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第9話「戦う少年少女」part-A

 格納庫の窓から日の沈み始めた空を眺めながら、シオンは次の目的地の事を考えていた。

 アメリカ。彼の出身地であり、連合軍にとって守らなければならない国の一つである。

 歴史を遡ろうと、アメリカの軍隊が弱弱しく映った時などない。しかしそれは偽りの平和を手にした人間にとって、あまり快く聞けるモノでもない。

 その強い力で、一体何人の命を奪ったのか? シオンにそう問いかけてくる者は、決してゼロではなかった。

 眉根を寄せて過去を思い出す彼の下に、レイアが歩み寄る。


「そういえば、お前の出身地はアメリカだったか」

「生まれてすぐ日本に来たから、ほとんど知らないんだけどな」

「そうか、なら余計な情がなくて楽だな」

「まあ、そうだな……」


 シオンは窓からレイアに視線を向け、短く息を吐いた。


「何を悩んでいる?」

「いや……まあ、俺の出身ってこともそうだけど。シエラ達は大丈夫かなって」

「まだ数日だ、奴等もすぐには動けはしまい……と言いたいところだが、私達が出払っていることが知られていれば、攻め込まれていてもおかしくはないだろう」

「むう……」

「どったの、そんな変なカオして」


 そこへ、いつもと変わらず明朗なアヴィナが駆け寄ってくる。

 戦ってばかりの彼にとって、常に笑う彼女は数少ない癒し(?)になりつつある。


「いや、日本支部は大丈夫かなって」

「あー、この距離だと通信し辛いしねぇ。しかもアメリカ近いから、内容ダダ漏れになりそうだし」

「ダダ漏れでも、内容を考えればいいだろう。日本支部に中国基地なんかの動向を聞けばいい」

「なるほどー。んじゃちょっと聞いてみよっか」

「え……どうやって?」


 見た所誰も通信機器の類を持っていない。シオンはそれで訝しみ、首を傾げた。

 するとアヴィナは親指を立てて、シアスやシフォンを指差した。


「エイグって便利なんだよん。っても、出る前に発見されたばっかなんだけど」

「ってことは、ミュウ達のお陰か。あとで感謝しないと」

「そんじゃ、乗ってみよー!」

「どうせこれから出撃だしな。早く乗っていても問題あるまい」


 そういうわけで、各自が愛機に乗り込んだ。


≪Chiffon、Ciasから通信要請≫

(許可)

『よし――そんじゃ隊長さん、おねがい』

『ふむ……AI任せでいいのか。日本支部にアクセスできるか、シフォン』

≪3機同時だな。少し待ってくれ――――と、これでいいだろう≫


 僅かな時間の後、シオンの脳内に淡く青に光を発する黒いモニターのようなものが出現した。

 何か映るのか、と彼が感覚的に覗き込んだ時。

 そのモニターに、司令室が映り込んだ。

 そこから見えるオペレータ達は、皆ぽかんと口を開けている。


『え、ええと……レイア、さん?』

『エイグの解析が少し進んだらしくてな、軽い実験を兼ねた情報共有を行いたい。ラルはいるか』


 恐る恐るといった様子の女性に、レイアは何食わぬ口調で問う。

 女性はすぐに何か端末を操作して、『すぐ来ます』と告げた。

 それから間もなくして、指令室の扉が乱暴に開いた。


『どうし……ってなんだコレ!? レイア!?』


 一体向こうから自分たちがどのように見えているのか分からないため、シオンは少しむず痒く感じた。もしかしたら思考が筒抜けになっているのかも知れないからだ。


『説明が面倒だが、エイグの機能らしい。ところでラル、中国基地で動きはあったか?』


 画面の奥にいるアーキスタは顎に手を当て、しばし思案してから口を開いた。


『……いや、そんな報告は受けていないな。韓国支部で戦闘があったわけでもないし』

『嵐の前の静けさか、はたまた、ただ動けないのか……どちらにせよ、警戒は怠るなよ』

『言われなくても。そっちはどうなんだ?』

『と、そこまでは言えんな。漏えいの可能性も十分に有り得る』

『ふむ、その通りだな。まあ頑張れ』

『ほいさー』『『お前もな』』


 各々が返事をして、短い通信は終わった。

 シオンは初めての体験で緊張していたためか、思わずため息が漏れた。


(いつものテレパシーみたいな感じなんだな、この通信も)

『思考は言葉ではないが、AIはそれを言葉にできる機能でも備わっているのだろう。でなければこのように会話もできまい』

(わかるような、わからないような……)


 シオンが腕を組んで首を傾げ、隣にいたアヴィナも同じポーズをとる。

 ヴェルクに乗っているのに緊張感のない二人。そんな彼らに思い出させるように、警報が鳴り響く。


「……ひとまず、日本支部が大丈夫なようで安心したよ」

「ラルが変な気を利かせていないといいんだがな」

「実はもうそこまで攻めて来たりしてねぇ」


 縁起でもないことを言うアヴィナだが、真偽のほどを確認する暇はない。

 開放されたハッチからレイアとアヴィナが飛び出し、それに続いてシオンも空中に身を投げる。


『作戦はいつも通りだが、米軍が素直に投降してくれるとは考えられない。ツォイクを有する基地が一つしかないのはありがたいことだが……規模は今までのモノとは桁違いだ。長期戦を想定し、できるだけ無駄弾は避けろ。いいな?』

(了解)

『りょーかーい』

『こちらの投降勧告が可能なのは司令塔との交信が可能になった場所だ。それより先に迎撃された場合、制圧を開始する。武器はまだ構えるなよ』


 レイアの言葉をよく聞いて、シオンは遠くに見えるツォイクを注視する。すると彼らに気付いたのか、焦った様子でライフルを構え、シオンに弾丸を贈った。

 しかし当然のように、それは細かく砕かれる。


『では始めるか。シオン、まず着地地点周辺の敵を狙撃しろ』

「けっ、狙撃は苦手なんだけどな……!」


 空中で姿勢を整えて、シオンはパイルスナイパーを実体化させる。その銃口を下に向け、スコープを覗き込む。


『AIの補正があるだろう』

(ちょっと黙ってろ! シャウティア、もうちょっと見えないか!?)

≪こっちで補助するから、それで我慢して。誤差修正――撃って!≫

「当たれよッ!」


 弾丸に願いを込めて、シオンは引き金を3度引く。

 それらは瞬く間にツォイクの両腕、片足を貫き、機能を停止させた。

 すぐさま銃身を動かし、次の標的も同様に撃ち抜く。

 それを4度繰り返して場所を確保し、3人は基地に勢いよく降り立った。


「どれだけ出て来ようと……負けるかよ!」

『アヴィナは後方支援、私は主にアヴィナと行動するが、状況に応じてシオンの援護にも回る。シオンはひたすら突撃だ。ああ、シオンには必要ないだろうが……そう遠くない内にイギリス・メキシコからの援軍も来るから、今は耐えろ。いいな』

『ほいさっさ! んじゃ行っくよぉ!』


 アヴィナの肩にある大口径キャノン砲が火を噴き、戦いの火蓋が乱暴に落とされた。

 シオンは自分以外の全ての視界から消え、動きの止まったツォイクの四肢をバスタードで切断していく。

 見つけた傍から同じようにしている彼だが、流石に焦りを感じた。

 未だ出撃していないツォイクは何機もいるだろう。しかし。


「全く減らない……ッ!!」

≪このままだと斬られたツォイクが邪魔だから、一旦戻すよ≫

「ああ。……ディスシャウト」


 静かな言葉を合図に、時は再び流れ出す。

 シオンに斬られた多くのツォイクの口から絶叫が溢れ、重心を失ってその場に倒れ込む。


『こうして見ると、えげつない事をしてくれる』

『ボクらの仕事が無くなっちゃうよぅ』


 そう言いながらも、彼女たちも多くのツォイクを行動不能にしている。

 しかし格納庫から出撃するツォイクの数はそれを上回る。対処にはそれなりの力を要し、シオン以外には決して容易ではない。


『流石に多いな。だが今は耐えるぞ』

(分かってる。任せろ)

『無理しないでねん』

(言われなくても)「――シャウト!!」


 シオンは叫び、再び高速でツォイクを行動不能にしていく。そしてある程度そうすると、次の出撃を待つために時を流す。ツォイクが出撃すると、また同じようにして行動不能にしていく――

 同じことを何度も繰り返すうちに、シオンの感覚は麻痺しかけていた。


「ッ、どれだけ湧いてきやがる……!」

≪レーダー上にはまだ多くのツォイク反応がある。きりがないよ、シオ兄!≫

「!」


 初めてはっきりと聞いた愛機の弱音は、シオンに在りし日のリアを想起させた。

 声も、正確も本人を真似られている。

 それが大きな原因だろう。シオンは心の奥底で――兄としてのプライドにも似た何かが燃えた。


「妹の前で……弱音は吐けないな……ッ!!」


 シオンは自分を奮起し、バスタードをもう1本実体化させ、強く握った。

 二刀流だ。


「いくらでも出てこい……『紅蓮』が相手になるッ!!」

「一斉にかかれッ!!」

「「オオォッ!!!」」


 隊長らしき男が長剣を振りかざすと、四方八方から格闘武器を持ったツォイクが襲い掛かる。

 1機ずつ相手にするより、対処は面倒だ。それはシオンとシャウティアにとっても例外ではない。

 だが、手段そのものが同じであれば、1機にかける力はさほど変わらない。短時間に扱う力の合計が変わるだけだ。


「うらァッ!!」


 両腕を大きく開き、展開したバスタードの砲身から光弾が連射される。

 それらはやはり乱暴に見えるが、正確に的を射ている。

 巣に危険を感じた働き蜂の大群が、一匹ずつ丁寧に動けなくなっていく。一人の人間と、それを乗せた1機によって。

 動けなくなったツォイクを蹴り飛ばし、彼は小さな包囲網を突破する。

 そしてふと空を見上げると、10つほどの影が太陽の光を遮っていた。

 シオンは視界の映像を拡大し、その正体を確かめる。


「! あれは……」

Felmフェルムから通信要請≫

(許可!)

『通信の応答に感謝する。私はイギリス支部隊のクレア・ミランだ。日本支部隊のレイア・リーゲンス、アヴィナ・ラフ、シオン・スレイドで相違ないか?』

『ああ。私が隊長のレイアだ』


 脳内に響いたのは、レイアに似た雰囲気を持つ女性――クレアの声。

 その声の主が乗っていると思われる、巨大な斧を担いだ青い細身のヴェルクがシオンの前に着地した。そのほかのヴェルクと思しき数機のエイグは早速戦闘を始めている。


『少数部隊にも関わらず本当に南米を解放するとは驚いた。ところで、君がシオンか?』

(あ、ああ)

『そうか、話は聞いているし指示も滞りなく通っている。要は手足を使えなくすればいいのだろう?』

(そう、だけど……おっかないな……)「あっ」


 通信時であるため自分の思考が漏れていることに気付き、シオンはしまったと思った。

 しかしクレアは微笑み、シオンを咎めることはしなかった。


『よく言われる。さて、無駄話もできまい。行くぞ』


 最後の一言と同時に斧を振り上げ、彼女のヴェルク――『フェルム』が地を抉って飛び出した。

 荒々しい動きだが、動きに無駄は無い。見た目からして重量感のある斧を振り上げるその様を見ると、とても質量があるようには見えない。

 要は――速いのだ。


≪あのアックス、スラスターがついてる≫

(道理で……!)


 シオンは心強さを感じながら、戦意を更に回復させた。



 それから間もなくしてメキシコ支部隊も到着し、アメリカ基地の制圧は予定より早く終了した。

 しかし、レイアやクレア、シオンはその結果に訝しんでいた。

 連合軍屈指の戦力を誇る筈のアメリカの基地が、こうも簡単に落ちるだろうか?


 制圧成功に喜ぶ仲間たちの中で、彼女らはそんなことを言えはしなかった。

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