第6話「私にできるコト」part-A
シオンがミュウに、自らの振るう武装の案を渡してから、半日と少しが経過した。
明朝から自然に目が覚めた彼は、二度寝する気にならないので顔を洗い、着替えてから食堂に行こうと思い――
「おはよう、シオン」
「くたばれ、レイア」
――さも当然のように部屋にいるレイアに、罵言を浴びせた。
「なんだ、朝っぱらから酷い奴だな」
「寝る前に鍵はかけたぞ! なんで入ってんだよ!!」
「私はラルにマスターキーを預けられていてな。好きな時に入れる」
「プライバシーなんてねえじゃねえか!」
さらっととんでもない事を言う彼女の手には、それらしき鍵が握られている。
それならミュウにレポートを勝手に提出したのも頷けるだろうが、もちろん彼に納得はできない。
「別に盗まれるほどのモノもなかったぞ。このご時世仕方ないとは言え、少しくらい我儘を言っても良いんだが」
「お前に盗まれるために我儘言ってたまるかよ……」
「誰も私が盗むとは言っていないぞ、人聞きの悪い。まあ、お前がそう言うならいいだろう」
起床して僅か十数分。既にシオンは疲労感に苛まれていた。それだけ彼にとって――おそらく彼以外にも――レイアという存在は頼もしくも扱いの難しい、いやむしろ扱おうとするのが愚かな存在なのだ。
「ひとまず朝食だな。私も付き合おう」
「えー……」
「そんなに嫌な顔をされてもな。どうせあとで会うことになるんだ」
「……ん?」
シオンの表情が、苦味を全面に出したものから悩ましげなそれに変わる。
レイアの口ぶりから察するに、彼女はシオンが今日何をするのか知っているのだろう。
となれば、彼女はミュウの言うところの「プレイヤーちゃん」なのだろうか? そんな疑問が生まれた。
が。
「レイア、お前ってヒュレプレイヤーだったっけか?」
「いいや私ではない。……そうか、お前は知らないんだったか。さして隠すほどの事じゃないが、奴は今頃喜んでいるだろうな」
「???」
頭上に疑問符を浮かべても、レイアは微笑するばかりでそれ以上は何も言わず、先に部屋を出た。そこに突っ立っているわけにもいかないので、シオンは慌てて彼女について行く。だが慌てすぎたのか、施錠を忘れていたことを退室して数歩歩いて気付き、急いで施錠した。
レイアがマスターキーを持っているから、それに意味があるのかは定かではないが。
「ああ、そうだ。例の武装運用の試験だが、アヴィナも参加する。まあ、見るだけだがな」
「……訓練とかいいのか?」
「同じ作戦に参加する仲間の武装くらい知っておいて、何の損も無かろう。それに、こちらからアドバイスできることがあるかも知れん」
「まあ、その辺は任せるけどさ。……お前らのアドバイスが通用するかどうか……」
「何だ、そんなゲテモノ武装を作ったのか?」
驚くように、あるいは期待するように少し声を大きくするレイア。
少なくとも、シオンの知る限りではこの基地に存在するどの武装よりもゲテモノだ。
シオンは眉を顰めながら頷く。
「まあ、他にも色々あるだろうけどさ……」
「私もまだ見てはいないんだ。楽しみにしているよ」
「……期待を裏切らないか、心配だな」
そう言いつつ、ひとまず二人は食堂へと向かうのだった。
◆
「ん……ミュウか? どうしたんだ、こんなところで」
格納庫前にいた小柄な少女に、そこに到着したシオンが声をかける。
ミュウは眠たげな細目で彼を見る――というか、睨みつけているようにしか見えないだろう。
「アンタとその他諸々を待ってたのよ。こんな顔だけど怒っちゃないから安心なさい」
「お、おう……」
そうは言えど、眉も若干吊り上って不機嫌なようにしか見えない。
そんな彼女の顔を見て、レイアが少し噴出した。
「なによ」
「レディの自覚があるならもう少し外見に気を使え。それじゃあまりに……ぶ、酷い顔だ」
「……シオン、私そんなに面白い顔してる?」
今度は本当に不機嫌そうだ。シオンはそれに圧されるも冷静に頭を回し、彼女をこれ以上怒らせない言葉を選ぶ。
「……面白いわけじゃないけど、折角の顔が台無しだな」
「っ!」
「ひゅう」
赤面するミュウ、口笛を吹くレイア。
自分の言葉で二人がどうしてそうなるのか――いまいち理解できないシオンは、間違えたかと慌てて脳内で弁解の言葉を探す。
「中々言うじゃないか。私だったら落ちていたかも知れん。なあ、ミュウ?」
「バ、馬鹿言ってんじゃないわよ! はんだコテで殺すわよ!」
恐ろしいがわけの分からないことを言っているのは確かである。
「ま、まあ落ち着けよ。その様子からしてまともに眠っちゃないんだろ?」
「言ったでしょ、一刻も早くアンタの武器が必要なの。これが終わったら、すぐ寝るわ」
「……お前がそう言うならいいけどさ。無理はするなよ」
「わかってるわよ」
言って、ミュウは明後日の方を向く。そんなに自分に顔を見られたくないのかと思い、シオンは少し残念そうにした。
本当は怒っているのではないか? 今、既に不機嫌なのではないか? と。
だがそれ以上言葉を繋げることはできず、シオンは押し黙る。
と――そこへ、アヴィナとシエラがやってくる。
「おはよう、シオン君」
「やほー。みんなおっはよー……って、あれれ? ミュウの顔凄いことになってるよん?」
「……私の顔はいいから。とにかく、これで揃ったわね」
「へ?」
いつものメンバーが揃っただけじゃないかと、シオンは思った。
そこに補足を加えるように、ミュウが向き直って口を開いた。
「知らないんじゃしょうがなかったわよね。シエラはヒュレプレイヤーなのよ」
「な、なんだかごめんね。隠してた感じで」
「いや、それはいいんだけどさ」
「まあエイグに乗るわけじゃない、能力の使い方を教えるだけだ。それなら特に負担は無いし、何より――」
「私がそうしたかったの。私にできるコトを、できるときにしておきたいって」
安堵したような表情で、シエラはシオンに告げた。どこか嬉しそうにも見える。
それを目にした彼もまた、心が暖まる気がしていた。
「そう言うなら、お願いするよ」
「うん、私にできることなら、なんでも言ってね!」
「聞いたかシオン。今なんでもと言ったぞ、なんでもと言うからには――」
「お前ちょっと黙ってろ」
良い空気も台無しにされたところで、武装の試験が始まった。
シオンとシエラ以外の三人は少し離れ、二人は向かい合って立った。
「まずAGアーマーを装着して、頭の中に武装のデータがあることを確認して」
「分かった――はっ!」
シオンが息を吐くと、肌から鎧が吐き出され装着される。
次いで思い出すように脳内を探ると、それらしきものはすぐに見つかった。
≪武器の実体化だね?≫
(ああ、補助を頼む)
≪うん。――って言っても、することほとんどないんだけどね≫
「じゃあ、まず……えっとシャウティングバスタード? から」
「合ってるよ。えーと……こうか!」
何があるでもなく、シオンは力いっぱい開いた右手を前に突き出す。相撲の張り手のようだ。
すると間もなく彼の手の前に光が集まり、剣を模り始めた。やがて光は消え、シオンの手に剣が握られる。
「おお、出た」
「正確な出し方っていうのは決まってないけど、出したいモノの名前を出すのが一番正確って言われてる」
「……それって戦闘時にしたら戦略とかバレバレなんじゃ?」
もっともなツッコみに、ミュウが答える。
「そこはお任せするわ。一応解説しておくと、自己暗示で一瞬だけその事だけを考えることによって、アラのない完璧な実体化ができる、ってワケ」
「なるほど……まあ、今はコイツの試験が先か」
カチャリ、と音を鳴らしながら、シオンは剣先を上に向ける。感じたことのない重みと柄の形にまだ慣れていないのだ。
それだけでなく、剣の造形も見ていた。
長細いハンドルの付いた柄には、人差し指の来る辺りにトリガーと思しきスイッチがある。そしてその柄と一体化している白い刀身と、その半分くらいまで伸びる、剥き出しの砲身。円柱のような形ではなく、やや角ばっている。
「ごちゃごちゃしているな。銃剣か?」
「そんなトコね」
「でも、あれじゃ撃てそうにないよ~?」
「鋏みたいに開くんですって。ほら、開いてみなさいよ」
「……いや、どうやって刀身開くんだ、これ」
刀身を見ながら問うシオンに、ミュウは疲れた溜息を吐いて頭を掻いた。
「そこのハンドル握って。あんまり力はいらないはずだから」
「ん、これか――――うぉっ!?」
軽く押し込むように握ると、瞬く間に刀身が真っ二つに割れた。同時に真っ二つになっていた砲身も合体し、完成する。
「刀身は100度くらい曲がるようになってるから、向きには気をつけなさいよ。でまあ、アレで銃形態ってトコかしら。的はあそこにあるから、軽く撃ってみなさい」
ミュウの指差した方を見ると、白い円の描かれた混凝土の巨大な壁があった。何かに使うモノだと思っていたシオンだったが、このためだとは思ってもいなかった。
「っと、こうか? ――ッ!!」
バスタードを水平に構え、柄のトリガーを引く。すると砲口から鮮やかな緑色の光が飛び出し、一瞬にして壁を粉々に砕いた。
その反動と威力に、シオンだけではない。皆が唖然としていた。
ただ一人、ミュウだけは満足げに頷いていたが。
「実の所、コレに一番時間かかったの。シャウティアの推進器を解析して、試行錯誤を繰り返して、ようやく動力と思しきモノと同じエネルギーを打ち出す機構が作れたのよ!」
(……そんなことしてたのか?)
≪ちょっとだけ、私のできる範囲でデータを提供したの≫
「よくそんなことができたな。シオンのシャウティア、というエイグは謎に包まれていたのではなかったのか?」
「真似事ならできるわ。私達でもエイグの形や内部構造自体は作れる。AIが作れないだけなのよ」
「……なるほどな。いやしかし、凄まじい威力だな、これは」
「シアスより強そうだねぇ。ボク要るの?」
笑顔のままで、アヴィナがミュウに聞いた。攻撃力を重視した「シアス」に乗る彼女にとって、ライバルに等しい存在に思えたのだろう。
「ヒュレ粒子の濃度に影響されないという強みは不変よ。それにあれだって、レールガンよりちょっと強いくらいの威力じゃないの。そんなのいくつも積んでるんだから、心配はいらないわ。……ていうかそもそも、役割が違うんだから」
「やははー、それもそだね~」
納得したところで、シオンがもう一度ハンドルを握り刀身を戻す。
そこで、硬直した。
「……ええと、シエラ。出したモノは消したりできるのか?」
「あ、うん。自分が出したモノならね。これはなんというか、人によって違うんだけど……消える、っていうことを武器に命令するようにしてみて」
「武器に、命令?」(――消えろ!)
言われたとおり、シオンはバスタードを睨み、念じた。するとそれは再び光に包まれ、間もなく霧散した。
「次に、ジェットバンカー……だね」
「分かった。――ジェットバンカーッ!!」
シオンがその名を叫ぶと、また手の前に光が集まり、柄のついたロケットを模った。
「若いな」
「恥ずかしくないのかなぁ?」
「うるせぇよ! 試しただけだろ!」
「あーもう、コイツらに付き合わなくていいのよ。ひとまず動作確認をお願い」
「……おう」
シオンは呆れの息を吐いて、柄を確認する。バスタードと似たそれには、同様にスイッチがついているが……バスタードと違うのは、二つあることだ。
「左側にある、人差し指で押すのがバンカー射出用。でもって中指で撃つ右側は銃弾発射用。分離するロケットは5秒で爆発するように設定しておいたけど、ここでやるのはやめてよ?」
「またとんでもなさそうなのが出てきたねぇ」
「ふむ……よっ、と」
ミュウの説明を聞いたシオンは、人差し指でスイッチを押す。するとそれに連動した巨大な針が、轟音と共に回転式弾倉の中心部から飛び出す。
彼はこれだけでもかなりの衝撃を受けている。物理的にも、だ。
しかし、また硬直する。
「……銃弾のリロードは? というか火薬は用意できるのか?」
「心配しなくても、用意なんてできてないわ。だからそれも、バスタードと同じ原理よ。だから実際は銃身一つでいいんだけど……まあ、少しくらい遊び心があってもいいでしょ?」
「一発一発があの威力か、恐ろしいな」
「てことは、ロケットもこのエネルギーで?」
「そうなるはずだけど……そうね、上なら問題ないでしょ。とりあえず念の為2,3発撃ってみて」
「ん、と……中指か――ッ!」
バスタードのそれよりは小さいが、それでも強い反動が数回、彼を襲う。しかし、それに見合った威力の光弾は迷うことなく上空の彼方へ消えた。
「まあ、そんなトコね」
「は、いいんだけど……これって、もしかしなくても杭で相手とバンカーを固定してないと発射できないよな?」
「ええ、その通りよ。だから地面に上向きでおいて、下に押せばいいわ。あ、ボタン同時押しね」
「え、と、こうか……せいっ!」
気合を込めた一声で柄を下に押しこむと、小さな地鳴りの後、ロケットから柄が離れ、推進器から緑色の炎を噴出しながら急速に空の彼方へと飛び去った。
そして間もなく、同じ色の爆発が昼間の空に僅かに広がった。
(……あんなこともできるのか?)
≪私がちょっと操作してるの。圧縮したエネルギーを暴発させて、バンカーごと破壊するの。だから火薬要らずってこと≫
(凄いな、全く)
≪それは私じゃなくて、あの子に言ってあげて≫
「――ありがとう、ミュウ。ここまで作ってくれるとはな」
シオンは柄を消し、率直に礼を述べると、ミュウは目を伏せて笑った。
「礼は早いわ、実戦でちゃんと使えるかは不明だもの」
「と言っても、そう簡単に試せるモノでもない。というか、試す必要は無いと思うがな」
「それはともかくとして……あとは、そうね。もう一つ、狙撃銃が――」
と、ミュウがシオンに言っている最中。
基地の中に響く、けたたましいサイレンの音が皆の鼓膜を激しく揺らした。
「「ッ!」」
「話の腰を折るとはいい度胸ね。シオン、ここに連れて来なさい。痛い目見せてやるわ」
「……! ああ、了解だ。だから、お前はちょっと休んでろ」
「そうさせてもらうわ」
「じゃあ今回はボクが着いてくよん。いいでしょ隊長さん?」
「構わんが、ラルから話を聞いてからだ。だが準備はしていろ」
頭を切り替えたシオンは愛機の下へ飛ぼうとして、ふと、その足を止める。
「シエラ」
「な、何かな?」
「お前のおかげでまた、強くなれたよ。些細な事なんて思うことは無い。ありがとう、シエラ」
「……ううん、こちらこそ。気を付けてね、シオン君」
「ああ!」
ニッと歯を見せて笑い、シオンは推進器を噴かして格納庫に入る。
「青春だねぇ」
すれ違ったアヴィナが、そう呟いていたとも知らず。
矛を手にした少年は、再び戦場に立つ。




