白い世界の後始末
戦争・孤児・殺人の描写を含みます。 不得手な方は、此処で引き返してください。 決して グロくは書いていないつもりですが、苦手に感じたら、すぐに引き返す事を推奨致します。
また『話なげーよ、メンドクセェ』と感じた方も、不快をもよおす前に戻る事を お薦めします。
常用漢字ではない漢字の使用が多々あります。 誤字・脱字と共に、広い心で お赦しください。
12月26日-11時近く。
ヴェルデシュタイン州にある、アルカイン帝国軍の前線司令本部。
雪深い森の中に、小高い丘がある。
其処を伐り拓いて、本部を構えていた。
伐採した木材を 侵入防止の柵として打ち立て、砦を形成している。
3方向に 見張り台が設置されており、周囲への警戒を強めていた。
しかし、今 最も緊張しているのは 内部だった。
砦の内部、中央に近い場所には 司令官の居室がある。
部屋と云っても 長屋の様な建物の一室ではなく、テントなどの1っでもない。
伐り出した丸太を組んで造られた ログハウス一棟だ。
ロズベルクが此処へ来た時に、態々 造らせたものだ。
今は、その周囲に 幾重にも防護柵が 築かれていた。
急拵えらしく、伐り出しの粗い丸太が、深々と立てられている。
それ等は、丈夫な麻紐で しっかりと括り付けられている。
砦の外壁と見紛うばかりの、堅牢な柵だった。
通り抜けられる箇所は、1っ。
そして、其処には 番兵が立っていた。
更に、柵と柵の間には 何人もの歩兵が配置されている。
幾人もの歩兵が護る中心地には、司令官の居室である ログハウス造りの小屋が一棟 建っているのだ。
大きさや 頑丈さから見ても、戦場では かなり豪勢な造りと云える。
このログハウスの周囲にも、見張りがいた。
歩兵とは異なる出立ちだが、帝国の軍人である事には 間違いない。
扉の前に2人、窓の近くに1人ずつが 控える様に立っている。
これだけの人数に囲まれるログハウスの中で、1人の男が 苛々としていた。
現地の木材で造った家具に囲まれ、男は 椅子に座っていた。
テーブルには、琥珀色の酒が なみなみと注がれたグラスと、その酒瓶がある。
戦場に似つかわしくはない 高価そうな酒は、グラスに注がれたままの状態で 手を付けられていない。
男は、テーブルに両肘を付き、組んだ拳の上に 額を乗せている。
神に祈っている様な姿勢だが、俯いた顔は 鬼面-宛らに歪んでいる。
白眼がちな双眸は、血走っていた。
暫く そうしていたが、徐に 立ち上がる。
落ち着かない様子で 壁に寄り、そっと 窓に近付いた。
しっかりと閉められたカーテンの端から、慎重に外を窺った。
眼だけを忙しなく動かして、辺りを見回す。
地面に丸太を立てて築かれた 高い防壁と、その出入口を護る兵士達。
更には、防護壁と建物の間を 巡回して護る歩兵達の姿が、明るい陽射しの中に くっきりと見えた。
それを睨む ぎょろりとした眼は、一点を見据える事が出来ず、吐き出す息は 荒い。
どう見ても 何かに怯える者の姿だった。
護衛達の動きに異常がない事を 厭と云う程 偵ると、男は 靴音を忍ばせて 壁から離れた。
逃走を図ろうとしている捕虜の様な この男は、ロズベルクと云う。
アルカイン帝国に於いて、少将の地位にある軍人だ。
このヴェルデシュタイン州-攻略作戦本部の 最高指揮官でもある。
彼は、短めの黒髪に 黒い眼をした中年男だ。
頬骨が四角く、目尻の上の額が やや角張っている。
しかし、そんな特徴よりも印象強いのは、眼である。
歳を取ると、顔は その人を物語る。
通常、一重の三白眼は そう珍しいものではないが、彼の それは、狡猾さや野心、果ては 小心さをも表していた。
ロズベルクは、現在 参謀部-作戦課に在籍している。
ヴェルデシュタイン州を攻略する為に 司令官に任ぜられ、側近-数名と共に 此処へ派遣された。
彼には 政策局の連隊が付与され、作戦本部の護りは 万全だった。
更に、己れの側近達に ログハウスの扉や窓を護らせている。
これ以上の警備はないだろう。
しかし、ロズベルクは 此処にいて恐々としている。
額に、首筋に、掌に、脂汗が滲んでいる。
ロズベルクは、椅子の傍へ戻り その背に手を掛けたところで、動きを止めた。
何かの物音を聴いた気がしたのだ。
しかし、耳を澄ませてみても、怪しい音は おろか、虫の声すらしない。
気のせいか、と思いつつも 座る気になれず、ロズベルクは うろうろと歩き廻る。
室内を右に左にと歩き、時々 立ち止まっては 耳を澄ます。
そうしながら 扉を見遣り、施錠状態を確認する。
または、窓の鍵は閉めたか と記憶を遡る。
さっさと扉を開けて 外の兵達に異常を訊けば良いものを、彼は そうしない。
窓の施錠が気になるなら、カーテンを手繰って その眼で確かめれば良いものを、彼は そうしない。
脅える小心者は、そんな事も出来ないのだ。
落ち着きなく うろうろと室内を歩き廻り、数10秒毎に足を止めては 外へ意識を集中させ 耳を澄ませる。
これを 幾度も繰り返した後、漸く 落ち着いてきたのか、ロズベルクは やっと椅子へ戻った。
木製の椅子に腰を下ろし テーブルに手を乗せて、彼は 小さく息を吐き出した。
躬らを落ち付けようとして吐き出した息は、僅かに震えていた。
それを鎮めんとして、酒へ手を伸ばした。
両手で握る様に、グラスを取る。
ガラスに触れた爪が カチカチと音を発て、琥珀色の水が 緻く波打った。
そのまま口に当てれば グラスの縁に歯が当たり、より一層 カチカチと音が発つ。
それでも、無理矢理 飲もうとしたが、手も 唇も震えており、意思に反して 舐める程度にしか口に入らなかった。
この一部始終を、視ていた者がいる。
「こ〜んにちは〜、司令官殿」
不意に、声が掛かった。
それは、そう遠くない場所からだった。
彼には、この室内で発せられた様に聴こえた。
唐突に掛かった 何者かからの挨拶である。
だが、自分-以外は誰もいない。
そもそも、固く鍵を閉めた筈の室内だ。
内部で 声がする筈がなかった。
ロズベルクは、息を飲みつつ 後ろを振り返った。
反射的に背後を確かめ、次に 首を巡らせ、各所の戸締りを見遣る。
当然だが、周りには誰もおらず 何処も破られた様子がない。
それを確認してから、改めて 室内を見回した。
忙しく首を巡らせて、声の主を捜す。
その表情には、司令官の威厳も 少将たる者の余裕もない。
お化けに脅え、為す術もなく身を震わせる子供の それであった。
ロズベルクは、床から天井までを丹念に見た。
人の影も形もなければ、僅かな隙間や 綻びもない事を しっかりと確かめた。
それでも、椅子に腰を据えたまま 首を縮めている。
其処へ、またも声が掛かった。
「ぁあーーーーれぇ、怖いのかなぁ?」
くすくすと、声が嗤った。
若い男の声だった。
少年と云っても良い声音に思えた。
そして、やはり かなり近くから聴こえてくる。
この事に、ロズベルクは 跳び上がらんばかりに驚いた。
息を呑むと同時に、短い悲鳴をあげた。
大声でも出せば、外を護っている兵が駆け付けてくれるだろう。
しかし、小心翼々の臆病者は、最早 碌な悲鳴も出ない状態だ。
これを確かめた『何者か』は、再び くすくすと嗤い出す。
脅えて震え続けるロズベルクに、脱力する程 気の抜けた声が掛かる。
「怖いんだぁ? でも、怖がる必要なんてないんだよぉ。もうすぐ、終わっちゃうんだからさーーぁ」
嚇すには 最も遠い声音だが、意味不明な言葉が より恐怖を煽ったか。
ロズベルクは、人相を変える程 口許を引き攣らせ、眼球は 飛び出んばかりになっている。
捥げそうな程 首を回して、声の主を見付け出そうとしていた。
しかし、室内には 鼠一匹いない。
「誰だ⁈ お前はっ」
勇ましい怒声を出したいところだが、掠れ こごもった声にしかならない。
自分でも驚く程、声が出なかった。
喉の皮が からからに渇き、互いに貼り付いている感じがしていた。
潤そうにも、恐怖で口が渇き切り 唾液の一滴も出ない。
手の中の酒で代用しようとしたが、何かの喜劇の様に 手が震えていた。
琥珀色の水は 激しく波打ち、半分以上がグラスから零れ散って ロズベルクの軍服を濡らしていた。
恐怖が、限界値を過ぎているのだろう。
躬らの状態に驚いた少将の口から『ひぃッ』と 悲鳴が漏れた。
酒が零れた程度の事で、刃物を突き付けられたかの如き 喫驚ぶりだ。
権力だの 地位だの 威厳だのを重視し、人一倍 それを堅持してきた者とは思えない有様である。
この様に、嘲笑が飛んだ。
それに被さって、冷ややかな声が投げ掛けられる。
「無様ですね。そんなに恐ろしいんですか?」
先程とは 異なる声と、口調だった。
大人の 落ち着いた声である。
晣らかに、先程までとは違う人物から発せられたものだ。
慌てて 見回すが、やはり 室内に人影はない。
益々 脅え、首も肩も窄めた彼に、低い大人の声が掛けられる。
「『帝国軍人たる者、いつ如何なる時も それに羞じぬ態度と行動をとる』んじゃなかったんですかね?」
最早 嘲嗤う気力もないのか、洌い軽蔑を滲ませた声音だった。
引用したのは、ロズベルクの口癖である。
しかし、今の彼は、何かを考えると云う行動も とれる状態にはなかった。
自身の口癖を良く知る者達は 誰なのか、此処へ来れる者は 誰なのか。
ほんの少し考えれば判る事が、今は 全く判らないのだ。
それ故、気付かないのだ。
「あーーーーぁあ。普段 偉ッそ〜に言ってる奴に限って、実際は こんなモンだよね〜ぇ」
最初の声が、溜息混じりに嗤った。
浅い嘲笑の中に 呆れ口調が混じっても、ロズベルクは、怒号し否定する事も 虚勢を張る事もしない。
出来ないのだ。
「こんな奴の下に附かされ権力で抑え付けられて、前線で孤立させられて 救援物資も止められて……それでも、あの人の懸命な努力の お陰で……皆、何とか闘って生き延びていたのに」
心底-厭気が差した と云う口調で、濁声が吐き捨てた。
「こんな奴の、ゲスな浅知恵と 薄汚い出世欲のせいで……18人も 仲間が殺されたのか…… 」
奥底から込み上げる怒りが顕れた声に、ロズベルクが『ひぃッ』と息を呑んだ。
「敵に、駐屯地の場所を密告するなんて」
「売国奴に等しい、愚か者が!」
「それも、己れの出世欲の為に」
「これが『参謀部-作戦課の少将殿』だとよォ」
「世も末だぜ」
「アルカイン帝国の恥め!」
「全くだ」
「ゲスが!」
晣らかに違う人物の声が 幾つも聴こえる。
しかし、近くには誰もおらず、室内の様子は 相変わらずだ。
どれ程 確かめても、誰もいなかった。
いや、いる筈がない。
実は、室内から発せられたものではないのだ。
初頭から脅えて 冷静な判断が出来なかったロズベルクは、壁の外や 屋根の上からの声だと 気付かない。
先程 窓の外を見た時、歩兵達に変わりがなかった事も 要因の1っだろう。
丸太小屋の周りに何者かが身を寄せ 語り掛けている、とは考えなかった。
「さぁーーて、ど〜するぅ?」
最初の声が、まったりとした口振りで訊いた。
勿論、ロズベルクに向けた質問ではない。
意見を同じくする、多くの者達への問いだった。
今後の処置を尋ねる声に対し、低い声が ゆっくりと答えた。
「ヴェルツブリュンの土を踏ませてやる必要なんか、ない」
眼を剥き出して、ロズベルクが 息を呑んだ。
「右に同じ」
「そうだな」
「同意」
「俺もだ」
畳み掛けるように、何人かが賛同した。
「 ……決まり、だな?」
そして、誰からも反対意見は挙がらなかった。
声の位置は判らなくとも、遠回しの言葉が 何を示唆しているかは伝わったのだろう。
ロズベルクは、弾け玉の様に 跳んで立った。
勢い良く 椅子が床に倒れ、手にしていたグラスは 床に落ちた。
どちらも、大きな音が発った。
己れでやっておきながら、ロズベルクは これ等の騒音に驚いた。
短い吃声と共に、その場で跳び上がった。
そして、着地するなり 扉へ走り出す。
恐怖の余り、扉-以外は見えなかったらしい。
動き出した途端 左足がテーブルに打付かり、その上の酒瓶が倒れた。
躓いたロズベルクは、転がる様に床を這う。
扉に辿り着くと、すぐ様 太い閂を外しに掛かった。
普段ならば、眼を瞑っても出来る 簡単な所作である。
だが、脅え震える手で、更に 慌てての作業だ。
今は、思う様に熟せない。
そんな状態の自分に気付いて『落ち着け』と 強く心に念じても、最早 叶いはしない。
閂を掴んで、真横に引く。
たった これだけの事に1分近くを要し、漸く 閂を外した。
これを待ち構えていた様に、外から扉が開いた。
まだ閂に手を掛けていたロズベルクは、そのまま引っ張られて 前のめりになる。
急に つんのめった体勢を立て直せず、彼は 床に手を衝いた。
四つん這いになった少将を、瞰す眼があった。
「さあ、誰が殺るーーーー?」
離れた場所から声が聴こえたが、ロズベルクには、その声の主を捜す余裕はない。
眼の前の、土の上に立つ 何本もの脚に、ロズベルクは 顔を上げた。
其処にいたのは、側近達ではなかった。
アルカイン帝国の軍服に身を包む、見知った者達。
帝国軍に在し、同じ地で闘うよう派遣された この砦の兵士達だった。
正確には、アルカイン帝国軍の政策局-政策部に属する 歩兵や砲兵•工兵だった。
「⁉︎ーーーーーーき、貴様等……っ」
此処での配下として与えられた兵士達が、ログハウスの出入り口を塞いでいた。
それ等の 林立する脚の隙間から、側近達が見えた。
軍服の肩章が、地に伏しているのが 垣間見えたのだ。
そして、側近達の頭は あらぬ方向へ拈られていた。
そんな彼等を気遣う事なく、兵士達は ロズベルクを瞰している。
全員が 冷やかな、または 嫌悪や憎悪・侮蔑を含んだ眼をしている。
流石に、只ならぬ雰囲気を感じたのだろう。
少将は、躯を起こし 尻で後摩去った。
「どう云うつもりだっ? 上官に逆らうのか⁈」
威厳の欠片もない、上擦った声で叫んだ。
当然の様に、誰からも反応はなかった。
手前にいるのは、歩兵の何人かだ。
彼等は、今し方まで この小屋の周りに立てられた柵の出入り口で立ち番をしていた者達である。
その後ろに、工兵と 砲兵が 何人か控えている。
誰もが、顔色一つ変えない。
「ッーーーーーー軍律に悖る行動だぞ⁉︎ 帝国軍人たる者が、上官の意に叛くなどっ」
この期に及んで、自分の状況に察しが付かない者はいないだろう。
「よせ! こんな事をして、ただで済むと思っているのか⁉︎ 上層部に知れれば……っ」
言ってみたところで無駄だ と判っていても、黙っていられなくなる程 度胸のある男ではない。
ロズベルクは、上擦った声で喚き散らしつつ、床に尻を擦りながら じわじわと扉から離れていく。
知られれば 最も不味いのは自分のほうだ と理解しながらも、この窮地に於いて 役にも立たない嚇し文句しか 口を衝いて出ない。
手も 足も 肩も 顎も、どうしようもなく震えていた。
恐くて怖くて 仕方がないのだ。
額や掌・軍服に隠れる様々な場所まで、脂汗で びっしょりと濡れていた。
そんな状況の人間を前に、1人が こう言い出した。
「皆で、少将閣下を出世させてやろう」
先だっての『誰がやる』に対し、1っの回答が提示された。
「ああ、それはいい」
「部下の務めとして 正しいよ、なーー?」
冷静な声が、歩兵達の後ろから発せられた。
「ああ」
それと同時に、かしんッ と音がした。
既に ホルスターから抜かれていた拳銃の安全装置が、一斉に外された音だった。
金属が奏でる この音が判らない軍人は、いないだろう。
この状況で、次に何が行われるか判らない愚者も、いないだろう。
ロズベルクは 相貌を崩し、各自の手に握られている銃を凝視した。
「ななななにをするきだあぁあ?⁈」
叫ぶように詰問しながら、ロズベルクが どたどたと後摩去った。
左肩が 勢い良くテーブルに打付かり、その拍子に 倒れていた酒瓶が動き出す。
半円を描く様に テーブルの上を転がった酒瓶が、ごろごろと云う音を発てている。
そのBGMの中、ロズベルクの正面にいる兵士が ゆっくりと片手を挙げてゆく。
「出世したかったんでしょう?」
洌い声が、優しい口調で 問い掛けてきた。
「良かったですね、願いが叶うじゃないですか」
「殉職に因る 2階級特進」
「軍人として『立派な最期』だ」
ロズベルクは、声が発つ度に その人物へ眼を向けている。
そして、誰も彼もが 自分に銃を向けている事実を 目の当たりにした。
此処は、もう 安全ではない。
砦の兵士達は、最早 仲間でも 味方でもない。
出来る事なら、眼の前の彼等を掻き分けて この場から逃げ出したかった。
この恐ろしい砦から、一刻も早く遁れ 一歩でも遠くへ離れたかった。
しかし、この場を切り抜けても 危険は付き纏う。
砦を出て 森へ分け入れば、獰猛な野獣や 敵国の兵がいるだけだ。
そして、まず、この場を遣り過すと云う事-自体が 現実味のない話だった。
「上層部へは『流れ弾に因る戦死』と報告して差し上げますよ」
「いや、目出度いな」
「ああ」
逃げ場はなかった。
それに気付いた時は、幾つもの銃口が 彼に向けられていた。
「さあ、少将殿を見送ろう」
「ああ」
「手早くな」
絶叫が、発った。
発狂した様な声が 小屋に溢れ、砦の其処彼処へ届いた。
昼下がりの光りを浴びる砦で 羽根を休めていた鳥達が、驚いて飛び発った。
塹壕の向うに拡がる森まで、嚮めき渉りそうな大声だった。
だだだだん。
一際 大きな音が発ち、それを境に 絶叫は熄んだ。
「良かったですね、これで出世です」
動かなくなった少将に掛けられた声には、感情の揺れもなく 感動も感慨もない。
「上司-想いの部下に感謝してくださいね」
「全くだな」
ただ、遣るべき事をやった と云うだけなのだろう。
全員が、淡々と 銃を仕舞った。
「ご〜めんねぇ」
最初に少将へ声を掛けた者が、屋根の上から顔を出した。
歳の頃にして、15〜16くらいだろう。
少し長めの黒髪に、丸縁の眼鏡を掛けた少年だった。
今し方、すぐ傍で人が1人 殺された事など判っていないのか、そもそも どうでも良いのか。
何も考えていないかの如く、にこにことしている。
「助かっちゃったよーーぉ、手伝ってもらえて」
扉を開けさせる手間が省けた と、嬉しそうに 少年が付け加えた。
躯の細さも 顔立ちも 10代半ばの少年だが、その手には 刀が握られていた。
黒々とした、少し特徴のある鞘の 刀だった。
良くも悪くも、子供とも云える者が手にするのは不釣り合いな、高価な拵えに見える。
少年は、屋根の縁に立って、下にいる兵士達へ笑みを向けている。
「いや」
「こちらこそ、感謝している」
倍-以上の年齢の兵士達が、優しい声音で そう返した。
「こいつには、沢山の仲間が殺されたんだ」
「教えてくれて、ありがとう」
兵士達は、口々に 礼を言った。
軽く手を挙げる者もいれば、浅く頭を下げる者もいる。
様々な礼を受けた少年は、眼鏡の奥で 開いているのか閉じているのか判断出来ない程 細い眼を、更に細めた。
そして、そのまま去ろうと、男たちに背を向けた。
雪の積もっている丸太屋根の斜面を てくてくと登り、棟を越えて向う側へ歩いて行く。
「アルドフレイ准佐の容態は?」
歩兵科の小隊長が、遠退いた少年の背に問い掛けた。
思い出した様な問いに、黒髪の少年が 足を止めた。
首だけを回して、地上の兵士達を見遣る。
こちらを見上げる実直そうな眼を見詰めて、再び 笑顔を作った。
「大丈夫だ〜って聴いてるよぉ。全治-6週間らしいけど、後遺症とかは残らないみたい」
尋ねた小隊長も その周りの者達も、晳ら様に安堵して 息をついた。
気懸りではあったが、この前線には 何の情報も届かないのだ。
縦しんば 来ていたとしても、ロズベルクの所で止まっていたのだろう。
輜重兵科に属するジョシュと シュリとの関連を知らない為、情報を得る術はなかった。
野戦病院での話は 噂-程度に入っていたが、少年から聴いて 改めて安心したのだ。
「そうか…… 」
溜息を零した後、小隊長の顔が 急に引き締まった。
「アルドフレイ准佐に お伝えください」
凛とした声で言うと共に、周囲の兵士達が 揃って直立不動の姿勢をとった。
「生きていらした事、前線での事実を お教え下さった事、そして 仲間の仇を討たせて頂いた事に、心から 感謝します。どうか、一刻も早い治癒と復帰を。そして、有事の際には 是非とも 吾々に声を掛けてください。生命を懸けて 働かせて頂きます」
其処にいた全員が、一斉に敬礼をした。
まるで 当人が眼の前にいるかの如き、真摯で 一糸乱れぬ敬礼だった。
「だから、さっさと出世してください……って」
姿勢を解かず 敬礼したまま、誰かが嗤って そう付け加えた。
幾つもの優しい笑顔が、少年に向けられている。
「うん、伝えとく〜」
狐の様な微笑で、少年が答えた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
同日-昼下がり。
ヴェルデシュタイン州にある アルカイン帝国軍の砦から、雪の獣道を歩いて10分の 森の中。
砦を警備する 全ての兵士に『見遁され』て、少年は 此処まで戻って来た。
小高い丘に築かれた砦と それを囲む柵や塹壕は、もう見えない。
林立する樹々の間の、僅かに光りの差し込む場所に、1匹の魔獣が寝そべっていた。
体長は 4メートル余り、体高は 1メートル半と云ったところか。
つるりとしたフォルムをし、短めの四肢と 長い尾が特徴的な魔獣だった。
例えるならば、蛇の様な鱗で全身を包んだ 大きな蜥蜴と云った外見である。
柔らかそうな下草の上に長々と寝そべり、日向ぼっこをして寛いでいる それは、野生の魔獣ではない。
その証拠に、艶やかな鱗に包まれた 娜やかな背には、小さな鞍が取り付けられていたのだ。
少年が近付いて来たのを聴き付けていたのだろう。
魔獣は、前脚から頭を上げ、少年へ 穏やかな眼を向けている。
そして、主人の帰還を確認して、きゅううん と鳴いた。
「お待たせ〜」
魔獣の傍に寄った少年は、臆する事なく その頬を撫でる。
「でも、も〜ちょっと 待っててねぇ」
言いながら ポケットに手を入れ、小さな通信機を取り出した。
大きさにして、4センチ四方。
小さめの コンパクトミラーに見える それは、厚さ-1ミリの金属が 幾重にも折り重なっている物だった。
素材は、硝子と金属で構成されているらしい。
將に、コンパクトミラーと云った感じだ。
少年が 金属の表面を指で触ると、その部分が淡く光る。
何箇所かを押している内に、ぱこん とコンパクトが開いた。
かたん かたん、と音を発てて、4センチ四方だった通信機が 開いてゆく。
まずは、何枚かのプレートが 上へ、次に 横へ展開する。
2倍 4倍 8倍と面積を拡大させ、遂には 厚さ-1ミリの平面になった。
磨き上げられた盤面には、電波の波形が擬視化されたものが映っている。
規則的な波形が、唐突に切り替わる。
盤面に、薄茶色の髪をした青年が現れた。
硝子の様な盤面に映るのは、政策部-輜重科に属する青年-ジョシュであった。
現在は 中尉の位にあり、小班の長として 戦地に於ける物資運搬と 伝令の役目を担っている。
アルドフレイ家の執事の1人-ぜーレンの、腹違いの弟でもあった。
「仕事は?」
青年は、事務的な問いを冷やかさのない声で掛けてきた。
渋みを含んだ薄茶色の髪は やや長く、一重で切れ長の眼が 冷徹さを感じさせる。
整った顔立ちも手伝って、冷たい印象が強い人物だ。
黒髪で 優しい眼差しのゼーレンとは、雰囲気まで異なっている。
ジョシュは 今、前線基地の1っに到着する直前だった。
「終わったよーーぉ」
緊張感もなく、少年が微笑んだ。
「皆、いい人達だねぇ。教えたら、率先して手伝ってくれたよーー 」
10歳近く歳の離れた中尉であり、排他的な雰囲気を持つジョシュに対して、少年は 物怖じせずに話している。
「そうか」
少し ほっとした様な声が返された。
ジョシュは、少年を通して 今回の『暗殺』を報された。
ゼーレンからの伝令に得心する一方、少々 困惑もしていた。
ジョシュが手を下すのではなく、少年が暗殺を実行すると云う内容だった為である。
自分とゼーレン・シュリの関係は、誰にも知られていない。
そして、今後も 悟られる訳にはいかない。
ならば、少しでも疑われる行動はとるべきではない。
緊急だったとは云え、シュリを助けに行ったのが自発的な行動であった以上、これは 絶対条件だった。
だからこそ、この少年が選ばれたのだ。
「皆、シュリたんに感謝してる〜ってさーー 」
少年は 実に嬉しそうに、そうとだけ告げた。
詳細などは語らずの科白だが、ジョシュは 気にしていないらしい。
「そうか」
特に問い糾す事もなく、緑色の眼を細めた。
見る者に因っては『怖い』と言われかねない顔だが、本人は 笑顔のつもりである。
彼は、これが笑っている顔だと判るらしく、通信-相手の表情に攣られた様に 笑みを深めた。
「じゃあ、これで帰るね〜ぇ」
通信を切ると、すぐに 別の所に掛ける。
然程 待たない内に、画面に人影が現れた。
背に掛かる長さの茶色の髪に、藍色の眼をした 愛らしい少女が、盤面に顔を見せた。
彼女は、茶髪をツインテールにし メイド服を纏っている。
10代半ばだろう この少女を見て、少年の笑みが益した。
「終わったよーーぉ」
かなり機嫌良く、少年が言った。
褒めてくれ と言わんばかりの少年に対し、メイド服の少女は 実にクールだった。
「ご苦労」
少女が発したのは、この一言だけだ。
何処かの偉そうな人が 苦心した部下に掛けるにしても、余りにも素気ない一言である。
詳細も訊かれず、たった それだけの科白で終わらされてしまったのだ。
同年代の少女の 淡々とした口調と態度に、少年が 苦笑を浮かべる。
しかし、慣れてもいるらしい。
「も〜ちょっと、こう……労りの言葉はぁ?」
哀願する様に言うも、可愛い顔の少女は 態度を変えない。
「甜えるな」
けんもほろろな対応だが、これも 普段通りなのだろう。
攣れない態度の少女に対し、少年は 実に友好的な笑みを返した。
「わぁぁ、手厳しいなーー 」
半ば棒読みの言葉に、少女の藍色の瞳が ほんのりと笑んだ。
どうやら、少女のほうも 相手を嫌っている訳ではないらしい。
注視しなければ判らない程 ほんのりと、柔かい笑みを浮かべたのだ。
少年が無事だった事に、改めて ほっとしての微笑だった。
これを見遁さず、少年も微笑んだ。
「ところで、お土産は 何がい〜い?」
「要らん」
即座に断られて、少年が 大袈裟に哀しんでみせる。
「リリンちゃ〜ぁん、攣れないよーーぉぉ」
まるで 何かの舞台演技の様に、大仰な態度の声だった。
勿論、メイド服の少女-リリンは、これが演技だと判っている。
「おれの事、愛してないのーーーーぉ?」
それでも、切なそうに言われて やや困ったのか、彼女は 可愛らしい口許を『へ』の字にする。
次いで、何かを言おうとして 言葉に詰まった様だ。
小さく開いた口を 再び閉じると、困った様な顔をした。
それと同時に、白い頬が 真っ赤に染め上げられてゆく。
「は……早く、帰って来い」
短く それだけを言うと、リリンは 急いで通信を切ったらしい。
唐突に切れた通信機の 硝子盤になった表面には、少年の 満足そうな笑顔が映る。
「 ーーーーうん」
ただの金属面になった通信機へ返事をして、少年は 嬉しそうに笑った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
同日-同時刻。
別荘の南に面したバルコニーへ出て、シュリは〔月ノ舟〕を眺めていた。
此処-ヴェルツェル地方は、ヴェルツブリュン州の 南東に位置している。
その為、気候は温暖で、冬でも雨雪の降る日は少なく 過ごし易い。
そんな土地ではあるが、今日は 珍しく雪が降っていた。
粒の小さな雪が ひらひらと舞い落ちてくるのを見て、ふらつく躯に鞭打って 此処へ来たのだ。
雪は ちらつく程度に降り、地面に触れると すぐに消えてしまう。
言うまでもなく、ヴェルデシュタイン州とは異なる寒さだ。
そんな中、シュリは、空を見上げ ゆっくりと息をついた。
白い吐息が ふわりと拡がり、掻き消えた。
「 ーーーーーー……… 」
シュリが ヴェルツブリュン州の冬空に重ねるのは、あの雪の日だ。
大きな塊で降っていた雪と、その中に佇んでいた少女の事が思い起こされていた。
フードから覗く髪は、燻しかけた銀の様な色。
滝の様に 真っ直ぐ伸び、肩の上で 切り揃えられていた。
肌の色は白く、細い躯付きの、精巧な人形の様な少女だった。
宝石を想わせる 蒼碧い瞳は、じっと シュリを見据えて動かなかった。
《 何故、あんな所にいたのか……。》
少女を捜し出すには、まず この謎から考えなくてはならない。
あの時 あの場所にいた理由に思案を巡らせる事で、今-現在の移動先を想定する。
そうでもしなければ、捜索範囲を絞り込めないからだ。
勿論、特定したとしても、とても 正確とは云えない。
精々、当たらずとも遠からず と云ったところだろう。
ひょっとすると、まるっきり違っている場合もある。
だが、監視が付いていて 自由に動けない今は、こんな事しか出来ないのだ。
《 あの辺りに、集落はない。》
ヴェルデシュタイン州は 未知の部分が多い。
幾らかの交易があったとは云え、帝国軍で把握出来ていた市町村は ほんの一部でしかない。
その為、駐屯地にする周辺は 緻く調査させていた。
村に至らない単位の集落の有無・食糧となる鳥獣の確保から、毒果・薬草の採取に至るまで、徹底的に である。
森の中で駐屯する間に、周囲-10キロ強に関しては 先んじて査べ上げていた。
結果、あの森には ヴェルデシュタイン州の人々の生活圏はないと判っていた。
となれば、近隣の住人が、偶然 シュリを見付けたとは考えられない。
だからこそ、ゼーレンの言う『まだ制圧されていない地域の住人』と云う可能性は、ゼロに近いと践んでいる。
こうなると、考えられるのは 戦争に因る難民だ。
激化する戦乱の中だけに、住処を追われる者は 多い筈だ。
アルカイン帝国軍のせいにしろ、敵国-ギレス王国のせいにしろ、この戦乱の渦に巻き込まれた者の可能性は高い。
そう考えてしまうのは、シュリが そんな経験を持つ者だから かもしれない。
焼け出された 過去の自分の境遇に、あの少女の姿を重ねたいだけかもしれない。
己れでも判っているが、場所が場所だ。
客観的に看ても、確率は高そうだった。
状況的には、かなり濃厚な可能性と云えるだろう。
しかし、過去 全てを失って 焼け野原を彷徨ったシュリは、経験上『違う』と感じている。
《 身綺麗だった。》
初見でも、少女は 難民に見えなかった。
この一点が、戦災難民だと言い切れない理由になっていた。
少女の衣服にも 軀にも、汚れや 傷は見られなかった。
まるで、つい今し方 森へ入ったかの様に、きちんとした身形をしていた。
これは、あの森の中を 当て所もなく歩き廻っていない証拠だろう。
更に、身に着けていたコートも 不自然だった。
雪豹の毛皮は、ヴェルデシュタイン州で手に入る物ではない。
もっと北に位置する州の中でも、特に寒気の強いエリアに生息する獣のせいだ。
その為、交易で出回る物-以外は、入手困難とも云える。
ヴェルツブリュン州でも、かなり裕福な商人や 上位の貴族でもなければ、手にする事がない代物だ。
戦場に現れた少女にも、冬季-以外は温暖な地域にも 不釣合いな衣服だったのだ。
《 一体、何処で手に入れたのか。》
ヴェルデシュタイン州は、四季のある土地だ。
真夏には 暑く、真冬は 寒い。
だが、兎やミンクの毛皮で作られたコートでも、眼にするのは珍しい。
そんな土地柄だけに、雪豹の毛皮は 違和感-以外の何物でもない。
ヴェルデシュタイン州の 裕福な家柄に生まれた少女だと安易に云えない理由が 其処にあった。
勿論、北方の州の生まれである可能性だってある。
北の リーギルヒルデ州は、年の殆どが 冬に近い気候の土地だ。
山岳地域には、雪豹もいる。
其処からの移民ならば、毛皮の所持も 肯ける。
更に、リーギルヒルデ州は 永きに亘り 戦乱の地となっている。
今は、周辺の国々で その利権を争っていた。
住人としては、其処から逃げ出そうとするのも 人情だ。
温暖な土地へ越して 運悪く戦乱に巻き込まれた、と云えなくも ない。
だが、同じく 戦地となっているヴェルデシュタイン州へ越して来たと云う考えは、人間の心理として 無理がある。
そもそも、リーギルヒルデ州から ヴェルデシュタイン州へ渉る方法がない。
「 ーーーー先へ進まないな」
考えに詰まって、シュリは 大きく息をついた。
現在のところ、違和感のある衣服だった事-以外、大した手懸りはない。
気付いたら 眼の前に立っていて、気付いたら いなくなっていたのだ。
何処から来て どちらへ去ったかなど、シュリには 判り様もない事である。
結局、捜索の範囲を絞る事も出来そうになかった。
こうなると、ヴェルデシュタイン州の広さは 困りモノでしかない。
そして、戦乱の中にあると云う 今の状況も、捜索を困難にさせる要因になってくるだろう。
無事でいてくれさえすれば良いが、その確率は 低いと云わざるを得ない。
ギレス王国軍の手で捕縛されている可能性もあるし、戦火に巻き込まれている可能性もある。
そう云う意味では、アルカイン帝国軍の勢力展開の範囲内にいても 安全とは云い切れない。
更に、少女は〔能力者〕だ。
而も〔魔女〕に属する程の能力を保持していると思われる。
攻撃系と 守備系の達人であれば、戦場でも 己れの身は護れるだろう。
だが、治癒系にのみ特化しているとなれば、そうはいかない。
どちらにも渡さずに、彼女を 躬らの手許に招く事が シュリの理想だ。
彼女の能力を 他者に知られずに護る事が出来れば、厄介な者達の介入はない。
だが、シュリが記憶しているのは ほんの些細な事だけだった。
少女-自身の外見についてでしかない、と云ったほうが早いくらいである。
最も印象的だったのが、少女の表情だ。
恐らく 長い時間を共にしていた筈だが、何度 眼を合わせても、少女は変わらない。
心と云うモノがないかの如く、眼も表情も 感情の機微を窺わせなかった。
思わず〔無慈悲な天使〕を連想してしまった程、完璧な無表情だった。
そして、眉目秀麗と表すに値する顔立ちをしていた。
まだ 発育し切っていない子供だと云うのに、美少女と評するに相応しい姿形が 目を惹いた。
頬も 首筋も、驚く程 色が白かった。
長い睫毛の間から覘く瞳は、紫色を珮びた 蒼碧。
空や湖の色と云うよりは、希少な宝石を想わせた。
全体的に 完成された貌が 少女を造り物の如く見せ、その印象を洌いモノにしていた。
当時の印象は、こんなところだった。
しかし、今は 何かが少し違うと感じている。
まだ 良く思い出せていない部分に、何か もっと重要な手懸りを眼にしている様に思えていた。
勿論、何が どう、とは 答えられない。
全ては、シュリの主観的な『印象』の話である。
《 似顔絵を描かせる訳にはいかないし、な。》
通常ならば、軍-機関の情報網を利用するのが妥当だろう。
似顔絵を作成し 前線の兵士を中心に捜索させる、と云うのが 最も手早く見付けられる方法だ。
しかし、この手段を使うと 弊害が出てくる。
少女が〔能力者〕だと思われる以前に、少女-自体が 余りにも謎すぎる。
研究所-送りにされると同時に、ギレス王国の間者だと疑われる惧れもあった。
これを考慮して、誰にも会っていないと 軍へ報告した。
それだけに、大っぴらに捜す事は 出来る行為ではなかった。
何より、少女を危険に晒す事となる行為だ。
どれ程 切迫していても、やって良い行動ではない。
「 ーーーーーー…‥… 」
シュリは、再び 溜息をついた。
冷え切った空気に、白い吐息が舞う。
見上げる空から降る雪は、積もる気配もない。
例年と違わず、地面に着くと 淡く消えてしまう。
その中で、シュリは 独り佇み続けていた。
静養期間を終えたシュリは 軍務に戻り、少女を懸命に捜す傍ら、あっと云う間に 出世します。数年後に、無事 再会出来たとか 出来なかったとか…。
やっと シュリが動きましたが、主役に設定している筈が 全体的に出番が……。
黒髪•狐顏の少年に於いては、名前さえ出なかったし。
魔法、出てこなかったなぁ。銃で撃ち殺しちゃったもんなぁ。
オカシイナァ。