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第20話「さんにんめ」part-A

 私は、間違っていないはずだ。


 人間は陥る状況が危機的であればあるほど、更なる成長が望める。


 死ななければ、しぶとく立ち上がる。


 その時に、また新たな力を得る。


 その為に試練を与える事の、何が悪い。


 セカイが崩れることが望みではないだろう。


 ならば使命を怠慢するな。


 何故だ。何故、そんな顔をする。そんな感情を抱く。


 私は何も、間違ってなど……。


                  ◆


 ――その報せは唐突だった。

 世界各地で、上空に『突如出現した』巨大な物体が地球の重力に引かれていることが判明したのだ。

 3年前の惨状が残る地球は、それを知っていた。


「ドロップ・スターズ……!」


 喘ぐような声を出したのは、誰なのか。

 それを確かめるよりも早く、使命を思い出した搭乗者たちは愛機に乗り込み、開放された天井から外へと飛び出し、対処を始める。

 対空武装を持たないモノは避難施設への誘導の援助、ミサイルやレールガンなどの迎撃可能な武装を持つモノはすぐに行動に移した。

 長時間飛行が可能なシフォン、シャウティアは接近する隕石に対して直接攻撃を仕掛け、アヴィナは自前の武装で、ゼライド、シエラは実体化した武装での迎撃を始めた。


「――iaイア……!」


 歯噛みしながら、シオンは隕石に対してジェットバンカーの弾丸を撃ち込む。

 細かく砕け散った破片を振り払い、また次の隕石にも弾丸を見舞う。

 今一番疑えるのは、【彼女】しかいない。

 人知を超えた現象を起こし、地球を危機に追いやる――


(神のつもりか……ッ!!!)


 歯が軋みそうなほど顎に力が入る。

 既に彼の無意識の領域を侵食し始めている感情が、強くなっているのだ。

 神を憎む、彼の深層心理が。


(イアルだけじゃ、飽き足らないのか……ッッ!!!)


 向けるべき相手のいない怒りは、モノ言わぬ飛来物に向けられる。

 時間の流れを遅めた彼は、地球の空を覆おうとするモノを次々に破壊していく。

 巨大なモノに対しては、弾丸を連発した上でボディを射出し、同様に粉微塵にする。


(ぶち、殺す……殺ス、こロス……殺すゥッ!!)

≪――兄。シオ兄っ!≫

「ッは!?」


 詰まっていた息が急に吐き出されるような感覚と共に、シオンは意識を取り戻した。


(お、俺は、何を……?)

≪シオ兄の脳に、バグが……あれ、取り除けない……ロック……?≫

(く……そんなのは後だ! 中東まで行くぞ!)

≪……分かった!≫


 シオンの脳内に世界地図が映り、イギリスを始点とした赤線が描かれていく。

 イラク、エジプトなどの中東を経由し、最終的にはアフリカへと向かって迎撃行動を行う。

 戦力が圧倒的に少ないために、何の抵抗もできずに甚大な被害を受ける可能性は高い――彼の判断は単純であれど、正しい事に違いは無かった。


(レイアにメッセージ! ――ここは、任せた!)


 ピピ、という電子音が鳴る。

 感覚的にそれが録音の完了を示したのだと思い、シオンは意を決して推進器を噴かす。


「出力がどうだのと気にしてられるか! ぶっ飛ばすぞッッ!!」


 気迫を込めた叫びと共に、彼は汚れた空に一筋の光を描いた。

 その光の進行を邪魔するモノは容赦なく砕かれ、地上に砂塵の雨を降らせていく。

 人の正しい視力を、奪っていくかのように。


                  ◆


(シオン……!? ――そうか、行ったか……)


 彼からのメッセージを受け取ったレイアは、その間も絶え間なく両手に握ったセカンド・マシンライフルの引き金を引いていた。

 一発の威力は高いとは言え、彼女はプレイヤーではないから弾薬に限りがある。

 念のためいくつもマガジンを入れたパックを持ってきてはいるが、その量が過剰であれば機動力に影響が出るので最低限度に留められている。

 しかしそれは今、尽きようとしていた。


(一分一秒が惜しい状況だというのに……!)


 最後のマガジンで隕石に攻撃する彼女に、焦燥の蛇が巻きつく。

 その時、一筋の閃光が走った。

 シオンかと思ったが、色が違う。

 バーニアを噴かせた青い炎の軌跡――


『レイア、こちらは任せろ。デカブツは私にとって格好のエモノだ』

(クレアか!)


 巨大な斧を振るう、青い強化型エイグ――フェルム、そしてその搭乗者、クレア。

 彼女の昂ぶりを抑えた声は、反論を一つでもすれば爆発してしまいそうな危険性を孕んでおり、レイアも下手に発言ができず硬直した。


『さあ、行け……! 時間が惜しいんだろう!』

「――わかった!」


 獣のように唸るクレアに返事し、レイアは転進して格納庫の方へと急速に戻った。

 地面と衝突しかけた彼女だが、直前で前方に推進器を噴かして勢いを殺し、荒っぽく着地する。


「セカンド・マシンのマガジンを至急頼む! ありったけだ!」


 格納庫の前で叫び、レイアは整備員たちを動員させる――しかし予想外に、彼女の要望はすぐに叶えられた。

 親指を立てた彼らは、待ってましたと言わんばかりに、巨大なコンテナを作業アームで彼女の前に運び出した。


『アーキスタ司令に言われてたんですよ! 用意しとけって!』

「……私の考えなど御見通しか、ありがたいな!」


 結局彼とは本音を伝え合えていないのだが、こうした形でも十分に伝わってくる。

 彼女はすぐにコンテナに触れ、ロックの解除を始める。


(アクセス。コード、immoralインモラル

≪アクセス。……コード承認を確認。開放≫


 排気音の後にコンテナが開き、内蔵された大量のマガジンが露わになる。

 レイアはそれの内の一つを掴み、マシンライフルのクイックリロードを行う。

 それから空になったパックに入るだけのマガジンを入れ、すぐに戦場へと踵を返した。

 推進器の衝撃と風圧に襲われた整備員たちは、満足げに頷いていた。

 そんなことは露知らず、レイアは汚れた空で舞い続ける。


「一つだって撃ち漏らすモノか……これ以上世界が荒れれば、人間は今度こそ希望を見失ってしまう!」


 それは、自分の経験からも言える。

 誰かがいてくれれば、また希望を見出すことはできるだろう。

 しかし皆が希望を見失ってしまえば。

 希望を信じる人間が圧倒的に少なくなってしまえば――彼女の言う通りになることは明白だ。


「何だ……私達は禁忌を犯したとでも言うか!」


 隕石は何も語りはしない。ただ大気との摩擦で唸るような音を出すばかりだ。

 そうとは分かっていても、答えを得られない怒りでまた引き金を引く。

 まずは自分達の希望を守るために。


                  ◆


(シャウティア、レーダー情報からできるだけ多くの隕石をロックしろ!)

≪わかった……少し、時間を頂戴!≫

(いくらでも、くれてやるッ!!)


 リビア上空に辿り着いたシオンは、イギリス同様に降り注ぐ隕石を視認し、すぐに地上の状況を確認した。

 いるとしても対空兵装のないエイグばかりであり、迎撃が殆どされていないせいか量は少しばかり多く見えた。

 今のシオンにできることは、避難誘導を行うエイグ達の為に隕石を全て(・・)破壊して安全を確保することである。


「さあ、いくらでも来い! 『紅蓮』の絶叫が、全てを掻き消すッッ!!!」


 彼の気迫を込めた叫びから抽出されたシャウトエネルギーが彼を包み、炎を纏ったような状態になる。


≪――できた、行けるよ!≫

「……シャウティングスパイダァァッ!!!」


 愛機の報せを聞いた直後、彼は自分を中心とした蜘蛛の巣を想像しながら絶叫する。

 それに呼応するように、彼を包むシャウトエネルギーが無数の糸となって四方八方に直進し、周辺の隕石を全て貫き、微振動で粉々にしていく。

 ――ヒュレ粒子によってシャウトエネルギーが実体を持ったのなら、その含まれた粒子を想像で反応させて、望んだ形状のエネルギーを発現できるのではないだろうか?

 そしてそれをシャウティアのAIで操作することによって、強力な武器となるのではないか?

 彼のその意図は見事に成功を収めたのである。


「っし……この調子で行くぞ!」


 成功は自信に繋がり、再び時間の速度を遅くして別の場所へ赴く。

 薄緑色の蜘蛛糸がアフリカ大陸の空を覆っていくが、誰もそれに拒否する反応は見せない。

 鮮やかなそれは、誰の心にも本来あるモノなのだから。


「うおおおおッ、シャウトォォォォォォッ!!!!」


 その発生源は人々の心に光を見せているなどとは思わず、自らの使命を果たしていく。

 追撃もないと断定した彼は、次に海を渡り――アジアを目指した。

 その出来事すらほんの数瞬の内である。

 しかし通常の倍以上の速度で動く彼の寿命は、他の誰よりも早く削られているだろう。

 だからと言ってそんなことを気にしている場合ではない。

 死ぬわけではなく死へ徐々に近付いていくだけなのだから、若い命がすべきことだ――進行を阻む隕石を砕きながら、シオンはそう思う。


(それに、これが……)


 シャウトエネルギーを纏わせた拳を振りかぶる。

 彼が力を籠めれば籠めるほど、纏うそれは肥大する。


(俺にしかできないコトだからッ!!)


 確かな自覚と共に、今までで最も巨大な隕石にその拳を突っ込む。

 隙間から漏れ出すシャウトエネルギーは拳に吸い込まれるように消え――


「はァァァッ――――……」


 彼は隕石の中で無理矢理に手を開き、エネルギーに命じる。

 天まで、届け。



「天まで届け、紅蓮の絶叫ォォォォォッッ!!!!」



 彼の叫びに呼応し、掌から溢れ出したエネルギーが結晶化し、隕石を空へ押し出す。

 彼の手元で次々にエネルギー結晶化がされ、結晶の柱となってそれを起こしているのだ。

 押し出した隕石がある程度の高度を迎えると、シオンは柱の伸長を止め、遠近法を用いて視界の上で結晶柱に手をかざした。

 そして撫でるようにスライドし、結晶を液体に戻す。

 それは隕石の中に染み込むように消え――内部から、僅かな隙間を縫って外へ飛び出し、球を形成する。



「――ブレイクッ!!」



 落ち着いた声で叫び、下から掬い上げるように拳を握る。

 同時にシャウトエネルギーの球が一度だけ周囲の空気ごと強く揺れ――包んでいた隕石を粉々に砕いた。

 その振動の余波を受けた周囲の隕石も砕け、シオンは太平洋に降り注ぐ隕石をも一掃した。

 これで、津波による被害は避けられる――彼の脳裏に、アヴィナと出撃したときの映像が蘇る。

 これ以上の被害は避けなくてはならない。復興の邪魔をされれば、また一からやり直す羽目になる。


(日本は、どうなってる――!?)

 

 息を切らしながら、シオンは目的地へとたどり着く。

 ほとんどのエイグがイギリスに行ったため、やはり心もとない迎撃が行われていた。

 シオンは舌打ちして、体を蝕む疲労を振り払う。

 制圧作戦の時を思い出せ。あの時よりは数倍楽なはずだ。

 そう、自分に言い聞かせて。


「守るためだろ、自分の心配なんてするなァッ!!」


 暗示をかけるように、意志を上乗せする。

 その意思を使って、また破壊を繰り返す。

 守ってみせる。

 プレイスとか連合とか、何も関係ない。

 俺は地球を守る。


「――絶対に!!」





 また、である。

 彼は目の前の事を解決することに集中しすぎた余り、予測すらできなかったのである。

 次なる犠牲は、既に定められていたのだと。

 こんなモノは、始まりにでしかなかったのだと。

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