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第5話「シャウト・ウェポンズ」part-B

「そういえばさ」

「例のレポートならレイアに受け取ったわよ」

「何故だレイアアァァァ!!?」


 疲労で気が狂ったのか、シオンは抱えた頭をデスクにぶつけた。同時に鈍い音が室内に響く。


「……まあ、持って来たのがアンタじゃない時点でそんなことだろうと思ってたけど。ほら、時間が無いって言ったばっかでしょ。さっさとやりなさい」


 ――状況を話すと、以下の通りである。

 まずシオンが意気込んで武器のデザインを始めたまでは良かったのだが、思うようにいかず段々と飽きが迫り、なんとか休憩する手段がないかと思案したのである。

 それで、前にここに来た時ミュウに出された、レポートの課題をまだ出していないことに気付いた。

 彼にとって、目論見が容易く打ち砕かれたのはそうなのだが……何より、レイアが既にそれを提出していたという、謎の事実が彼に呆れとして更に疲れを加えていたのだ。


「上手く描けない……」


 がっくりとうなだれるシオンに、ミュウの同情するようなため息。


「最悪、構想だけでも言ってくれたらこっちで形にするけど」

「……いや、描くには描けたんだが……簡単なので良いって言ってたけど、こんなんでいいのか?」

「まあ、見るくらいはするわよ」


 自信なさげに、シオンはピラ、と武器のデザインが描かれた2枚の紙をミュウに差し出す。

 受け取った彼女は、眉根を寄せながらそれに目を通す。


「どうだ?」

「……どんなトンデモでもいい、とも言ったけど。やってくれるわね」


 そう言いながら、ミュウは1枚目――『シャウティングバスタード』と左上に書かれた、刀身の大きな剣が描かれた紙をシオンの机に置く。

 ただの剣ではない。その傍に刀身が鋏のように開いたそれが描かれている。

 つまるところ、剣のような形状の、特大の鋏である。

 おまけに、刀身の中に柄に直結された銃身のようなものまで内蔵されていた。

 シオンの構想が自分の想定の遥か外にあったのか、ミュウは額を押さえて今度は呆れのような溜息を吐いた。


「まず、この鋏みたいな構造の剣と、内蔵された銃身、コントローラーとしての役割を持つ柄……バスタードね。柄がちょっと大きくなるかもしれないけど、持つ分には問題ないようにするわ」

「できるのか……」


 シオンの感嘆の声に、ミュウは得意げに「ふふん」と笑ってみせた。


「で、問題はこの『ジェットバンカー』なんだけど」


 と、もう1枚――グリップのついたロケット、とでも言えばいいだろうか。しかし、やはりただのロケットではない。このボディは回転式弾倉リボルバーである。もちろんそれだけにとどまらず、何とその巨大さを活かして杭打機が内蔵されている。その傍にはその杭と思しき細長い円錐が描かれている。

 ここでグリップの方を見ると、2つのボタンがある。1つは杭を打ち出し、弾丸を発射するボタン。もう1つは――


「――なに、ロケットを切り離して爆発って」


 と、彼女の言うとおりである。隅に書かれた落描きのような絵でそう表現されていたのだ。

 

「まあまだこのパイルバンカーみたいなのにリボルバーとっつけたみたいなのまではいいわ、でも切り離して爆発って、アンタ」

「……駄目か?」

「すぐ近くで爆発するより、離した方が良いのは確かなんだけど……って、アンタ。これどう見ても相手殺す気満々よね?」

「使わないに越したことは無いだろ。それにバスタードと似たようなもんだし、使う機会は無いと思うけど」

「! ……まあ、無いことは無いかもしれないわね。一応作っておくわ」


 若干おかしかったミュウの様子に、シオンは頭上に疑問符を浮かべた。が、作ってくれるのならと納得した。

 ――が。説明をしてくれるようで、教鞭を伸ばした。


「本作戦において、『戦艦型』と呼ばれるエイグとの交戦があるかもしれない」

「……エイグは人型だろ? パーツ交換でもしない限りはさ」

「その認識に違いは無いわ。でも、その戦艦型もドロップ・スターズの中に入っていたの」

「だから同じく『エイグ』と……なるほどな。それで? サイズは?」


 シオンが問うと、ミュウはばつが悪そうに目を逸らした。


「……いや、教えたいのは山々なんだけどね。私たちは持ってないの」

「え? でも、プレイスって相当な数のエイグ持ってるんだろ?」

「それでも連合軍の持つそれには遠く及ばないわ、大半も奪取したものだし。言い訳を言うようだけど、時間が無かったから戦艦型は奪えなかったのよ」

「デカいのは確か、か」

「まあ、そうね。だから爆弾みたいなのは必要になるだろうけど……その辺、どうするかまでは考えてないわよねえ?」


 肯定されることを前提としたような口調だが、シオンは何か心当たりがないか、腕を組んで思案し始める。


(……なんとかならないか?)


 戦闘時のように愛機に語りかけた所で、AGアーマーを纏っていない彼に『彼女』の言葉は返ってこない。

 それに気付いた彼は少し恥ずかしくなり、顔を僅かに赤らめた。


「……そういえば、シャウティアの推進器には推進剤が積まれてなかったわね。その辺どうなの? わかる?」

「それも含めて聞いてみる。アーマー着てもいいか」

「ん、いいわよ」


 ミュウの許可を得、シオンは席を立って目を閉じる。


「―――はっ」


 そして短く息を吐くと、彼の肌からシャウティアを模した鎧が出現する。

 それを間近に見たミュウは、「へえ」と感嘆するような息を漏らした。


≪私の話?≫

(まあ、そうだな。なあシャウティア、俺ってどうやって飛んでるんだ? 推進剤が無いらしいんだけど)

≪ええと……動力のエネルギーをそのまま噴出する反動で推力を得てるよ。イメージとしては、フライボード、かな。水流で浮いたりするアレ≫

(……ふむ。ありがとう)

≪お礼を言われるほどの事はしてないよ≫


 愛機との短い会話を終えて、シオンは鎧を消す。

 そして言う事をまとめた上で、ミュウに向き直った。


「何ていうか、フライボードって分かるか? あんな感じで、水みたいなエネルギーを噴出させて推力を得てる……らしい」

「液体型エネルギー、ねえ。まあいいわ、それを応用すればロケット自体はできそうね。でも、問題は爆発……あと、弾をどう飛ばすかね」

「そのエネルギーを利用すればなんとかなるんじゃないか?」

「乗り手のアンタが言うならそうなのかしらね」

「いや、なんとなく、なんだけど……」

「そう? まあ、無理なようならレールガンなんかで代用できないか考えてみるから。じゃあ、バンカーの方も一応オッケーってことになるわね。……案外、イケるモンね」

「そんだけの技術力があるって事だろ? もっと自信持てよ、お前らしくないぞ」


 冗談半分で言ったつもりだったのだが、ミュウは一瞬目を丸くしたかと思うと、頬を染め、そっぽを向いて口をとがらせた。


「あ、アンタに言われなくても自信くらい持ってるわよ。私達にできないことなんてないんだから」


 その様子が年相応で、シオンはそれがおかしくて微笑する。


「だからって無茶な要求を押し付ける気はないさ。……で、さ。これでいいかな。武器は」

「んー。アンタは切り込み隊長になるだろうし、武装はこんなもんでいいだろうけど……念のため、射撃メインの武装も作っておこうかしら。……そうねえ、対物ライフルなんてどう?」

「どう、と言われても、実の所武器の知識には疎くてな。狙撃銃みたいなもんか?」

「大体はそんなところね。じゃあ大体のモデルはこっちで作っておくから、お疲れ様」

「……ってことは、終わりか!」


 その瞬間、彼の身体を、解放感が包み込んだ――なんて大袈裟に言うが、実際には1時間ほどしか経過していない。

 が、彼にとってはストレスの溜まる原因が取り除かれたとあって、それはもう元気である。


「――――なわけないでしょ、バカ」


 ピシ、と何かに亀裂が走った。


「……マダ、ナニカ、アルノカ?」


 カタコトの言葉を発する彼は、さながらロボットか何かのようだ。


「冗談よ。アンタ、かなり集中力がないのね」

「……狙撃って集中力が要るんだろ? 俺が持っていいモンなのかよ」

「使わないなら別のプレイヤーちゃんがいるから、そっちに流せばいいし」

「プレイヤーちゃん?」


 その口調からして女性を指しているのは確かだが、誰かまでは定かではない。

 シオンはここでのまだ少ない記憶を絞ってみるものの、自分の身の回りにヒュレプレイヤーはいない。


「ふふ、知らないのね。じゃあ、モデルを作ってAIにデータを送り込んでおくから。明日は格納庫前でその試験運用を、そのプレイヤーちゃんとするわよ」

「お、おう……?」


 結局シオンが『プレイヤーちゃん』の正体を知らぬまま、武器製作の話は一旦終了する。

 その正体というのは、本当に身近な存在であると、明日知る。

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