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第5話「シャウト・ウェポンズ」part-A

 同日。シオン、レイアは先程とは違い、どこか余裕を感じさせる表情で司令室を来訪し、その理由をアーキスタに伝えた。

 最初は目を丸くしていたが、次第にだんだんと疲れたような表情に変わり、終いには溜息まで吐いた。


「……掛け合ってはみるさ。まあ元よりメンバーの大半は市民だった奴らだ、理解はしてくれるだろうな」

「司令官がどう思うか、ってことか?」

「俺はそれでいいと思うがな」

「もっと賛成の意志を前に出せばいいものを。シオン、奴は軽いツンデレだからな」

「へえ」

「余計な事を言うなッ!」


 ばん、と机を強く叩いて抗議の目をレイアに向ける。しかし発言者が発言者なので、反省の色はひとつも見られない。


「まあ、それはそれとして。例のアレを渡したらどうだ?」

「何故お前が仕切る……まあ、仮決定だがな。各国の司令にも俺が口添えしておこう」

(やっぱり、アーキスタもあの判断の全てを納得してたわけでもないんだな……)


 そう思うと、シオンは目の前にいるツンデレの青年が決して悪い人間ではないと認識を改めた。

 シエラと同じく、心のどこかで仲間の事を心配しているのだと。


「……ていうか、アレってなんだ?」

「あー、今出すからちょっと待ってろ」


 言いながら、アーキスタは机の引き出しを漁る。

 よほど整理が行き届いていないのか、彼はほぼ全部の引き出しを開けて漸く例のアレと思しきモノを見つけた。

 赤いそれは、ピアスと言うには大きく、指輪と言うにはどう見ても輪がない飾りモノ……


「……バッジ?」


 シオンが、アーキスタの持つそれを見て呟いた。


「ああ、そうだ。丁度赤いのがあってよかったよ」

「ちなみに私のは紫だ。今は部屋にあるがな」

「ほら受け取れ。今は良いが、作戦時には装着しとけよ」

「え、ああ。……どういう意味なんだ、これ?」


 軽く投げられたバッジを受け取ったシオンは、それとアーキスタを交互に見ながら問うた。


「各国支部の代表、つまり制圧作戦参加者である証だ。失くすなよ」

「これ、何色……何個あるんだ?」

「一応7色1つずつ、あとは要望に合わせて申請だな」


 漁った引き出しの中を整理しながら、アーキスタが答える。


「とは言っても、日本支部ここからは戦闘要員3人、それ以外に1人だから、そんなには必要なかったがな」

「……4人も?」


 レイアの言葉に、シオンが首を傾げる。戦闘要員はともかく、それ以外も参加するとは思っていなかったのだ。


「私、お前、アヴィナ、そしてミュウだ」

「俺は本当ならアヴィナとミュウの参加を止めさせたかったんだがな」

「まあ、先程言った通りこいつはツンデレでな。仕方なく、というわけだ」

「いやいや、それツンデレじゃないだろ。戦場送りたがってるじゃないか」

「冗談だ。まあ、万一でも戦力不足にはなってはならないからな。出来る限り出す必要がある」


 ふむ、と一部だけ納得するシオン。自分より年下の少女たちが戦場に立つのは納得できなかったが、


(俺が守ってやればいいだけだ)


 と、更に決意を固めた。

 他人の意思を尊重したうえで、自分の意志を押し通らせる。今の彼は、そんな人間だ。


「だが、少々問題があってな」

「え?」


 今度は阿呆らしい顔になる。聞く限りでは大した問題は無いように思っていたのだ。


日本支部ここの主要戦力は私とアヴィナ、そして新たに加わったお前だ。これだけでわかるか?」

「……つまり、主要戦力が全部出てしまって、日本支部ここの自衛がまずいってことか?」

「そういうことだ。その為に私の代役としてシエラを鍛えていたわけだが……」


 段々とレイアの顔に疲労が見える。連続で2人の似たような表情を見、シオンもそうなってしまうのでは、と無意味な警戒をした。


「じゃあ一人くらい、俺はちょっと無理だけど……アヴィナでも置いていくことはできないのか?」

「先程言ったばかりだろう、本来なら全戦力を投入してもいいくらいの作戦だ」

「だが、留守中に国が奪われちゃイタチゴッコ、泥沼化は確実だ。作戦の目的は前に言ったよな?」


 言われ、シオンは頷く。混乱していたが、記憶力が衰えていたわけではない。


「そういうことだから、多少の戦力は確保しなくちゃならない。お前が作戦進行を早めるほどの働きをしてくれれば解決するが――」

「いや、そこまでは多分、無理だ」

「と言うのは明白だし、アテにしてはいられない。まあ、決行日……丁度2か月後くらいか。それまでには良案を用意しておく。お前は訓練を怠るなよ」

「……ああ、了解だ」


 腕を組んで、アーキスタは椅子に座る。そして気にするなとでも言いたいのか、目を閉じた。

 その意をんだレイアは、無言でシオンにハンドサインを出して先に部屋を出た。それが何を意味するのか、その一瞬では分からなかったシオンはなんとか退室することなのだと感じ、慌ててレイアの後を追った。


「……大丈夫なのかよ、あいつ」

「まあ、私も補佐には入る。細かい作戦はこっちで考えるから、お前とアヴィナで好きに暴れればいい」

「そう言うんなら、いいんだけどさ。俺にもできることがあるなら言ってくれよ?」

「お前がどうこうできることじゃないとは思うが……そうだな、やはりお前はまず自分の事をどうにかせねばな」



「――え?」


 何も伝えられぬままレイアに案内されたシオンは、いつの間にか開発研究室の床を踏んでいた。その前には、桃色のツインテール――ミュウ。


「え、じゃないわよ。シャウティアに武器が無いから作ろうって話よ」

「いや、確かに武器は無いけど……作るって? 物資はその、プレイヤーってヤツの力でなんとかなるんだろうけど」

「いいや、1から作るのは古いやり方ね。今はプレイヤーの力で武器そのものを作るのがトレンドみたいよ?」


 その口調が皮肉っぽく聞こえるのは、気のせいか否か。

 と、彼女の言葉からシオンがあることを思い出す。シャウティアとの会話と、ミュウの授業だ。


「そう言えば、プレイヤーが乗ってると、例の一体化で実体化できるとかなんとか。それ、授業の時言ってなかったよな?」

「ええ、そうよ。よく気付いたわね。それを今から説明して、実際に作ってもらうわ」

「……ちょっと待て。作れるもんなのか」

「現にプレイヤーの搭乗者はそうして武器を作るし、それを説明するって言ってんでしょ」


 ミュウから若干の苛立ちを感じたシオンは、大人しく口を一文字に締める。

 鼻で深く息を吐いた彼女は引き出しから教鞭を出し、奥の小部屋へとシオンを招いた。

 二度目になるそこは、どこか薄暗いがその雰囲気に合わせられたような埃が待っているわけでもなく、使われているか定かでない備品は段ボールに入れられて隅に置かれており、特段汚いわけではない。ただ、物置と言われれば信じてしまいそうではある。


「それじゃ、説明を始めるわよ。私語はなるべく慎むこと。質問がある時はなるべく説明が一段落ついてから。いいわね」

「常套句か、それ」

「念押しよ」


 やり取りをしている間にミュウが椅子に座るシオンの前に立ち、小型のプロジェクターをセットし始める。


「さて、前回はエイグのことばかり説明していたわね。今回はこの世界に100人もいないヒュレプレイヤーという存在について説明するわ」


 ミュウが教鞭を伸ばすと同時に、プロジェクターから立体映像ホログラムが空中に表示される。

 アメリカ、カナダ、中国、ロシア、イギリス、フランス……一部の国が赤く塗りつぶされた、地球儀のような画像が回転している。


「この赤い国は、現在存在が確認されているプレイヤーの内の多くを手中に収めていることを示しているわ」

「日本は少ないのか?」

「そうみたいね。まあアンタみたいに隠している奴がいないわけでもないし、もっといてもおかしくはないんだけど」


 シオンには、仮にいたとして、そういった者達の気持ちがよく分かる。自分でなくとも、人間は自分に突然奇妙な力が備われば混乱するに違いない。


「さて、この国々の共通点は何か分かるかしら? あ、中国は除いてもらって結構よ」

「……となると、先進国か?」

「そ。案外世界の事を知ってるのね」

「学校で習う最低限はな」

「それは結構。で、先進国なんだけど……その理由は逆から考えた方が良いかもしれないわね。何故ならプレイヤーは表舞台に出ていなかっただけで、遥か昔から現在に至るまで存在していたそうだから」


 ふむ、とシオンが軽く頭を回転させる。少なくとも、彼の学習したことの記憶の中にそんな情報はない。


「過去の人々は、プレイヤーを珍しく思っていなかった?」

「いいえ、逆よ。これは有力な説なんだけど、過去の文献に出てくる『豊穣ノ徒』っていう、神様みたいな存在がちょこちょこ出てくるの」


 ミュウの操作で地球儀の画像が消えて、5世紀ほど前の、独特のタッチで描かれた人間らしきモノの画像に変わる。


「あまり細部まで書かれていないらしいから正確には分からないけど、人に似ていて、どこからともなく食べ物なんかを出した、というのはどの文献でも同じみたいよ」

「なるほど、そりゃ昔の人にとっちゃ神様だな」

「そう、まさにそれよ」


 なんとなく呟いたシオンの顔に、長く伸びた教鞭が向けられた。

 鼻の先に触れそうなそれを見て、シオンは短く驚きの声を上げて冷や汗を流した。


(細いモノを人に向けるなよ!)

「古来より人は神の声を聞く人だとか、常人にはまず不可能な能力を持つモノを神のように崇める傾向にあったわ。そしてそれは、この国・日本の象徴――天皇も例外じゃなかったみたいね」

「……そうか、昔の天皇は神として扱われていたんだったな」

「私はそっち専門じゃないし詳しくはないけど、まあそういうことなんでしょ。でも今の天皇はプレイヤーじゃないみたいだし、少しは安全よ」

「ん? そりゃ、戦時中だし多少の身の危険はあるだろうが……他にあるのか?」

「ええと、まあ、国によってプレイヤーの扱いも違ってね。奴隷のような扱いを受ける国もあるそうよ」

(……ああ、そう言えば初めて会った時、アーキスタが話してたな)


 自分もそうなりかねなかったと思うと、無意識に震えずにはいられない。

 彼は本当にこの国に住み、そしてここに所属する人間でよかったと心底思う。


「まあ、そんな感じで今に至るのよ。話が逸れちゃったけど、つまりは昔からヒュレプレイヤーが多くいた国が今の先進国、っていうことよ。大体はね」

「その辺は分かったよ。……でも、気になるな。その豊穣ノ徒ってのが、何でも出してたようには思えない」

「鋭いわね。文献の記述では、野菜や米といった作物から、鍬や鎌といった農具まで出現させた、とあるらしいけど……外国で、産業に使われる機械が実体化された例はないそうよ」

「つまり、細かなモノは実体化できない……そうだな?」


 シオンが考察を口にすると、ミュウが呆れたような息を吐く。


「……えらく頭が回るのね。いいわ、質問はいつでもしなさい」

「そこで気になるのは、これから作る武器の事だ。農具を実体化できるのなら、ナイフなんかの単純な近接武器はすぐにできるんだろ。だが、銃火器はどうなる? 機械と同様、それなりに複雑な構造をしているはずだ」

「じゃあ、まずは現段階で考えられている実体化の条件を伝えておくわね。

 まず1つ目、実体化するモノは、頭の中ではっきりと像が見えているモノでなくてはならないわ。よって、銃をぱっと出すことは不可能よ。

 2つ目、実体化するモノはかなり高純度よ。実体化の際に少々空気が混じるくらいで。

 3つ目、まあかなり曖昧な定義だけど、『完成品』は実体化できないわ。そうね、例えば料理の完成品とか、ね」


 ミュウの説明を聞いたシオンは、ふむ、と顎に手を当てた。


「はっきり見えているモノでなければ実体化できないのに、武器を……? まさか変な形の剣を作るわけじゃないだろうし……」

「もちろん一案としてはあるわよ。でももちろん、銃火器も想定してる。タネ明かしをすると、エイグの方に3DCGのデータを『アンタの知識』として入れて、それを戦闘時に開くことではっきり見える像の役割を果たさせるのよ」

「うーん……分かるような、分からないような」

「今はそれでもいいのよ。そういうわけだから、今から――」


 と、プロジェクターの電源を切り、急に部屋を出るミュウ。彼女の言葉も途中で、何がしたいのかさっぱりわからなくなるシオン。

 首を傾げて待っていると、20枚ほどの無地の紙を持って、ミュウが再び小部屋に入った。

 その足を止めることなくシオンの前まで歩ませ、机の上にそれと、シャープペンシルを一本置いた。


「今から考えて頂戴。どんなトンデモ武器でも構わない。そこにいる全員で、アンタの為の最高の武器を作り上げる」

「え、と……設計図を描けってことか?」

「簡単なデザインで構わないわ。実際に実体化して気に入らない所があれば、修正すればいいし」

「……今、ここで?」

「とりあえずアンタに用がありそうな、レイアとかアヴィナにはアンタを借りること言ってるから。食事とトイレ以外、ここからの外出は認めないわよ」

「そこまでする必要あるのかよ!?」


 一気に扱いが、奴隷とは言わないまでも刑務所に入れられた罪人のそれになった気がして、シオンは抗議の声を荒げる。


「あるのよ。あと2か月よ?」

「……短い、か」

「訓練のことも考えると、なるべく早くした方が良いのよ。ゆっくりしてはいられないわ」


 しばし思考を巡らせて、シオンは不当だと思っていた心情を、溜息と共に吐き出す。


「……わかった、どんなトンデモ武器でもいいんだな?」


 挑戦的なその瞳に、ミュウは笑顔を返した。

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