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誘われし狐  作者: こう茶
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参拾九巻

 黒ずくめの男、ルーファスとの戦いは熾烈を極めた。俺が【仙気】を使えた事、黒い球体のおかげである程度貫手の軌道が読めた事、また、奴に攻撃による反動が思った以上に蓄積していた事、どれか一つでも欠けていたら俺の方が地面に倒れていたかもしれない。

 たった今、ここで息を引き取ったルーファスに俺の姿を幻視する。


 さて、切り替えよう。まだ人型も、黒ずくめの奴らも残っている。

 そして、俺自身はと言うと胸から左肩にかけての、怪我が酷い。

 やはり、最後の【黒珠貫手】は俺の想像を超える威力を誇っていたのだろう。回復を図ったが、なかなか傷が塞がらない。それに加え、【仙気】を使った反動も地味に被害をだし、それは疲労と言う形になって表れた。


「あんな土壇場でなくとも使える様にならないとな。

 まあ、今はその練習をするには良い環境だし、試させてもらうか」


 とりあえずは、人型の殲滅といこうか。

 



 まずは、尾に【狐陽】を纏わせる。その後、【四連突】を放つ。これだけで一回の攻撃に付き一体を屠り、計二十八体を倒した。

 俺が張った結界の周りにいた人型を掃討し終えると、再び張り直す。人型程度の攻撃では破られるはずはないと思っていたが、攻撃の蓄積により大分消耗していた。やはり、長時間結界だけに任せておくという事は出来そうもない。

 そうなると、じつりょくしゃたちにさとのものたちのけいごをまかせるしかないわけだが、見渡すと周りに居る戦士たちは誰も彼も差はあれど怪我を負っていた。


「皆、結界を囲むように集まってくれ!」


 一度、皆を集めると治療を施す。15人とはいえ、大分体力と魔力を消費してしまったが、必要な消費だったと割り切る。


「皆に頼みたいことをがある。

 俺はここを一時離れる。その間の里の皆を守ってほしい」


「おい、おめえはどうするんだ?」


 がしゃ髑髏の昌は、平時ならば肉屋の店主として包丁を持っているが、その手には大きな鉈が握られている。 

 俺はその問いに空を見上げて答えた。


「俺はあいつらを倒します」


 視界には龍族と激闘を繰り広げる黒ずくめの集団がいる。


「小次郎だけで行くの? 危ないよ」


 心配そうな表情を浮かべる鈴に微笑む。


「もし、龍族がやられれば次の標的は俺たちだ。そして、この中で互角に戦えるのは……俺と鈴くらいだろう。

 ちょっとでも危険性が低い時に行くんだ。

 だから、鈴には俺が離れている間ここを守って欲しい。出来るな?」


「絶対戻ってくるよね?」


「ああ」


「じゃあ、いいよ。いってらっしゃい」


『お二人さん、熱いねー!』


 途端に周りから歓声が沸き起こる。周りに人がいるという事を少しの間失念していたな。


「行ってこい!」


「そして、戻ってこい!」


 囃し立てながら、その場を離れた。


 状況はあまり芳しくない。龍族は昨日の疲労と怪我が回復しきってないようだ。それに、分断され一人当たり2~3人を相手取らなければならないように追い込まれている。これではいくら個人の力が強くても、倒されるのも時間の問題だ。

 さし当り、最も近くで戦闘を繰り広げる龍族の元へと向かう。

 龍族の男は3人の敵を相手に鉄球を振り回して戦っていた。それだけでなく、光属性による魔法も使っているようだ。だが、接近戦には敵の内の大柄な男が初撃を受け、その隙に他の者が反撃をし、魔法には3人の息を合わせた闇属性魔法で相殺していた。非常に堅実で厄介な戦法だ。

 だが、それも龍族の男を一人で相手にしている場合だ。


 ちょうど鉄球を受け止めた男に向けて、突進する。俺の接近に気づくも、龍族の男がほかの二人を相手にしながらも、それを許さない。


「【居合斬り】」


 やはり、【仙気】を纏った刀で振り抜く男を斬った瞬間、激しい痛みに襲われるが、気合で耐える。

 仲間が倒され怒り狂う二人が俺を標的として定めた。

 左右から繰り出される剣と槍。上手く身体を動かせない為に、力の消費が大きい【陽炎】を使い、実体のある幻影を盾代わりにして攻撃を凌ぐ。

 幻影に武器を掴まれた二人は俺と龍族の男の攻撃を受けてあえなく倒れる。


「助かったぞ、小次郎殿」


 男は拳を掌で包み、頭を下げた。

 一瞬、なぜ俺の名前を知っているのかと思ったが、龍槍との会談には多くの龍族が同席していた。あれを聞いていれば分かるかと納得する。


「いえ、それよりも他の人たちの助けに行ってください。一人で戦うには分が悪すぎます」


「うむ。集団戦は好かんがそうも言っておれんな。

 助太刀感謝する。では!」


 そう言うと力強く地面を蹴りつけ、仲間の元へと飛んで行った。


 俺は想った以上に身体の自由が利かないことに焦りを覚えていた。

 【仙気】は二人を斬った時に瞬間的に二度使っただけだったが、その反動が重く、鎖のように体を縛り付ける。

 今回の戦闘で【仙気】を使えるのは残り数回と言ったところ。しかし、敵の数はまだまだ多く、【仙気】の使用は奴らを倒すのに必要だ。


「となると、有効に使わなければならないな。

 一番大変そうなところに加勢をした方が良いんだろうが、この場合は一番の戦力を自由に動かせるようにしておいた方が良いな」


 空中で5人の敵を相手に戦う龍槍の姿が目に入った。


「もってくれよ」


 足場を作る。出来るだけ力を節約すべく、瞬間的にそして、最低限の大きさで足元に、触れられる炎を作り出した。

 一歩踏み出すごとに加速し、空へと駆け上がる。

 龍槍と戦っていたのは奴らの中でも実力者なのだろう、気配を可能な限り殺した俺の接近に気付き、上から魔法で作られた黒い剣や槍が降り注ぐ。

 その全てを確認すると同数の炎の小刀を放つ。

 しかし、込められた力の差は明らかで炎の小刀はすぐに黒く染まり、霧散してしまう。だが、魔法同士がぶつかり合ったその一瞬で龍槍の元へと駆け抜ける。


「助太刀感謝する!」


 龍槍の近くは最も敵の攻撃に晒されている場所だ。ろくに会話を交わす暇もない。

 そこで1人戦い続けた龍槍はすでに満身創痍。全身に細かい傷が付き、無事な所を探す方が難しい。また、昨晩の戦闘で付けられた傷から、黒い痣が全身に広がりつつあった。


「これは速攻で決めないとまずいな」


 力の出し惜しみはせずに刀を振るう。

 まず、俺たちを分断するように突き出される剣を躱すと、敵の狙い通りに龍槍との距離が開く。

 だが、それは俺にとっても狙い通りだった。


「まずは1人」


 全力で振るわれた刀は敵の防御をものともせずに、首を刎ねた。

 そして、相手の動揺に漬け込み、幻術をかける。目の焦点が定まっていない敵に狙いをつけ、尾を放つ。すると、身体を蜂の巣にされた敵が身体から煙を出しながら堕ちていった。

 しかし、上手くいったのもここまで、ここからは身体の治療をしながら、堪える必要があった。

 龍槍は俺が2人倒したことで余裕を持ち、槍を振るう速度を徐々に上げていった。次第に槍が光を帯び始める。そして、眩い光があたりに放出される。その光が収束すると見事敵を三つ叉の穂先で貫いていた。

 その光を浴びた俺は妖気を使うことが出来なくなっていたが、身体に力が漲っていた。これならば、休息など必要としないくらいに。

 だが、辛そうな表情を浮かべた龍槍は地面へと落ちていく。敵も俺ではなく龍槍の方が危険だと判断し、追撃を加えるべく、放たれた矢のように空気を切り裂きながら飛んだ。

 【妖気】が使えないため、【仙気】も使えず【神気】のみで強化する。

 【神気】は反動なしで使える強化術のように思えるが、その実は異なる。【神気】唯一の欠点は神域、聖域と呼ばれる特別な場所から離れているとその消費量が多くなり、さらに回復もしにくい。

 つまり、現在【神気】の残量が後僅かとなっているのだ。

 足りない。俺が龍槍の元へと駆けつけるまでに、殺されてしまう。

 敵が龍槍を手にかけようとしたその瞬間、見覚えのある龍族の者が、龍槍を受け止め、敵の攻撃に合わせて身体を捻り躱す。

 そして、口から火を吐き燃やし尽くした。


「夫を救って頂き感謝いたします】


 無駄を好まないといった感じで、礼を述べるとすでに意識のない龍槍を連れて祠へと帰っていった。

 やはり、あの説教の時に現れた龍槍の人だった。


 空を見上げると西の空からは朝日が昇ってきていた。


「今日も生き残れたか」 


 里中から歓声が聞こえる。目をやれば、邪気を纏えなくなった敵が次々と止めを刺されていた。人型も殲滅し、皆思い思いの体勢で身体を休めていた。


「小次郎!」


 胡座をかいていた俺の上に当然の如く座ったのは鈴だ。

 頭を撫でながら、鈴の身体のあちこちに付いている小さな傷を塞いでいく。


「ちゃんと戻ってきただろ?」


「うん!」


 俺に思いっきり凭れかかる鈴の重さが心地よい。


 ひとしきりじゃれあった後、俺たちの前から足をフラつかせ、血を流しながら近づいてくる一匹の黒い妖怪を見つけた。

 あぐらの上から降りた鈴が心配そうに駆け寄る。

 そんな時だった、空が急に暗くなり始めた。


 誰かが呟く。


「太陽が喰われてる……?」


 その言葉の通り、太陽が月の様に徐々に欠けていく。

 呆然としていると小さな声が俺の耳に入る。


「……えっ」


 見下ろすと、鈴の身体に大きな穴が空き、そして、俺の脇腹に黒い尾が突き刺さっていた。

 血を吹き出しながら倒れゆく鈴とあの黒い妖怪の傷が塞がり、狐の姿になっていくのをどこか他人事のように眺めていた。

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