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第10話「罪の数え方」part-A

 アメリカを制圧したプレイス混成部隊は、連合軍の本拠地がある国際連盟本部――スイスのジュネーブを目指していた。

 近くにイギリスやフランスがあるとはいえ、彼らの移動中に邪魔が入らないとは言い切れない。

 その為、いつでも出撃できるようヴェルク搭乗者は皆格納庫で待機している。


「そういえばさ、レイア」

「なんだ?」


 アヴィナが格納庫内を無邪気に走り回っているのを見ながら、シオンは窓の外を眺めるレイアに話しかけた。


「他の国はどうするんだ? ほら、ロシアとか中国とか、俺達行ってないだろ?」

「私たちの役目は、といつぞや言ったような気もするが。ほとんどの支部はそっち方面で作戦中だ。私達が国連本部を潰すまでの時間稼ぎ、勢いがあるのならそのまま制圧――という具合だが、連絡は取れんからな。どうなっているかは知れん」


 窓から視線を逸らさず、レイアは淡々と答える。

 ふうん、と曖昧に答えて、シオンは視線でアヴィナを追う。


「話は変わるが、もう一ついいか」

「構わん」

「アヴィナって、どこの出身だ?」


 ぴくり、とレイアの身体が動いた気がした。

 それから数秒の間を置いて、彼女は疲れたような息を吐いた。

 シオンはまずいことを聞いたか、と思わず彼女の方を見る。が、特に不安をあおるような表情をしていたわけではなかった。


「カナダ、らしい」

「らしいって、どういう……?」

「戦争の被害に遭った、カナダの孤児院の生き残りだ。分かったのは記憶喪失であること、身体検査で推定年齢が13歳であるということだ」


 流すように告げられた真実は、シオンの思考を鈍らせるのには十分すぎた。


「記憶喪失って……じゃあ、名前は?」

「瀕死状態だった、孤児院の主が教えてくれたんだ。と言っても掠れすぎて、本当にアヴィナなのかは不明なんだがな」

「……あいつに、そんな過去が」

「プレイスでは特に珍しくもないぞ。私やシエラだって戦争で家族を失い、エイグに助けられた。ミュウも戦災孤児になりかけていたが、アーキスタが救出したおかげでああして生きている」

「みんな、失ってるんだな……」


 レイアの言葉をかみしめるように呟き、シオンも戦争で死んだ家族の事を思い出す。

 多少の違いがあるだけで、彼も戦争で一人になったのだ。


「そんな人間を増やさないために私たちは今戦っている。違うか?」

「違わないな」


 シオンは視線で追っていたアヴィナが躓いて転ぶ、と見せかけて体操選手でもしなさそうなアクロバットな動きで床とのランデブーを回避したのを見て、苦笑した。


「覚えてなくていい記憶も、あるのかな」

「そいつが嬉しいのならそれでもいいだろう。だが、時として人は知らなくてはならない辛い真実にも直面する。その邪魔はしてやるなよ」

「……ああ」


 それなら今は、アヴィナの笑顔を飽きるほど見ておこう。

 シオンは心の中で呟き、しばらく黙りこくっているのだった。

 しかしそんな時間もほんの数時間だった。


「ッ!」


 警報が鳴り、格納庫にいた者達の思考を切り替えさせる。

 シオンを始めとする搭乗者の3人は、一様にAGアーマーを装着して愛機のコアへと潜り込んだ。

 システムを起動させ、戦場へと身を投じようとした時。シオンの耳にミュウの声が届いた。


「解析途中だけど、そいつはまだ分からないことだらけよ! 変なトコいじらないでね!」

「……言われなくても、俺の分かる範囲でやってやる!」


 牙を剥いて、シオンはミュウに言った。

 ハッチが開く。3機のヴェルクが輸送機から飛び出す。

 それは隣で飛行していた援軍からもだった。シオンはその中で、一際青いクレアの姿を認めていた。


≪多数のヴェルクから通信要請≫

(まとめて許可だ)

『――指揮はイギリス支部のクレア・ミランが執る。いいな、レイア?』

『構わない』

『よし、では全機に告げる。既にイギリス・フランス支部のヴェルクが戦闘を始めているが、強化型が多数存在する。データを送るから、色で判別するなよ』

Felmフェルムからデータ受信。ウイルスなし。開ける?≫

(頼む)


 シャウティアに命じると、彼の脳内のレーダーに映っていた点に青と赤の色が付く。


『青がプレイス、データ外のエイグは全て赤……連合軍扱いだ。間違えるなよ。

 ……では、日本支部のシオン・スレイドを筆頭として全機突撃。本作戦の目的は国連事務総長ファイド・クラウドの拘束。おそらく地下施設に避難しているはずだ、潜入の際にはAGアーマーの装着を忘れるな。尚潜入の際には必ず自機の護衛機を3機同伴させること。いいな』

『『了解』』

(ってサラっと言ったけど俺が筆頭って言った、この人ッ!?)

『筆頭と言っても、お前はいつも通り自由にやればいいだろう。私たちはそこから陣形を崩していく』


 レイアに補足のようなフォローをされるが、大した気休めにもならない。

 シオンは溜息を吐いて、右手を上に掲げた。


『では、作戦開始。対空攻撃に備えろ!』

「ジェットバンカァァッ!!」


 クレアの合図の直後、シオンはジェットバンカーを実体化させ、いきなり本体を切り離して射出した。

 奇襲をかけるのなら何であれ効果が出ればいい。現にそれは音速でも敵に捕らえられることなく地上に突き刺さった。


「――ブレイクッッ!!」


 シオンが拳を強く握ると、それに応えるようにバンカーが光り、爆破した。その爆風に巻き込まれたツォイクは例外なく吹き飛ばされていく。


『派手なインターホンだな……! アヴィナ、お前も行け!』

『あいあいさー!』


 レイアもライフルを二丁構えて連射し、地上に銃弾の雨を降らす。隣のアヴィナも同様に砲撃を降らし、地上にいるツォイクを行動不能にさせる。


『へへん、細かい狙いも慣れたモンさ!』

『では――次は周囲に気を配れるようになれ』


 静かに告げ、アヴィナの横に青い閃光が奔った。


『にゃっ!?』


 シオンも思わずそちらを向いてしまうと、そこには既に腕と推進器を失ったツォイク。

 数秒を要して、ようやくそれが空戦装備のツォイクで、クレアにやられたのだと理解した。


『先に降下する。イギリス・メキシコ支部隊は私について来い』

『『了解!』』


 日本支部隊の左右を、速度を上げて降下するヴェルクが10機ほど通り過ぎていく。

 そこへ、彼らに小さな銃弾が襲い掛かる――1機だけではないのは分かっていた。ツォイクの空戦部隊だ。


「ッ、バスタード!!」


 シオンは宙で空虚の柄を握り、シャウティングバスタードを実体化させた。素早くハンドルを握って砲身を空戦部隊に向け、数発撃ち込む。

 しかしやはり遅いのか、軽々と避けられてしまう。

 彼が苛立って舌打ちすると、視界にレイアの背後が映った。


『お前はお前の役割があるだろう。私に任せろ』

(でも、一人じゃ……!)

『私を誰だと思っている? 日本支部隊長レイア・リーゲンスだ。それに、このヴェルクをなんだと思っている? その辺の適当な翼を得たエイグとは違う。高機動型ハイマニューバエイグだ。その違いを――教えてやる!』


 ガチャリ、と彼女の両手に握られたライフルが唸る。

 その姿は空を駆ける鳥、などという在り来りな表現では足りない。そして、シフォンなどという可愛らしい名前でも似つかわしくは無い。

 それはまさに、空中でステップを刻む踊り子。


「な……んだッ!?」

『いいから、早く行け!』

「……くッ!」


 シオンは歯噛みして、アヴィナと共に地上へと降り立つ。

 そこでは、各所から声が聞こえる。

 各所から金属のぶつかる音がする。

 各所から、叫びが響いてくる。


(なんだ……これは……ッ!?)


 シオンは目の前の光景が上手く認識できず、混乱した。初めて時間が止まったのを目の当たりにした時と同じだ。

 様々な色の靄のようなモノが、辺り一面に浮かんでいたのだ。


(まるで、シャウティアと同じ……!)

『シーくん、何これ!? シアスは、無害って言ってるけど……』

(わ、分からない! ……くっ、今は戦闘が先か! アヴィナ、気を付けてな!)

『そっちも!』


 靄の正体を確かめることなく、シオンはバスタードを閉じてツォイクの部隊に突っ込んでいく。

 汎用、装甲強化型、高機動型。強化されているか否かに関わらず、彼は次々と迫り来るツォイクを行動不能にしていく。

 その途中で、シオンはふと、何かに気付いた。


(まさか、これ、シャウティアの出してるヤツと一緒……!?)


 シオンは、シャウティア(自分)が体の一部や推進器、バスタードなどの武器から同じような雰囲気のエネルギー体を見た覚えがあった。


(シャウティア!)

≪解析――何かまでは分からないけど、何かが違う。でも本質は一緒みたい!≫

(やっぱり……!)


 しかし、その正体が分かったからと言って、何を意味するのかは誰も知らない。

 いや、本来ならばシャウティア自身が知っているはずなのだが――。


「紅蓮んッ!!」

「当たるかよォッ!!」


 巨大な槍の一突きを避け、彼はまた一機、腕と足を切り落とす。


(……そう言えば、アイツらは?)


 シオンは一息ついて、本作戦が始まってから一度も遭遇していない『ブリュード』を思い出す。

 本来ならばここに来る途中で交戦してもおかしくは無かった。

 いや、他の方面へと向かった可能性は十分にあるだろう。だが、本拠地の危険に向かわないことがあるだろうか?

 戦略の知識が乏しいシオンでも、訝しむには十分だった。


(これも、考えてもしょうがないか……! シャウティア、国連本部の位置は!)

≪ここから約9㎞先。一気に突っ切って!≫

「ッ、し!!」


 歯噛みしてその間から僅かに息を吐き、シオンは時を止める。

 跳躍してある程度の高度に達したところで、推進器を噴かしてシャウティアの示した方向へと飛ぶ。

 その途中で、また靄の事で発見をした。


「なんだ、これ……これは、止まってない?」

≪この現象はこれと同じ……つまり、私の動力で発生してる。だからこのエネルギーは多分、時間操作の影響を受けないんじゃないかな……?≫


 AIなのに人間のような曖昧な答えを返され、シオンは少し調子が狂う――が、すぐに頭を切り替える。

 無害ならばそれでいい、無駄にそれに時間を割く必要は無いのだ。


「と言うか、これが俺達と同じエネルギーなら……吸収とかできないのか?」

≪多分、できない。私もよく分からないんだけど……試すことすらできなくて≫

「ふうん……」


 などと話をしている間に、彼は目的地にたどり着いた。

 白く塗りつぶされたその建物は、平和の象徴と言われることもあっただろう。

 国際連盟本部だ。


「……多少憚られるが。開けてくれ、シャウティア」


 シオンは前庭でしゃがみ込み、愛機に胸の装甲を開けるように命じる。

 そうしてコアから出たシオンはAGアーマーを装着したまま、建物の内部へと侵入する。

 そこには多くの重装備兵が待ち構えていたが、もちろんどれも止まっている。


「こんなにいたのか……」

≪内部構造まではわからないから、ひとまず地下を目指そう≫

「ああ」


 シャウティアに言われた通りにして、シオンは下へと続く階段を見つけては駆け降りた。


「……ぶち壊した方が早いんじゃ?」

≪……そうしたいなら、どうぞ≫

「なら、遠慮なく――バンカーッ!!」


 シオンは光を収束し、ジェットバンカーを実体化させる。

 それを床に突き立て、少し離れて爆破させる。

 それで開いた穴からまた地下へと潜り、また床を爆破する――その繰り返しは、5回ほど行われた。


「どれだけ深くまで潜ってる……ッ!?」

≪現在深度、推定で100m≫

「っち!! ……ん?」


 舌打ちしながら再び爆破して穴を潜ると、そこには鉄製のデスクがあった。

 そしてその上に、小さな機械。

 シオンは歩み寄り、それを手に取った。


「なんだ、これ。レコーダーか? やけに古い型式だけど……」


 じろじろと色々な角度から見ていると、急にカチッ、という何かが作動する音がした。

 シオンは思わずそれを落としかけたがなんとかキャッチし、周囲を見る。何かがあるわけではない。


『これが再生されているということは、君たちはまんまと罠に嵌ってしまったのだろう、プレイス諸君』

「……なんだって?」


 ノイズ交じりで再生されたのは、中年ぐらいの男の声。

 シオンは何を意味しているのか分からず、眉を顰めた。


『では、現時刻を以て国際連盟は国際連合に名を改める。そして次なる国連の本部は――』


 途中から追っていくように意味を理解し始めたシオンは、目を見開いた。



『――アメリカ、ニューヨークだ』



 それが何を意味するのか。

『無駄』に、他ならない。

 シオンはレコーダーを放り投げて、地上に戻りシャウティアに乗りこんだ。


(シャウティア、今の音声は録音できてるか!?)

≪うん、大丈夫。時間を戻すよ≫


 フッ、と何かが通り過ぎる感覚と共に、轟音が彼の耳に届く。


(レイア、アヴィナ、みんな! 今からデータを送る、広げられるだけ広げてくれ!)

『何だ、藪から棒に。――――っ、これは、本当か!?』

『うそん……無駄足ってこと?』

(地下まで潜って、あったのはそれだけだ。アメリカとの通信許可をくれ、レイア!)

『拒否する理由があるか! それが本当なら、ここにいていいはずがない! あそこは最低限の戦力しか備えていないんだぞ!』


 怒鳴るようなレイアの声で、シオンの焦燥感が煽られる。


≪通信…………繋がった!≫

『シャウティア……まさか、日本支部の!? だがここにはいない筈……!』

(細かいことはいい! そっちはどうなってる!)

『わからない! 突然、地下から多数のツォイクと、う、うわァッ!!』

(ッ、どうした!?)

『せ、せ……ッ、戦艦型がッ!!』


 戦艦型。

 シオンはその単語を、数回しか聞いたことがなかった。

 だがその存在の大きさが如何なるモノかは、通信相手の声から察するほかない。


『もうだめだ……守りきれない!』

(諦めるな、俺達がすぐに戻る!)

『う、うぅ……ッ……あれ、は?』


 すすり泣く声が聞こえたかと思うと、何かを見つけたような、そんな声を出した。


(どうした!?)

『ブ、ブリュードの、蒼色が……!』

(ブリュード!?)


 シオンは思わずその単語に反応してしまうが、今は話を聞く方が先だと頭に聞きかせ、黙る。


『な、なぜツォイクを撃っている……!?』

(よく分からないが、すぐに向かう! お前たちは逃げてくれ!)

『わ、わかった! こちらは少しでも――うあァァッ!!』


 ブツン、と線を乱暴に切ったような音で、通信は途絶した。

 シオンは何度も呼びかけるが、返事は無い。

 死んだ、と彼の脳が告げた。決めつけと言われようと、そう感じたのだ。


『シオン、どうだった!?』

(……戦艦型と、ブリュードが出たそうだ)

『あっちゃぁ』

(でも、ブリュードの方は何だかおかしかったらしい。味方を撃ってたとか)

『細かいことはいい、私達だけでもすぐに行くぞ、いいか、クレア!』

『いや、私達も行く。ここには最低限の戦力だけを残す。なるべく多くのヴェルクが必要になる筈……違う?』

『支部には支部で護衛機がいるか……よし、シオンは先にアメリカへ向かえ! 私たちは補給整備を行いながら最大速度で追う!』

「――了解ッッ!!」


 シオンは叫び、時間を止めてスイスから消える。

 向かうはアメリカ・ニューヨーク。

 国際連合と名を変えた組織の本拠地へ、光をも超える速度で駆けた。

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