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shout-ia
「……奴ではなかった。救世主は、奴では」
黒く染まった火星の中で、赤い目の【彼女】は思い悩んでいた。
救世主は、まだ現れていなかったのだ。
自分が長く待ち望んでいた、救世主は。
「だが……私は確かに奴が救世主の力を持っていると感じた……なんだ? あの感じは……」
シオンに見せた言動とは違い、【彼女】――iaは内心、困惑していた。
疲れから、どこか怠っていたのかもしれない。
【彼女】は目を閉じ、セカイの終わるまでの時間を再確認した。
もって、一世紀。
「時間が、無いというのに……!」
実の所、この時の【彼女】には気付いていないことがあった。
灯台下暗し――その言葉が、よく似合う。
長い間見ていたにもかかわらず、気付いていなかったのだから。
「……私は、あの方を止めたいのに……」
もう一つ、【彼女】は気付いてなどいなかった。
【彼女】の止めようとしているモノの手が、既にこの世界に加えられていたということを。
だが幸いなのは――それがほぼ無意識下の行動であったことか。
「…………お父様」
【彼女】の呟きを聞くのは、無機質な機械の巨人ばかり。
慰めてくれる存在などは、そこにはいなかった。




