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第4話 陰気な少女

「えーですから、新入生の諸君は...」


体育館の壇上で校長先生がひたすら呪文のように話していた。

話し始めてから一体どれくらい経ったのだろう…


八ノ幡中の生徒という肩書きを背負ったからこそ、社会の模範となるような行動をしなければならない。常に勉学に励みなさいなど… 大事なことだと分かっているけれども退屈だ。


校長を長い間見つめるのも飽きてきたので、桜井君が座っている方へ視線を変えた。


まだ会って一時間程度だけれども、桜井君らしくいびきをかきながら寝てしまっていた。藤原先生に怒られるのも時間の問題だろう。


それにしても桜井君は凄いなぁ…

僕と正反対な性格でとても前向きだった。深く考えないでみんなと仲良く出来るような人になれれば、どれだけ楽に生きていけるのだろう。


次に周囲を見渡すと、他にも数人の生徒がきょとんと頭を下げ深い眠りについてしまっていた。


幸せそうに寝ている姿を見て羨ましく感じてしまう。僕だって昨夜は緊張してあまり寝れていないのにこうやって耐えているのに――。


そう考えていると、本当に眠気が僕のところにやって来た。


瞼が重力の法則に従い、どんどん落ちていく。いけない、このままじゃ本気で寝てしまう。


ほんの少しだけ、10秒だけ目を瞑っていれば教師にバレることはないかもしれない。

そんな頭の中の悪魔がそう囁き、僕はその提案に従ってしまった。


制限された空間で掟を破ることがこんなにも気持ち良いと感じた事はないだろうか。


10秒じゃなく、もうちょっとくらいは目を閉じていてもバレないよね?…


20秒、30秒…… もうキリがない。




そんな中、ツンツンと誰かが僕の肩をつついた。


瞬時に目を開けると、隣の女子生徒が話しかけてきた。


「あの、えっと吉坂くん、大丈夫?」


「あ...うん、起こしてくれてありがとう。確か君は...」


「わたし、山田秋穂(やまだあきほ)だよ。その、よ、よろしくお願い、します...」


山田さんは下を向いたまま話し続けていた。なんだか難しげな表情を浮かべていたが、そんなにじっと見るのも迷惑だし、気にせず再び前を向いてこういった。


「うん、よろしくね!…」


校長の話が終わったのはそれから10分後のことだった。

時間が迫っていたせいなのかその後の流れは一瞬で、入学式は終わった。




―――――



正午くらいにやっと今日の学校が終わった。


特にこれといった今後の説明はされず、明日からよろしくという感じで今日は良いらしい。


さて、もうすることもないので家に帰れるけれど、これからどうすれば良いのか…


家に戻っても小学校の友達と会うのもありだけれど、基本的に僕と違って親といる訳だから相手をしてくれるはずがない。


1人寂しく帰ろう、そうしようとした時だった。


「吉坂〜」


桜井君だ。


「なあ、今から一緒にワクドでメシ食いに行かないか?腹減ってきたしさ」


ワクドナルド(通称ワクド)は、世界中で有名なファストフード店だ。


「え、今から? いいけど親と行かないの?」


「親? ああ親なら今日来てないぞ。てかお前んとこは大丈夫なのか?」


「同じだ。 僕のところも今日来てないよ。」

「…お、奇遇だな。だったらさっさと行こうぜ! ついでにこの街案内するからさ〜」


こんな爽やかな笑顔、僕にではなく他の可愛い女子に見せればいいのに…


「うん、わかった」


孤独な状態から救ってくれた事が嬉しかったので、誘いに乗ることにした。


「あ、そうだ! 他にも誘って行かね? 俺らみたいな”ぼっち”で集まるのもありかな〜って」


「他にだれかいるのかな? 僕は全然構わないよ」


むしろ多いほうが賑わって僕は嬉しい。


「そうだな〜… あそこの女子とかはどうだ?」


そう言って桜井君はさっき知り合ったばかりの山田さんを指さした。


山田さんは1人で荷物を集めて帰ろうとしている様子だった。


「知ってる人か?」

「いや、さっきたまたま話しただけだよ」


「そっか、じゃあお前が誘ってきた方がいいんじゃないか?」


「ぼ、僕が!? 別に大丈夫だけど…」


「別に誘うだけだろ―? はっ! まさかナンパかと思ったのか?」


「そ、そういう訳じゃなくて! ただ初対面の人に突然いいのかなって…」

「あーもうそんなウニャウニャしてないで言ってこい!」


まだ色々と誤解を解きたかったのに、背中を強く押されて流れで山田さんの前にやって来てしまった。


当の山田さんは首をかしげながらこちらを見ていた。


「あ、あのさ、もし1人だったらみんなでお昼でも食べに行かない?」


「ふぇ?… 私?」


「うん、山田さんと、僕と、あとそれから桜井君って人と他にも誘う予定だけど――」

「行く」


最後まで話し終わる前に返事をされ、変な雰囲気になってしまったが無事誘うことに成功した。


「吉坂〜、そっちどうなった?」


さっきまで一体何をしていたのか分からないが桜井君が僕達の方へやって来た。


「うん、行くってさ」


「お、まじか! じゃあこれで4人になったな!」


桜井君はよし!と言って腕を組んだ。


「よにん?…」



「俺、吉坂、と山田さんでいいんだっけ?、それからこの子!」


桜井君の言うこの子は、彼の隣にいた人のことだったようだ。


「はじめまして、有原桃香(ありはらももか)だよ! なんか楽しそうだし、よろしくね!」


こうして4人でワクドナルドへ向かうことになった。




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