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第11話「紅蓮の絶叫」part-B

「!」


 ふいに、シオンは覚醒した。

 まず視界に映ったのは、冷たい床と転がったシャウティングバスタード。

 間もなくして、彼は視界に映っているはずのモノが無い事に気付く。


≪システム再起動……大丈夫、シオ兄!?≫

(なんとかな。何があった?)


 立ち上がりながら、周囲を見渡す。しかし、多少のコンテナが雑に置かれているだけで、そこには何も残っていない。


≪分からないけど、私の中に、何か入ってきて……≫

(ウイルスか?)

≪ううん、違う。なんていうか、誰かに干渉されたような……≫


 愛機の言葉は、いまいち要を得ていない。このままで埒は明かないと判断したシオンは、その話題を早々に切り上げた。

 それよりも、気にすべきことは他にある。


(……どれくらいダウンしてた?)

≪推測だけど、10分くらい。戦艦型はもう出ちゃったみたいだね≫

(それでも俺が無事なのは……バリアのお陰か)

≪うん。早く戻ってきて、すぐ上に戻ろう≫

(ああ)


 シオンはバスタードを拾って消し、来た通路を逆走して愛機の胸の中へ飛び込む。

 そこに辿り着くまでに、人は一切いなかった。


(本部を捨てる気か……?)

≪わからない。でもこの様子だと、あの人の探している人もいなさそうだね……≫

(……くッ!)


 コアが閉じると、シオンは格納庫を突き破って地上に出る。

 彼が日の光を眩く感じると、また同時にそれを遮るものがあると認めた。

 先程彼が格納庫で見た巨大な物体。

 戦艦型エイグだ。


≪レーダーに多数の反応――さっきの倍だよ!≫

(諦めたか、あくまで抗うのか……どちらにせよ、やってやる!)


 シオンは視線を正面に戻し、自らを取り囲むツォイク達を睨む。

 一々相手にしている暇などない。

 それに、戦艦型の各所から砲台のようなモノが姿を現している。


「頭を潰せば、終わるはずだァッ!!」


 バスタードを霧散させて、代わりにジェットバンカーを実体化させる。

 単純な破壊力ならば、彼の持つ武器で最も優秀である。

 その武器で行うことは、ただ一つ。


「らァァァァァァァッッ!!!!」


 推進器から溢れんばかりの炎が噴き出し、彼を勢いよく上昇させる。

 彼はその間にバンカーを構え、戦艦型からの砲撃をまともに食らおうと怯まず進む。

 全てバリアが粉砕し、傷一つ負わせないのだから。あとはシオンが止まらず推進器を噴かし続けさえすればいい。

 そうして戦艦型の翼と衝突する寸前――シオンはバンカーを前に突き出した。それと同時にボタンを片方押し、太い槍をそこに、突き刺した。

 勢いを伴ったバンカーは容易く装甲を貫き、シオンの体を固定させる。

 彼はバンカーでぶら下がり、艦橋と思しき方を向く。


「艦長に告ぐ! こちらは無駄な犠牲を出すつもりは無い! 投降しろ!」


 抑えも知らぬような叫び声で告げると、暫くの間を置いてから、中年の男の声が帰ってきた。

 彼は知らないが、フェーデだ。


『貴官に返答する。その要求は呑めない』

「……ここで、殺すと言ってもか」

『我等の命を賭けてでも、すべきことはあるのだ。我等は大事の前の小さな犠牲に過ぎない』

「――――ッ!!」


 その言葉で、シオンは一瞬だけ意表を突かれたようにはっとして、それからじわじわと怒りが湧き上がって来るのを感じた。


「何故、そこまで国連を信じる……! あんたなら分かっているんだろう、自分達がしているのは、復興などではないということを!」

『あのお方はもっと先を見通している! その為にはこの犠牲など、むしろ喜んで払わねばならない!』

「得体の知れないモノの為に犠牲を払って何になる! その先に何も待っていないのだとすれば、俺達はやり直せなくなるだけだろう!」

『貴様のような若人には分からぬ世界だ!』

「そんなモノを認めるのが大人なら――俺は大人になんてなる気はないッ!!!」


 躊躇せず、シオンはバンカーのもう片方のボタンを押し、光弾を発射する。

 それは遠慮なく戦艦型の翼を貫き、そのバランスを崩す。


『馬鹿な……力で圧倒して、世が成り立つモノか!』

「だからって! 頭ごなしに言うだけで、世が成り立つとでも思っているのかッ!!」

『子供が首を突っ込むことではないと言っている!』

「さっきから聞いてれば、子供だの若人だの! 本当に世の事を想っているなら、大人たちだけでやろうとするなッ!!」

『脳の足りぬ子供に、何が分かる!』

「少なくとも、あんたらがエゴイストだってことは分かるッッ!!!」


 1発、また1発と、シオンは光弾で戦艦型を貫き、その高度を徐々に落としていく。


『貴様らは、殺さないのでは無かったのか?』

「今更命乞いかッ!!」

『自分の言った事すら守れぬような人間に、この世界を託せるとは思っていなくてな』

「ッ、大人ってヤツは……!」


 もちろんシオンには、最初から殺す気などない。

 溢れんばかりに殺意が湧いてきたとしても、それを押し込めて命を奪わない自信はあった。

 今が、そうだ。



「――この場にいる、全エイグに告ぐッ!!」



 シオンは無事な方の翼に乗り、地上を見下ろして叫んだ。

 誰もが言われずとも、既に彼に視線を集中させていた。



「これから俺は、この戦艦型を落とす! 巻き込まれたくなければ――」



 言いながら、シオンはバンカーを振り上げる。

 そして、瞬きすら許さない速度で……突いた。



「――逃げるがいいッッ!!!」



 1発。

 2発。

 3発。

 4発。

 5発。

 連続で発射された光弾は翼に穴を開ける。

 シオンは最後にボタンを同時に押し――その場を離れる。

 それからきっかり5秒後、バンカーのボディが光った。それは、爆発を示す光。

 圧倒的な光と熱量を伴ったそれが、戦艦型の翼をとうとう破壊しつくした。


「ハァ……ハァ……ッ」


 肩で息をしながら、シオンは空中で姿勢を整えて先に着地する。

 どうやら全員が言う事を聞いてくれたらしく、戦艦型の落下コースには誰もいない。


(これで、ここは一段落か……!)

『――国連本部が無くなったからと言って、この戦争に勝ったとは思わんことだ! ハハハ、ハハハハハハハハハハッ……!!!』


 視線で追っていたそれから、フェーデの笑い声がけたましく鳴り響く。

 それが原因で湧き上がる怒りを抑え、シオンは軌道を逸らして海に突っ込んだ戦艦型を見送った。


(……シャウティア、レイアに繋げ)

≪うん――ん?≫

(どうした、早くしろ)

≪向こうが先だったみたい。Chiffonから通信要請≫

(……許可)


 よからぬ気しかしないまま、しかし無視するわけにはいかず、彼はレイアとの通信を開いた。


『シオン、無事か!?』

(こっちは粗方片付いた。どうした)

『よかった……私たちは今、ロシアに向かっている!』

(……どういうことだ?)


 シオンの記憶が正しければ、他の支部の部隊が交戦しているはずである。

 まず考えられるのは、その部隊の壊滅。

 しかしレイアが言うには、それだけではないらしい。


『理由は不明だが、ロシア・中国の全戦力がロシアに集中している! そのせいで、分散していたこちらの部隊が次々に壊滅しているんだ!』

(な……じゃあ、こっちは囮……!?)

『分からない……最後の足掻きという可能性も十分に考えられる!』

(ッ……大人しくしてればいいのに……!)


 シオンは歯ぎしりして、沈んだ戦艦を睨む。

 よく考えてみれば、肝心の国連の幹部がいないのはおかしい。


『すぐに戻れるかっ?』

(言われなくたって……!)

『お前にばかり頼って、本当に申し訳ないと思っている。こちらでなるべく数は減らしておくから、焦らなくても……』

(いい! 俺が全部やる!)

『シ、シオン? 待――』


 シオンは一方的に通信を切り、レーダーを頼りにロシア方面の空へ駆け出した。

 この時から彼に異変が生じ始めていることに、誰も気付いてはいなかった。

 一体化している、シャウティアでさえも。

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