the eternity code [ss]
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何時だったか。
君にあげたペンダントトップに僕のしるしをつけた。
僕の言葉では君を完全なまでに愛せない。勇気が誰に味方するかなんて全く予想も付かないし、希臘人でもなければ他国の文化を応用しようなんて考えない。
一緒にアメリを見て微笑ましく其処にあった恋を熟成させようと、幼い僕等は奮闘していた。
例えばある日、君が消えたら。空想の技術は世界の核を担うほど高度で、要するに其れが我々の民族の持つある程度完成された現実逃避の技術だった。他国に譲ろうと思えば、脳を移植する必要があったし、知識のない我々にはその技術の実験にさえ手が出せない。
人権なんて皆無だ。
自分がこれからどうなるのか見当も付かない。
我々にはこの”空想”という特殊な事ができる脳の守り方さえ、知る事が出来なかった。長い物に巻かれて、我々の国は滅び去った。他国の異性と交わり子を作る事で、”空想”を持つ子供を作る事は出来ない。
空想はその生きる環境に最大の要因があった。
「生きていれば、結ばれる。私達は同じ血の交わりでしか夢を見る子を産めないのよ」
巫女がそう予言した。
生きて何になる、と男はいう。
或る者は夢を捨て、”空想”を捨てた。或る者は自らを殺り、繋がれた赤い糸に引かれて幾人かの女が死んだ。
僕はまだ生きている事に感謝しなければならない。
実験体であっても、僕はこうして故郷を空想により作り出せる。愛する人とも会えるのだ。
僕の空想により読みとられたデータは次々と複雑な機械の一部に取り込まれていく。データを読み出す人々が硝子越しに見える。一人は僕と同じ黒い髪の毛を頭皮に貼り付けようとしている。あの髪型をオールバックというらしいが実際に見るのは初めてだ。彼らは慌しく鳥籠の中の僕を取り巻き、脚を細かく動かす。
「少年03号の脳からデータが!」
「データ送信時間はわずか0.4秒でしたが、膨大な量のデータです」
「…」
不可解な髪形をした眉間に皺を寄せる人間は無言で騒々しい人々の声を鎮圧した。
「03号、是が”空想”のデータか?」
「はい」
もう充分だった。
耐える事は死に近いのではないかと、意識が思考を始めた。
「望みを叶えよう」
「彼女と僕を解放しろ」
「少女01号だな」
深くはっきりと意思を示した。
そうだ、彼女だ。
同じ施設に捕らえられたのは、幸か不幸か。運命によって定められているのか。
どちらにせよ、これからの僕等には永遠に愛し合う権利が与えられる。
「教授、解読不能です」
「未知のコード、未知の言語、我々にも、スーパーコンピュータにも解読不可能です」
「空想の核となるデータのようです」
「03号が核を持っているのでは?」
機械的に言葉を収集し、未来なんてやっぱりないんだと絶望した。
「少女01号を連れて来い」
静かに決断は下された。
教授と呼ばれる人間は顔を変えずに、やはり無言で、その場を鎮圧した。
「核となるデータさえあれば、我々は”空想”を手に入れられる」
僕は複雑な機器を前に其処に立っている人間を見た。
野望、だろうか。
そうに違いない
「用のない駒は捨てろ、即刻全員解放するんだ」
僕は今硝子の鳥籠の中にいる。
彼女は生きているだろうか。幸せならば連絡の一つでも寄越せば良いのに。
僕はもう”空想”さえ失ってしまった。僕が与えたデータは僕にしか分からない。
彼女には僕の印を。
fin.
読了 thx!