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誘われし狐  作者: こう茶
29/44

弐拾六巻

 『白尾』を結成してから、一週間。

 今日、初めての依頼を受けにきた。

 なぜ、こんなにも時間がかかったかというと組合の規定に班の長と位階差が二つ以上ある場合、その班員は一緒に依頼を受けることは出来ないという規定があるからだ。

 そのため、毎日鈴の位階を上げるべく、戦った。

 多少無茶な事をしたり、強いモンスターを倒したりと厳しい修行のおかげで、この短期間で何とか位階二つ以内にまで押し上げることが出来た。

 現状はこんな感じだ。


 団体名:『白尾』

 長:小次郎 位階、七位

 班員:鈴 位階、五位

 班員:時宗 位階、六位

 班員:寧々 位階、五位

 班員:劉石 位階、七位


 


 鈴の位階上げを交代で手伝っているので、他の班員の位階も上がっているが、鈴の伸び率に比べれば、大したことはない。

 そうそう、言い忘れていたが、位階上げのおかげで鈴は三又の猫人に存在昇華ランクアップを果たし、能力も大幅に上昇し、外見も大分人に近くなっている。初めて会った時とは比べ物にならない。鈴の師匠の様な存在の次郎長がまだ猫に近い姿をしている事を考えると、師匠を超えたと考えていいだろう。

 白い髪は短く切り揃えられ、釣り気味の黒目には縦に瞳孔が広がり、頭とお尻の部分に猫耳と尻尾が付いている以外はほぼ人間だ。

 もちろん、歯や爪が鋭かったり、夜になると目が光ったりと目立ち難くはあるが、猫又の特徴も色濃く残っている。

 それに人間に近い姿になってからというものの、寧々や山姥良枝に言われて身だしなみにも気を付けるようになった。


「小次郎、いこー!」


 だが、それを気にせずに飛び乗って抱き着いてくるため、最近はどうしていいか分からなくなる時がある。

 体つきに起伏はあまりないが、匂いや姿は女性のそれと同じなのだから。


「ああ、そうだな」


 とは言え、些細な事だ。それに仲が良いに越した事は無い。


「じゃあ、みんなも準備はいいか?」


 周りには『白尾』の皆がいる。

 時宗はだいぶ暖かくなってきたので若草色の長着一枚で何も羽織ってない。武器は太刀と小太刀を一本ずつ腰に差している。だが、抜け目がなく、用意周到な時宗の事だ。何か隠し持っているかもしれない。

 モンスターと戦う前ではあるが、その変わらない爽やかで優しげな笑みは周りの者に安心感を抱かせる。


 時宗の隣に寄り添っている寧々は白地に桜が描かれた着物に日避けための淡い桃色の番傘を右手に持ち、左手に前にも見た青い宝石が特徴的な白い杖を持っている。それに加え、胸元に赤と金色の扇子を懐中しているようだ。

 全体的に白で統一されているがゆえに先程の扇子が目を引く。白い陶磁器の様な肌は唇に薄らと塗られた紅を際立たせ、それに長く艶やかな黒髪、他人を射抜くような眼を持つ美貌に惹かれた者たちは――目を引かれるのは男が多い――視線を落とし、胸元の扇子にくぎ付けになるのだろう。

 寧々の本性を知らない男たちは可憐で儚げな印象を寧々に抱くが、それに釣られた何人もの男たちが寧々の餌食になったのだろうかと考えると、自業自得ではあるが、同情せざるを得ない。

 近頃、時宗と恋人同士になったようなので、その美貌にもより一層磨きかかっている。

 そのせいで時宗は要らぬ妬まれているようだが、時宗も腕が立つし、あの容姿と性格だ。女性たちの受けはいい、実力で劣り、勝てても、下手をすれば女性からの評価を下げかねない行為をする者は少なくない。それに時宗の手に負えなさそうな相手は俺が裏で処理している。

 おかげ様で俺も一部から恨まれることになったが、こんな事で他人を妬んだり、恨んだりするやつらと仲良くするつもりは無いので問題ない。


 俺に次いで目立つのが天狗の劉石だ。こちらも長い黒髪だが、手入れをしていなかったら伸びただけという感じで、寧々と違い艶があるわけでは無い髪に、白い面、長い鼻を持つ七尺を超える大男である。腕も木の幹以上の太さがあり、繰り出される拳の威力は生半可なものではない。天狗族は普通なら背中に翼があるそうだが、劉石は地天狗じてんぐに存在昇華しているため、翼は無い。劉石はその事について何か思う事があるようだが、その分力があり、屈強な体を手に入れているのだから気にする必要は無いように思える。

 山伏姿をしていて、武器を持っている様子は無い。魔法も力も強いから、必要無いのかもしれないと思っていたが、どうやら里に忘れてきてしまったようだ。そのうち取りに行かねばならないだろう。


 俺は自分で言うのもあれだが、鈴に毎日手入れをしてもらっているおかげで白く綺麗な体毛に、刺青を彫ったかのように厳めしい顔、肩高八尺、体長十二尺という巨体ゆえに目立つ。とにかく、目立つ。それに加え、周りにいる奴らも美男美女に、天狗だ。この里で一番目を引く班といっても過言ではないだろう。 


 そんな俺たちが受けた依頼は位、三で受ける事の出来る『斑鬼蜘蛛まだらおにぐも』の討伐だ。

 生息地は北の恐山。この山は温かい北風を受けるため、妖怪の里を囲む山にしては珍しく雪が降り積もらず、住みやすい。その分、ここに住むモンスターたちは比較的弱い者が多い。

 今回狙う斑鬼蜘蛛はその中では上から数えた方が早い強いモンスターだ。

 大きな身体に伸縮性や柔軟性に優れる透明な糸を吐き、縄張りには罠を張り巡らせたりするなど非常に賢く厄介なモンスターである。


「よし、復習も終了! 行くぞ!」


 いつも通り背中には鈴と寧々と時宗が座っている。

 あれ? いつもより多いぞ。


「おい、しれっと乗るな。しれっと」


「すまない。けど、一度乗ってみたくてね」

「私を運べるなんて光栄でしょ?」


 こいつらに文句を言うのは止めよう。まあ、二人増えたところで大して重くないから別に構わない。それよりも、反論してとやかく言われる方が疲れる。

 時宗は最近寧々に影響されてきているな。前は遠慮しているところもあったから、今くらいがちょうどいいのかな?


 走り続けること数刻、目的地に着いた。

 春から夏への季節の境目という事もあり、色とりどりの花々やたくさんの実を付けた木が多く生えている。ここに住む生き物は全体的に派手だ。

 気候も穏やかな事から妖怪も住むらしいが……?

 草影からじっと見ているあの仔狸は何だ?


「ああ、あれは僕らと同じで山に住む妖怪『隠神刑部いぬがみぎょうぶ』の眷属だろうね」


 聞いたことがあるな。確か、四国に住む妖怪だったような。


「ふうん、妖怪なのか。じゃあ、俺たち狐族と同じように人里にはあまりかかわらない部類の妖怪なのか?」

「そうでもないよ。山で採れる果実や猪なんかを里に持ってきてくれるしね。山に住んで入るけど、交流はそこそこあるよ」


 気になって近づいてみてみる。するとどこからか声が聞こえてきた。


『怖い。何この大きな妖怪……食べないで』


 辺りを見回しても誰もいない。どういう事なのだろうか?


「その位にしておきな。小次郎を見て、その仔狸は怖がってるよ」

「お、おう。それよりも何か聞こえなかったか?」

「ああ、それはその仔狸の力だと思うよ。『隠神刑部』とその眷族は神通力が使えるからね」

「なるほど」


 確かにこんな巨大な奴が近づいてきたら怖いよな。


「怖がらせて悪かったな。食べないから安心してくれ」

『ホント?』


 小首を傾げてこちらに目を向ける姿はとても愛くるしい。


「ああ。それよりも俺たちは『斑鬼蜘蛛』を倒しに来たんだがどこにいるか知らないか?」

『知ってるよ。あっち』


 そう言って走り去ってしまった。

 付いて来いってことか?


「よし、付いて行くか」


 


 仔狸の後を付いて行くのは大変だった。

 歩みはそれほど速くないから楽なんだが、通る道が狭いのなんのって。

 一体何本倒木を退かし、草花を薙ぎ払ったか。鈴や寧々はともかく他の奴らは俺と同じく窮屈そうだった。

 それでも付いて行く。すると、木々で周りを囲まれ真中は綺麗に整地された誰かの手が入っているであろう場所に出た。


『ここ。僕もう帰るね。蜘蛛怖い』

「ありがとう。助かるよ」


 礼代わりに高い所に生っている実を一つもぎ取って仔狸に渡した。


『わあ、この実好き! ありがとう』

「ああ、じゃあな」


 仔狸を見送ると、皆にこれからどうするのかを尋ねた。


「ここで待つか? それとも、近場を探すか?」

「ここで待った方がいいと思うよ。下手に探し回って罠に掛かったりしたら大変だからね」

「それもそうだな」


 警戒しながら待つ事半刻。

 辺りの空気が変わったのを感じた。風に乗って微かに感じる血の臭い。


「来るぞ」


 皆武器や魔法を唱えて身構えている。


「捉えた。敵は西から来るようだ」


 早速劉石が敵の位置を把握してくれたようだ。

 俺はそちらの方角に尻尾を向けて魔法を放った。


 火に包まれた木の枝の上から大きな塊が落ちてきた。


「土の殻!?」


 劉石が驚きの声を上げた。

 ドサッという音を立てて落ちてきたのは土で作られた蜘蛛。中身は殻である事から本体は抜け出したのだろう。


「確かに賢いな」

「そうだね。油断は禁物だよ」

「ああ。もちろんだ」


 俺は矢継ぎ早に指示を出した。


「俺と劉石が前に出る。時宗は様子を見て、攻撃に参加。寧々は後方から援護。鈴は寧々の補助だ。行くぞ!」


 劉石と視線を交わし、劉石を先導させる。

 この班で一番耐久力があるのは、劉石だ。敵の姿の見えない今は囮になってもらう。そのすぐ後ろには俺が、中央に時宗、次に鈴と寧々といった感じで縦一列の隊形になっていた。


「見えてきたな。なかなか強そうかな?」


 そこにいたのは黒と白の斑点がある八尺程の大きな蜘蛛。だが、今までに闘ってきたモンスターと比べると割とまともな部類に入る。


 出会いがしらに火属性魔法と劉石の土属性魔法を組み合わせた魔法、炎を纏った土の槍を放った。

 それに貫かれ、あっけなくこと切れる蜘蛛。


「大したことないな」

「うむ。軟弱な奴だった」


 雲を見下ろしていると後ろで叫び声がしたのを聞いた。


「何!?」


 見ると先ほどよりも二回りは大きな蜘蛛が時宗たちを襲っていた。


「戻るぞ!」


 幸い、鈴たちに怪我はなかった。時宗が異常を察知してかばってくれたようだ。


「時宗!」

「僕は大丈夫だ! それよりもあの蜘蛛を! それに敵は一体だけじゃない!」


 その言葉に驚き劉石に探知を頼んだ。

 俺は時宗の代わりに状況確認の時間を稼ぐ。


 俺よりも大きな蜘蛛は口から涎を垂らしていた。

 それは透明でキラキラと光を反射していた。


「【三連突き】」


 あまりの気持ち悪さに衝動的に【二連突き】の上位の【三連突き】を顔面に放った。

 それを見えない何かに阻まれた。

 何か絡まっているよう感じだ。


 目を凝らして、集中して辺りを見てみると、透明な糸が張り巡らされているのが分かった。


「透明とは聞いていたが、これほどとは、なっ!」


 力を込めれば引きちぎる事は可能なようだ。

 だが、これでは鈴や時宗の攻撃力では効かないだろうな。

 今回は俺を中心に戦いを組み立てるか。

 まsずは、何が効果があるのか試してみなければ。


「【陽よ(ソル)罪深き者を断罪せよジャッジメント】」


 いきなり木が生えてきて盾代わりに使おうとしているようだが、無駄だ。

 この魔法は着弾と同時に一気に燃え広がる!


 邪魔な木を消し炭にしながら、十字に広がる炎は勢いを増してその直線状にいる蜘蛛を飲み込まんとする。

 だが、またしても邪魔が入る。その何かは一瞬で燃やし尽くされ、黒い塊となって地面に倒れた。


「え!?」


 自然と言葉が漏れた。

 その黒い塊は人のような形をしていたからだ。


「嘘……だろ? 何で? なぜ、こんなところに!?」


 俺は人を殺……した? 俺がこの手で……?


「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」


「小次郎!」


 頬を何かで殴られた。

 前を見ると憤怒の形相の鈴がいた。


「しっかりする! いいね?」

「あ……ああ」


 それだけ言うと鈴はすぐに前を向いた。まだ、敵は生きているからだ。絶えず八本の足を使って攻撃を加えてくる。刀で受け流し、時に斬り付ける。


 まだ敵はいるんだ。俺がやらないと……!


 だが、なぜあんな所に人がいたのかが疑問だ。

 意外にもその答えはすぐに見つかった。 


「小次郎殿、下に何かいるようだ」

「分かった」


 敵の攻撃を躱しながら、劉石の報告を聞く。地面の下に答えがあるのか?

 よし、ならば。


「劉石、今から地面に向けて攻撃を放つ、補助をしろ!」

「了解!」


 六本の尾全てを使っての【三連突き】計十八回の攻撃が地面に降り注いだ。

 それに加え地面を砕く、力強い攻撃が劉石の拳から放たれた。


「これがあれの正体か。許せねえ!」


 そこには白目を剥いた人や血まみれのモンスターたちが埋まっていた。腐敗して、一部白骨化しているまでいた。ここまで来ると、人ではなく物だ。そう割り切る。

 そして、全てにうっすらと糸が繋がっているのが見えた。


 おそらく、糸で死骸を操っていたのだろう。


「許さねえ。死んだ奴らを操るなんて真似! 俺が殺す!」


「【陽よ、彼の者を滅ぼせソル・フォール】【狐陽】」 


 体から漏れるどす黒い妖気が敵を囲む輝きを放つ炎へと纏わりつく。

 すでに敵は満身創痍、足元が凍りつき身動きを封じられ、何本も足が斬りおとされている。顔の左半分は強い力で押しつぶされ、陥没している。

 そこへジワリジワリと迫る黒い炎。

 張り巡らされたいとは焼き尽くされ、ついに本体へと燃え移った。


『ギャ……!』


 一瞬、悲鳴を上げるがすぐに声帯を焼かれ声が出せなくなり、もがき倒れた。

 おそらく喉を焼かれたことによる窒息だろう。

 トドメに一突き。

 気持ちの悪い液体が飛び散ったが、俺の支配下にある炎ですぐに浄化した。


「さっさと討伐証明部位を剥ぎ取って帰るぞ」

「うん」

「そうだね」

「気持ち悪いから任せるわ」

「了解した」


 俺の炎は全てを焼き尽くす事はなかった。

 狐火を使えば、ある程度制御することが出来るようになるようだ。


 討伐証明部位である八本の足を剥ぎ取ると、里へと足を向けた。

 あの透明な糸も素材として使えるらしいが、どうしても使う気にはなれないし、燃やしてしまったので不可能だ。


 操られていた人やモンスターは全て燃やし、黙祷をささげた。


 願わくば往生して欲しい。切にそう願った。




 鈴の師匠である白と黒の斑猫又が取り仕切る食事処『猫飯屋』。

 畳が敷き詰められた広間に上がると大きな鉄板の上で食欲がそそられる匂いを放つ分厚い肉が良い音をさせて焼かれている。

 脇には体格が違う皆に合わせた各々専用の湯呑が置かれている。俺の湯飲みは一尺程の人間だったころでは考えられない大きさの白地に黒の二本線が入った湯呑。手のない俺に合わせ、尾で掴みやすいように取っ手が付けられているという工夫が施されている。もちろん、特注品だ。

 その湯呑を絡め取り、上に掲げ音頭を取った。


「俺たち『白尾』の初依頼成功を祝って」

 

『乾杯!!』


 一斉に湯呑を突き合わせた。


「それにしてもここの肉は美味いな」


 劉石は口いっぱいに頬張っている。

 口の中に物を入れた状態で話すなよ。


「当然! 師匠の作る飯は最高だよ!」


 こちらも口の中に物を入れたままで答えている。

 人間の女の子っぽい姿をしているのだから、もう少し大人しくしてほしい。


「食べ終わってから話しなさい」


 憮然とした表情の寧々は鈴と劉石の頭上に氷塊を落とした。


「寧々、それはやりすぎだよ。まあ、二人ももう少し大人しく食べようね」


 苦笑いを浮かべながら、諌めるのは時宗だ。

 俺たちに慣れてきた寧々が調停したり、仲裁したりするので、その度に後付けで補足するのが時宗の役目だ。

 寧々の関わろうとするその態度は悪い傾向ではないのだが、如何せん方法が悪い。素直じゃないのと、ひねくれた思いがこういった結果を生み出してしまう。


「時宗、悪いな」

「構わないよ。好きでやっている事だからね。でも、それなら小次郎も手伝ってほしいな」


 最近の俺はこの三人が起こす暴走を諌める事はしなくなった。


「それは了承しかねるなぁ。それにこっちの方が見てて面白い」


 思うところがないわけではないが、賑やかでいい。


「はぁ。そうなると僕がしっかりしないとだめだね」


 時宗には悪いが、そばで見ている方が楽しい。

 そこへ一匹の猫が近づいてきた。


「久々に顔出したと思えばどいつもこいつも大きくなりやがって」 


 振り向くと、白黒の毛並みの猫又が立っていた。


「あ、師匠!」


 酒で頬を赤らめた鈴が次郎長に抱き付いた。


「おっと。ちったぁ女らしくなったじゃねえか」

「うん!」

 

 そう言って話す鈴は嬉しそうな顔をしている。

 久々の師匠と弟子の再会だ。これを見ると俺も師匠に会いたくなる。元気しているのだろうか? まあ、あの人の事だ。心配する必要はないだろう。


「それにお前は小次郎か? 随分とでかくなったな。まるでしろがね様を見ているようだ」

「本当ですか!? とても嬉しいです!」


 俺が師匠に似ている? 元々同じ種族なのだから当然と言えば当然だが師匠をよく知る人にそう言ってもらえると感慨深い。


「銀様は今何をされているのだ?」

「分かりません。俺もずっと会ってないので……」

「そうか。まあいい。呑め呑め!」


 急に話を変えて俺の湯呑に酒を注いできた。

 俺の表情が曇ったことに気づいて、気を遣ってくれたのだろう。ありがたい。正直に言って師匠と会えていないのは俺の中では禁句だ。別れが意識飛ばされてそのまま、という最悪な流れだったからな。


 注がれた飲み物を何度も飲み干していくと段々と瞼が重たくなってきて、気分が良くなってきた。


「小次郎、大丈夫かい? もう時間も時間だし帰ったらどうだい?」


 帰る? 眠いしそうするかなー。


「おう! じゃあ、帰るぜ! 鈴、帰ろうぜ!」

「うん! 小次郎、背中に乗っけてー!」


 返事も待たずに鈴が飛び乗ってきた。鈴も大分酔っているようだ。

 お互いに足元のふらつきながらもその場を後にした。





 



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