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誘われし狐  作者: こう茶
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六巻

歴史上の人物たちが登場いたしますが、史実とは関係なくそのため時代感もバラバラです。

今回は名前だけのモチーフとさせて頂いているだけですので、その点をご了承ください。

上からの物言い申し訳ありません。

 漆黒の大狼ナフィードウルフ。なぜにカタカナ表記? とか思うところあるが、何か理由があるのだろうか? 後でしろがねに聞いてみよう。

 そして、この漆黒の大狼ナフィードウルフは黒い体毛に紅く光る瞳を持ち、口からは鋭い歯が見え、黒い息を吐いている。


 俺の前に見えるのはその漆黒の大狼ナフィードウルフが6頭。先頭に居るウルフ(長いので略した)は俺よりも一回り大きい。そして、同じ四足歩行のせいで目線が合う。真正面から目が合った事でダイレクトに殺気が伝わった。


 マズイ。冷や汗が止まらない。だけど、存在昇華ランクアップしたし……いけるはずだ。俺には魔法という手段があるし、遠距離からいくか。


 戦いの幕は唐突に切って落とされた。

 恐怖感をぬぐい切れなかったのでじりじりと後退する中、前にしか意識が向いていなかったせいで木に当たってしまった。振り向いた瞬間、ウルフ達が一斉に襲いかかってきた。


 まずい、こうなった以上はやるしかない。足の震えを抑えながら呪文を唱える。


火よファイアー、火よ、火よ!】


 連続で魔法を放ち続ける。正確に顔を狙った。そのおかげで距離を取ったまま戦う事が出来た。

 そして、魔法一発に使う魔力と与えているだろうダメージを考えると俺の魔力の方が早く尽きるだろう。こうなってくると相手の数が脅威だな。

 だが、こうやって地道に相手の体力を削り続けるしかないだろう。時間を稼げている今の内に手を打たないと。

 1、2、3、4、5……? あれ1頭居ない? 

 ――チッ。しまった。


 気づいた時には遅かった。後ろから襲いかかって来た1頭を躱す事が出来なかった。

 その攻撃は右足を掠めた。気を取られたので、前を見ると残りの5頭が距離を詰めすぐそこまで迫っていた。


 クソッ。魔法で距離をとりながら闘っていたのが台無しだ。


 仕方ない。肉を切らせて骨を断つか。

 それに【早治術】を使いながら、【鬼動術】を使って、仕留める!


 右前足、左後足、左前足、背中、尾に1頭ずつ噛み付いてきた。だが、群れのリーダーと見えるウルフはかかってこない。

 好都合だ。痛みを堪えてこいつら全員倒す。


「おおおぉぉ! 【即神術】【鬼動術】【軽身術】【早治術】! があああっ! 痛ッ! チクショウ。これで終わりだっ」


 【即神術】によって、より敏感になった痛覚。痛みに耐えながら手当たりしだいに噛み付き、引き千切り、薙ぎ倒す。牙と爪、時には尾を使って必死に暴れまわった。


「はぁはぁ。終わったぞ、この野郎! あとはお前だけだ。行くぞ!」


 だが、一歩踏み込んだ瞬間前のめりになって倒れてしまった。


「な、どうしたんだよ? 動け、動けよっ」


 それでも動かなかった。まるで自分の足ではないみたいに言う事を聞いてくれない。痺れて立ち上がれない。そして、【即神術】で強化された痛覚は俺の精神力を削っていった。

 

 危険だが傷がふさがっていない今は使えない。


「またかよ、これしかねえか。【早治術】【鋼毛】【硬化術】」


 敵の攻撃に備えて、構える。

 そして、容赦なく突き立てられる牙と爪。じわじわと首元に喰い込んでくる。


 なんで動けねえんだ。なぜだ? 

 ……もしかして、毒か? 傷口は黒く染まっているし、噛まれた部分が特に痺れが酷いのは確かだ。おそらく、間違いではないだろう。こうなると分かってて、仲間を囮に使って自分は観戦してたのかよ。やり方は気に食わねえが、巧い。


 油断した。恐れずに最初から全開にスキルを使って各個撃破してれば、こんなことにはならなかった。存在昇華した事で驕りが生まれてたんだな。

 よく考えれば俺はこっちに来たばかりだ。出来なくて当然なのに俺は……。


 けどよ、最後の足掻きぐらいはしてやるよっ!


「おおおおおぉぉっ! 【鬼動術】喰らえぇぇっ!」


 最後の力を振り絞って一心不乱に喰らい付く。


 幸いなのは元々の体力が少ないおかげで俺が力尽きる前に何とか敵を地面に引きずり倒した。だが、意識が続いたのもそこまでだった。そこからどうなったかは覚えていない。







 気付くとそこは真っ白な空間だった。

 下には見慣れた風景が広がっていた。一人の厳めしい男が暴れていた。


 あれは師匠? 銀ではなく憎たらしい爺さんの方だ。何で暴れてんだよ、全く。

 少し耳を澄ませてみると声も聞こえてきた。





 ◆◆◆


「邪魔だぁっ! 退けっ!」


 歳相応とはとても思えないほどの声の大きさにその強さ。辺りには倒れている衛兵たち。得物は木刀のため大事には至っていないが、だからと言って放っておいていいというわけではない。


 なぜなら、彼ら衛兵は任務を放棄することは出来ないからだ。そして、この老人の目的も分かっているからこそ通すわけにはいかなかった。


「武蔵何某という奴を出せっ! わしが殺してやるっ!」

 

 彼のあまりの殺気と威圧感で叫ぶ度に衛兵たちはビクッと震える。だが、それも鬼神の様な男と相対している彼らにとっては仕方ないことであった。

 老人の名は鐘卷流かねまきりゅうの始祖、鐘卷自斎かねまきじさいが弟子、伊藤一刀斎いっとうさい。彼はその昔剣客として名を馳せ、盗賊を100人切り伏せたという逸話を持っていた。

 今でこそ道場を開き落ち着いているが、彼の実力を知り、教えを受けた者は衛兵たちの中にも多い。その名に相応しく指導は辛く厳しいものであった。彼ら弟子は師の力を知っている。だからこそ、恐れ慄くのだ。

 では、一流の剣士とも言える彼がなぜこんなにも怒り狂っているのか? その理由が先ほどの武蔵であり、弟子の佐々木小次郎の死にある。


 それらが彼の闘争本能と怒りに火をつけたのだ。


 弟子の佐々木小次郎の死は事故だった。ただ、打ち所が悪かった。それだけだ。武術大会に出る以上はそのような危険はつきものであるし、そこは本人、家族共に了承済みであった。

 しかし、感情的にならずに冷静でいられるというのとはまた別問題であった。

 両親は目の前で息子が命を落とすところを目撃し、泣き崩れる姿を見た瞬間、一刀斎は激怒した。

 

 彼自身どうしてこうなったのか分からなかった。

 悲しかったのか? 腹が立ったのか? 

 だが、どこか冷静な部分が告げていた。

 ただ、喪失感と絶望からくる不安を消し去りたかっただけだと。


 分かっていても木刀を振り続けた。怒りに身を任せていようとその腕は鈍ることはなく、むしろ鋭さを増していた。


 彼の周りに倒す者たちがいなくなった頃、衛兵たちも理由を知っていたがゆえに遠慮していた手段を取ろうと構える。


「斉射準備!」


 合図で弓を引き絞る音が出た。


「そんなものでとめられると思うなぁぁっ!」

 

 彼はそれを見てさらに気勢を上げた。


 そこに水を差すように落ち着き払った声が響く。


「皆さん、下がってください。俺が出ます」


 後ろで守られていた、今回の事件のきっかけである武蔵が現れた。


「貴様が武蔵かぁぁっ!」


 その姿を見るや否や、飛び掛かる一刀斎。


「くっ」


 武蔵はその太刀を辛うじて受け止める。立ち位置を変え、巧みに力を流して、逃れようとするが相手である一刀斎がそうさせてくれない。

 鈍い音が響く。武蔵は右手、左手と持ち手を変えながら受け続けた。

 しかし、烈火のごとく襲い掛かる一刀斎を止めれない、止まらない。


 そして、均衡が崩れる。やはり、先に折れたのは武蔵だった。木刀が弾かれ、続けて胴に一撃され、吹き飛ばされた。


「があぁっ」


 痛みに悶える武蔵に向かって一歩ずつ距離を詰め、トドメを差すべく木刀を振り上げた。


「「お待ちください!」」


 それを止めたのは他でもない小次郎の両親だった。その身で武蔵を庇うように両者の間に割って入った。


「なぜ止めるのですっ! こやつは我が愛弟子とあなた方の息子を殺したのですぞっ!」


 その鋭い視線に怯むことなく彼らは続けた。


「そんなことをしては小次郎の為になりません」


「そうです。我が息子の好きな師匠はそのような事をする方ではないっ!」


 温和な小次郎の父からは予想だにしていなかった一喝で怯んだ一刀斎は素人の拳を躱す事は出来なかった。


「少しは落ち着きましたか? 私たちとて悲しくないわけではありません。しかし、そうしたところで小次郎は戻ってきませんし、一番の供養は今生ある者たちが幸せに生きる事ではありませんか? 憎しみにとらわれてはいけません」


 涙を流しながら、拳を震わせながらも紡いだ言葉を聞いて徐々に彼の体からは熱気が去っていった。


「すまなかった……」


「いえ、思い止まってくれたのならばいいんですよ」


 その様子を見ていた武蔵が何かを決心したかのように立ち上がった。


「あの――」



 ◆◆◆





 そこで途切れて見えなくなる風景。手を伸ばしても届かない場所を想い呟いた。


「ああ、よかった。あっちは大丈夫みたいだ。……なのに、何で止まらねえんだよっ」


 止めれなかった。あふれ出る涙を。


「父上、母上、師範。会いたいよ。一度だけでいいから」


 それからどのくらいの時間が流れただろう。また一人白い空間に取り残されていた。


「怖い、怖いよ。俺死んじまったのかな。誰か、答えてくれよ」


 その問いに答える者はいないそう思った時だ。


「その様に悲しげな声を出す出ない。男児であろう?」


「誰だっ!」


 涙を拭きながら振り返る。そこには狐の仮面をつけた着物の女がいた。


「これも運命として受け入れよ。主はもう二度と会うことは出来ん」


 その言葉は俺に深く突き刺さった。


「う、嘘だ。そんなのあるわけないっ!」


「どうしてそう思える? それとも主は帰る手段を持っているのか? 持ってないだろう」


 それでも俺は……。


 首を垂れていると頭をなでる感覚があった。

 温かい、気持ちいい。もっと撫でてもらいたい。そう思った。

 

 その意思を酌んだかのように撫でながら殊更優しい声で彼女は俺に言うのだ。


「可哀そうなわらべよ。これからはわらわが主を支え、見守ろう。ずっと見ておるぞ」


 遠くなる意識の中その優しい声だけが俺の頭の中に残った。








「ここは……?」


「起きたか」


「化け物?」


 俺の目の前にいたのは銀だった。思わず化け物呼ばわりしていしまったが、そこは俺よりも長く生きているのだ。怒るなんてことはしないだろう。


「誰が、化け物だっ!」


 そんなことはなかった。そして、この痛みは俺に生きていることを実感させた。







 怒りが収まってから銀に今回の顛末を聞いた。


 俺はどうやら狼に殺されるところだったらしい。それに気づいた銀が飛んできて追い払ったらしい。おそらく、銀なら殺すことも出来ただろう。それをやらなかったのは俺の治療を優先させた結果だろう。ありがたい。

 その後、怪我自体はすぐに治ったらしいが狼の攻撃には毒が含まれていたらしく、そのため俺の目が覚めるのが遅くなってしまったようだ。


「ありがとう、師匠」


「ふん、起きたのならば食事をしてくると良い。約束通りお前の食事はないのだからな」


「はいはい」


 事ここに至っては命があるだけでいい。食事位弱い奴探して食べればいい。簡単なことだ。油断もせず、手を抜かない。それだけだ。


「それには現状把握が必要だよな【ステータス】」



 名前:小次郎

 種族:二尾の白狐びゃっこ

 位階:二位

 スキル:【魅惑の瞳】【魅了・弱】【鋼毛】【迷彩】【操尾術そうびじゅつ】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【長寿】【狐神きつねがみの寵愛】【??へと至る道】


 


 あれ? なんだか見たことのないスキルが増えてる気がする。それに魔法を使いまくったから魔力も増えた気がするな。まずは詳細を見てみるか。



 【長寿】

 長生きできるようになる。


 

 【狐神の寵愛】

 病気にかからなくなる。防御力が常に1.5倍になる。また、狐族の特性が強化される。



 【??へと至る道】

 効果不明。また、開示条件を満たしていません。

 



 

 初めて何もわからないスキルが出てきたな。これはどういう事だろう?

 まあ、考えても仕方ないしそれよりも銀に狐族の特性を聞かねばならないだろう。



 ……駄目だった。あいつ頭が固すぎる。

 俺が頼み込んだというのに即答で断られた。

 時期が来れば分かるだとよ。けっ。湿気てやがんぜ。


 ま、愚痴っても仕方ないし、時が経てばわかるなら別にいいか。俺もそれまでに一区切りつけないとな。あっちを想って泣いてる場合じゃないしな。


 さてと、食事に行きますかね。腹が減ってしゃあないんだ。


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