序章
序章
この国の昔話を聞かせましょう。昔々、あなたが考えているよりもずっと昔。ある、とても太陽が好きな国がありました。その国の人々は、日の出を見るたびに今日一日の無事を祈り、夕焼けを見て今日よりすばらしい明日を願うのでした。しかし、そこの国王は太陽よりも月が好きでした。さんさんと照らす太陽の光より、優しく降り注ぐ月の光を愛していたのです。
ある日国王に、とても可愛らしいお姫様が生まれました。国王はとても喜び、その子に「月夜姫」と名付けました。大好きな月のように、皆を優しく照らしてほしいと思ったのです。しかし、周りの人たちは太陽にちなんだ名前を付けてほしいと国王に訴えました。そこで国王はその人たちにこう言いました。
「次に生まれてくる私の子供はきっと太陽の似合う姫だろう。その子には日向姫となづけよう。月夜姫と日向姫。ちょうど良いではないか」
周りの人たちは少々不満げでしたが。国王の言うことに従いました。
ちょうど一年後、お姫様が生まれました。約束どおり国王はそのお姫様の名前を日向姫と名づけました。
時が経ちました。
月夜姫と日向姫は二人とも美しく聡明に育ちました。月夜姫は艶やかな銀髪に深い紫色の瞳。日向姫は輝くほどの金髪に澄み切った空のような青い瞳のお姫様です。しかし、そのような髪や瞳の色はその国の人々にない色でした。その国の人々は皆黒い髪に黒い瞳だったのです。
だんだん、国民は姫たちを恐れるようになります。この世のものではないような美しさと容貌に周りの人々は二人を避けていきました。そして、鬼と呼ばれるようになった彼女たちは、暗い部屋に閉じ込められます。食べ物もろくに与えられなくなった姫たちはやせ細っていきました。それでも二人は月と太陽に祈りました。
「お月様、お願いします。きれいな服も宝石も要りません。ただ、妹と静かに暮らせる優しい場所に連れて行ってください」
「お日様、お願いします。姉さまと私が幸せになれる所に、この城から遠く離れたところに連れて行ってください」
ある日、月夜姫は暗い部屋から出されました。連れてこられたのは国王のところです。 国王は姫にこういいました。
「月夜姫、そなたのことを臣下たちは嫌っている。月の名前であるお前は後に生まれてくる妹に呪いをかけ、金髪碧眼にしたと。お前は悪魔だと唱えるものもおる。そして近頃はお前を殺せば日向姫は黒髪の黒い瞳になるのではないかと考え、お前を処刑しろと臣下からも国民からも嘆願書が出ている。そなたはどう考える」
しばらく考えた後月夜姫は言いました。
「私の死によって妹が幸せになるのなら、私は喜んで死にましょう。しかし、条件があります」
「聞こう」
「私が死んでも日向の髪の色は変わらないかもしれません。その時は日向を静かに暮らせる優しい場所に連れて行ってください」
国王は言いました。
「お前は優しく育ったな。まるで月のように」
月夜姫はこれまで見たことのないような美しい笑顔で言いました。
「お父様がつけた名前ですもの」
部屋に帰った月夜姫は日向姫に今のこと言うか迷いました。でも、太陽のような笑顔の妹を見ると、秘密にしておくことに決めたのです。
ついに処刑に日がやってきました。日向姫はまだ暗い部屋の中。また呼び出されただけだと思っています。月夜姫は最期に妹の可愛らしい笑顔を思い浮かべました。そして、自分も笑おうとしましたが、涙が出てきました。涙があふれて止まりません。空に浮かぶ太陽はまるで、日向姫のように明るく月夜姫を照らしました。月夜姫は太陽に向かってこう言いました。
「私の可愛い妹。もっと一緒に暮らしたかった。二人で、優しい場所に行きたかったわ。でもごめんなさい。姉さまは、あなたのために死ぬことを選んだ。だからあなたは笑って。もう笑うことのできない私の分まで・・・。そして幸せになってね。姉さまは月になって見守っているわ。あなたを優しい光で包むから。だからあなたはその太陽のような笑顔で周りの人を包んでね。私の最期のお願い……」
そして、彼女の首はてん、と転がったのでした。
月夜姫が死んでも、日向姫の容貌は変わりませんでした。そこで国王は日向姫を呼び月夜姫の死のこと、国王に出した条件を、そして最期の言葉を伝えました。日向姫は泣きました。でも、月夜姫の最期の願いを思い出し、笑顔で城を去りました。
国王が準備した家は姫たちと同じく鬼と呼ばれている変わった風貌の人たちが集団で暮らしている村にありました。
そこの人たちは日向姫を快く迎え入れてくれました。特に霞という村長の息子には良くしてもらいました。霞は、月夜姫と同じ銀髪に紫色の瞳を持っていました。二人は恋をしてついに結ばれました。二人の間には子も生まれます。その子は黒髪に右目が青、左目が紫の女の子です。二人はその子の名前を月夜と名づけました。
そして、その領主の家系には片目が紫色の子供が必ず生まれるようになりました。その村はだんだん大きくなり。村は街になり、やがて街は国になりました。
その国の国王は代々必ず片目が紫色です。そのことからこの国の名、「紫の国」という名ができたのです。
始めまして、秋鹿藤野です。ここまで読んでくださってありがとうございます。この作品はブログなどで公開していましたが、途中まで書いて、放置してしまったものです。この場でまた、日の目を見ることになりました。まだまだ、物語が進んでいるとは言えません。暖かい目で見守ってくださったら嬉しいです。
では、またお会いできるまで。