、ありゃ)
不思議な昂揚を覚えるが、攻撃の手は休めない。
何が嬉しいのかは分からない。
もしかすると、まだ戦争に入り浸っていた時の感覚が残っているのかも知れない。
強い相手には興奮と共に交戦したし、弱い相手には引き金を引く度に退屈さが増していった。
今、彼は前者だった。さすがに状況を理解しているためシエラを襲う真似はしないが、以前の自分ならわからなかった。
だから今、その気分を不届きモノにぶつけようと――再び、手榴弾をばらまく。
幸いにも加速途中であるため、速度はほとんど無く、単純に硬度と大きさとの勝負になる。
では、今までのモノとは一線を画す隕石が現れれば?
(ごちゃごちゃ考えてる暇ァねえ。あいつのいねえ分は、俺がきっちり埋めねえとな!)
牙を剥いて、ゼライドは拳にヒュレ粒子を集束させ――拳を、巨大化させた。
正確には、巨大な手袋をはめた、といった所か。
エイグの装甲と同質のそれを振りかぶって、隕石にぶつける。
小さな亀裂が大きな波を生み、破壊を生む。
砕け散った破片はいささか大きいが、そこへ機関銃と見紛うような連射が破片を砕いていく。
「おっちゃん、もっと細かくしてよお」
「お前を頼りにしてんだよ」
「嬉しいような嬉しくないようなぁーっと」
いつもの調子で愚痴を言うアヴィナに、ゼライドは巨大な拳を見せつけて言う。
そんなことをしている間にも、アヴィナは休むことなくガトリングガンのトリガーを引きっぱなしにしている。
『ここは粗方片付いたな』
(……げ、もうこんなに時間経ってたのかよ)
通信でレイアに言われて時間を確認すると、戦闘開始から既に2時間が経過しようとしていた。
夢中だったために、そちらに意識が向かなかったのだ。当然と言える。
『シエラと私は別の地域へ移動する。後は頼むぞ』
(へいへい、弾切らしてヒーヒー言うんじゃねえぞ)
『お前は手を動かせ』
『やーい、おっちゃん怒られてやんのぉ』
(いいや、こいつぁ愛情表現だな。嬉しい限りだ)
『……はぁ。そんな軽口が叩けるなら大丈夫だろう。だが、油断はするな』
(お前もな)
レーダー上でリーゲンス姉妹と他数機が離れたのを確認し、ゼライドは気合を込める。
確かに最初に比べれば数は減っただろう。
しかし、殲滅できたわけではない。
(……俺は今、何の為に戦ってんだろうなァ)
守ると誓った義妹はもういない。
彼女が生きる意味そのモノと言っても過言ではなかった自分が、今なお生きて、こうして拳を振るうのは何故なのか。
顔も知らない誰かを守るためか?
自分が生き続ける為か?
どちらにせよ、その選択を取る理由は何だ?
「考える暇ァ……ねえかッッ!!!」
考えても無駄だ。
答えの出ないもどかしさを拳に乗せて、隕石にぶつける。
「――――ッ!!?」
その時だった。
空にひときわ大きな、眩い光が広がった。
◆
「これで、全部か……!」
日本中に降り注ごうとしていた隕石を殲滅したシオンは、別の場所に向けて移動しようとして――その場に、膝からくずおれた。
「こんな、時に……ッ」
≪私が操作を拒否したの。5分だけでいい、休んで≫
「……わかった、よ」
体から力を抜いて、シオンは大きく息を吐いた。
時間を減速させていることにより、彼は既に他の兵士の何倍、いや何十倍もの働きをしている。故に、疲労もそれに比例する。
今、他の皆はどこで戦っているのだろうか。
プレイス基地周辺の安全は確保できた頃だろう、とシオンは勝手に思う。
アメリカには連合軍に残った兵力がいくらかあるため、余裕があるだろう。
(ロシア辺りも残っちゃいるだろうな……)
となれば、一度イギリスに戻った方が良いだろう。
余り悠長にもしていられない。
≪……約束通り、5分。いいよ、動いて≫
「悪い、手間かけさせて」
≪いいの、それが私の役目だから≫
妹の優しい言葉を受け止め、シオンは重い腰を上げる。
何が待っているのか、知らずに。
◆
光は、文字通り見る人間の目を奪った。
この事態で最も不幸であったのは、そこにヒトがいたこと。
逆に最も幸運であったのは――光が基地から、遠く離れていたこと。
この世界が知らない悲劇。いや、この世界では遥か昔に起きていてもおかしくは無かった。
原子核の核分裂反応を利用した、破壊兵器。
エイグを知った人間は、その力だけしか見ることができなかった。ゆえに使用しなかった。
目を眩ませた隙に、膨大な熱量で対象を無差別に蒸発させる。
「……原子爆弾……!」
その名を呟いたのは、誰か。
数拍の後には、それすらわからなくなっていた。
呆気なく、消えた。
消えたのだ。
数は少なくとも、人間が。生物が。自然が。
たった一瞬のそれで。
アヴィナも、ゼライドも。
例に洩れず、熱を浴びて――消えた。




