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第17話「シャングリラ」part-B

(シャウティア、これは……)

≪うん……≫


 シオンが脳内のレーダーで感じていた違和は、もちろんAIの方でも検知している。

 先程からずっと、レーダーにはエイグでありながらエイグではない――そういう反応が無数に、出現しては消えるのだ。


(どういう、ことなんだ?)


 答えを知ろうにも、彼が歩んでいるのは平らな壁、床、天上で作られた黒い通路。機械が動いている音はせわしなく聞こえてはいるが、動く様子は一切見えない。

 どこでもいいから壊せば見ることはできるだろうが、そのせいで機能が停止して何が起こるのかは分かったモノではない。

 それにどこで何が待っているかも分からない。だから下手な真似はできないのだ。


≪エイグの製造工場、と見ていいだろうけど……やっぱり、誰が作ったんだろう?≫

(そう言えば、製造者の名前はデータになかったな。そいつがここにいないってことは、この工場が製造者……では、工場の製造者はどこにいる……?)

≪生体反応は無いよ≫

(って言うからには、死んだ可能性が高いか……。もしかして、大昔に住んでた火星人の遺産とか?)

≪だとすると、これだけ残ってるのは変だよ≫

(だよなあ……)


 未知の場所であるがゆえに、様々な可能性があってもおかしくは無い。

 ただ、現実と照らし合わせて有り得そうにないモノは早々に切り捨てるべきだ。その間違った確信が何を起こすかは分からない。

 シオンがそのまま歩みを進めていると、とても広い場所に出た――人間の為に用意したにしては、いささか広すぎる。

 何のための空間なのか。彼がそれを探ろうと壁際を見ると、すぐに答えへの糸口は見つかった。

 既存のモノとは形の違う、ただ工具とはわかる。

 先程から感じるエイグと似て非なる反応。何かの作業に扱う工具。


(やっぱり、ここはエイグの工場か……となると、ここは一体……格納庫か?)

≪それにしては一機も反応がない。たぶん、使われていなんじゃないかな≫


 シャウティアの言うように、この場所にエイグの反応は一つもない。歩き回ってみるが、落ちているのは精々工具とエイグのパーツらしき残骸のみ。

 他の場所ではせわしなく活動している割に、ここは忘れられたように閑静だった。


「!」

≪後ろ、すぐ近く――この反応はっ!?≫


 シオンはレーダーに現れた新たな反応の方を向き、訝しみから眉を顰めた。

 そこにあったのは、エイグでも人間でもない――宙に浮く、黒い炎だったのだから。


(あの感じ……シャウトエネルギーと似てる……?)

≪似てるなんてモノじゃない……あれは、シャウトエネルギーだよ!≫

(何だって!?)


『初めまして、になるか。シオン・スレイド』


(喋った――それにこいつ、俺の名前をッ!?)


 黒い炎は口も無いのに、確かに言葉を発した――いや、正しくは彼の頭に響いた。

 自分の名前を呼んだことも相まって、シオンは驚きを隠せずに目を見開いた。


『ニンゲンは、初対面では自分から名乗るのが基本だったか。私は、iaイア

「イア……?」

『よくここまで来てくれた……と、言いたいところだが。よもやここに来て手違い(・・・)が生じるとはな』


 考え込むような炎――iaの声。それに含まれた『言葉』の意味は、シオンには一切が分からない。


『しかし、私の力も万能ではなかったか……ここまで寄らねば、分からなかったとは』

「何を言っている……?」

『貴様ではセカイは救えない、そういう事だ』

「!」


 iaはシオンに言い放つとともに、己の身体を構成する炎を変形させ――シオンと同い年くらいの少女になった。

 彼には目の前で何が起こっているのか、分からなかった。

 だから、動けなかった。


『だが、力を測るくらいはしてやろう。死なない程度にはしてやる』

「な、何を――」


 する気だ、という前に。彼を強い振動が襲った。

 工場の内部ではない。


「外か!」


 気付くと同時に、焦りが彼を襲う。今すぐにでも天井をぶち抜いて外に出たくなったが、なんとか抑えた。

 代わりに来た道に踵を返そうとすると――そこに、既にiaの姿はなかった。

 結局何なのかはっきりしなかったが、今はそれどころではない。

 シオンは推進器を噴かせ、外へと続く道を駆けてゆく。


(レイア!)

≪無事か、シオン!?≫

(ああ、すぐに戻る! そっちはどうなってる!)

≪原因は不明だが、エイグが大量に現れた! バンカーは既に打ち上げたから、あとは撤退するだけだ!≫


 レイアの指示を聞いた直後、彼はレーダーでエイグの数――約、200――を確認する。

 いくら重装型とは言え、実弾兵装であるのだから弾は尽きる。

 それに、理由は不明だが、エイグであるということは人が乗っている。

 であれば、コアは狙わずに不殺をする必要がある――かなり困難を極めるはずだ。


(俺が足止めをする!)

『馬鹿を言うな! いくらシャウティアでも、これだけの数は……!』


(――こいつら、シャウティアを狙っていない?)


 工場を出たシオンは、レイアの言葉を無視してシャウティアのコアの中に入り、BeAGシステムを起動する。

 見れば大量のエイグが狙っているのは、シャウティアではなくレイアとアヴィナだけだった。

 だとすれば、余計に自分が戦う必要がある。


「……シャウトォォォォッ!!」


 シオンは拳を強く握り、時の流れを遅くする。

 それから大群の中に突っ込み、片っ端から四肢を破砕していく。

 していることは制圧作戦の時と同じであるため、彼にはお手のモノだ。


「ディスシャウトッ!!」


 ある程度行動不能にしたところで距離を取り、時の流れを元に戻す。

 行動不能になったエイグは倒れ、それが進行の邪魔をし、後続のエイグが倒れたり、照準が合わなくなったりもする。

 これでいい――シオンは心の中で呟き、二人の方を向く。


「本当にやる奴があるか、馬鹿……!」

「説教ならあとでいくらでも聞く! 今は逃げるぞ!」

『あ? 先に戻ってていいのか?』


 推進器の出力を上げる3人の下に、ゼライドの緊張感のない声が届く。


「ああ、無駄な戦闘はできない! 二人は先に戻っていてくれ!」

「……ぬぅーん、流石に重いなぁ。ちょっと待っててねん!」

「アヴィナッ!?」


 低空を飛んでいたアヴィナが急に振り返り、全ての火器を構えた。

 それからすることはただ一つ――全弾の発射。



「もってけぇーっっ!!」



 彼女の甲高い叫びと共に、無数の弾丸、砲弾、弾頭が飛び出す。

 しかし、彼女はエイグを狙ってなどいなかった。

 大群のその直前――地面に着弾し、砂塵と亀裂を発生させた。

 倒れたエイグを突破してきたエイグですらもそれに阻まれ、また足止めを食らわせる事となった。

 それからアヴィナは全ての火器を捨て、シオンとレイアの方に踵を返した。

 大量の火器を捨てた為、当然速度は向上している。


「無茶をする……!」

「シーくんに言われたくはないよぉ。さ、早く戻ろ?」


 十分な足止めに成功した彼らはその後、仲間たちの待つ戦艦型へと帰還した。

 それを確認したアーキスタは、すかさず出撃の命令を下した。

 その直後――火星に、変化が訪れた。




「なんだよ……これ……」

「おいおい、こりゃビンゴじゃねえか?」

「……運悪く、だがな」


 格納庫の窓から外を覗いていた戦闘員は、皆沈痛そうな面持ちでそれを見ていた。

 赤かったはずの火星が、黒く染まっていくその様を。

 

『現在、本艦は出力最大で離脱中だ。もし追いつかれた場合は、なるべく砲撃で対処する。それで駄目な場合はエイグ部隊に出張ってもらう。頼むぞ』


 アナウンスでアーキスタの焦る声が格納庫内に響く。

 言われずとも、皆その覚悟をした表情で互いを見合っていた。


「……しかし、気になることは山積みだ」


 レイアが腕を組んで嘆息する。

 シオンとアヴィナも、頷いてそれに同調する。


「レーダーに反応せず、唐突に現れたエイグ。……そうだ、シオンの見た工場らしきモノはなんだったんだ?」

「……よく分からなかった。だけど、たぶんエイグの工場だ。格納庫らしきスペースもあったし」

「の割に、変な反応ばっかあったよねぇ。バグってたのかな? BeAGバグシステムだけに……なんつって」

「火星の環境下でエイグの機能がどうなるのかはわかりませんし、可能性はありますね。ですがそれよりも、前触れなく現れたということの方が現状として危険でしょう」

「どっから出てくるか分かんねえなら、レーダーもアテにならねえしな」


 各々が意見を述べる。しかし答えはここにはないため、幾ら考えた所で無駄である。

 そこへ、小さな足音が近づく――ミュウだ。


「みんなおかえり。採取したモノは有効に使わせて使わせてもらってるわ、ありがとう」

「ん、ああ。これくらいして当然だろうよ」

「ええ、早速重大な事実が発覚したわよ。火星の鉱石らしきモノがエイグの装甲材質と似てることが判明したの」

「それは、つまり……?」


 得意げに言うミュウに、イアルが説明の続きを要求する。


「エイグは火星で作られた。その情報は間違いではなさそうよ」

「……では、あれはやはり工場だったか」

「だとすれば、ドロップ・スターズは火星から来たのか?」

「……やはり、プレイスでは知り得なかったようですね。連合軍内では、アレは『大気圏内に突如出現した』という説が濃く、広まっていました」

「大気圏内に?」


『ブリュード』以外の全員が各々に訝しむ表情をつくる。

 そんなことは予想だにしていなかったからだ。


「その情報源が確かである、と仮定するならば――エイグを製造したモノと、ドロップ・スターズを起こしたモノは、同じ……そうは考えられませんか?」

「……むしろ、今はそうとしか考えられないわね。でも、その正体はわからない……」

「ファイドの野郎、ドロップ・スターズ以前は大人しかったが……死んだんなら、エイグを出したヤツじゃねえってことか」


 皆が黙り、思考の樹海へと迷い込みかけた時――

「あ」というシオンの何かに気付いた一文字がそれを阻止した。


「どうした、ボウズ」

「いや……工場の中で変な奴に会ったんだ。iaとか言って……シャウトエネルギーだってシャウティアは言ってた」

「シャウトエネルギー単体の生命体ってこと? 何それ……って言いたいトコだけど、見たのよね」

「ああ。なんか、俺じゃ世界を救えないとか、なんとか」

「またその話かよ……いよいよ分からなくなってきたな」

「考えるのは帰ってからでも遅くないわ。今は無事に帰ることだけを考えましょう」


 皆がミュウの言葉に頷き、小さな会議は終わった。

 それからアヴィナはミュウについていき、『ブリュード』の二人は食事をしに、残ったシオンとレイアは相変わらず黒いままの火星を眺めていた。


「……楽園だな」

「あれがか?」


 レイアの呟きに、シオンは呆れたような返事をした。

 知らない内にエイグが出現して襲われる場所が、楽園だとは思えない。


「まあ、気持ちは分かる。だが今までの地球を見れば、多くの争いで騒がしいばかりだ。それに比べて火星はとても静かだ――人が忘れてしまったのは、ああいう雰囲気なのだろう」

「……すまん、俺にはちょっとわからないな」

「構わないさ。自分でもおかしいのは分かってる」


 自嘲めいた笑みを浮かべて、レイアは火星を見つめる。

 黒く染まったそれを見つめているのはどこか、狂っているようにも見えた。


(エイグで満たされた場所、か……)


 シオンも同様に見て、彼女の言葉を思い返す。

 どこか人間らしくもあるエイグ。それが一つの星を管理しているのだとすれば?

 使命に殉ずる機械だけで文明の築かれたのだとすれば。


(……確かに、楽園かもな)


 そんな可能性はありえないだろうと払拭しつつ。

 シオンは小さな息を鼻から漏らすのだった。

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