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誘われし狐  作者: こう茶
8/44

五巻

 俺はしろがねに言われた通りに洞窟から出て狩りに、修業の成果を確認してきていた。


 銀は付いて来ていない。少なくとも俺では感知する事が出来なかった。それに銀に手伝ってもらったら、食事が出来なくなるので頑張らなければならない。

 最悪芋虫を狩って食い繋ぐ事は出来るが肉の味をしめてしまった今では後戻りしたくはない。


 という事で草をかき分け、森に立ち入り、獲物を探す事一時間。


 ――見つけた。


 息を潜めて、対象を観察する。


 それは猿の様な姿をしていた。だが、俺のよく知る猿とは異なり、顔つきが鬼面のようで、牙が鋭く生え、紅く短い一本角が天を突く。瞳は獲物をさがして血走しり、恐ろしい形相だった。そして、雪山に生息しているせいか体毛は真っ白。手や足の裏、顔などの体毛に覆われていない部分は血の様に真っ赤に染まり、色の対比が存在感をより引き立てる。



 白鬼猿しろきえん

 位階:二位


 基本的に魔法を使うようになるのは知性を持ってから、そして、目の前のこいつはただのけものだ。つまり、魔法を使ってくることはない。体の大きさも俺が子供の大きさの狐だとしたら、大人一人分の大きさ程度しかないのでそれよりも更に大きな銀を見慣れていたおかげで、強面以外からは威圧感を受けることはない。

 魔法を使えないという事は遠距離攻撃手段を持っているとは考え難い。だが、俺の魔法も初級で牽制程度にしかならないだろう。ならば、回避に中心にいた近接戦闘で行くしかないだろう。後は零距離で魔法を当てればそれなりにはなるだろうし。

 

「行くぞ」


 俺は静かに闘志を高め音を立てない様に慎重に近づく。


 一歩。二歩。


 足跡が雪に残る。それだけが俺の存在を主張しているかのようだ。それほどまでに気配を消していると思っている。


 その時はやってきた。雪の中に埋まって隠れている今の位置から飛び出せば、攻撃を加えることが出来るだろう。


 三、二、一。


 ――零。


 雪が辺りに飛び散り、その瞬間白い狐が飛び出した。





 【鬼動術】【軽身術】【即神術】を併用して発動させて飛び掛かった。体力の消費が激しいが短期決戦で仕留めるつもりなので問題はないはずだ。

 咄嗟に反応して急所を守った白鬼猿しろきえんの腕を狙って喰いちぎった。

 強化術でこんなことも可能にさせたが、おそらく油断を着いた奇襲ゆえの結果だろう。

 しかし、喰いちぎったといっても片腕を右腕をもぎ取ったわけではなく、ただ深く噛みついて腕の肉を一部喰いちぎっただけだ。味は癖になりそうなくらい美味い。見た目通りに筋肉質だが噛みごたえのあるものとするが食べれないというほどではない。

 咀嚼すると、相手も怯みから立ち直り、怒り狂い始めた。片腕からドクドクと血を流しながらも戦意を失わずに向かってくる。猿は怒りと自らの血によって純白の毛を紅く染めた。どうやら興奮状態になると毛の色を変えるようだ。

 不思議に思い、冷静に観察を続ける。もちろん、その間待ってくれるはずもないので繰り出された攻撃を【見切り】を使い、先読みをして、最小限の動きで躱す。

 しばらく観察を続けていると、やはり右腕の傷が思った以上に効いているようだ。右、左、右、左と規則正しく振り子のように腕を振り続けているせいか出血が激しく、俺が避け続けているだけで徐々に動きにキレがなくなっていった。

 傷付いた左腕が上がらなくなってきたところで、この戦闘を終わらせるべく動いた。


 【見切り】を使用し、左からの攻撃を躱す。【操尾術そうびじゅつ】で尾を操り、敵の右腕に照準を合わせて、魔法を放った。


火よファイアー


 尾の先に火が灯り放たれる。至近距離で放たれたそれを相手は為す術もなく当たってしまう。そして俺が狙った場所は右腕にある傷口。

 さらなる痛みで怯み、呻く白鬼猿に向かって跳ぶ。

 首元狙って喰らい付いた。

 【鬼動術】でより深く食い込むように、もっと、もっと深く!

 一心不乱に食らいつくが抵抗が激しいので【鋼毛術】と【硬化術】で相手の攻撃を無視して、喰らいつき続けた。

 唐突にその時はやってきた。

 急にふっと相手の力が抜け、地面に倒れたのだ。

 これが修行の成果を確認できた狩りが成功した瞬間だった。


 


 狩りが終わり肉に喰らいついていると不意に脳内に浮かび上がった文字と声。


『クエスト:チュートリアル』


 ん? チュートリアルって終わったはずじゃあ。


『チュートリアルは終わったはずとか思ったそこの貴方! ところがどっこいまだ終わりじゃないんですよね』


 いや、もうこれ誰だよ。完全に俺の頭の中覗いているじゃねえか。


『気にしない、気にしない。で、説明を始めるけどいいかな、ツッコミ君?』


 いや、好きでツッコみいれてないわ。てか、なんで偏った知識ばかりよこしたし、神様。いいよ、俺の頭の中覗くなら覗けよ。そして、さっさと進めろ。


『それじゃあね。まずはステータスを確認してみてくれるかな?』


 ステータス? まあいいが。


 名前:小次郎

 種族:一尾の幼狐

 位階:二位

 スキル:【鋼毛】【迷彩】【操尾術そうびじゅつ】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【狐神の加護】



 【鬼動術】のランクが上がったくらいで特に変わりはないな。てか、最後の悪足掻きが結構効いてる。すぐさま回復、回復っと。まだまだ山道を動くわけだし、動けるくらいの体力はとっておかないとな。ちょっと使いすぎたか? でも、スキルなしだときついだろうしな。もっと弱い相手を探したほうがいいのかもな。


『はーい。考え込んでるところちょっといいかな? 大分いい感じに、経験値がたまってきたね。おめでとう!』


 珍しくお褒めの言葉が……なんかあるのか?


『そんなに緊張しなくても大丈夫だよー。で、規定値に達したから最初の存在昇華ランクアップが出来るようになったよ』


 存在昇華ランクアップ? ああ、進化の事か? ついに俺も人間になれるのか!? どうやるんだ? 教えろ。


『はーい、焦らないでね。今から詳しい説明をするから。まず、存在昇華は規定の経験値が溜まってさえいれば行うことが出来るよ。だから、後から存在昇華することも出来るんだけど、体力や魔力の成長率は基本的に存在昇華した後の方が高いからあまりメリットはないかな。まあ、ある存在に進化するために条件が出てくるのは種族によっても違うけど最低3回目以降の存在昇華からだから、当分はLv上げて、規定値まで達したら存在昇華するといいよ』


 そうか、じゃあ今回は素直に進化しとけばいいんだな。


『理解が早くて助かるよ。じゃあ、存在進化の方法だけど存在進化(ランクアップ)と唱えればできるから試してみてね。あっちに行ったら進化したい奴に触れれば進化できるよ』


 そうなのか。じゃあ早速、


「存在昇華(ランクアップ)!」


 すぐに俺の体が白い光に包まれた。



 しばらくすると、家系図のようなものが目の前に現れた。

 俺の現在の種族は一尾の幼狐。

 ここから伸びているのは、っと。あった。って一つしかない。、

 

 【一尾の幼狐】から一直線に伸びた線は【二尾の白狐びゃっこ】に繋がっていた。


 

 【二尾の白狐びゃっこ

 二又の尾を持つ白い狐。その大きさは大人一人分ほどで金色の瞳が高く売れる。



 何やら要らん情報も出てきたが、どうやらこれしかないようだ。仕方ない。

 尻尾を伸ばしてその文字に触れる。

 

 再び白い光に覆われ、見慣れた雪の降り積もった景色に戻ると心なしか目線が高くなっていることに気付いた。それに後ろを見てみると尾が二つ生えていて、存在昇華ランクアップが成功したことを示していた。


「おお、これが存在昇華か、。よし、【ステータス】」





 名前:小次郎

 種族:二尾の白狐びゃっこ

 位階:三位

 スキル:【魅惑の瞳】【魅了・弱】【鋼毛】【迷彩】【操尾術そうびじゅつ】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【狐神きつねがみの加護】





 【魅惑の瞳】

 欲深きものを呼び寄せる。また、【魅了】の効果を高める。


 【魅了・弱】

 心あるものを惹き付ける。弱のため効果は低い。




 どうやら存在昇華したことで傷も癒えて、体力や魔力も回復しているようだが、要らんスキルも手に入ったな。何だよ【魅惑の瞳】って。負の要素が多いな。要らんごたごたに巻き込まれなければいいが……。

 その代わり【魅了・弱】が手に入ったが、弱だしなぁ。これはどうやったらランクアップするのか分からんからなぁ。スキル面ではマイナスだったな。まあ、おそらくだが基礎能力は上昇しているだろう。

 ここにある肉を食って、臭いにおびき寄せられたモンスター相手に腕試しでもしてみるか。



 どうせならと、【即神術】を使い、鼻と目を利かせてここに接近するものを索敵し、茂みに隠れてて得物を待つ。雪で臭いは消して潜んでいるが、この体の大きさでは雪の中に潜んで戦うことは出来ないだろう。


 やって来たのは同じく鼻が利きそうな外見をしたモンスター達だった。数は少なくとも十匹はいた。


 漆黒の大狼ナフィードウルフ

 位階:二位


 普通の狼よりは大きいくらいで、おそらく、攻撃方法も俺と同じだろう。

 それにこっちは体力、体調共に万全の状態だ。それに何より相手はやせ細っていてあまり体力があるようには見えない。数は多くても大丈夫だろう。それにやばくなったら突っ切って逃げればいいし。



 思い返してみるとこの時俺は存在昇華したことで気持ちが大きくなっていたのかもしれない。この戦いで俺はこの世界出来たばかりのひよっこだったという事を思い知ることになった。



 

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