弐拾九巻
水晶の様に輝く鬼は瞬く間に角晶蜘蛛を倒した。鬼は狐を誘って洞窟の奥へと導いた。
お待たせしました。まだまだ本格復帰には時間がかかりますが、ちょっとだけ更新します。
この鬼はどうやら晶鬼という種族の偵察班・第1班の班長の源太。なるほど、その名に相応しく身体は水晶のようにキラキラと輝いている。
黙ったまま洞窟の奥に案内されていると、徐々に壁際に光を放つ魔晶石が多くなり始めた。そして、不意に洞窟の奥から日が差し込んでいるのを見た。
「綺麗だ」
そこで見た光景はただひたすら美しかった。
天井には大きな穴が開き、そこから日が差し込み洞窟内を明るく照らしている。壺の様に広がり、ぼこぼこと横穴が開いている。鬼たちが出入りしていることから、あそこが住処なのだろう。
鬼たちの住処は美しくもあるが猛々しい。全ての物が規格外なのだ。鉱石を加工するのであろう巨大な窯に、鬼たちが訓練している土俵など、里の物と比べると途轍もない大きさだ。だが、俺も大分体が大きくなった。この位の方がすごしやすいのも事実。何が待っていようと生き抜いてやる。
「どうだ、美しいだろう? ここが私たちの故郷であり、要塞でもある晶鬼洞だよ。これから先君がどうなるかは君次第だ。生きるも死ぬもね」
さらっと告げられる事実に緊張を隠せない。確かに一歩でも間違えれば、すぐに殺されるだろう。目の前の鬼が小さく見えるような大鬼が闊歩する中で俺一人がどう足掻いたところで勝つ事も逃げ出すことも出来ないだろう。
「とは言え、今は君は私が招いたお客人だ。肩の力を抜いてくれ」
元はと言えば、お前が余計な事を言ったからだろうが、と食って掛かりそうになるが、矛を収める。悪気無さげにいう姿を見ているとこれがこいつの素なのではないかと思うからだ。つまり、反論するだけ無駄だ。
「で、俺はここで何をすればいい?」
その問いに鬼は楽しそうに笑った。
「族長に会ってもらうだけだよ。ただその後どうなるかは族長の気分次第だけどね」
そう言うと声をあげて笑い始めた。小声で「どうなるか楽しみだなぁ」と言っているあたりそこが山場と見て間違いない。
「身の危険があれば全力で抵抗するが構わないな?」
源太はさらに口元を吊り上げると言った。
「出来るものならね」
上等だよ。
湧き上がる闘志に反応して尾の先までぴんと伸びる。
多くの鬼たちの奇異の視線に晒されながらもやってきたのは、どの横穴よりも大きく、そして、家の中にいるように洞窟の床も天井も綺麗に整えられている。
「そう、お察しの通りここを通れば族長に会えるよ。覚悟はいいかい?」
「ああ、いつでも良い」
「それは上々」
源太はその穴、いや家に入る前に一度頭を下げるとその中に足を踏み入れた。
俺もそれに習うが足から不思議な感触が伝わる。
すべすべとしてるが足に吸い付いてくるような感じだ。
一歩進むごとに感じるは強大な圧力と熱気。心なし気温が上がったように感じる。いや、実際上がっている。前を歩く源太の背には大量の汗が浮かび、そのそばから蒸発していくので、白い蒸気に包まれている。俺は火を司るため、熱さには耐性があるとはいえ体毛は汗で湿り重くなり始めている。
そして、大きく重々しい黒い扉の前で歩みを止めた。
「ここから先は君一人で行ってくれ。私が案内できるのはここまでだ」
大量の汗をかき、苦しそうに言う姿を見て、今までの借りを返したくなった。
「お前の弱点は暑さってか? これ以上近づけないんじゃないのか?」
「ふふ、その通りだよ。だけど、君程度の炎じゃ堪えないけどね」
ちょっとした嫌がらせをしたつもりだったが、きっちり俺に意趣返しをするとそのまま背を向けて帰っていった。
扉は押せば開く型のようだ。
尻尾で押し込んで開ける。すると、途端に熱気が外に漏れだした。
「あっつ!」
熱さに強い俺をもってしても、思わずそう言わせてしまうほどの熱さ。
「でも、我慢できないほどじゃない」
意を決して奥へと進む。扉の中は机やいす、全てが大きく頑丈な造りになっていることを除けば普通の家の中となんら変わらない。
「……っ!」
息をのむ。
そこに現れたのは大きな鬼。いや、前世の寺で見た夜叉像に似た鬼がいた。
外の鬼たちが皆透き通った肌を持ち宝石のような美しさを持つのに対し、白い肌で赤髪の大鬼はその宝石が似合いそうな逞しくも美しい鬼だ。
宝石なんてのはそれに見合った者が身に付けなければその真価が発揮されない。晶鬼にこの鬼ありってことか。
大鬼はこちらに目を向けると口を大きく開けて、
「グルルァァァ!」
目が回り、こちらの平衡感覚がおかしくなるほどの爆音を発生させた。
俺が地に倒れ伏したのを見ると、満足そうに笑い、話しかけてきた。
「…………」
ダメだ、耳がおかしくなってて何を話しているのか全く分からん。回っていた目が元に戻り、やっと立ち上がれるようになった頃奴が何を話しているかが分かった。
「クカカカカ、久しいな銀。それにしてもどれだけ強くなったかと思っていたらまさか弱くなっているとはな」
どうやら俺を師匠と勘違いしているようだ。
「俺は銀じゃない。小次郎だよ。くっそ、耳が痛い」
すると鬼は驚き目を丸くしてその巨体を近づけてきた。
「んん? 銀ではないのか。確かに良く見ると違うか。では、なぜ、ここにいる?」
「俺が知るか、外にいる源太にでも聞いてくれ」
聞いておいて、話しを無視して腕を回し、身体をほぐしながらニヤリと笑いを向ける鬼に嫌な予感を感じ取る。
「まあ良い、ここに来たという事は……」
俺はその先の言葉を聞きたくは無かった。だが、目の前の鬼の瞳には何が何でも逃がさないという気持ちが込められていた。
「な、何だよ」
せめてものの抵抗の意志を伝えるべく聞き返す。そして、言葉とともに拳が振り下ろされた。
「殺り合うって事で良いんだろ?」
「よくねえよ!」
かろうじて拳を躱しきるが、拳は勢いそのままに床に突き刺さった。
「ちょこまかと動くな。妻に怒られてしまうではないか」
奥さんいたのかよ、という突っ込む暇は無い。
繰り出される拳や足を躱し、時には尾で受けたり、出来るなら受け流したりした。
下から掬いあげるように放たれた足の一撃を横に飛び躱す。だが、それを読んでいたかのように同時に同じ方向に飛んでくる鬼に戦慄を覚えた。息をつく間もなく、拳が迫る。
「何っ!?」
ここで初めて鬼が驚愕の声が漏れる。
それもそのはず、殴ったはずの場所に俺がいなかったからだ。
俺たちの種族だけが使える秘技【陽炎】。敵の目を欺き、そこに在るものを無くし、無いものを在るものとする【狐陽】の騙す部分に特化した技だ。
【狐陽】では欺けない、しかも、機会は一度だけだろうと最初から思っていた。
「だからこそ、これで決めてやる!」
尾の攻撃スキル【三連突】に【付与術】で【狐陽】を纏わせる。
俺がもちうる技の中で近接戦闘最強の威力を誇る組み合わせだ。魔力を、さらに命も削り放つ。
一撃目、鬼の死角から放たれた尾は寸分違わず急所を狙って伸びる。だが、それゆえに読まれてしまった。拳を躱されたという程度の驚愕では僅かな隙しか生まず、咄嗟に首の裏を庇う右腕によって防がれる。
二撃目、紫の光を纏った左腕で【狐陽】を纏う尾を掴む。何かしらの術で強化した腕はビクともせず、燃える事も無かった。
三撃目、先に放った二本の尾の隙間を縫うように迫る。だが、血がドクドクと流れ出るのも歯牙にもかけずに、傷ついた右腕で尾を迎え撃った。
飛び散る炎と血。力が拮抗したのは一瞬、すぐさま俺の尾がはじけ飛んだ。
それと同時に左腕から抜け出し、一度距離をとる。
そして、いやな汗が滑り落ちる。
全力の攻撃でも仕留められなかった。すでに俺に勝ち目は無い。
だが……。
「なかなかやるじゃないか。にしても、お前銀に似てるな。あいつの事を知っているようだったし、まるっきり無関係というわけではないんだろう?」
ここは奴との会話に乗って、体力回復に努めるとしよう。
「銀は俺の師匠だよ。それで? だったらどうなんだよ」
再度、鬼は驚くと笑いだした。
「クカカカカ、時間はそれほどまでに経ったのか。よもや、あいつが弟子をとるとはな」
いくばくか、何やら思案しているようだったが、それを終えたのか晴れ晴れとした笑顔を向けてきた。
「あい、分かったぞ。この祝羅の名にかけて、我が友の願いしかと受け取った!」
うんうん、と頷き一人納得しているが全く話が読めない。
「だが、まずはこれを一度締めるとしよう。さあ、刮目せよ。我らが一族が奥義を見せてやろうぞ!」
部屋の中で空気が震える。びりびりと俺の肌を伝って教えてくれる。
あれはまずい、と。
「ふんっ!」
祝羅の姿が消えるとやけに時間がのんびり動き出した。
最初の異変は床が徐々に剥がれ浮かび上がった。次に机や椅子といった家具類が段々と細かい破片へと変わっていった。そして、最後に見たのは紫色の光だった。
現在の小次郎のステータスです。HP・MP・Lvなどの表記を消し、新たに位階という強さの設定を作りました。
また、下記の通り成長した場合、今後は後がきにてこのような表記をする事にしました。以後、順次全話改稿します。
名前:小次郎
種族:六尾の妖狐
位階:七位
スキル:【魅惑の瞳】【魅了・強】【鋼毛】【迷彩】【操尾術自動化】【見切り】【身体強化術/早/速/力/硬/神】【咆哮・衝】【状態異常耐性】【付与術】【スキル合成】【三連突】【狐陽】【陽炎】【伸縮術】【火属性魔法強化】【火属性魔法・上級】【成長促進】【災厄】【長寿】【狐神の寵愛】【??へと至る道】
【陽炎】 魔力を消費して敵の目を欺く。効果は【狐陽】よりも上で、消費魔力も少ない。




