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誘われし狐  作者: こう茶
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四巻

 八尾の白狐びゃっこであるしろがねの下で3日。俺の体の傷は【速治術】と、銀が持ってきてくれる食べ物のおかげですっかり癒えていた。


 それは俺のこの一言から始まった。


「なあ、銀。傷も治ったし、そろそろ刀を取りに行こうかと思う」


 途端に銀の表情が険しくなった。


「本気で山を越えるつもりか?」


 3日間で俺たちは名前で呼び合うほど仲良くなる事は出来たのだが、機嫌が悪い時や怒っている時などは小僧という呼び方になる。この場合は俺の一言の何かが気に障ったのだろう。

 慌てて言い訳をする。銀が本気で怒れば一瞬で殺されてしまうのは変わらないからな。


「ま、まあ、越えるまではいかなくとも登りはするぞ」


「ふっ。笑わせるなっ! 思い上がるのも程々にしろ! いいか、お前は勘違いしている。食事をするだけで身体が鍛えられたり、新たなスキルを手に入れたりするのは最初・・は良くある」


 そうこれが俺に決意させた一番大きな部分だ。俺はこの3日間で、傷を治すだけでなく、体力もつき、新たなスキルも手に入れた。これならいけると判断した結果がこれだ。



 名前:小次郎

 種族:一尾の幼狐

 位階:二位

 スキル:【鋼毛】【迷彩】【操尾術そうびじゅつ】【身体強化術/早/速/力/硬・弱】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【狐神の加護】


 【鋼毛】

 体毛の硬度を増す。また、【硬化術】と比べ、消費Spは少ないが、効果は低い。使用者のLvによってその効果が上昇する。


 【迷彩】

 地形に適した格好をすると、見つかりにくくなる。



「これがどういうことが分かるか? 食事で強くなってしまうほど、お前の強さはまだまだだ、という事だ」


「つまり、俺は弱いと。上に登る事すら難しいというわけか?」


「そうだ、お前は弱い。それが分かったら、降りて雑魚相手に鍛えると良い」


 俺はその言葉を受けて洞窟から出ようとするが、ある事に気づいて立ち止まる。

 

 ここには良い師匠となるべき者がいるではないかと。

 そうと決まれば俺がすべきことは一つ。


「銀様に一つお願いがあります。俺を鍛えていただけないでしょうか?」


 そうへりくだって取り入る事だ。この程度家での暮らしで自然と身についた作法を使えばどうという事はない。


「ほう殊勝な心がけだが、いささか気持ち悪いな。だが、なかなかおも……見どころがあるようだしの……」


 頬が引きつったが抑えろ。迷ってるんだ。あと一押しだな。


「お願いします、師匠。師匠しかいないんです」


 銀は『師匠』という言葉を聞いてニヤリと笑った。


「仕方ない、いいだろう。しかし、我の指導は厳しいぞ?」


「はい、よろしくお願いします!」


 くくく、狙い通り。これで俺の安全は保障されるうえに強くなることも出来る。強くなるまでは上に行くことを許してもらえそうもないから、当分先のことになるだろう。だが、身寄りが無いこの世界で安全が確保されたのは大きい。


「では、早速修行を始めるぞ」


「よろしくお願いしますっ!」


「少し離れろ。ふむ、そこで良い。構えろ、そして、死ぬなよ」


 約二丈程離れたところで、銀がニヤリと笑うのを見て、そして、聞いてしまった。最後の不穏な言葉を。


「お前の企みが見抜けぬわけなからろう。このクソガキが。どうせ、守ってもらいながら強くなれてお得だとか考えていたのだろう」

 

 マズイ。ばれていた、だと?! だが、まだ何とかごまかせるはず。

 

 俺が口を開く前に、銀が動いた。


「しかし、我は優しいからな、安心しろ。誰にも守られる必要のないくらいの強さまで鍛え上げてやるぞ。クククッ!」


 笑ってやがる。ああ、終わった。俺の考えがばれていたなんて。……俺ってそんなに顔に出やすいのか?


 しかし、俺には落ち込む暇すら与えられなかった。銀の尾が恐るべき速度で襲いかかってきたからだ。


「うおおおっと。危ねえ。何しやがるっ!」


「ほう、この程度は避けれるか。では、お前がこれから先、生き残れるよう一つ良いことを教えてやろう。強化できるのは何も、筋力や速度、硬度だけではない。反応速度や、五感も強化できる。術の名は【即神術そくしんじゅつ】という。死にたくなければさっさと使いこなすと良い」


 そう言うと、さらに尾のスピードと、本数が増した。おそらく俺の限界を見極めて徐々に威力を上げるつもりなのだろ。


 クソッ! この鬼畜師匠がっ。


「いい面構えだ。その調子で避け続けると良い」


「アアーーーッ!」


 俺の絶叫が洞窟内に響き渡った。
















 俺が鬼畜師匠に弟子入りしてから一体何日が過ぎただろう。太陽の光を浴びていないせいか、時間の感覚が分からなくなっていた。

 どのくらいの時間がたったのか分からないが、少しは成長して四本までであれば銀の攻撃を躱せるようになっていた。

 簡単に言っているが、必ずしも楽ではなかった。

 手を抜いた状態で三本までならギリギリ躱せるようになった頃だ。銀の悪ふざけで本気の一撃を放ったらしい。当然躱せるわけもなく。あの時は死ぬかと思った。なんせ目で捉える事さえ出来ず、立ち尽くしていた俺の横をびゅんっという音が聞こえたと思ったら、身体が宙に浮き、気付いたら洞窟に横たわっていたからだ。悪い夢だと思いたかったが、白い毛が血で真っ赤に染まり、毛並みもズタズタだった為、夢ではない事が嫌でも実感できた。

 それでも、なんやかんやで生きている俺は凄いと思う。褒めてやりたい。それに、強くなれたから文句はあるが、結果は認めている。今でも手は抜いているというのは明らかだが気にしない。俺自身の尊厳を守り、努力を認める為に。



 モンスターを倒すことなく、新たなスキルを二つも身に付ければ、頑張った甲斐があると言うものだ。避ける事と耐える事を主体にしていたため、それに関するスキルが上がっている。

 何となくだが、スキルの上昇には【成長促進】が影響している気がする。

 


「さて、お前も大分見れるような動きが出来るようになってきた。次からは実践あるのみだ。経験を積むぞ。何安心しろ。本当にヤバくなったら助けには入ってやる」


「へえ、珍しく優しいんですね師匠?」


「だが、これからはお前が自給自足で生きるのだ。もちろん、我が手伝った場合の獲物は我の物となる。頑張れよ、馬鹿弟子」


 な、に? これからは自分の実力にあった獲物を狩らなければいけないという事か。ああ、食べるだけで身体が鍛えられるという簡単なお仕事だったのに。まあ、仕方ない。でも、どれだけ成長したのか試したかったというのもあったしな。


 そうして、俺はニヤリと笑うと数日ぶりの日の光を浴びた。


 すぐに強くなって刀を手に入れてやる!

 名前:小次郎

 種族:一尾の幼狐

 位階:二位

 スキル:【鋼毛】【迷彩】【操尾術そうびじゅつ】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【狐神の加護】


 【身体強化術/神】

 身体強化術の一種【即神術そくしんじゅつ】を使える。視覚・味覚・触覚・嗅覚・聴覚の感度、運動神経への伝達速度を上げる。また、これを使用する際、痛覚も強化されるため注意が必要である。


 【見切り】

 視覚のみを一点強化する。効果は【即神術】よりも上。



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