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第18話「ひとりめ」part-A

 場所は変わらず、格納庫。

 多くの整備員がエイグの全身を這うように見て、破損状況などを確認している。


「ねえ、シオン」


 そんな中で、無重力下でふわふわと浮遊しながら思索していたシオンの耳に、ミュウの声が届いた。

 眠っていたわけではないのだが、夢中になっていた彼は少し反応が遅れ、彼女を少しばかり不機嫌にしてしまう。

 未だに彼は彼女の機嫌の取り方が分からないのだ。


「……また考え事?」

「ああ……エイグを作った奴は、どんな思いを込めたのかなって」

「なにそれ。結構変な事考えるのね」

「自覚はあるさ。――そうだ、シャウティアの情報を整理してたら、またいろいろ出てきたんだ。急ぎの用事なら聞かなくてもいいけど」

「いや、聞かせてもらうわ。私もただ暇だっただけだから」


 壁に手をついて、ミュウはその場に止まる。

 初めての無重力環境であるが、皆慣れるのは早かったのだ。

 アヴィナなどは既にこの環境を利用して遊びを始めている。


「例の時間操作だが、どうやらあれにもシャウトエネルギーが絡んでいるらしいんだ」

「ふむ……シャウティアはつまりシャウトエネルギーを自由に操れる存在、と考えていいみたいね。エネルギーの全貌が解明していない以上は何とも言えないけど……」

「おそらくそのままなんだろう。時間を操作する効力を持つ上に、水のような三態を持ち、防御の仕方も微振動によるモノだそうだ」

「『意志』がそこまで……ねえ?」


 口調は信じられない、と言いたげだったが、確たる証拠もないのに反論することは憚られたのだろう。


「人間の可能性ってヤツだろう。それくらいあってもおかしくはない」

「それだけの力がありながら、人はその大きさに気付いていなかった……変な話ね」

「――とまあ、そんな感じだよ。悪いな、後出しで」

「膨大な情報を一人で整理してるんだもの、そんなことがあっても誰も責めやしないわ」


 ミュウは何も感じていないように振る舞っているようだが、最近のシオンにはそれが彼女なりの慰め方なのだと分かるようになってきた。

 従兄であるというアーキスタ程ではないだろうが、彼女の事に関しては人一倍知っている自信はあった。

 しかしこれが慰めであると言うと怒ることもなんとなく分かっているので、彼は苦笑を返した。


「それで、何か用があるんじゃないか?」

「本当に暇だっただけよ。索敵も整備も私の仕事じゃないし」

「そうかい……しかしながら、追われてる実感がないな」

「それだけ安全って事よ。でも、アンタたちは戦闘員だから油断できないのよね……」

「別にいいんだ、その為に参加したようなモノだし。どれだけ追っかけてきたって、俺が駆除してやる」


 自信満々に言うと、ミュウは安堵したように笑った。

 本当にやりかねないから困る――笑顔は、そう言っていた。


「ねえ、シオン。やっぱり、言いたいことがあるわ。地球に帰ったら、私――」

「え……」


 ミュウに肩を掴まれ、二人は向かい合う。

 眉を僅かに吊り上げ、顔を真っ赤にしたミュウは、怒っているようにも見えた。

 しかし、彼女は怒ってなどいない――何となくではあるが、彼はそう感じた。

 胸が高鳴る。

 初めての感覚に、シオンは戸惑う。


「私、絶対に言うから」

「な、なにを」


 まさかと思う。

 だが、これはそうとしか表現のしようがない。


「それは……帰ってからにする」


 少し引きずるように手を離して、ミュウはシオンから離れ、格納庫を出た。

 心臓はまだ強く揺れている。

 でも、これは違いない――恋、だ。


(あ、相手は13歳だぞ……いや俺も15歳だが……落ちつけ……)

「どったのイーくん? 顔まっかっかーだよー?」

「のわあァッ」


 急に視界をふさいだアヴィナの逆さになった顔に、思わず驚いて体をのけぞらせる。

 シオンの反応を見て、彼女はやははといたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「さっきミュウが出てったけど……まさかまさかーっ!?」

「なッ、ば、何も……!」


 赤くなった顔を隠すようにするが、かえって逆効果だなどとは彼にはわかっていない。


「やははー、そんなリアクションじゃバレバレだよぉ。そっかあ、ついにミュウもそんなお年頃かあ」

「お前も同い年だろ……」


 呆れてため息の出るシオンだったが、相変わらず顔は赤みを帯びたままだ。


「ボクは恋なんてしたくないよぉ、死んだら困るもーん」

「遠回しに俺の事を言ってるのか……」

「ボクは、だよ。シーくんはミュウとラブラブにしてればいいと思うよぉ」


 心配するなと言っているようだが、彼はどうも腑に落ちなかった。

 どうやら彼女は、恋愛だとか気にしていないらしい――というより、興味が無いのだろうか。

 ――って、そうじゃなくて。


「別に俺とミュウはまだそういうんじゃ」

「まだってことは脈アリっしょー? んー?」

「ぐっ……」


 言い返したかったが、脳がそれを拒んだ。つまり、図星だったのだ。

 その様子を笑顔で見られ、シオンはすぐにその場から逃げだしたくなった。

 と言うより、もう逃げていた。

 アヴィナの笑顔に見送られながら、彼は格納庫を出て自室へと向かっていった。

 整理することが多過ぎて、頭がパンクしようとしている。

 エイグのこと、シャウティアのこと、iaのこと、そしてミュウのこと――。


                 ◆


「……ラル。食事を持ってきた」


 数個のパンとスープを乗せたトレイを持ったレイアが、コアの扉をノックするように叩く。

 すると中から気の抜けた声が聞こえ、その直後に扉が開いた。


「悪いな、レイア」

「いいんだ、これくらい。……何かあったか?」

「エンジンにあまり負荷は欠けられないから、今はスピードを少し落としてる。周囲に機影もないし、ひとまずは、って感じだな」

「そうか……有事の際には私が、私達がこの艦を守ってみせる。だからお前は安心していろ」


 パンを咀嚼して飲み込んだアーキスタが、ばつが悪そうに頭を掻いた。


「守るのはまあ嬉しいが、その、それでお前がいなくなっちゃ意味がない」

「ほう? お前らしくないセリフだな」

「……俺だって、男だ」

「ならば、私だって女だ――だが、こういう場所でのこの雰囲気はいただけないな」

「だったら帰ってからいくらでも言ってやる」


 パンを乱暴に齧り、アーキスタは照れ隠しするようにレイアから顔を逸らす。

 しかし悪戯好きのレイアが、黙ってそれを見逃すはずもなく――彼の顔を、無理やり自分の顔と合わせた。


「ちゃんと目を見て言え。女はこういうことをしっかりしていない男を嫌う」

「…………わかったよ。帰ったら、いくらでも、言ってやる」


 言葉を途切れさせるたびに、彼の顔は赤くなる。

 それにつられるように、レイアも顔を赤くする。


「分かった。必ず帰る」

「……ああ」

「トレイはどうすればいい?」

「食べ終わったらコアの前に置いておく。誰か気付いたやつが持って行ってくれるだろう」


 適当なんだな、とレイアは心の中で苦笑する。

 自分で何かできない状況とは言え、これでは何もできないのとほぼ同じだ。

 それはなぜか心をくすぐられるようで――レイアは、初めての感覚に違和を覚えた。

 しかし、不快ではなかった。


「レイア。……頑張れよ」

「互いにな」


 彼女は別れ際には顔を見せず、背を向けて彼に返事をした。

 恥ずかしかったのだ。

 いつも見せていない自分を顔を、見られてしまうから。


 そんな時間も、束の間だった。


                 ◆


 火星から離れて1週間弱が過ぎようとしていた日。

 忘れかけていた存在を、彼らは否が応でも思い出させられたのだ。


「レーダーに反応あり! この数は……!」


 オペレーターの悲痛な声の後、警報機がけたたましく響いた。

 赤い光は人々の意識を引き締め、皆の焦燥感を駆り立てる。

 もちろんこと、戦闘員は既に出撃を始めていた。

 しかし――アヴィナは格納庫から出はしたが、艦体にアンカーをつけて宇宙空間を漂うことはしなかった。

 火星で武装を捨ててしまった彼女は、代替となる武装がほとんどなかったのだ。

 オーダーメイドと言うこともあって予備は用意できておらず、代わりにシオンの武器――パイルスナイパーを携えている。


「ごめんねみんな、でもちゃんと働くかんね! 当たんないでよ!」

「……嬢ちゃん、本当に大丈夫なのかよ?」

「アヴィナは私達とは比べ物にならない視力を持っている。今までの兵装でも狙撃できるだけの技量はあったから、狙撃銃でも十二分に力を発揮できるはずだ」


 ゼライドの心配をレイアが打ち消そうとしているが、彼はその姿を見たことが無いので曖昧な返事をした。

 イアルも同様の心配はしているだろうが、信じるほかないと思っているのだろう。

 シオンも同じだ。仲間を信頼している、という気持ちはとても強い分、イアルとは少し異なるが。

 ともかく出撃した彼らは、視界の奥から灰色のエイグが接近しているのを認めた。


「……お前らは、誰の命令で動いてる!」


 バスタードを実体化させ、シオンは彼らに向けて突撃する。

 返事は無い。


「だんまりかよ……!」


 まるで、誰も乗っていないような――


(! 誰も……?)

「どうした、シオン!」


 突撃を止めて立ち止まったシオンに、レイアの声がかかる。


「まさか、ヤツら……無人なんじゃ……!?」

「! なるほど……そういえば、シオンの攻撃に悲鳴を上げていなかった……」

「おい何ボサッとしてやがる! 敵は目の前だぞ!」

「く……シオン、一体鹵獲して格納庫に放り込め! ミュウに連絡しておく!」

「分かった! ――シャウトッ!!」


 レイアに頷き、シオンは時間の速度を操作して手早く一体鹵獲し、格納庫へとそっと置く。

 それからすぐに戦線に戻り、仲間の前に立ってバスタードを正面に構え、意識を集中させた。


「――ディスシャウトッ!!」

「なっ……これは!?」


 目の前で起きた現象に、レイア――いや、皆が目を見開く。

 シオンがその体からありったけの炎――シャウトエネルギーを放出したのだ。

 戦艦に近付こうとするエイグとその攻撃は全て、炎の奔流に呑まれて消える。


「シャウトエネルギーを展開した――やっぱり、こいつは……」(俺の拒絶する意志に反応してる? だとすれば、時間操作も……)

Mewミュウから通信要請≫


 確信めいたモノを感じる彼の下に、通信が届く。


(許可!)

『シオン、とりあえずアンタに伝えるから、後で皆に言ってちょうだい! このエイグは無人よ! 無人! だから――遠慮なく、やってしまいなさい!』

「……みんな、こいつらは無人だそうだ! 遠慮なくやってしまえ!」

「では、遠慮なく」「撃ち甲斐があるよぉ」「重装型アームドの本領が発揮できますね」「行くぜオラァ!!」


 それぞれの士気が向上したことを確認し、シオンも舌なめずりをする。

 バスタードを構え、今度は荒々しく突撃する。


「シャウトォォォォォォ――――――ッッ!!!!」


 シオンも枷が無くなったせいか、遠慮なくバスタードで胴を切る。

 レイアとゼライドは華麗にコアを狙い、アヴィナは確実に頭部を狙撃する。

 イアルは惜しみなく弾を発射し、爆発四散させてゆく。


「その調子で頼む! こちらは退路が確保でき次第最大速度で突っ切る! そろそろ月も見えてくる、もうひと踏ん張りだ!」

「「応!!」」


 アーキスタからの指示に力強く応え、皆猛々しく戦い続ける。

 大切なことを、忘れてしまうほどに。

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