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誘われし狐  作者: こう茶
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壱拾五巻

今回は説明回ですね。

 たどり着いた狩猟組合の建物は長方形と円形の大きな机がいくつも置いてあり、壁際には所狭しと書物があるだけの簡素な物だった。そして、俺たちは受付らしき人がいる場所へと向かった。

 机をまたいでその人物の向き合う。やはり、この里に居ると言うだけあって只者ではない。人の体に顔は犬、犬神だ。どっかの公家の様に黒い烏帽子をかぶり、何枚も布を重ね、見た目重視の動きづらそうな狩衣かりぎぬという服を着ている。


「主ら、狩猟者希望か?」

 

 しわがれた声で聞いてくるので、頷いて答えた。


「そうか。では、この紙に一滴血をたらしてくれるか? それを元に狩猟許可書兼身分証明書を作るでの」


 言われたとおりに血をたらす。名前とかは言わなくていいのだろうかと思っていると案の定聞かれたので、素直に答えた。


「では、小次郎殿に鈴殿、しばし待たれよ。そこにある狩猟初心者用の本でも読んでおいてくれ」


「分かりました」


 鈴と一緒に読みながら待つ事半刻。示された本も読み終わるという頃、先程の犬神が出てきて俺たちを呼びだした。



「お待たせしたな。本は読んでおいてくれたかな? あれに組合の規則が載っているのだが」


「ああ、読んだ。じゃなくて、読みましたよ。規則も覚えましたから大丈夫です」


「そうか。だが、一応重要な事だけ確認するぞ。

 一つ、依頼には三つの種類がある。モンスターを狩り、素材を集める狩猟依頼。野草や鉱物など、依頼主の要望に合わせてそれらを採りに行く採集依頼。後は、引越しの手伝いや留守番、店の手伝いなどの様々な要望に応える雑務依頼。

報酬は狩猟、採集、雑務の順で少なくなるが、依頼の数は逆だな。

 一つ、依頼を受けるには依頼主の条件または、組合の設定する位を満たしていなければならない。

 一つ、位とは十段階で表され、九から零まであり、零が最高位だ。

 一つ、位を上げるには位階を上げ、存在進化をするだけだ。どの程度の位階でどの位になるのかは後で壁に貼ってある紙を表を見れば分かるだろう。

 さて、ここからは注意事項だ。

 まず、依頼を失敗した場合だ。

 失敗とは対象の物が狩猟または採集出来なかったり、依頼主の要望に著しく反している行動をした時を指す。この判断は組合の係りの者が公正な立場で両者の意見をふまえた上で行う。ここはこちらを信用してくれると有難い。

 そして、失敗を三回連続で行った場合永久にその種類の依頼を受ける事が出来なくなる。

 つまり、狩猟依頼で三回連続で失敗しても、採集や雑務依頼は受けれるが狩猟依頼は受けれなくなる。他の依頼が受けれるかと言って軽々しく失敗して良いわけではないので気を付けて、身の丈に合ったものを選んで欲しい。

 ここまで理解したか?」


 先ほど読んだ本と大差ないな。分かったぞ。鈴はしきりに頷いていたが、多分分かってない。次郎長に説教されている時も今と同じ様な事をしていたからな。まあ、俺がちゃんと把握して教えてやればいいだろう。


「ここまでは誰にでも適用される規則だ。

 次に複数人で一緒に依頼を受ける時に関係する規則を説明しよう」


「はい。お願いします」


 鈴も一緒に頭を下げていたが、表情がうんざりとしていたものだったのは見なかった事にしよう。


「依頼は複数人で受ける事が出来る。また、依頼の条件に反しなければ何人で受けても構わない。しかし、依頼の報酬は原則変わらないため、そこを考えて受けてくれ。

 一緒に受けるには誰かを長とし、班を組まなければならない。班には人数制限はないが人数が増えるにつれ、班、分隊、小隊、中隊、大隊呼び名が変わる。これは狼の国の軍隊のやり方を参考に作られているため、一度作っておけばどこでも通用するぞ。そして、便宜上一つの団体につきそれぞれ団体名を付けてもらう」


 一般的なのは4から6人の班が大多数を占めるらしい。中隊や大隊以上の大規模な団体は滅多にないらしく、この里のほとんどの狩猟者が属している『百鬼夜行』。狼の国の狩猟団一、二を争う『黒狼の牙』と『護狼団ごろうだん』の三つしかないらしい。また、このような大規模な団体はレベルの近い物を集めて、団体の中で細分化し班を作り、それぞれに長を立て、運営しているらしい。もちろん、運営方針は大本である団体の長が一任されているようだが。やはり、規模が多くなればなるほど細々とした手続きが必要になるそうなのであまりお勧めはされなかった。それでも人が集まるのは長の仁徳、力、魅力、そして、何と言っても安全の確保という利点が大きいようだ。

 犬神の説明は粛々と進む。


「次は班の中で位階の差がある場合だ。

 これは依頼を受ける際に関係してくる。

 例えば、依頼の条件が位階、五位以上となっていれば、班の長は必ず五位を超えていなければならない。また、班の中で長さえ位階が条件の値を超えてさえいれば、班員が三位、四位と下回っていても受ける事が出来る。しかし、長との位階差が二つ以上離れている場合はその限りではなく、一緒に受けることは出来ない。

 理解したか?」


「はい。分かりました」


 要は班の中でもあまりにもレベルの開きがあってはならないという事だろう。


「また、依頼を受ける時には長の承認さえあれば、長抜きで受ける事が出来る。その場合は長の代理を立ててもらわなければならないがな。この時も代理を中心に先程の規則が適用されるから、気を付けてくれ」


 ふむ。なかなか複雑だな。これは賢くないと厳しいものがあるな。鈴に限って言えば舟を漕ぎ始めている。戦力としては数えられないだろう。


「そろそろ終わりだな。

 団体からの脱退は班員が自由に行う事が出来る。また、所属出来るのは一人一つの団体のみだ。手続きの複雑化を防ぐ狙いがある。

 では、重要で主らに関わりがありそうな規則は以上だ。組合の規則に違反した場合は一回目は口頭での注意。二回目は厳重注意。三回目は組合からの追放だ。よく考えて行動してほしい。

 何か質問あるか?」


 ここまでで足りない点と疑問点は……ないな。てか、今すぐには思いつかない。あとは俺が個人的に気になる点だな。まあ、一つはこの人について何だけどな。この人は賢い、俺よりも数倍は。あんなにも分厚い本をこんなにも纏めてくれたのだから。


「説明ありがとうございます。あの、それでお聞きしてなかった事がありまして」


「ん? 何だ言ってみろ」


「あなたのお名前は?」


「ああ、そうか。言ってなかったな。犬神族のみやびと申す。以後よろしく頼むぞ、賢き狐よ」


 褒められた! 褒められた! 重要な事なので二回言いました。よし、あと一つ。


「こちらこそよろしくお願いします。雅さんは師匠、いやしろがねという狐を知っていますか? ご存じでなければ、『猫飯屋』の次郎長でもいいですけど」


 そう言うと、雅は目を見開き俺をじっと見た。そして、手を顎に当てると何やら考え始めた。


「師匠? ふむ、あの銀がか。月日は流れるものだな」


「あ、あの? 何か知ってるんですか?」


「ああ、よく知っているとも。あの当時あ奴らは台風の目。もっとも有名な奴らだったからな。して、何が聞きたいのだ?」


「いや。言い辛いんですけど、師匠と次郎長さんのレベル差って確実に二位以上あると思うんですよね。でも、次郎長さんは一緒に旅をして戦ったという話を聞きまして。規則に反していないのかなと思ったんですけど」


 すると、雅は『はっはっは』と声を出し、破顔した。


「師匠があれなら、これほどまでに弟子はしっかりするのか!? 似ても似つかん。くくく、笑いが止まらん。ちょっと待っててくれ」


「……すまん。時間を取らせたな」


「いえいえ。で、どうなんですか?」


「あ奴らは規則には反していなかったぞ。もちろん、当時も同じように規則はあった。なら、なぜか。なぜだと思う?」


 いや、分からないから聞いてるんだろという言葉を飲み込んで聞く。


「分かりません。なぜですか?」


「それはな、銀が受ける時は次郎長抜きで受けていたからな」


 俺が首を傾げていると疑問を読み取ったのか、雅はさらに説明を続けた。


「決して、矛盾しているわけではないぞ。つまり、こういう事だ」


 要するに師匠と次郎長ではどうしても位階差がありすぎ、いや師匠の位階が高すぎた。圧倒的にその班の中で強かったらしい。かろうじてくがねさんが付いていけるくらいだったらしい。

 とまあ、これはさておき、この仕組みの全貌はこうだ。

 師匠と次郎長は依頼・・は受けなかった。依頼はだ。なら、強くなるためにはどうすればいいかを考えたところ、思いついたのが依頼なし、組合を通さない狩猟だ。これは禁止はされてはいないが、推奨されているものではなく。これをやるのはよっぽど何かと戦いたい馬鹿か、食事処で出す食材や武器屋などで足りない素材をお金をかけず、自分で調達出来る者だけがやるだけらしい。言わずもがな、師匠たちは馬鹿の部類に入る。依頼で受けた方が報酬を貰えて、強くもなれるのだ。普通はこちらを選ぶだろう。


「まあ、この頃は罰則なんてものはなかったからな。やりたい放題だったっていうのもある。しかし、なまじ銀たちが有名だったせいで真似をしようとする者が後を絶たず、死傷者が続出したためこのような規定を設けたがな。まあ、それにしても組合を通さなければ注意を喚起する事も出来ないから自己管理してもらうしかないわけだが」


 いや、うん。これはひどい。直接の場面を見た事もなければ、師匠たちに原因があるわけではないにしろ。当時の職員たちは苦労したんだろうな。


「師匠がご迷惑をおかけしたみたいで、代わりに謝ります。申し訳ありませんでした」


「はっはっは! 心遣い感謝する。やはり、どうしてあの師からこのような弟子が出来るのか疑問が残るがまあ良い。それで小次郎殿の疑問には答える事が出来たかな?」


「はい! 十分です。ありがとうございました」


「うむ。また、分からない事や忘れてしまった場合はその都度教えるから心配せずとも良い。では、これにて初心者講習は終了とし、組合証を渡そう」


 手渡されたのは二寸ほどの薄く小さな板。材質は……何かの鉱石かな?


「これは雪輝石という鉱石で作られたものだ。魔力を込めれば、最新の情報が表示される。表示されるのは名前、種族、位階、班の名前の四つだな。最後のは所属している班がなければ表示される事はない」


『ありがとうございます』


 鈴と声が揃って、驚いた。いつの間に起きてたんだ?


「では、主らは早速班を組むのか? なら、名前などは決まっているのか?」


 鈴を見るが首を縦に振った後に横に振った。


「班は組みたいんですけど、名前は決まってなくて。すぐに決めなきゃいけませんか?」


「いや。長さえ決まっていればいいぞ」


「じゃあ、小次郎でお願いします」


「って、ちょっと待て」


「なに?」


 首を傾げているがそんな表情したってダメだ。


「そんなに簡単に決めていいのか?」


「いいよ。だって、小次郎の方が強いし、頭良いし。適任だよ!」


 ううむ。そこまで言われたらやるしかないな。


「分かったよ。ったく。雅さん、それでお願いします」


「了解した。長は小次郎殿、班員は鈴でいいかな?」


「はい、大丈夫です」


「では、一度組合証を返してくれるかな? 入力するから」


 雅は組合証を手にすると奥に引っ込み、程なくして出てきた。


「完了したよ。確認してみてくれるかな? さっきも言った通り魔力を込めるだけで良い。魔力がない場合は此方に渡してくれ」


 鈴は雅に渡して、俺は魔力があるから自分で行った。

 


 名前:小次郎

 種族:四尾の白狐

 位階;五位

 団体名:未定・長




「どうやら、正常に表示されているようだな。鈴殿のも問題ない。これにて本当に終わりだ。新しい狩猟者の幸運を祈る」


 ここから俺たちの冒険が始まる。

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