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第16話「宇宙への翼」part-A

 それからまた、数日が経過した。

 何事もなく日々を過ごして暇を感じていたシオンは、何度か復興の手伝いをしようとレイアやアーキスタに提案したが、ことごとく却下された。

 出向こうという意志は尊重されたが、それでも戦争終結の象徴であるシャウティアは下手に人の目に触れさせるべきではない――そういう結論が下った。

 では、AGアーマーでは? 彼は譲歩を願ったが、同じ姿をしているのだから変わらない……ともかく、彼が復興を手伝うことは不可能であることが明瞭になったのだ。

 しかし、それは何も彼だけではない。汎用エイグとは外見や性能が全く異なる強化型パワードを携えるレイアやアヴィナ、それとは別の理由で――勿論と言えばそうなのだが――ゼライドとイアルも出向はできなかった。しかもそれはシオンの周囲の話であって、彼女ら以外にも強化型を搭乗機とするプレイス隊員は何人もいる。

 裏を返せば、汎用機使いはほぼ復興の手伝いに向かっているわけで――


「――やっぱり、暇だ」


 自室のベッドで寝そべるシオンは独語し、理由もなく寝返りを打った。

 鈍った体は現在では元に戻ったものの、それを使ってすることがないのだ。

 起きてからただ基地内を歩き回り、1日に3度の食事をし、入浴して寝る。

 まるでニートだ――そう、何度思った事か。

 もっとも今のご時世、そんなモノになれるほど人手が足りているわけではないから、ほぼ都市伝説化しているのだが。


(シャウティアもあれ以上情報を持っていないみたいだし、急にロックが解除された理由もわからない)


 ごろごろと転がって、落ちる途中で姿勢を変えてベッドがから立ち上がる。無駄な動きが多いのは、それだけ暇であるということだ。

 彼は部屋をざっと見回し、眉根を寄せた。

 違いすぎるのだ。

 日本支部でさえ、一般的なホテルに比べても良いと思える設備だ。

 しかし、イギリスはその上を行った。庶民からすれば、まるで王族の寝室かと思うような内装だったのだ。

 日本支部のそれはともかく、あまりに身の丈に合っていない。

 ゆえに、終始違和感を感じているわけで。


「シオン、いいかしら?」


 ノックよりも先に、入室を求める声が扉の先から響いてきた。

 まだ若干幼い声の主――ミュウだ。


「丁度起きた所だ、入ってくれ」

「いや、あんたが格納庫に来てほしいの」

「?」


 シオンは首を傾げつつ、扉を開ける。そこには当然、ミュウがいる。


「どういうことだ?」

「制圧作戦中、私がシャウティアの研究をしていたのは知ってるでしょ」

「らしいな」

「それと、前の話を聞いて気になったことがあるから、その検証もしたいの。あと気になることもあるし――どうせ暇でしょ?」

「言い返せないな。……その前に、朝食をとってもいいか」

「私もこれから食堂よ。一緒に行きましょう」


 ぎこちない微笑を浮かべたミュウは、シオンにとっては新鮮だった。

 何かいいことでもあったのだろうか?

 しかしその『意志』に『言葉』は与えず、彼はそれを心の中に押しとどめた。

 なんとなく、聞くべきではない。そう思ったのだ。

 二人は並んで歩き、食堂などという庶民的な雰囲気――シオンの偏見だが――を持った言葉などでは足りない、しかしそれ以外の言葉が見つからない場所へと赴いた。

 ずっとカウンターで注文をしていた彼にとって、バイキングというものは未だに慣れていない。

 そんな文句が吹き飛ぶくらい、美味ではあるのだが。



 食事を終えた二人は他愛もない会話をしながら格納庫へとたどり着き、シャウティアの足元で止まる。

 格納庫内では新たに作業が進められている、とシオンは聞いているが、その内容までは耳に入ってこないし、見ようにも格納庫は広すぎる上にどこでその作業が行われているのかは定かではない。

 ゆえに、あまり気にしていない。

 それよりも今集中すべきは、ミュウの話だ。


「早速本題に入るんだけど……例の情報が手に入ったのは、急なのよね?」

「まあ、そうなるか。戦後初めてのアーマー装着で、ロックが一部解除されたとか、なんとか」

「そのトリガーになるモノに、何か心当たりは?」


 鋭いまなざしを向けられ、シオンは記憶を掘り返す――しかし、それらしいモノは見つからない。

 答えがあるのならば、意識の朦朧としている、シュライ・デス・ヘルゼンスの起動前。

 そう考えるならば、シュライが起動した答えもそこにあると考えていいだろう。

 しかし何にせよ今の彼の脳内に答えは無いのだから、


「ない」


 短く、きっぱりと言った。

 対するミュウは、やっぱり、という言葉をため息交じりに吐いた。


「そこでちょっとヒントっぽいモノがあるの。これを見て」


 ミュウは白衣の内側から端末を取り出し、折りたたまれたそれを開いて画面をシオンに見せた。

 コンピュータ関連に詳しくない彼からすれば、意味不明の文字列が画面を埋め尽くしているようにしか見えないだろう。


「これ、シャウティアの情報を引き出そうとしたら出てくるのよ……わかる?」

「……う、うーん……」


 眉根を顰めて唸っていると、仕方なく、という感じで画面の一点をミュウが指した。

 そこを注意深く見ると、≪GIVE ME LORD'S SHOUT≫の文字列があることを認めた。


「主の叫びを寄越せ……ってトコか?」


 確認するように上目づかいをすると、ミュウは黙って頷いた。


「多分、ここで言う主はアンタのこと。となれば、アンタが叫べばロックは解除される――とまあ、単純だけどそれしか考えられないわ。他に主がいれば、話はまた別になるけど」

「探してる場合じゃない、と」

「そ。だから……何をしてほしいか、分かるわね?」


 期待の眼差しを向けられ、シオンは諦めたように肩を落とした。

 彼女はつまり、ここで叫んでみせろ、と言ったのだ。


「あ、念の為アーマー着けてね」

「……しなきゃダメか?」

「ダメ。ダメったらダメ」


 笑顔のまま言われたのでは、変な恐怖を感じずにいられない。

 シオンは観念し、アーマー装着を念じ、息を大きく吸い込んだ。

 そして、



「―――シャァァァァァウトォォォォォォォォォォォォッッ!!!」



 周囲にいた隊員たちは皆彼の方を向き、唖然とした。

 しばらく彼の叫び声は格納庫内に反響し、やまびこのようなモノが聞こえた所でふう、と息を吐いた。


「……これでいいのか?」

「あ、え、あ……う、ん……」


 一番の驚きを見せたのは、間近でそれを聞いたミュウだった。


「アンタ、結構声量あるのね……」

「喉の調子次第だな。……さて、シャウティア?」

≪ごめん、シャウトエネルギーはたくさん出たんだけど……ロックは相変わらずみたい≫

(ふむ)


 脳内に響く声は、謝罪の念が含まれているようだった。

 最近、こういった雰囲気の声を聞く機会が多い気がする――シオンはそう思って苦笑した。


≪でもね、少しだけロックが反応したの≫

(反応?)

≪うん……ごめん、やっぱり詳しくは分からないんだけど≫

「なんて?」

「……手応えはあったらしい。ただ、解除には至らなかった……だ、そうだ」


 シオンが代弁したシャウティアの言葉を聞き、ミュウは顎に手を当てて唸る。


「惜しいトコまでは行ってるのかしら……?」

「おそらくは。……色々試したい気持ちは分かるが、俺の喉のことも考えてくれ」

「そう言われちゃ、何もできないわね。しょうがない、私の方で調べてみるわ」

「すまないな、何かと」

「好きでしてることよ。アンタの為じゃないわ」

「シャウティアのことなら、俺のことでもある。ありがとう」


 シオンが素直に礼を述べると、ミュウはむむむ、と思索するときとは違い変に唸ってそっぽを向いた。


「そ、それより!」


 少し声を上ずらせるミュウ。いつだったか、既視感のある話題の変え方である。

 もっとも彼が気付いていないからあんまり気にしなくてもいいのだが。


「生体反応の話をしたいのよ」

「ん……レーダーとか、その辺か?」

「ええ。泣く子も黙る韓国支部の技術が取り入れられたレーダーを装備したヴェルクは、ツォイクにはできない生体反応のキャッチができるの――と、例のオニイサンから聞いたわ」


 その時だけ嫌そうな顔をしたので、おそらくゼライドのことだろう。

 まだあまり馴染めていないらしい――シオンはどちらの味方もしたいので、ただ苦笑した。


「それならちょっと前に知ったよ。それも、ゼライド(そいつ)からな」

「あら、そうだったの。なら話は早いわね――初めてアンタに接触したエイグは覚えているかしら」

「例の謎部隊か。それがどうした?」

「これを聞いて」


 ミュウは端末を操作し、再び画面をシオンに向ける。

 そして彼女の指がキーを押すと、ノイズ交じりの音声が流れ始めた。


『――死ね』

『くうっ!』


 短い二文字で、シオンはあの時の光景が脳裏にくっきりと浮かんだ。

 あの時、シエラの乗るヴェルクには、ツォイクのナイフが襲いかかろうとしていたのだ。

 対するシエラは傷ついた体でそれを辛うじて回避した。

 しかし――


『……? 生体反応? まずいな』

「!」


 シオンの目が、驚きで見開かれた。

 と言うより、後悔してすらいた。

 何故こんな簡単なことにもっと早く気が付かなかったのかと。

 そう。


このツォイクには(・・・・・・・・)生体反応をキャッチ(・・・・・・・・・)する装備があった(・・・・・・・・)――?」

「正解」


 音声の再生を止めたミュウが、悪戯っぽく笑う。

 しかし、シオンには理解できなかった。


「何で、ツォイクがそれを装備してるんだ?」

「考えられるのは、連合側が独自にその技術を有していたか、プレイスにスパイがいたか、あるいは情報が漏れたか、そのエイグの初期装備であったか――」


 ミュウは端末を閉じて、これを言いたかったと言わんばかりに胸を張った。


「そもそもツォイクでもヴェルクでもない、別のエイグか」


 シオンは目を伏せて、思索の海に潜った。

 ブラジルでの未搭乗エイグのように、連合にもプレイスにも接収されていないそれがあってもおかしくはない。

 未搭乗とは言わず、その2組織以外の組織がエイグを手にし、破壊活動に勤しんでいるとしても不思議ではない。

 むしろ、何故今までその可能性が論じられなかったのか。シオンは不思議でならなかった。

 だが――その意見にも、疑問点はあった。


「別組織の所有するエイグだとして、あのエイグは緑色だったぞ。その説明はどうなる」

「何もその意見が正しいだなんて言ってないでしょ。でも、そうね……連合を悪役に仕立て上げたかった、とか」

「微妙だな……」


 シオンが渋い顔をすると、ミュウは彼をキッと睨んだ。


「じゃあアンタはいい案あるわけ?」

「……そうだな、今は亡き国連事務総長様の私兵だった、なんてことは?」


 あ、とミュウが忘れていたことを思い出したような、素っ頓狂な声を上げた。

 否定も肯定もされなかったシオンは、それが何を意味するのかは全くわからない。


従兄アニキに言ってみる。それがまともに相手されるかは分からないけど……」

「え? あ、うん……? どうも……?」

「うん、面白い意見よ。私、好き」


 年齢相応の可憐な笑みを浮かべた彼女は、しかしすぐに何かに気付き顔をみるみる赤くしていった。


「わ、わわわ私はアンタの意見が好きってだけで、別にアンタのことなんて!」

「落ち着け、ミュウ」


 取り乱すミュウを宥めるも、彼女はシオンに怒鳴るのをやめない。

 しまいには先程よりも顔を赤く――怒鳴ったせいだろう――して、格納庫を飛び出した。

 何が起きたのかわからないシオンは頭を掻き、愛機に意見を仰いだ。


(俺、何かしたか?)

≪心当たりがないなら、シオ兄もおバカさんだね≫


 アーキスタと似たような言葉をかけられ、シオンは溜め息を吐いた。

 彼は仕方なくAGアーマーを外し、急に暇になった残りの今日をどう使おうか考えながら、格納庫を出た。

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