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第9話「戦う少年少女」part-B

「――まったく、こんな時に通信仕掛けて来やがって」


 アーキスタは溜息を吐いて、指令室を出た。

 実の所、何もないわけではない。日本支部から出撃した輸送機を確認したのだろう、それをチャンスと思ったであろう中国基地からの部隊が幾度か日本支部を襲撃している。

 大した損害なく対処できたのは幸いだが、いつまでもそうとは限らない。


「さて、こっちも準備を進めにゃあな……」


 忌々しげに呟いて、彼は司令室に戻る。

 机の上には整理中のデータがホログラムで表示されっぱなしである。彼は席に座り、その整理を再開する。

 内容は、ヴェルクの改修および改造状況だ。

 中国基地だけでなく、他の連合軍が日本支部に来ないとも限らない。その対策として、彼が制圧作戦開始前から着々と進めていたのだ。

 ミュウがいないからと言って、影響が出るのは精々新装備の開発設計、およびエイグの研究である。後者は作戦中にもできるよう手配してあるので、心配なはい。


(大体は……用意ができたな)


 データ整理を行う中で、彼の目に一つのデータが留まった。

 シエラの乗る、無装備型プレイヤーヴェルクだ。ヒュレプレイヤー用、などと言っても特別な装備があるわけではなく、武器が自分で作れるから丸腰、という認識で相違はない。


(他の奴らも大方済んだな。できればシエラのヴェルクをカスタマイズしてやりたかったが……他の奴らと組ませてうまく戦ってもらおう)


 彼女のヴェルクのデータを開きながら、心の中で呟く。

 回収したツォイクの腕を使い、シエラの肩の修復には成功した。しかし元に戻っただけで、これと言った手は加えられていないのだ。

 彼女に申し訳なく思いながら、アーキスタは溜息を吐く。するとそこへ、ノックの音が耳に届いた。


「シエラ・リーゲンスです」

「どうぞ」


 アーキスタはホログラムを消して、シエラを招き入れる。


「どうした?」

「率直に申します……私を、韓国支部への援護部隊に加えてはもらえませんか」


 その言葉を聞いて、アーキスタはニヤリとした。

 彼女のヴェルクは改修しているが、彼女が戦線復帰することは認めていなかったのだ。

 だが、それは意図的だった。彼女の戦意が如何ほどか試す為に、わざと認めていなかったのだ。


「肩は?」

「大丈夫です。ハリボテの違和感は消えました。訓練も怠っていません。やれます」


 聞いていないところまで答える様子から、よほど戦いたいのだと察せる。

 だが決して餓えているわけではない。純粋に、自分も役に立ちたいと、そう思っているのだろう。


「――いいだろう。だが、死に急ぐことを許可したわけじゃない。レイアはこういう言葉を嫌うだろうが、お前を待つ者はお前が思っている以上にいる。それを忘れるなよ」

「はい!」


 シエラにその自覚は無かっただろうが、最後にさも嬉しげな笑みを残し、司令室を出た。

 それを見送ったアーキスタは、呆れとは違う溜息をまた吐いた。


(レイアの幼馴染がシオンだったなら、こんな感じだったんだろうか)


 だとすれば、レイアがああなったのは俺のせいか? ――などと考えて、苦笑する。


(……有り得ないか。あいつの問題は、もっと深い所にある)


 どれだけ憎んでも、嫌がっても消えないモノ。




 血だ。




 それから、半日が経過した。シオン達がアメリカ基地を制圧し終えた頃だ。

 作戦が着々と進んでいると正確には知らず、日本支部では韓国支部に向けた部隊が出撃の準備を進めていた。

 韓国支部は中国基地のすぐ傍にありながら、大した戦力は備えていない。だが独自に発展させた電子技術により、防御力はどの国をも寄せ付けない――のだが、ついに限界が来たのだ。

 中国基地部隊の度重なる襲撃により、無敗を誇っていた壁が崩れかけている。それが完全に崩れてしまう前に、連合軍から韓国支部を守るという作戦だ。

 今の日本支部の戦力では中国基地制圧までは行えないため、あくまで防衛が目的である。

 参加するのは、日本支部戦力の半数。奇襲に備えての判断だ。半数とは言えど、決して少ないわけではない。日本支部には、プレイス屈指のヴェルク保有数を誇っているのだから。

 とは言えど、連合軍に比べると少ないには少ないのだが。


「軍が小さいのなら自然を軍の一部としろ、と中国の偉人は言ったらしいが。当の中国は兵に頼ってばかりで地の利を生かしていないらしい」


 シオンを送ったのと同じ発着所で、シエラはアーキスタと話をしていた。

 時間に多少差異はあれど、状況はあの時と一緒だ。


「ですが、数で押すのも戦法の一つです。……まあ、だからと言って負ける気はありませんが」

「随分と強気になったな?」

「そんなこと……いえ、シオン君のお陰でしょうね。帰ってきたら目一杯感謝しないと」

「なら絶対に帰って来いよ。感謝しようとして死んじゃあシャレにもならん」

「はい、何度も言わなくてもわかってますよ。では、行ってきます」

「ああ」


 シエラは輸送機に踵を返し、夜空の彼方へと消えた。


(……結局言わなかったけど……いいよね、これくらい)


 自分のヴェルクがある格納庫で、シエラはその傍にあるコンテナを見つめていた。

 感謝すべき人に、貰ったモノを。


 ほどなくして、韓国支部が彼女らの視界に入った。

 そこを象徴する巨大な3つの電波塔は、彼らの命綱でもある。それは電子障壁を発生させる設備そのものなのだ。

 それにより通信妨害、エイグの機能を制限を可能にして対処を楽にしている。それが他国に無いのは情報流出防止と、単純に技術不足が理由として挙げられるからだ。後者は技術者を送れば解決するだろうが、今がそんなことをしている時間が無い上に、そもそもそんな場合でないことくらいは誰の目にも明らかだ。


「……ん?」


 そんな場所を眺めていると、シエラが何かに気付いた。いや、シエラだけではない。他の隊員達も訝しんでそれを注視していた。

 まるで、マズルフラッシュのような光。

 いや、まさにそれだった。


「っ!!」


 間なくして闇夜には眩しすぎる閃光が辺りを包み込み、それを視界に入れた者は目がくらみ、反射的に目を瞑った。

 しかしシエラはその一瞬前に目を逸らしたことにより、くらむことはなかった。

 危険を察知した。確かにそうだが、彼女は意図的に未来を予知したのではない。

 彼女は否定するだろうが、勘だ。おそらく、姉譲りの。

 彼女は格納庫へたどり着き、AGアーマーを纏って愛機の中へ潜り込む。


≪早速使うのか?≫


 BeAGシステムが起動するなり、シエラのヴェルクが――AIのカイトが、シエラに聞いた。

 彼女の乗るヴェルクのAIも、レイア同様に兄を模しているのだ。

 それはつまり、彼女にとって最も印象の深い人物であるということだ。


(うん。出し惜しみは無し)「――すいません! 開けてもらえますか!」


 シエラは答えると同時に、格納庫にいる整備士の男に大声で聞いた。


「大丈夫だ、既に連絡は入れてあるから、すぐにハッチは開放する!」

「ありがとうございます!」


 シエラが礼を言うと、少し不安な足取りで他の隊員たちが格納庫に押し寄せてくる。

 恐らく、まだ視界の中心で靄のようなモノが渦巻いているのだろう。


「シエラ!」

「はっ、はい! なんですか!?」


 ざわめく隊員たちの中で一際大きな声を上げたのは、彼女の所属することになった部隊の隊長だ。

 見た目は爽やかな好青年だが、実績があるからこそ隊長と言う任を受け持っているのだ。


「ほとんどはさっきの光で少しマヒしてる! おそらく、韓国支部もだ!」


 彼が現状を説明している間に、ヴェルクの固定具が外されていく。


「僕たちもすぐに行く! 簡単な陽動で構わない、君に任せる!」

「……分かりました!」


 一瞬だけ逡巡して、シエラは力強く返事する。

 ハッチが解放し、冷たい空気が格納庫に流れ込む。

 BeAGシステムでは温度までは再現できず彼女はその温度を僅かにしか知ることはできない。仮に正確に知れたとして、強い緊張でそれどころではなかっただろう。


「シエラ・リーゲンス――行きますっ!!」


 足元のコンテナを一つ抱え、シエラは空中に身を投げる。

 空中で安定した姿勢をとり、レーダーからの情報を元に着地地点周辺を確認し、ツォイク3機の存在を認める。

 韓国支部のバリアを破ろうとしている、真っ最中だった。


「兄さん、計算して、動かして!」

≪もうやったよ――今だ、投げろッ!≫

「うりゃあぁぁぁぁっ!!」


 敵にに見つかることなど微塵も気にせずに叫び、シエラはコンテナを勢いよくツォイクに向けて投げつけた。

 放物線を描くことなく直線を描き、コンテナは3機のうちの1機に直撃し、背から倒れさせた。


「何事だッ!?」

「わ、わからない! どこからか、何か……これは、コンテナ……!?」

「ま、まさかッ!」


 危険に気付き、立っている2機が闇に包まれた空を見上げた。しかし、そこには何も見えない。

 それは、闇だからというわけではない。

 本当に、もうそこには何もいないのだから。


(アクセス。コード、Courage(カーレッジ)

≪アクセス。……コード承認を確認。開放≫


 ガコン。

 仰々しい音が一度鳴って、コンテナが開く。ほぼ同時に、その中から柄が飛び出す。

 シエラはそれを握り、素早く振り払う。


「シオン君にもらった力で……私はッ!!」

「な、あの武器は!」

「情報にあった、紅蓮の武器か!?」


 シエラの姿が見えているのかは定かではないが、武器には見覚えがあるらしく、ツォイク達は後ずさっていた。

 しかし、3機のうちの誰かが声を張り上げた。


「怯むな、相手は1機だ! 押せばいける!」


 それは先ほどコンテナの直撃を受けて倒れたツォイクの声だった。彼は身を起こし、隙なくナイフを構えてシエラに突っ込んだ。

 しかし、それを易々と受けるほどシエラは未熟ではない。

 前と同じではないのだから。

 シエラはそれを僅かな動作で避け、そのツォイクを睨みつける。


「!」


 奇しくも、そのエイグは装甲が厚く強化された装甲強化型アーマータイプであった。

 彼女の脳内で、惨敗した時の映像がよみがえる。

 あの時はシオンがいなければ、とうに彼女は死んでいた。

 だが。


(私は強くなった。それに今は、あの時ほど味方は少なくない)


 驕りと言われればその通りだ。

 しかし、彼女にはそう思わせるだけの要素をその手に握っていた。



 シャウティングバスタードを。



「わああぁっ!!」


 無駄な声が多いと、もし傍にレイアがいたら言うのだろう。

 しかし止める者がいないのだから、彼女の叫びはどこまでも響き渡る。

 気合を込めた一撃が、唸る。


「ぐあぁッ!!」


 身を屈めて懐に飛び込み、切り上げて腕を一つ落とす。そして振り上げた状態からバスタードを振りおろし、足を切り落とす。

 それで既にバランスは崩れ、一機が倒れ込む。追撃でもう片方の腕を切断。


(これで、動くことはできない――あと、2機!)


 シエラは悲痛な叫びを聞き流し、すぐに次のツォイクへ視線を移す。

 怯えている様子が手に取るように分かった彼女は、遠慮なく腕と足を切り落とし、また1機行動不能にさせる。

 この調子でいけば、残りの装甲強化型もすぐに同様にできるだろう、と彼女は思わなかった。


(装甲強化型は関節まで覆ってる……狙えるのは、脇と内側の肘、膝、手足首……)


 狙いは定められていても、いざ攻撃するとなるとかなりの精度が要求される。

 今のシエラでも、その力があるか怪しかった。

 だが、他の味方には任せられなかった。

 任せたくなかったのだ。

 自分勝手だが、彼女は自分の過去と決着をつけたかったのだ。

 いや。


(私が戦えなくなった理由は……潰すっ!!)


 復讐心にも似た感情が強かったのだ。

 無力感を感じる原因となった。それを潰す。

 相手からしてみれば迷惑だろう。だがそれを差し引いても、二人には敵同士という関係がある。

 要するにシエラはその関係を利用して、復讐しようとしているわけで。


「やあぁぁっ!!」


 しかし、闇雲に切りかかっても装甲に傷がつく程度。切り落とすまではかなわない。


(――だったら、隙を誘う!)


 シエラは一旦距離を取り、肩から力を抜いた。

 それは相手から見れば、どう見ても隙だらけの状態だ。

 普通は罠と考えるのだが――シャウティングバスタードを持っているというだけで、相手は平静を失っていたらしい。まんまとその隙を狙い、ナイフを突き出してきた。


「そこぉっ!!」


 シエラは息を短く吐き、バスタードを素早く振った。それは脇から腕を切り落とした。

 勢いそのままに背後に回ったシエラは、身を屈めて膝を狙った。

 振り向きざまに薙いだバスタードによって、両膝が切り裂かれた。

 自重に耐える術を失った装甲強化型は倒れ、ピクリとも動かなくなる。


「はぁ……はぁ……っ!」


 肩で息をして、シエラは認めた。

 自分はようやく、独力で勝利を得ることができたのだと。


 味方が彼女の援護に来たのは、それから間もない事だった。

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