第5話「シャウト・ウェポンズ」part-C
中国のどこかにある、連合軍基地。
本部・スイスから遠く離れてはいるものの、その広大な国土を利用した基地の規模は、最大のロシア基地に次ぐ面積を誇る。
面積の広さは単純に、設置できる格納庫の数に比例する。つまりここには連合軍の所有する多くのエイグが保管されているのだ。
そんな巨大な基地の中、装甲車が行き交う道路の隅を二人の男女が歩いていた。
無精髭に刺々しいオールバックの髪の男・ゼライドと、黒い長髪と赤い縁の眼鏡をかけた女・イアル――『ブリュード』の2人だ。
日本支部への襲撃任務を失敗した2人は今、上官から小言を浴びせられたすぐ後で、あまり気分が落ち着いてはいない。
ゼライドの方は、特に。
「ンなバケモンどうしろってんだよ、なぁ、イアル?」
隣を歩く女に話題を提供すると、彼女は表情一つ変えずにただ顎に手を当てた。
「そうですね。アンジュからの視界映像を解析しましたが、あれは物質がそれ単体で出せるようなスピードではありませんでした。スピードという表現が正しいのかすら怪しいですが」
抑揚のない声で、イアルは淡々と語る。決して面倒くさがっているとかそういうことでないのは、これまでの経験からわかってはいるのだが、自分と対照的な性格ゆえ、彼は未だに彼女に慣れない所がある。
が、不思議と感じる安心感が、今こうしてペアを組むきっかけにもなっているのだ。
「ありゃあ瞬間移動とか、あの辺の類だろうな。っても、そんなんあるわきゃねえしよ……」
「現代はドロップ・スターズやエイグ、それに搭載されたBeAGシステムといった、謎に包まれたものばかりなのですが」
「こまけぇこたぁいんだよ」
「……? そうでしょうか」
コクン、と小首を傾げるイアル。その動きに合わせて黒髪も揺れる。
「ともかく、アイツのおかげでこっちゃ下手に動けない状況だ。瞬間移動が本当なら、どこにだって現れるはずだからな」
「おまけに私達を退かせた力を持っているわけですしね――単機で」
「………」
単機。そう、単機だ。圧勝に収まりかけた2対2の戦いを、たった1機のエイグが参加した程度で戦況が一転してしまったのだ。
突然その場に現れて自分を殴り飛ばすという、摩訶不思議な攻撃で以て。
(しかも、ヴェルデに――)
「そういえば大尉、お体に異常はありませんか?」
「ありゃあとっくにベッドの上さ。お前と一緒でもいいんだが」
「ご遠慮します」
軽口に対し、当然のように返される冷たい言葉。
だが、それは彼が自分の考えていることを誤魔化すためだとは、彼女は知らないのだろう。
(傷一つ負わせずに、だ)
あの日、彼は久しく感じていなかったそれに襲われたのだ。
恐怖に。




