弐巻
俺は起きると、目の前に芋虫の顔があって、悲鳴を上げてしまった。
……恥ずかしい。
これはさておき、体のあちこちが悲鳴を上げていたので、すぐに【早治術・弱】を使った。
それと身体強化術の【鬼動術・弱】と【軽身術・弱】を新たに習得していた。
効果はというと、
【身体強化術/力・弱】
身体強化術の一種【鬼動術】を使える。筋力を上げる。また、その際体重が重くなる。しかし、弱のため疲れやすく、効果が低い。
【身体強化術/速・弱】
身体強化術の一種【軽身術】を使える。移動速度や攻撃速度を高める。また、その際体重が軽くなる。しかし、弱のため疲れやすく、効果が低い。
おそらく、これらのスキルは目の前にいる芋虫との戦いで使ったからだろう。
この事からスキルは習得前から使うことが出来、それを使う事で習得できることが分かる。
今は体力の回復を待ちながら、今後のことを考える。
クエストには時間制限はないこと。なら、時間をかけて位階を上げながら行くのが王道だろう。それに登れば登るほど強い敵がいそうな気がするし、しばらくはここらで芋虫狩りだな。
さて、考えている最中なのだが、どうしても無視できないものがある。
そう空腹感だ。
そして、目の前には息絶えた芋虫がある。皆さん、お分かりだろうか?
芋虫が美味しそうな食べ物にしか見えないんだ。
まあ、それにあっちでも虫を食べたことはあった。なんというかカリッとした香ばしい感じに味付けされていた。硬さや見た目の抵抗はあるが背に腹は代えられない。
覚悟を決めて食べる!
……う、美味い。トロッとした食感で、体中に染み渡る。
だが、これだけでは到底満足できる量ではない。俺の胃袋は自分と同じくらいの大きさの芋虫を食べた位では満腹にはならなかったようだ。
食事をしたおかげで大分体力が回復したので、食後の休憩を兼ねて、木の枝に上り、芋虫を探した。
辺りを見渡す。やはり、下に降りている芋虫はいないようだ。
ひとまずは安全なようだ。
一息ついて、近くの木に登り、居ないと分かると枝から枝に飛び移る。それを繰り返す。
そして見つけた。芋虫の群れ。
うじゃうじゃとしていて、見ててあまり気持ちのいい光景ではない。
さっさと片付けて食事をしよう。
だが、あの群れの中に特攻したら負ける事は目に見えている。間違いない。だから、枝や葉に隠れて魔法でおびき寄せる。
【火よ】
イメージとしてはかなり抑えめに撃つ。もちろん、一番近くにいた奴らの中で弱そうなやつを選ぶ。
そして、キョロキョロと辺りを見回しながら、のこのことやってくる哀れな芋虫。
依然として俺は隠れている。攻撃圏内に入った瞬間、【鬼動術・弱】を発動。そして、一気に牙を食い込ませる。前のような失態は侵さない。悶えている芋虫を強化された体で咥えたまま持ち上げ、力づくで枝に叩きつけた。怯んだ隙にさらに牙を深く喰い込ませた。
よし、動かなくなった。
またもや身体が鍛えられていくような感覚に包まれる。どれだけこの芋虫は経験値をくれるのだろうか。まあ、悪いことではないので、深くは考えないが。
しかし、ここで予期せぬことが起きる。
叩きつけた衝撃が予想以上に強かったらしく、枝を伝い、ほかの芋虫たちに俺の存在を知らせてしまったようだ。
マズイ。
そう思った時にはとっさに枝から飛び降りていた。
「やばっ。ちゃんと着地できるのか? 下には雪が積もっているから大丈夫だとは思うが……とりあえず体を硬くして防御力を上げるイメージをしとくか。もしかしたら、新しいスキルが手に入るかもしれないし」
落ちている最中に暢気な事を思いつつ、毛の一本一本が鋼の様な固さになるようにイメージをした。
身を硬くして、衝撃に備える。
だが、予想していたより痛みは来ない。どうやら成功したみたいだ。それに芋虫が追ってくる気配もない。ましてや、枝から下りてくる様子もない。なら、早速スキルを確認してみようかな。
【身体強化術/硬・弱】
身体強化術の一種【硬化術】を使える。防御力を高める。その際、体全体、又は一部が硬化する。また、弱のため疲れやすく、効果が低い。
かなりいいスキルを手に入れたなぁ。これで生存率は高まるだろう。
そして、経験値を得る事で魔力も増えたような感じがする。これなら、魔法は2発撃てるだろうし、体力もついた事でスキルの持続時間が増えた。
今のところは調子いいな!
警戒されてしまったので、新たな狩場を探す。この繰り返しで俺は子の身体での戦闘に馴染み、また思うような動きが出来るまでの体力をつけた。
また、この一連の戦闘の後新たなスキルも手に入れていた。
それは【成長促進】。少ない経験値で位階を上がりやすくするというもの。安全に生きられるようになるのを助けてくれるだろうし、なにより俺が早く人間になるために、【成長促進】というスキルはかなり使える。しかも、スキルを主体に戦ったおかげで、疲れが取れるまで休み、全快の状態になると以前とは比べ物のにならないくらい体力がついた気がする。
ここまではかなり順調だろう。そろそろ、刀を取りに行ってみてもいいかもしれない。
【軽身術・弱】を使い、駆け上がる。どうやら今の俺では110秒の間なら全力で使えるみたいだ。だから、30秒間走っては休み、走っては休みを繰り返す。
大分走っただろう。今は息が切れ、足が震えはじめたために、休憩を取っているところだ。
一心不乱に走ってきたため、一旦落ち着いて周りを見渡してみる。
細く、鋭く、高く伸びた木々はあまりの寒さで凍りついていた。枝は勿論葉っぱの一枚まで凍っている。凍ってないものを探す方が難しいだろう。曇り空からわずかに漏れる陽光が氷に反射してキラキラと輝いている。
ここは綺麗だな。
日ノ本も人がたくさん居て、ワイワイして楽しかったけれど、この光景はあそこにいたら見れなかっただろうな。でも、惜しむらくは一緒に見る人がいないという事かな。
少し、寂しいな。
落ち込んでいても仕方ないし、行くか。体力は回復してきたからな。
感傷に浸っていた俺は背後から近づく不穏な気配に気づくことが出来なかった。
名前:小次郎
種族:一尾の幼狐
位階:二位 スキル:【身体強化術/治/速/力/硬・弱】【火属性魔法・初級】【成長促進】【災厄】【狐神の加護】




