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【完結済】Bloody Bride  作者: 馬頭鬼
第二章
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第二章 第二話



「さて」


 ラルヴァ王子とヴォルクス大臣、そしてキリアを乗せた馬車は、煉瓦造りの大通りを抜け、王都の外れに近いダールトンの屋敷に着いた。

 目の前にあるダールトンの屋敷は、正直に言ってそれほど大きなものではない。

 多少は剣に長けているとは言え、所詮は現場で犯罪者を取り締まるような仕事しか与えられない程度の下っ端貴族。

 その給金で使用人も三人ほど雇っていれば良い程度だろう。

 王子の眼前にあるのも、そのくらいの屋敷だった。

 一応の手入れはされているようだが、屋敷の周囲には木が大分生い茂っており、十分な手入れすらしていないのが分かる。

 ……仕事一筋のダールトンは、庭木の手入れには熱心でないようだ。

 だが、それはラルヴァ王子にとって好都合である。

 何しろ、屋敷内の様子が周囲の家々から見えないことを意味するのだから。

 同じように、空もそろそろ色づき始める時間帯になっていることも、これからキリアにさせる仕事を考えれば、良い条件だとも言える。

 ただ……唯一の不安があるとすれば……


「しかし王子。

 ……コヤツは役に立つのですかな?」


 半ば強引に引っ張ってこられたヴォルクス大臣は、ラルヴァ王子の唯一の不安要素……即ちキリアを見て、王子の内心を表に出したような表情、つまり不安そうに囁いて来た。

 実際、誰の目から見ても……屋台で買ってやった焼き菓子をボロボロと零しながら、必死に口に詰め込むその少女を……ガリガリに痩せて色香すら感じられないような侍女を暗殺者と思う人間は居ないだろう。

 これから暗殺をさせようという王子自身、彼女に対しての不安を隠し切れていない。

ただ「王族ならば不安を他人に気取らせるような真似をするな」と教育されているため、自信満々といった様子を装ってはいるが……


「ふん。外れなら外れで問題はない」


「……ですが、王子。幾らなんでも暗殺者に屋敷に押し入らせておいて問題にしない人間はいないかと……」


 暢気なラルヴァの声にヴォルクス大臣は眉を顰める。


「別に。妊娠した侍女の子を認知する代わりに、ダールトンを暗殺しろとそそのかしたと言えば、誰も問題にしないさ」


「……いや、王子、それは」


 王子の堂々とした声に、ヴォルクス大臣は至極真っ当な感想を抱く。

 ……即ち、何を無茶苦茶言ってるんだ……である。


「ダールトンと言えば、騎士の中でも五指に入るような腕前だ。

 侍女なんかにダールトンが殺せる筈もない。だろう?」


「……それはそうですが」


「あくまで暗殺目的ではなく、侍女が屋敷に飛び込むのを酒の肴にしていた。

 そう言えばまたいつもの俺の奇行だとみんな納得する」


「……そうかも、しれませんが」


 ラルヴァの堂々とした物言いに、ヴォルクス大臣の威勢が落ちる。

 ラルヴァ王子の奇行はよく知られていたため、今さら少々騒ぎを起こしたところで下がるような評判もありはしない。

 ヴォルクスの反論が勢いを失ったことで話に決着がついたと判断したラルヴァは、屋敷から持ってきた短剣を鞘から抜くと、キリアに手渡す。


「?」


 突然渡された鉄の塊を見て首を傾げるキリア。

 今までの話の流れなんて、食べ物に夢中になっていた彼女にはさっぱり分からなかったのだ。

 ……それでも、その手渡されたモノが一体どういうモノか、キリアは知っていた。

 何しろ……『ソレ』は彼女の生活の糧を得るための、唯一にして絶対の道具だったからだ。


「さぁ、働いてもらうぞ、キリア」


「うん……でも、なにをするの?」


 王子の言葉を聞いてすぐに頷いたキリアだったが、その首をすぐに傾げる。


(本当に大丈夫か、コイツ?)


 その様子を見たラルヴァは少しだけ失望混じりにそう心の中で呟いたが、それを口や顔に出すようなことはせず、手馴れた様子で短剣を持っているキリアの頭を撫でると……

 騎士ダールトンの姿絵を見せながら、囁く。


「コイツを、殺して来い」


「……ころす?」


「ああ。俺のためにコイツを殺して欲しいんだ」


「……それが、はたらくこと?」


 ラルヴァの囁きに対しても、殺すという言葉に対しても、あまり大した反応を見せないキリアを見て、ラルヴァ王子は失望を隠しきれなくなっている。

 目の前の少女が殺人鬼などではなく、知性の発達し切れていない、ただの世間知らずの少女である可能性が高くなってきているのだ。


(騎士どもが名誉のために『鮮血』のキリアをでっち上げた可能性が高いか。

 なら、本物を捜す手配をしないといけないな)


 なんて頭の中で考えつつも、ラルヴァ王子はキリアの肩を掴んでくるりと回転させ、屋敷の方へ向けると……


「……ああ。行って来い」


 と、キリアの背中を押した。


「うん。いく」


 その一押しがきっかけになったかのように、キリアはまっすぐにダールトンの屋敷に歩いて行く。


「あ、キリア。出来れば首を持ってこい」


 余りにも気負いのないキリアの歩みを見たラルヴァは、自分の命令を彼女が理解しているのかどうかを疑問に感じ、その背中にそう声をかけてみる。


「……その首が働いた証拠になるからな」


「……うん。もってくる」


 自分でも無茶を言っていると分かっていた王子の言葉だったが、それに返って来た応えはそんな……何の困難も感じられない、いつもの声だった。


「……あれで本当に大丈夫ですかな?」


 その背中があまりにも頼りない所為か、ヴォルクス大臣が不安げにそう尋ねてくる。

 だが、ラルヴァ王子にもそれに応える術を持たない。

 何しろ……ラルヴァ自身こそ、その背中に一番不安を感じているのだ。

 それはまるで、自分の子供を初めてお使いに出すような親の心境だったのだが、子供を持っていないラルヴァ王子にとって、その不安は自らの王位が遠ざかって行くことへの不安だと判断してしまう。


「ま、当初予定通り、酒でも買うぞ」


「……ええ」


 結局、それ以上見ていても仕方ないとの結論に達したラルヴァ王子は、不安を断ち切るようにキリアの背中から視線を外すと、ヴォルクス大臣を伴って近くの酒場に脚を運んだのだった。



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