弐拾七巻
前回までのあらすじ
刀が好きな少年佐々木小次郎は武術大会で命を落としてしまった。
両親と師範に恩を返す事が出来ず、後悔しながら目を閉じた。
しかし、再び目を開けた時少年はもう一度生を受けられる事を知る。異世界へと旅立った少年に次々と事件に見舞われる。
白狐への転成、師匠となった銀との決別、新たな仲間(妖怪)との出会い、何度も困難を乗り越えた末に額は黒い毛が覆い、美しい白い体毛と金眼を有する六尾の化け狐へと成長した。
これでりっぱな妖怪の仲間入りを果たした小次郎たちは自分たちに見合う武具を求め、さらなる強者を探すのであった。
重い頭を尻尾でさすりながら、目を覚ました。
俺の体の上にはいつもの重さ。鈴が乗っかかって寝ているのだろう。
昨日は酒を呑んで寝たせいか、いささか酒臭い。水浴びでもするかと思い、顔を上げるとそこには……
「ちゃんと服を着ろ、鈴!」
着物を肌蹴て眠る鈴がいた。
俺の怒鳴り声にやっと目を擦りながら目を覚ました。
「小次郎、おはよう~」
「ああ、おはようじゃない! さっさと服を着ろ。目のやり場に困るだろうが!」
そう言って振り落すと、鈴から顔を背けた。
「痛いッ! 何するの?」
「まずは服をちゃんと着ろ。俺は水浴びしてくるからな」
後ろの抗議の声を聞き流して外に出た。まったくあいつは自分の事が分かってない。
もやもやとした気分も冷たい水を浴びるうちに消えていった。
部屋に戻ると、服を着直して眠る鈴がいた。
「まったくよく寝るな。仕方ない」
毛布を取って被せると朝食を食べた。
朝食をとりながら考える次は何の依頼を受けようかと。それとも武器を作るための素材を採りに行くべきなのだろうか。
「よし、決めた。氷鬼山に行くか。そうと決まれば皆に連絡だな」
鈴は寝ているから、放っておくとして他の奴らはどこにいるかな、と。
里の中を歩き回ること数刻。全員見つけたが、出かけられるような状態ではなかった。
時宗は二日酔いで絶不調の寧々の看病。
劉石も道端に横になっていて起きる気配がない。
という事はあの時抜けておいて正解だったという事だ。
仕方ない、今日は中止にしておいて鈴が起きてきたら狩りにでも行くか。
太陽が真上に昇って来たころにのそのそと起きてきた鈴を連れて狩りに出た。
その日は鈴のレベルを3つ上げただけで切り上げて、明日に備えて早めに休むことにした。
「さて、準備は良いな?」
「うん!」
「大丈夫だよ」
「右に同じく」
「全くこんな朝早くっから」
まだ日も登りきってない頃、俺たちは門の前に居た。これから氷鬼山を目指して進む。どうなる事やら。
これから、登る氷鬼山は鬼の角のように鋭く高くそびえる山だ。そのため、標高が高くなればなるほどその温度は下がり、氷が支配する世界となる。
そして、その厳しい自然環境の中で生き残り、生態系のトップに鎮座しているのが青い肌と銀色の角と瞳を持つと言われる鬼の一族。彼らがこの山の主、それこそが氷鬼山と呼ばれる所以である。
ある地点から急激に山道が険しくなる。ここからはただひたすら登っていくだけだ。
最初は騒がしかったもとい、元気だった鈴と寧々も段々と口数が少なくないり、ついには俺の背中に乗ってきた。そりゃあ疲れたら楽したくなるよなぁ。
「っておい! お前らだけ何楽しようとしてんだ!」
「いーじゃん。小次郎とくっついてたほうが温かいし」
「それに楽だわ」
こんな時だけ口を揃えて、降りようとしない二人の協調性にため息が漏れる。
「しゃあねえな。少しだけだぞ」
「やった! ありがと、小次郎」
「私の足と成れたこと感謝しなさい」
約一名今すぐにでも振り落したいが、どうせ降りないだろうし無駄な体力を使いたくはない。我慢だ。
「しっかし、歩いても歩いても景色が変わらないな」
「そうね。でも、この辺りの気候だと過ごしやすくていいわね」
「そりゃあ、俺たちだとそうだろうな」
雪女である寧々はもちろんの事、俺も厚い毛皮で覆われているのでこの程度の寒さなどへっちゃらだ。不意に時宗たちが心配になる。あいつらは差はあれどほぼ人間みたいな妖怪だろ? 大丈夫なのか?
チラリと横を見ると時宗の顔は紫色に変色して、手足はガタガタと震えていた。まずいね。
劉石はと言うと大きな図体を両手で抱え込んでいて、熱を逃がさないようにしているのだろうが、何とも情けない。
「はぁ、寒いなら寒いと言えよ。【付与術】」
尻尾の先に仄かな火を灯すと二人に近づける。
「ありがとう、助かるよ」
「かたじけない」
これで当分は寒さを凌ぐことが出来るだろう。だが、ちょうどいいな。
「ここらでいったん休憩しようか」
俺たちは火を中心に円状に座った。
周りは高く伸びた木々が生えている。剣木という種類の木らしく、氷で固まったこの木は鋭く、易々と皮を切り裂くだろう。おかげで所々血が滲んでいる。加えて、この寒さのせいで凍りついたモンスターの死骸が横たわっていて不気味だ。
だが、見渡す限りの銀世界は師匠に居た頃の御霊山を思い出させる。まあ、今みたいな物々しさは無かったがな。いや、師匠との修業はいつも死ぬか生きるかのギリギリだったから、あまり変わりは無いのかもしれない。
皆が十分に暖をとった所で立ち上がる。これからは俺が一部を除き全員の体調管理をしなければならないのか。これもこの班の長としての務めとしてしっかりやらねば。
黙々と歩みを進める。しかし、変わり映えのしない場所だな。風景が単調過ぎて飽きてくる。
時折、目の前に邪魔な枝が伸びているので、その鋭さに怪我をしないように硬化させた尻尾でなぎ払う。
横目で班員を確認するが大丈夫そうだ。付与した術が効いているようだ。
順調に登っていたが後ろにいた劉石が倒れる音がした。
「どうした、大丈夫か?」
尾を伸ばして引き起こす。
「すまぬ。何かに足を取られてしまって……」
つられて俺も足元を見ると木と木の間に透明な糸の様なものがぴんと張っていた。
変だな、さっき通ったがあんな所に糸なんて張ってなかったぞ。それに劉石ほどの巨体を引っ掛ける強度か、侮りがたい。
そして、俺の勘が何か嫌な感じを察知した。
ざわざわと木々が揺れ、何者かの接近を知らせる。
「何か来るぞ。寧々を中心に円陣を組め!」
各々が得物を構え、異変に備えた。こんな時に役立つのは劉石の索敵魔法だ。
「どうだ劉石?」
「何者かが接近しているようではあるが……敵は空を飛んでいるのか?」
「それはどういう事だ?」
「我の魔法では敵が地に足を着かなければ、察知する事が出来ぬ。だが、今は強力な反応が点々としておるのだ」
土属性の魔法であるが故の欠点。つまり、どういう事だ?
空? 木に覆われて良く見えないな。警戒が必要だな。
ん、木?
「そうか、木だ! 敵は木を伝って近づいて来ているんだ!」
「なるほど、それなら頷ける。だが、敵はもうすぐそこの様だ。丑の方角から来るぞ!」
丑の方角に尾を向け、魔法を唱える。
現れるはキラキラと水晶のようにその身体を輝かせた大きな蜘蛛。その額から生えている一本角は鋭く、貫かれでもしたらひとたまりもないだろう。
「皆、あれは角晶蜘蛛だ。あの角には注意してくれ!」
隣で刀を抜いた時宗がその豊富な知識で以って敵の正体を教えてくれる。
確かにあの巨体と角は脅威だが、
「一瞬で終わらせてやる! 【陽よ、彼の者を射抜け】」
眩い炎が矢を形どり、敵に向かって一直線に進む。俺が知る中で最速の魔法だ。
脚の一本でも燃やしてやる。
だが、俺の予想を裏切り、蜘蛛は驚くべき速さで移動し、躱した。
「なるほどな。糸を使った高速移動か」
蜘蛛は糸を使い、遠くの木に無理やり自分を引き寄せ、躱したのだ。一瞬、視界から敵の姿を見失うほどの速さ。これほどの素早さとなると、常に【見切り】を発動させておかないと捉えきれない。
「ここは鈴が!」
「いや、僕が行こう。あちらの出方が分からない以上、僕が行った方が良いはずだ」
そう言って、鈴を引きとめると時宗は飛びだした。確かに、時宗ほどの経験があれば、不測の事態にも対応できるだろう。
「俺たちは遠距離からの援護、もしくはいつでも出れるように備えろ!」
時宗の戦い方には美しさが在った。
雪が舞い、白銀の刃が陽光を反射して輝く。
敵を自分の土俵に引きづり出そうと、彼が刀を一振りする度に巨木が地面に倒れ伏した。
「ははは、派手な戦いだ」
彼にしては珍しい戦い方だ。いや、環境に合わせて戦い方を変えているのかもしれないな。
そして、ついにその時がやってきた。
白刃が敵を捉える。だが、苦笑いを浮かべた時宗は一度距離をとった。そして、こちらへ叫ぶ。
「小次郎、寧々は後方から援護を頼めるかい? 劉石、こっちへ来てくれ。鈴は来ない方が良い。君とは相性が悪い」
今か今かと戦いたそうにしていた劉石は木木とした表情で、大量の雪をまき散らしながら駆けていった。おかげでこっちは雪を頭からかぶる事になったがな。反対にお預けを喰らった形になった鈴は頬を膨らませている。
仕方ないちょっと機嫌を取ってやるか。
「まあ、待ってろ。時宗がああ言うんだ。素直に待機しとけよ? それに鈴の出番になったら頼るからさ」
片目をつぶりながら言うと、鈴は嬉しそうに頷いた。
「うん! やっぱり、小次郎は鈴がいなきゃだめだよね!」
ん? その返しには何か納得いかないが、まあいいだろう。
前方では激しい攻防が繰り広げられていた。
時宗と劉石の戦い方はいたって簡単なものだ。
時宗が敵を引き付けて、足が止まったところを劉石が叩くというものだ。
だが、その作戦もなかなか上手くいかずようやく劉石が最初の一撃を入れる事が出来たようだ。
しかし、攻撃をした劉石の表情は浮かない。何かあったのか?
二人は顔を見合わせて頷くと、さらに力を練り上げた。
あの二人があそこまでしなければならないとは、強敵だな。
しかも、敵も黙ってやられているわけではない。高速で射出された糸は二人の行動を阻害してくる。角での攻撃はどちらかが守りに入っているおかげで危なげなく躱す事が出来ているが、二人ともあの糸から逃れるのに大分力を使わせられているようだ。
寒い寒いと凍えていた二人が額から汗を流している。
こう着状態にあったのを動かしたのは寧々だった。
「あなたたちにここは任せるわ」
それだけ言い残して、寧々は有無を言わせない雰囲気を纏いながら時宗たちに近づいていった。
寧々から大量の魔力が漏れ出している。
降り積もる雪はさらに凍り、氷塊となった。
時宗には優しく、劉石には険しい表情で何やら告げると杖を地面に刺して、両手を敵に向けた。
現状を打破する方法があるのだろうと信じて見守る。もちろん、本当に危ない時は割って入れる様にしてある。
身を刺すような冷気が辺りを包む。急速に冷え、二人の汗も引いた。
汗は凍りつき、キラキラと輝きながら地へと落ちる。
彼らは相変わらず高度な戦闘を続けながら、徐々に戦闘域を狭め、ある一点へと誘導していく。
寧々は動かない。両手を突き出したまま動かない。
だが、その表情は苦しげだ。
雪女である彼女が何故か寒そうに震え、着物からのぞく白い肌の表面には薄く氷の幕が出来ている。
明らかに異常な光景だ。
時宗が吠える。
「行くよ、寧々!」
黙って頷き手を伸ばす。
白く綺麗な手が蜘蛛に触れる。
撫でるように慈しみ優しく触れた。
そこから一瞬だった。
蜘蛛をボウッと白い煙が覆った瞬間、動きが固まりその場に倒れた。
寧々は劉石に視線で指示をする。
そして……拳を振りかざした。
手強かった敵はあっけなく砕け散った。
「すごかったな。大丈夫か?」
「さ……」
ん? 何だよく聞こえない。蹲っている寧々に耳を近づける。
「寒い、寒いの」
思わず耳を疑った。今まで寧々が、雪女が寒がる事なんてあるのかと思っていたからだ。いや、驚いている場合じゃない。寒いなら、火、火だ。
倒れている木を引き寄せると燃やして辺りを暖める。
それはガチガチと震えていた寧々の額に汗が浮かび怒るまで燃え続けた。
「さて、どういう事か説明してもらおうか」
あれは異常な光景だった。あり得ない事だったと言っても良い。それに、
「そうだね、詳しく聞きたいね」
他の皆も頷いて同意している。特にその中の一人が怖い。笑顔だが、目が笑っていないのだ。そう怒っているのは時宗。
「ベ、別にこの辺りのがちょっと寒かっただけです」
見た事のない時宗の様子に寧々も畏まっている。
「そうじゃないでしょ?」
断定する強い口調。一切の反論を許そうとしない問いだ。
俯いてしまった寧々はポツリと漏らす。
「分かりました。話します。でも、時間があまりないので蜘蛛の素材を集めてからにしませんか?」
時宗の表情を窺うように口を開いた。
時宗はため息をつくと黙って背を向け、蜘蛛の亡骸を集め始めた。
とりあえずはそこに落ち着いたか。なら、手伝おう。
寧々に凍らされた蜘蛛の身体はひんやりとしているものの溶け始めていた。そこでどうして鈴との相性が悪いかったかに気付く。
この蜘蛛の全身は透明な糸に覆われていたからだ。この糸は頑丈でそれでいながら、ねばねばとしている。捉えられたら逃れるには一苦労だろう。
時宗と劉石が断ち切る時に力を込めていたわけだ。
確かにこれだと一撃の威力よりも手数を重視する鈴では厳しいものがあっただろう。それに火にも強いようだ。巨木の近くにあった破片が全く燃えずいたのを確認している。
こいつを相手にしていたら俺でも骨が折れる相手だったな。
拾い終えると黙って見ていた寧々に時宗が再び問いかけた。
「さて、説明頼めるかな?」
質問という形になっているが、もちろん寧々に拒否する事は許されてはいない。
それでも黙っている寧々に時宗は近づくと着物の袖に隠れていた腕を掴みあげた。
「これはどういう事だと、聞いているんだ!」
それは酷いものだった。寧々は回復魔法で自分も治療する事が出来る。それでも治りきっていない酷い傷が日の下に晒された。
両手の皮が剥がされたかのように真っ赤になり、着物によって止められていた血がとめどなく流れ出している。
「小次郎、治療を頼む」
「お、おう」
怖いほどに真剣な眼つきその手を、寧々の瞳を見つめている。
寧々の治療に加え、俺も付与術を使って直接生命力を分け与える。今回の戦いではほとんど消費していないのでこれ位は安いものだ。
だが、治療しながら違和感を感じる。
俺は寧々よりも倍以上の体力を有している。それなのになかなか治らない。
「どういう事だよ……ッ!」
結局、全体力の四分の一ほど治療に使う事となった。
治療が終わり、血が止まり薄い皮が覆い始めると相変わらず俯きながら話し始めた。
「私が使ったのは一瞬で敵を凍らせ、命を断つ事から名付けられた【氷断】というスキルよ。
私の中で一番威力の高いスキルで、そしてその代償のが最も高いスキルよ。
さっきのはこれを使ったからよ」
もういいかしら? とばかりに口を閉じてそっぽを向いた。
身体が元に戻った事で口調も態度も元に持ったようだ。
「分かった。では、これからこのスキルは今後使用禁止だ」
時宗がそう言いだすのは全員が納得できた。ただ一人を除いては。
「な、なんでですか! 【氷断】を使わなかったら、じり貧で負けてたかもしれないんですよ!?」
「使用禁止、それでいいね?」
能面のような無表情で寧々に告げる。
ビクッと震える寧々に時宗は手を伸ばす。
「僕を信じてくれ。これを二度と君に使わせなくても良いようにする。だから、自分を犠牲にするのはもうやめて欲しい」
厳しい表情から一転していつもの優しげな笑みを浮かべると頭を撫でた。
感極まった寧々は眼を逸らして再び俯いてしまった。
おー、耳が真っ赤だよ。対する時宗の良い男っぷりはすごいな。
「あ。早くここから離れないと!」
ほわほわとした雰囲気をぶち壊したのは涙を拭い、顔を上げた寧々だ。今日は色々と表情の変化がめまぐるしいな。
しかし、ただならぬその様子に頷くと俺の背に乗せられるだけ乗せて、鈴に風属性魔法で補助してもらいながら、その場から離れた。
まずい、さっき以上に嫌な予感がビシビシと感じる。
「囲まれてるわね……」
劉石に確認をとる。横に首を振っている。
「無駄よ。そこの木偶の坊よりも私の方が探知範囲は広く精密よ。ここではね」
つまり、
「そう言う事かよ! なぜ、早く言わなかった!」
「他のこと話してたし、それに探知出来たのも本当に今さっきだったのよ!」
つまりはその探知能力で敏感に嫌な雰囲気を感じ取っていて、それがあの行動をとらせた一因だったって事かよ!
「敵の場所は!」
「密度は薄いけど、円形で移動しててほぼ囲まれてるわ。でも、まだ……」
「ああ、分かってる。諦めるに早いよな! 弱い奴の所に案内しろ!」
背中で寧々が叫んだ。
「このまま一直線に頂上を目指しなさい! そこが一番薄いわ!」
駆けた。
「これからすぐにぶつかるわ。真正面に出てくるはずよ!」
「おう! 分かった」
六本の尾を正面に、さらに口を大きく開き空気を吸い込んだ。
「ガアアアアッ! 【|陽よ、罪深き者を断罪せよ(ソル・ジャッジメント)】」
【咆哮・衝】と上級火属性魔法を組み合わせて先制攻撃を仕掛ける。効きづらくとも目くらましができれば、成功だ。
「よし! 鈴!」
待ってましたとばかりに炎に覆われた蜘蛛に向かって、跳び出した。
弾丸の如く迫る鈴の刀には轟々と燃えている。最大威力の魔法を【付与術】により、鈴の刀に付与し強化した。
「【首狩り】にゃ!」
青白い炎に覆われた刃が迫る。だが、その速度をもってしても敵の身体を切り裂く事は出来ず、浅い傷跡をつけただけだ。
それにその部分は糸の鎧の部分である可能性が高い。だが、少しでも傷をつける事が出来たなら一気に決められる。
「ウォォォォッ!」
魔力と精神力を一気につぎ込み【狐陽】を発動させた。
最初はじわじわとだが、効いているのが実感できる。
「もういっちょ【首狩り】にゃ!」
糸に覆われていた本体が顔出した瞬間、鈴は刀を差しこみ刈り取った。
そのまま足を止めずに鈴を迎えると、走り続けた。
大分、力を使っちまったがまだこれからなんだよな。
内心ため息をつくとさらに速度を上げた。
あれから、もう三体倒した。素材を拾っている暇などなく逃げ続けている。もうすでに魔力が尽きかけている。
そして、無尽蔵の体力があるかに思われていた俺にも疲れの色が現れ始めていた。
「クソッ!」
「小次郎殿! この上に洞窟があるでござる。そこならば少し休めるかもしれぬ」
「そうね、そっちには反応が無いから安全だと思うわ。行きましょう!」
そんな俺を気遣う声を受けて、次なる目的地を目指す。
技とジグザグに力を振り絞って駆けあがった。目的の洞窟に入ると倒れるようにその場に倒れ込んだ。
俺の白い身体は大分赤く染まっている。
「ここなら、一対一で戦えそうだね」
「そうにゃ! 小次郎ばかりに頼ってはいけないにゃ!」
「そうだな。寧々殿は小次郎殿の治療がある事だし、我ら三人で事に当たるしかあるまい」
三人が真剣に話し合うのを聞きながら、寧々の治療を受けていた。
外が騒がしい。いつ間にか眠ってしまったようだ。
まだ明るいから、大して時間は経っていないのだと安心する。
「寧々、外で何かあったのか?」
「今、あの蜘蛛たちが押し寄せているわ。まあ、幸いここが狭いおかげで一対一で戦えるし、何故かは分からないけど、ここに蜘蛛たちが入ってこようとしないのよね」
「そうか。俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「さあ? ほんのちょっとじゃない」
寧々は時宗以外の事となると関心を持たないからな。ここまでくると関心さえする。 よっこらせ、と身体を持ち上げる。変に休息をとってしまったせいで、身体が余計に重く感じる。まあ、一対一なら交代で戦えば時間は稼げるか。後は機を見て脱出だな。
俺はもう少しだけ休んで戦線に加わるか。
そう思った時だった。
「……!」
急に身を起こした俺に寧々が驚いている。
しかし、この感じ……まずいかもしれない。
「寧々、お前の索敵に何か反応はあるか?」
「いえ、特には以上ないわね。それが何?」
寧々の魔法に異常なしという事には劉石も気づいていないのだろう。
あまり勘を信じすぎるのはな。やはり、俺の気のせいか?
……いや、そんなはずはない。この心臓を鷲掴みされたかのような圧倒的な力、そう師匠並みの強さを感じる。これが敵だとしたら……
「寧々、本当にまずいのはこの奥にいる奴らなのかもしれない」
「は? 何を言っているの。私は何も感じないけど」
「勘だが、勘じゃない。そう、確信の様なものだ。こいつはヤバい感じがする」
喉の奥を鳴らして、洞窟の奥に目を凝らした。
「グルルゥゥゥ」
そして、俺はまだ見ぬ強者に吠えたのだ。
この身を犠牲にしてでも仲間を逃がすために。
皆さま、お久しぶりです。
更新が遅くなり誠に申し訳ありません。
これからは一気に、といきたいところなのですがなかなか時間を取る事が出来ないので……
一か月以内の更新を目標に頑張っていきたいと思います。
また、何分久々なものでおかしな点が多々あるかと存じます。ご指摘いただければ幸いです。
これからものんびり完結まで続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。
ご覧頂きありがとうございました。




